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商品価格決定のための基礎計算はどうするのか

製造業における商品価格の決定では、最初に行うべきなのは基礎的な計算だ。その計算式は以下の通り。

商品価格=単位当たりの原材料費+単位当たりの工賃(利益を含む)

単位当たりの工賃=賃率×加工時間(余裕時間を含む)

この計算方法が最もシンプルかつ確実な方法だと言える。

ただし、単位当たり工賃を利益を含めずに計算し、その後で必要な利益を加えるといった変形も存在する。この場合、賃率には損益分岐賃率を使用するのが当然の前提となる。

この計算法は最もシンプルで、かつ誤りが生じにくい方法だ。単位当たりの付加価値やその比率、賃率が明確に示されているため、判断を見誤るリスクがほとんどない。

別の計算法として、賃率を用いずに製造原価を算出し、これに一般管理費と利益を加える方法がある。この方法では、以前説明した通り、計算上の利益が実際に得られない場合があることが問題点として挙げられる。

親会社が下請けから見積もりを取る際には、賃率を用いた工賃計算が一般的だ。しかし、購買担当者の中には賃率の意味を正しく理解していない者が少なくない。その結果、不要なトラブルが発生したり、下請け側が親会社に対して不信感を抱いたりするケースが後を絶たない状況となっている。

その原因は、賃率を固定的なものと捉えてしまうことにある。親会社は下請け企業をランク分けし、Aランクは賃率いくら、Bランクはそれ以下、といった具合にランクごとの標準賃率を設定している。そして、すべてをそのランク通りの賃率でなければ認めないという考えに固執してしまう。この硬直的な姿勢が問題であり、非常に厄介な状況を生んでいる。

こうした状況の根本的な原因は、賃率に対する正しい認識が欠けていることにある。しかし、それだけでなく、購買担当者が前任者より高い賃率で契約を結ぶと、その能力が低く評価されるという構造的な問題も背景にある。これは、購買担当者の上司も賃率についての知識が乏しいことが大きな要因だ。

数字に対する理解が浅い人間は、数字をその絶対値だけでしか判断しない。賃率にしても、付加価値率にしても、他の経費にしても、ただ「安ければよい」としか考えず、人件費も低いほど良いと単純に思い込んでいる。このような短絡的な考え方が、不必要なトラブルを招く元になっている。

事業経営における数字というものは、決して単純で単細胞的なものではない。さまざまな要因や条件が複雑に絡み合い、互いに影響を与え合っている。この相互関係を無視して単一の数字だけで判断することは、誤解や誤った意思決定を招く要因となる。経営における数字は、背景や文脈を含めて総合的に理解されるべきものだ。

社長は事業のプロフェッショナルであり、数字を生み出し、操ることが仕事だ。そのためには、数字に関する深い知識と、それを自在に活用する能力が不可欠となる。単一の数字だけに依存するのではなく、多角的な視点からさまざまな条件を総合的に検討し、最適な判断を下す必要がある。数字を正しく扱うことで、経営におけるミスを防ぎ、確実な成果を追求するのが社長の責務だ。

話を本題に戻そう。購買担当者が賃率に固執するのは、「賃率が安ければ購買価格も安くなる」という単純すぎる思考に起因している。しかし、そもそも会社は賃率を買っているわけでも、売っているわけでもない。取引の本質は商品の売買にあるのだ。したがって、買い手が本来注目すべきなのは、商品の価格であり、それが適正であるかどうかが焦点となる。極端な話、価格が妥当であれば賃率がどうであろうと問題にはならないはずだ。

どういうことかを説明すると、設備投資によって賃率(エ数)が下がった場合を考えてみればわかる。たとえエ数が下がったとしても、その背景では減価償却費や設備購入資金にかかる金利負担が増加する。ここで重要なのは、たとえ自己資金で設備を購入したとしても、その資金を固定預金にしていれば得られたはずの利子収入を犠牲にしている点だ。この利子分は機会費用として計上されるべきであり、設備投資によるコスト増として捉えるのが正しい。

つまり、賃率の計算式では分子が増えるため、結果として賃率も上昇する。それにもかかわらず、設備投資前の古い賃率で計算を続ければ、単純に工数が減った分だけ価格が下がることになる。その結果、固定費は増加し、売価は低下するという矛盾が生じる。これでは、設備投資を行う意義が失われる。

しかし、賃率に固執する購買担当者には、この重要な点が理解されていない。その結果、下請業者との間でトラブルが起こり、下請側は親会社に対して不信感を抱くようになる。こうした状況が続けば、双方にとって不利益となるのは明らかだ。

こうした苦い経験を通じて、下請業者は次第に賢くなり、収益を守るために工数を予め水増ししたり、型代を過大に請求したりと、さまざまな策を講じるようになる。非常に馬鹿げた話ではあるが、これはある意味で正当防衛とも言える。しかし、一度見積書に具体的な工数を記載して提出してしまえば、それ以降はこうした手段も通用しなくなる。下請業者にとっては、まさに自分の首を絞めるような結果となりかねない状況だ。

同じ品物に対して設備投資を行い、工数を下げた場合、「以前より工数が上がりました」と正直に言うことはできない。これが下請業者にとってのジレンマであり、悲劇の始まりだ。設備投資に伴う固定費の増加や減価償却費の負担増があっても、それを反映させた新しい賃率を提示するのは難しく、結果的に下請業者が苦しい立場に追い込まれる。この矛盾が解消されない限り、親会社と下請業者の間に信頼関係を築くことは難しい。

K社はある大企業の下請けを務めていたが、大きな赤字を抱える状態にあった。その原因は、売上高の年間推移をグラフ化し、賃率を計算することで明確に浮かび上がった。分析の結果、赤字の要因が構造的な問題に起因していることがはっきりと分かったのである。このデータが示す事実は、赤字の本質を理解するために必要不可欠な手がかりとなった。

K社の年間売上グラフを分析すると、突出して最大の売上を占める商品が見つかった。その商品の賃率は「秒当たり6銭5厘」だった。一方で、当時のK社の損益分岐賃率は「秒当たり20銭」だった。この差では、赤字になるのは当然だ。

さらに問題なのは、この商品の売上高が最も大きく伸びており、長期的にも売上の増加が予測されていたことだ。つまり、このままでは売上が増えれば増えるほど赤字が拡大するという構造的な問題を抱えていた。この矛盾を放置すれば、K社の経営に深刻な影響を及ぼすのは避けられない状況だった。

この点を指摘したところ、「その問題は理解している。だから、現在工賃の1割値上げを交渉中だ」という返答が返ってきた。しかし、これは冗談にもならない話だ。仮に1割の値上げが実現したとしても、賃率は「秒当たり7銭余り」にしかならず、損益分岐賃率の20銭には遠く及ばない。これでは、まさに焼け石に水だ。

このような対処では、赤字の根本的な問題を解決するどころか、むしろ経営をさらに深刻な危機に追い込むだけだ。短期的な対応に固執するのではなく、抜本的な見直しが不可欠であることは明白だ。

私はこう考える。このような赤字を垂れ流す商品は、迷わず直ちに捨てるべきだ。そして、余剰となった工数は新たな仕事を見つけ出し、そこに振り向けるべきである。ただし、その際には賃率に十分注意し、確実に採算が取れる仕事でなければならない。

さらに、それを実現するには、積極的な営業活動が欠かせない。多くの引き合いを獲得し、その中から厳選する形で仕事を選ばなければ、望む成果は得られないだろう。営業努力を怠れば、新たな収益の柱を築くことはできない。この点を強く認識してほしい。経営の健全化は、決断力と行動力、そして徹底的な営業努力によってのみ達成されるのだ。

もし新しい仕事を見つけられない場合には、減量作戦に切り替えるしかない。幸いにも、余剰となるのはすべて女子従業員であるため、希望退職を募るのが第一の手段だ。それでも十分でなければ、不補充の方針を打ち出し、自然減に委ねる形でも対応できる。

ただし、「直ちに」と言ったのは、現在の受注をすべて片付けてからという意味ではない。むしろ、問題のある受注が進行中であっても、次の段階に進む準備を即座に始め、損失を最小限に抑えるための行動を取るべきだという意味だ。経営の健全化には、躊躇せず素早く動くことが何よりも重要だ。

お客様に迷惑をかけるような対応は、絶対に避けなければならない。そのために取るべき正しい方法は、まず社長自らが親会社に出向き、現状を具体的なデータをもって説明することだ。

親会社に対して、自社の損益状況や賃率の計算結果を詳細に示し、現状の条件では経営が立ち行かないことを誠実に伝える。この際、ただ「厳しい」という感情的な訴えに終始するのではなく、冷静かつ論理的な説明を心がけるべきだ。具体的なデータをもとに現実を共有することで、親会社に協力を要請する土壌を築くことができる。信頼を損なわないよう、誠意とプロフェッショナリズムをもって対応することが肝心だ。

そして、「6カ月間は責任を持って現行の条件で仕事を続けます。その間に親会社側で状況改善のための対策を進めていただきたい」と申し出るのが適切だ。また、この間は工賃の値上げを要求しないという誠意を示すことで、親会社に時間と余裕を与えるとともに、信頼関係を強化することができる。

このアプローチは、下請けとしての責任を果たしつつ、親会社との建設的な対話の場を作るための実務的な方法だ。短期的には負担が増えるかもしれないが、長期的にはより良い条件での協力関係を築くための重要な一歩となる。

社長は、「うちの社員たちは賃率のことなんて全然私に説明しない。ただ『これは赤字ですから、値上げをお願いしなければなりません』と言うだけだ。だから一割値上げを申請していたが、それでは全く問題が解決しないことが今回よく分かった」とボヤきながらも、状況を打開するための決断を下した。

「早速親会社に申し入れる」と明言し、自ら動く覚悟を決めた。赤字の原因を徹底的に分析した結果、根本的な解決策を模索する必要性を理解した社長のこの決定は、経営の立て直しに向けた重要な一歩といえるだろう。

親会社に申し入れた結果、これまで一割の値上げさえ渋っていた親会社が、一転して賃率を「秒当たり13銭」まで引き上げるという提案をしてきた。その上、この申し入れに対しては、購買部長自らがK社を訪問し、正式に提案を伝えるという異例の展開となった。

この結果は、単なる値上げ要求ではなく、具体的なデータと誠意を持って交渉したことが功を奏した証拠だ。親会社側もK社の苦境を理解し、協力的な姿勢を見せたことで、両者の関係に新たな信頼が生まれたと言えるだろう。

これまでのK社であれば、一割の値上げを申請していたくらいなので、「秒当たり13銭」の値上げ提案を大喜びで受け入れていたに違いない。しかし、今回は違った。確かに13銭という提案はありがたい話ではあったが、それでもなお、会社が必要とする収益には遠く及ばない水準だった。

K社長は冷静に判断し、この提案を謝絶した。そして、この赤字商品を思い切って切り捨てる決断を下したことで、K社は黒字転換を果たすことができた。短期的な利益や感情に流されず、経営の本質を見極めたこの決断こそが、会社を立て直す大きな転機となったのである。

K社の事例のように、採算が合わないと判断した場合には、迷わず切り捨てを決断することが重要だ。それができない経営者は、その座にふさわしくない。切り捨てを実行する際には、取引先が対応策を講じるための十分な時間を確保し、その期間中の責任を負う必要がある。これが取引先に対する最低限の道義的責任だ。ただし、対応策を無期限に待つのは避けるべきである。

ある会社で、加工時間が10分かかる品物があった。賃率は50円で、加工賃は1個あたり500円とし、お得意様に販売していた。この品物に対して設備投資を行い、工数を削減した結果、加工時間が半分の5分に短縮された。ただし、固定費の増加に伴い賃率が70円に上昇したと仮定する。

この状況について、新旧の収益性を買い手と売り手の双方の視点から考察してみる。

売り手の立場

旧体制では1個の加工に500円のコストがかかっていたが、設備投資後は加工時間が短縮されたことで変動費が減少。5分間で70円の賃率を適用すれば、加工賃は350円となる。ただし、固定費の上昇により総コストが増加している可能性がある。そのため、削減した変動費が固定費の増加を上回るかどうかが収益性向上のカギとなる。

買い手の立場

買い手にとっては、加工時間の短縮が商品の供給スピード向上や価格の引き下げにつながるかが重要となる。売り手が固定費上昇分を価格に転嫁しない場合、買い手は従来より安価な価格で商品を購入できる可能性がある。一方、価格が維持または上昇する場合でも、供給安定性や品質向上が得られれば、引き続き購入を選択する可能性が高い。

双方の利益を最大化するためには、設備投資による効果を十分に検証し、価格設定や生産計画を慎重に調整する必要がある。

賃率×加工時間=工賃

50円×10(分)=500円

旧状態では、賃率50円と加工時間10分により、工賃は1個あたり500円。買い手は1個につき500円を支払い、売り手は10分で500円の収益を得ていた。

このように、買い手と売り手では立場も考え方も異なる。買い手にとって重要なのは「1個あたりの加工賃」であり、売り手にとっての関心事は「単位時間あたりの工賃」である。

設備投資後の加工賃は次のように変化する。

買い手の立場では、
賃率70円 × 加工時間5分 = 350円
つまり、1個あたりの加工賃が500円から350円に下がり、150円のコスト削減となる。

売り手の立場では、
賃率70円 × 時間10分 = 10分あたり工賃700円
以前は10分で500円だった工賃が700円となり、10分あたり300円の収益増となる。

これにより、買い手はコスト削減、売り手は収益増という双方にメリットが生じる。

このように、買い手と売り手の双方にメリットがある状態は、いわゆる「双方得」の関係であり、これが理想的な形だ。したがって、買い手にとって賃率はあくまで参考値でしかなく、重要なのは1個あたりの単価をいかに安く抑えるかという点に集中することだ。賃率の上昇にこだわらず、単価の値下げにのみ注目して交渉を進める姿勢が整った時、親企業と下請けの関係は正常化に向かう。

定期的に下請けに生産技術者を派遣して工数を測定し、賃率の上昇を一切認めず、無理な要求を繰り返す大企業も存在する。しかし、そのような姿勢は長続きせず、最終的にはそのツケが自分たちに跳ね返ってくることを理解すべきだ。

製造業における商品価格の決定に関する基礎計算は、収益性を確保しながら合理的な価格を設定するために、以下のようなアプローチが用いられます。

1. 基本計算式

最も基本的な価格決定の計算式は、製造業では以下のように表されます。

[
\text{商品価格} = \text{賃率} \times \text{工数} + \text{原材料費}
]

ここで賃率とは、作業者が生み出す単位時間当たりの収益率であり、工数は商品の製造にかかる時間です。この方法では、製造コストが明確に計算されるため、商品1個当たりの付加価値や利益率が正確に把握できます。

2. 賃率を用いた計算

賃率を基にした計算では、単位時間当たりの賃率に製造に必要な工数(生産にかかる時間)を掛けて工賃を算出し、そこに必要利益を加えます。賃率には通常「損益分岐賃率」を使用し、これは会社が利益を得られる最低の賃率を表します。こうすることで、最低限必要な収益が得られるように設定されています。

3. 付加価値率を用いる方法

別の方法として、商品1個あたりの製造原価を計算し、これに一般管理費や利益を加えて販売価格を求める方法もあります。ただし、この方法は全体的な固定費の変動が加味されないため、計算通りの利益が確保できない可能性があります。

4. 設備投資後の賃率変化の対応

設備投資で生産効率が上がり工数が減少した場合、新たな賃率で収益を再評価する必要があります。例えば、設備投資によって加工時間が10分から5分に短縮されたとします。この場合、賃率が50円から70円に上がるとしても、製造にかかる工賃が削減でき、売り手・買い手の双方がメリットを享受できることがポイントです。

5. 買い手側の対応と交渉

買い手にとって重要なのは「1個当たりの加工費」が安くなる点であり、賃率自体の変動はあまり考慮しません。設備投資により効率が上がり、製造コストが下がる場合、買い手は商品単価の引き下げを要求するのが通常です。

6. 下請けとの関係

親会社が下請け業者から見積りを取る際には、賃率を固定されたものと考えないことが重要です。賃率は固定費や生産性に依存し、設備投資などで変動する可能性があるため、安易に賃率のみを基準にすると下請け業者とのトラブルが発生しやすくなります。

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