最初に押さえておきたいのは、「商品ごとの総原価は計算できない。算出可能なのは商品ごとの収益である」という点だ。
なぜこの点を改めて確認するかといえば、かつて「増収増益戦略セミナー」で二日間にわたり講演を行い、その中で「商品別原価は計算できない。算出できるのは商品別収益だ」という内容を伝えたことがあるからだ。
セミナー終了後、私のもとに届いた質問書の中に「商品別原価がつかめなくて困っている。どうすれば把握できるのか」という問いがあった。それを読んだ瞬間、心底がっかりした。二日間も話をしていたのに、この人は一体何を聞いていたのかと、苛立ちすら覚えた。
しかし、冷静に考えてみると、無理もないのかもしれない。「どうしても原価を知りたい」という切実な思いでセミナーに参加したのに、自分の期待していた答えには全く触れられなかった。だからこそ、最後に「原価が知りたい」という質問を書き送る結果になったのだろう。
「原価病」に取りつかれると、こうした状況に陥ってしまう。だからこそ、注意が必要だ。冒頭で「再確認しておきたい云々……」と述べたのは、まさにこのような理由による。
再確認が終わったところで、本題に入ろう。(第32表)がその内容だ。これは単位あたりの計算を示しているが、期間あたりの実績にも同じフォームが適用できる。ただし、単位あたりを期間あたりに置き換えるだけで済む話だ。
付加価値と工数が把握できれば、賃率の計算は可能だ。ここでいう賃率とは、もちろん実際賃率のことを指す。ランクの欄には、たとえば健康商品を「A」、貧血商品を「B」、出血商品を「C」といった具合に分類して記入する。さらに、「A」を「AA」と「A」に分けたり、「C」を「C」と「D」に細分化したりする工夫を加えれば、判断の助けになる場合もある。
方針の欄には、「販促強化」「値上げ」「値下げ」「成り行き」「切り捨て」といった具体的な行動方針を記入するのも良いし、日々の目標売上を書き込むのも良い。また、「高級化」「改良」「品種増加」「小型化」「軽量化」といった商品そのものに関する方向性を示すのも一つの方法だ。要は、社長自身の「こうしたい」という意思を自由に反映させる場として活用すれば良い。
作成は年に一度程度で十分だ。その間に設計変更や売価変更があった商品だけを更新すれば事足りる。材料費の相場が変動することがあっても、多少の変化なら過度に神経質になる必要はない。
つまり、この〈第32表〉の目的は、正確な賃率を求めることではなく、商品の収益力を把握することにある。収益力は、材料費の多少の変動では大きく揺らぐものではない。そのため、正確さばかりに目を向けてしまうと、個々の商品における些細な変動ばかりが気になり、将来性の評価や方針の検討・変更といった重要な課題に目が向かなくなる。結果として、重要性の低いコストダウンを最優先してしまうリスクが生じるのだ。
一般的に、製造業の社長はマーケティングへの関心が薄い傾向がある。そのため、販売戦略や売価の設定よりも、変動費の節減や工数の短縮といった内部効率化に焦点を当ててしまう危険性が高い。
この〈第32表〉を検討する際に最も重要なのは、「A」ランクの商品に第一の関心を向けることだ。これらの商品で売上増大の機会を見つけ出し、それを実現することが、最も迅速に収益を増大させる方法だからである。
「C」ランクの商品に真っ先に関心を向けるのは明らかに誤りだ。このクラスの商品は多くが老朽化しており、収益性の向上は見込めないうえ、将来性も期待できないものがほとんどだからだ。
これらの商品に対する正しい姿勢は、「当面は成り行きに任せ、機を見て切り捨てる」ことだ。その切り捨ては早ければ早いほど良い。むしろ、思い切った決断で果敢に切り捨てていくべきである。
「A」ランクの売上増大にせよ、「C」ランクの切り捨てにせよ、それを最も効率的かつ正確に行うためには、社長自身が積極的に外に出て顧客の要望を的確に把握し、競合他社の動向をしっかりと見極めることが絶対条件となる。社長が外に出ず、デスクにこもったままセールスマンの報告に頼っているようでは、正しい判断を下すことは不可能である。
私は折に触れて「社長は外に出よ」と繰り返し強調する。これに対して、「外に出なくても外部の情報は十分得られる」と反論する社長もいる。しかし、そういった反論は、まず自ら外に出てみて、それでも社内にいたとき以上の情報が得られなかった場合に初めてするべきだ。試してみることすらせずに、他人の意見を聞こうとしない頑なな態度は、いずれ現実に直面してその代償を払う時が来る。これは避けられない。
私の勧めで外に出てみた社長の中で、「外に出ても何の効果もなかった」と言った人に、これまで一人も出会ったことがない。むしろ、みな口を揃えて「外に出て本当に良かった」「あんなことが起きているとは全く予想していなかった」と感想を述べている。「穴熊社長は損をする」ということを、ぜひ肝に銘じてもらいたい。
商品収益性を高めるためには、各商品の収益力を正しく評価し、それに基づいて適切な行動を取ることが重要です。以下は商品収益性の確認と向上に必要なポイントです。
1. 商品別収益性の評価
「商品別原価」は計算が難しくても、「商品別収益」は算出可能です。この収益性の分析により、各商品が企業全体の利益にどのように貢献しているかを評価できます。原価を追い求めるのではなく、収益性に焦点を当てることが肝要です。
2. 商品ランク分け
商品ごとに収益性をランク分けし、以下のように分類します。
- Aランク: 健康商品。収益性が高く、販売拡大に注力すべき商品。
- Bランク: 貧血商品。改善の余地があるが、特段の成長が見込めないもの。
- Cランク: 出血商品。収益性が低く、成長の見込みが少ない商品。
特に「Aランク」の商品に注力し、収益増加の機会を最大化することが、最も効果的な収益向上の方法です。一方、「Cランク」の商品は成行きで対応し、切り捨てを視野に入れた管理が推奨されます。効果が見込めない商品に過度の投資や時間をかけないことが重要です。
3. 方針の明確化と見直し
各商品の方針を明確にし、「販促強化」「値上げ」「成行き」「切捨て」など、明確な行動を設定します。1年に1度、または商品の売価変更や設計変更があった際に見直し、収益力が落ちた商品については迅速な対応を取ります。
4. 社長の外部活動
収益性の高い商品に注力し、収益性の低い商品の切り捨てを効率的に行うためには、社長自らが顧客の声を聞き、競合状況を把握することが不可欠です。現場に出て直接情報を得ることで、消費者のニーズや競争の状況を的確に把握でき、経営判断の質が向上します。
5. 「穴熊社長」の回避
経営者が現場を離れ、社内の報告のみを頼りにすることは、収益性の低下を招く可能性が高くなります。社長が現場に出て、外部の変化を直接確認することで、収益性向上のための迅速で適切な判断ができるようになります。
結論
商品収益性を向上させるためには、個々の収益性に基づいた的確な方針を打ち出し、定期的な見直しを行うことが重要です。社長が積極的に外部の状況を把握し、競争力のある商品を育てることが、収益性向上への近道です。
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