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季節変動をカバーする

T社は繊維業界で包装関連事業を展開している。この業界では、秋冬物が売上の大部分を占める一方で、春夏物の売上は控えめだ。T社の売上の約70%は、秋冬物の仕事が集中する上半期に達成される。そのため、下半期は夏物のシーズンに合わせて事業を動かすものの、実質的には半分ほど手持ち無沙汰な状態が続く。閑散期にまったく仕事がないわけではないが、利益率がどうしても低くなるのが現状だ。

T社長の方針は明確で、「粗利益率25%以下の仕事は受けない」というものだった。「利益率の低い仕事は儲からない。儲からない仕事をやる意味はない」との考えから、基準を下回る仕事はごく一部の例外を除き、断固として受け付けなかった。

私はT社長にこう指摘した。「その考え方は誤っている。実際、貴社の下半期は赤字ではないか。上半期の利益で下半期の赤字を補填し、通期でかろうじて黒字を維持しているに過ぎない。もし下半期の売上を増やせないまま、上半期の売上をさらに伸ばそうとすれば、増員が必要になる。だが、増員すれば固定費が増加し、結果として下半期の赤字がさらに拡大することになるだろう。」

「あなたの会社が目指すべきは、下半期単独で黒字を実現することだ。そのためには、下半期に余る社員の時間を有効活用し、収益を拡大する必要がある」と助言した。しかし、T社長は「粗利益率25%以下では赤字になる。赤字の仕事を増やせば、赤字がさらに拡大するだけだ」と反論し、提案には全く乗り気ではなかった。

T社長は、個々の売上の利益率だけに目を向けるという、根本的な誤りを犯していた。そこで、売上と付加価値の関係、変動費と固定費の構造について詳しく説明し、増分計算の考え方を提示した。その内容を整理したのが、第41表である。

T社の損益計算書を上半期と下半期に分けて分析した結果、下半期の売上高は上半期の約半分に留まり、経常利益は赤字であることが判明した。一方、上半期は経常利益が大きく、会社全体の通期黒字を支えている構造が見えてきた。

もし下半期の閑散期に粗利益率にこだわらず、余剰労力を活用して仕事を進めていたら、どのような結果になっていたのだろうか。T社にどの程度の利益率で仕事を受注できるのかを尋ねたところ、「おおよそ30%程度なら注文が取れる」との答えが返ってきた。仮に利益率を28%と仮定し、どれほどの売上が期待できるかを検討した結果、3,000万円から4,000万円程度の売上は十分に見込めるとの試算が得られた。

売上高が3,000万円増加した場合の下半期の増分を試算した結果が「下半期増分」である。この試算によれば、増加した粗利益は840万円、増分費用は150万円となり、その差し引きで経常利益は690万円増加することが示された。これにより、余剰労力を活用して低い粗利益率でも仕事を受けることが、経常利益の改善につながる可能性が具体的に明らかになった。

このようにして試算を進めると、経常利益は合計で2,590万円となり、経常利益率は5.3%から6.6%に向上することがわかる。一方で、粗利益率は34.4%から32.9%に低下する。この結果からも、粗利益率に固執することが経営判断として誤りであることが明確に示されたといえる。利益率だけでなく、全体の収益構造を見直す重要性が浮き彫りになった。

この増分を損益計算書の下半期に反映したのが〈第41表②〉である。わずか3,000万円の売上を粗利益率28%という低い水準で達成しただけで、下半期の赤字が解消され、黒字に転じていることが確認できた。この結果は、粗利益率の高さにこだわらず、増分収益を積み上げることの重要性を具体的に示している。

先述したように、閑散期に新しい仕事を取り組んだ場合、固定費はほとんど増加しない。このため、収益率が低く、得られる収益が少ない場合でも、その大半が経常利益の増加に直結する。結果として、想定以上に良好な成果を得ることが可能となる。閑散期の余剰資源を活用することで、収益構造を改善する大きなチャンスが生まれるのだ。

さらに、低収益で済むということは、価格競争力が高いことを意味している。価格競争力が強いということは、他社と比較して有利な条件で受注できる可能性が高く、結果的に売上の達成や受注成功率が向上する。このように、収益率が低くても競争力を持つことで、安定した受注を確保することができる。

季節変動に苦しむ会社は少なくない。そうした会社の中には、「閑散期でも低収益の売上であっても業績への寄与は大きい」という事実を理解せず、状況を半ば宿命と捉えたり、半分諦めてしまって、真剣に対策を講じないままでいるケースが多い。

むすび

  1. 閑散期の増分売上
    閑散期における増分売上については、たとえ付加価値率が低い商品であっても、その多くが経常利益の増加につながる。これは、増分売上に伴う費用がごくわずかしか発生しないためである。
  2. 付加価値率と経常利益率の関係
    上記の場合、売上高に対する付加価値率が低下することがあっても、結果として経常利益率は上昇する。

これらのポイントを踏まえ、閑散期の売上増加に向けた戦略を積極的に講じるべきである。

閑散期においては、付加価値率や粗利益率にこだわらず、余力を活用して追加の仕事を受け入れることで、利益を向上させる方法があります。T社の例のように、閑散期の遊休リソースを活用し、たとえ低い付加価値率であっても追加の売上を確保することは、会社全体の収益性を向上させる効果的な戦略です。

ポイントのまとめ

  1. 閑散期の余力活用
    閑散期には、固定費がすでに発生しているため、低付加価値率での仕事でも、その売上がほぼ経常利益の増加につながります。このため、わずかな追加の増分費用であっても、経常利益の増大に大きく貢献します。
  2. 売上増加の効果
    売上高が増えると、付加価値率が下がっても全体の経常利益が上昇し、利益率を上げることができます。T社の例でも、粗利益率が28%の売上を閑散期に追加することで、経常利益率が5.3%から6.6%に上昇しています。
  3. 価格競争力
    低収益でも受注しやすくなるため、売上確保が容易になり、季節変動の影響を軽減できます。
  4. 季節変動対策の重要性
    季節によって売上が変動する業界において、閑散期に低付加価値率の仕事を取り入れることで、年間を通じた利益を安定化させることが可能です。季節変動の厳しい事業でも、閑散期に安定した収益を確保することが、全体の業績を向上させるポイントになります。

結論

閑散期には、低付加価値率の仕事であっても受注することで経常利益を増加させ、全体の収益性を上げることが重要です。付加価値率へのこだわりを緩めることで、効率的な利益確保が可能となり、季節変動の影響をカバーできるという理解が必要です。

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