会社の数字は、絶対額だけで判断するのは当然だが、それだけでは十分ではない。むしろ、場合によっては誤った結論に至る可能性があるため、注意が必要だ。具体例を挙げて説明してみよう。
A社とB社の経常利益率の傾向を分析すると、興味深い違いが見える。過去四期のデータを振り返ると、A社は17→15→12→10と下降傾向にある。一方で、B社は1→2→4→7と上昇傾向を示している。もし現在のD期の絶対値だけを見れば、A社のほうが利益率は高いと言える。しかし、これだけでは本質的な優劣を判断するのは難しい。長期的な成長性や今後の見通しを考慮すると、むしろB社のほうがポテンシャルを秘めていると評価するべきかもしれない。このように、単一の時点の数字だけでなく、その背後にあるトレンドや変化を見極めることが重要だ。
明らかに、A社は「売り局面」の会社であり、B社は「買い局面」の会社と言える。A社は利益率が徐々に減少しており、成長のピークを越えている可能性が高い。一方、B社はまだ低い水準ながらも着実に成長しており、今後の伸びが期待できる状況にある。
にもかかわらず、会社の優劣を判断する際に絶対額だけに注目すると、A社のほうが優れているという誤った結論に至るリスクがある。数字の絶対値だけでは見えない、背後にある成長性や持続性といった要素をしっかり考慮することが重要だ。そうでなければ、本来の価値や将来性を見誤る可能性が高い。
傾向を評価する視点があれば、こうした誤りを犯す心配は少なくなる。しかし、正しい評価をするだけで満足できるのは外部の第三者であり、自社の経営に関わる立場では、それだけでは不十分だ。評価の結果を受けて、次にどうするべきか、どのような対策を講じるのかが問われる。
自社のこととなれば、傾向が下向きなら原因を特定し、改善のための具体的な行動を取らなければならない。上向きの傾向であっても、その勢いを維持するための戦略が必要だ。単に数字や傾向を分析するだけではなく、それを基に次の一手をしっかり打つことが求められる。
社長としての正しい読み方は、A社の経営方針は誤りがあるため「経営方針の転換」が必要であり、B社は方針が的確で業績が上昇しているため「経営方針の持続」が求められる、ということだ。
信用調査機関は単年度の絶対値に基づいて優劣を評価することが多いため、その評価を鵜呑みにせず注意深く見る必要がある。他人の評価に依存せず、自らの目で評価する努力を惜しまないことが重要だ。
会社の業績を判断するには、単年度の絶対額だけでなく、複数期にわたる「傾向」も重視して見るべきです。絶対値だけで見ると、短期的な高い数値に惑わされ、本来の成長や改善の見込みを見逃す危険があります。
例として
A社とB社の経常利益率の傾向を見た場合、最終年度(d期)の数値はA社がB社よりも高いものの、A社は一貫して下降傾向、B社は着実に上昇傾向にあると仮定しましょう。この場合、数値の傾向を見れば、B社の方が長期的な成長が期待できる「買い」と判断できます。
傾向評価の重要性
- 戦略的方向性の確認:A社は経営方針の見直しが必要で、B社は現行の経営方針の維持が有効であるといえます。
- 誤った評価の防止:絶対額だけで優劣を判断すれば、短期的に高い利益率のA社を過大評価してしまいがちですが、長期的な持続力の評価は「傾向」によって補完されます。
実務への応用
社内で使うあらゆる指標は、傾向を把握しやすいように過去数期のデータを分析に取り入れ、経営判断の質を高めることが重要です。信用調査機関などが単年度の絶対値に基づく評価を出すこともありますが、それを鵜呑みにせず、自社の傾向を踏まえた独自の評価が必要です。
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