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損益計算書の分析

損益計算書については、これまでに何度も取り上げてきたため、ここでは簡単に補足する程度にとどめる。〈第49表〉は分析用のフォーマットとなっている。手間を惜しまず、この形式に書き換えて分析を進めるほうが効果的だ。一倉式経営計画書を活用している企業であれば、その計画書をそのまま使って分析すれば十分だ。

流通業者とメーカーが同じフォーマットを使用できることについては、すでに触れている通りだ。

分析方法としては、各期の数値の右側に、売上高を100%とした比率を記入する。ただし、内部費用の各項目については比率を必ずしも記入する必要はない。その理由については後で説明する。これが最初の基本的な分析手法となる。

次に、経常利益の下に、損益分岐点、一人当たりの売上高、粗利益、経常利益、労働分配率などの項目を記入する。これが第二の分析となる。各期を比較する場合や長期計画を立てる際には、年度ごとに数値を右へ順に並べていけばよい。

損益計算書で最も重要なのは、言うまでもなく経常利益とその率だ。この率が製造業で10%以上、流通業で3%以上であれば、優秀と判断できる。

次に行うべきは、その利益がどこから生じているのかを検討することだ。注目すべきは、まず付加価値率であり、次に労働分配率、さらに金利が挙げられる。これらのポイントを、他社の比率や業界の指標と比較しながら分析していく。

以上が他社の数値に基づく分析だ。しかし、自社の分析はそれだけで終わらせてはならない。より深く掘り下げ、内容を徹底的に検討する必要がある。

というのも、付加価値率が低下している場合でも、それが必ずしも業績の悪化を意味するわけではない。付加価値率が低下していても、経常利益率が上昇していれば問題はない。このような状況は、外注比率を高めた場合に発生することがあることは、すでに述べた通りだ。

経常利益率の低下も、必ずしも業績の低下を意味するわけではない。将来の投資が行われている場合、その分だけ経常利益は一時的に低下するからだ。

したがって、状況を正確に把握するには、先に述べたような要因を切り分けて検討する必要がある。そのための方法として、〈第50表〉のような形式を活用すると効果的だ。

点線枠の中は、経費を現在の事業にかかる費用と未来への投資費用に分けたものであり、付加価値の内訳を分析したものが太枠の右側に突き出た部分に示されている。

経費の中で未来費用がどれだけ含まれているかを把握し、それを除いた場合の経常利益、つまり未来費用を経常利益に加算した現事業営業利益がいくらになるかを確認する。この数値を基に、現事業の効率を評価し、さらに未来費用の規模を見て、将来への備えが十分かどうかを検討する。

付加価値の内訳は、内作と外作の区分、商品群別、あるいは部門別などに分けられる。それぞれの付加価値率が設定した目標や狙いに近い水準に達しているかどうかを分析し、改善の必要性を検討する。

損益計算書では、売上高を100%とした各科目の比率を算出するのが一般的だ。しかし、売上高に対する比率は、付加価値率と経常利益率を除けば、あまり有意義とは言えない場合が多い。それどころか、場合によってはその比率に依存することで判断を誤るリスクもある。

というのも、付加価値率が低い場合、売上高に対する人件費率や経費率は小さくなり、逆に付加価値率が高い場合は、それらの率が大きくなるからだ。そのため、売上高に対する人件費率が大きいとか小さいとかを評価すること自体には、実質的な意味がない。

さらに、売上高が変動しても、人件費や経費は固定費であるため、その絶対額は基本的に変わらない。したがって、売上高が増加すればこれらの率は下がり、逆に売上高が減少すれば率は上がる。絶対額が変わらないにもかかわらず、比率だけが変動するのは、実際には変わっていないものがあたかも変化したように見えるからだ。

売上高が変動しても、人件費や経費といった固定費の絶対額は変わらない。そのため、売上高が増えれば固定費の割合は下がり、逆に売上高が減れば割合は上がる。絶対額が一定であるにもかかわらず、割合が変化するのは、固定的な要素があたかも変化したように見えるからだ。

人件費や経費は、収益を生み出すための投入要素であり、それらの収益に対する比率、つまり生産性を測る指標として捉えるのが正しい考え方だ。具体的には、付加価値を100としたときの比率として評価する視点が求められる。

この判定法は、高収益型と低収益型の付加価値に対する比率モデルを用いて説明できる。高収益型の特徴として、まず挙げられるのは人件費率の低さだ。収益が大きいため、人件費率が低いのは当然の結果といえる。言い換えれば、労働分配率が低い状態だ。しかし、それに反して経費率は人件費率よりも50%も高いという特徴が見られる。

この経費の高さについて内訳を確認すると、ほぼ例外なく、管理費用は人件費の約半分程度に抑えられ、一方で販売費と未来投資費には人件費とほぼ同額の資金が投入されている。これが高収益を実現する主な要因だ。これらの費用は、収益を積極的に生み出すための投資として機能しているからである。高収益を実現しているがゆえに、金利負担の比率は低く抑えられ、結果として経常利益率が高くなる。

低収益型の特徴として挙げられるのは、人件費率の高さだ。これは付加価値が少ないために、相対的に人件費の割合が大きくなっている結果である。一方で、経費率は低い。これは、積極的に収益を生むための費用を投じるのではなく、経費節約を優先し、経費の絶対額を削減することに腐心している状況を反映している。現在の維持を重視し、将来への投資を軽視する姿勢が見られる。その結果として、金利負担の比率は高くなり、経常利益率は低いままにとどまる。

これらの特徴を理解しておくと、他社を分析する際に、その企業の性格を判定する手がかりとなる。付加価値に対する比率分析は、製造業であれ流通業であれ、同じ比率基準を適用できる点が大きな利点だ。たとえば〈第51表〉に示されるモデルを見れば、製造業のA社と流通業のB社のどちらも、付加価値(粗利益)以降の比率構造がほぼ同じであることがわかる。このように、異なる業種間でも共通の視点で比較可能な分析手法である。

しかし、両社の業績が同じであるにもかかわらず、製造業と流通業では収益率に違いが生じる。A社の付加価値率は50%、B社は12%であり、この数字はどちらも業界内で優秀とされる水準だ。その結果として、売上高に大きな差が生まれ、A社は20億円、B社は82億円という規模の違いが現れる。同様に、経常利益率もA社が10%、B社が2.4%と大きな開きが見られる。しかし、これらは表面上の差に過ぎず、実際の収益構造や中身は同じであるといえる。

このように、付加価値(粗利益)を基準にして判断すれば、売上高や経常利益率の違いに振り回されることはなくなる。本質的な収益構造を見極めることができるため、表面的な数字の差異に惑わされることなく、企業の実態を正確に捉えることが可能となる。

損益計算書において、対前年伸び率という指標は、売上高以外の数字に関しては管理上有用である。しかし、売上高に関しては、対前年比伸び率を基準にする考え方は避けるべきである。売上高は単なる数値の増減以上に、事業環境や戦略的要因が影響するため、前年比だけで評価することは不適切であると言える。

なぜなら、対前年比伸び率が良好であったとしても、市場占有率を失ってしまえば意味がないからだ。売上高を評価する際の唯一の基準は市場占有率であり、それ以外の指標では不十分であることを理解しておく必要がある。

では、損益計算書の分析を行うタイミングはいつかというと、他社の損益計算書については、決算書の公開された数値を基に行う以外に方法はない。決算書は最も確実な情報源であり、これを用いることで正確な分析が可能となる。

しかし、自社については、決算書の分析にとどまらず、さらに積極的な取り組みが求められる。特に重要なのは、利益計画の段階で分析を行うことである。単なる過去の数字を振り返るのではなく、「利益計画を分析した結果、このような比率になる」という未来志向の分析を行うことが、本来の目的に合致している。こうした前向きな分析が、より的確な戦略立案と実行につながるのである。

自社の実態を前向きに捉え、業績向上を目指して継続的に努力することが重要だ。その成果を確認するためには、毎月の実績を設定した目標と照らし合わせ、進捗を評価しながら必要に応じて軌道修正を図る。このプロセスを繰り返すことで、計画と実績のギャップを埋め、組織としての成長を促進することが可能となる。

だからこそ、利益計画を持つ社長は、期の途中でいち早くその期の損益を予測し、適切な対策を講じることができる。このアプローチは、過去の実績データだけを頼りに損益を予想する社長の方法とは大きく異なる。利益計画を基にした予測は、より前向きかつ戦略的であり、計画に基づいた柔軟な対応が可能となる点で優れている。

利益計画があれば、期末までの月々の目標数値が明確になっているため、それを基に「では、どうすれば目標を達成できるか」を具体的に考えることができる。一方で、実績だけに頼る場合、不安が先行し、状況に対する明確な見通しを持ちにくいため、効果的な対策を立てるのが難しくなる。この違いが、経営の質に大きな差を生む要因となる。

この点については、経営計画書を活用している社長から、「期中でも、その期の利益をかなり的確に予測できるようになり、利益計画の重要性を改めて実感している」「期の途中でここまで具体的に利益を見通せるとは思っていなかった」という感想をよく耳にする。こうした声は、計画に基づいた経営がもたらす実効性と、その効果の大きさを物語っている。

損益計算書の分析について、重要なポイントをまとめてみます。損益計算書は会社の経営成果を示すため、経常利益や付加価値率、労働分配率など、さまざまな項目を確認する必要があります。ただし、単に絶対値や売上比率を見るだけでは不十分で、業績の改善に結びつく視点で分析を進めることが大切です。

1. 損益計算書の基本分析

  • 売上高比率: 売上高を100%とし、主要項目(売上原価、営業利益など)を売上に対する比率で表すことで、全体の収益構造がわかりやすくなります。
  • 経常利益とその率: 製造業で10%以上、流通業で3%以上が目標とされます。特に、経常利益の増減やその率の傾向は業績の指標として非常に重要です。
  • 付加価値率と労働分配率: 付加価値率の低下が必ずしも業績悪化を意味しない場合もあります。外注比率が高まっている場合や未来投資がある場合などは、経常利益率や付加価値率の低下に対する分析が必要です。

2. 未来費用の分離

未来投資が行われている場合、現事業と未来事業の費用を分けて見ることがポイントです。こうすることで、現事業の効率が高いか、将来への備えが適切かを判断できます。

3. 付加価値率に基づく評価

  • 損益計算書では、付加価値を基準にした評価が重要です。売上高に対する人件費率や経費率は、固定費の影響を受けやすいため、付加価値率や経常利益率以外の項目ではあまり意味を持たないことが多いです。
  • 高収益型では労働分配率が低く、経費率が高いことが特徴です。積極的に収益を生むための販売費や未来費用への投入が収益性の向上につながっています。

4. 製造業と流通業の違い

製造業と流通業では売上高に対する付加価値率や経常利益率に違いがありますが、付加価値を基準にして判定することで、業績の実態がより明確になります。

5. 損益分岐点分析と生産性評価

  • 損益分岐点: 損益分岐点を分析し、売上がどの程度増えれば利益に結びつくのかを知ることで、会社の収益性や安定性の見通しが立ちます。
  • 生産性評価: 労働分配率や付加価値に対する経費の比率は、収益性を左右する要因であり、生産性を測る指標として重要です。

6. 対前年比と占有率

  • 対前年比伸び率を見る際には売上高だけではなく、占有率を重要視します。前年比だけで増減を評価するのではなく、市場におけるシェアや占有率の視点で見極めることが大切です。

7. 利益計画の重要性

自社の実績だけでなく、前向きな利益計画の段階で損益を分析し、計画に基づいた期中チェックを行うことで、より確実な利益予測と具体的な対策が可能になります。

損益計算書の分析は、単なる過去の実績の確認にとどまらず、経営効率や市場での競争力の向上を見据えた指標として活用することが重要です。

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