売上高は市場活動を測るうえで最も重要な指標といえる。この数字を見逃す経営者は存在しないだろう。しかし、果たしてその本質を正確に理解しているだろうか。その答えは残念ながら「否」だ。
なぜなら、売上高は月ごとの数字を追っても、その実態をつかむことはできないからだ。月ごとのデータは、さまざまな偶発的な要因によって大きく変動する。特に季節変動の影響を受ける業種では、繁忙期と閑散期の数字を単純に比較しても、実質的な意味を持たない。
こうしたさまざまな変動要因を排除し、売上高を正確に把握する方法が「売上年計」だ。この年計を用いなければ、売上高の実態を正しく捉えることは不可能といえる。
これまでに、私が訪問する前から売上年計を作成していた会社には一度も出会っていない。唯一、「Zチャート」を作っている会社があったが、それを作る意義を理解しているわけではなかった。「Zチャート」などは単なる遊びにすぎない。月別、累計、年計をひとつの表にまとめてZ字型に並べ、満足しているだけだ。だが、月別や累計を眺めても本質は見えない。余計な情報を付け加えることで、むしろ売上高の実態が分からなくなっている。必要なのは、ただ一つ、年計のみだ。
年計についての詳しい説明はすでに「経営戦略篇」で触れているため、ここではその定義だけにとどめておく。つまり、年計とは、2年間の売上を累計し、それを1カ月ずつ移動させて計算する「移動累計」のことだ。本篇では、年計を活用する際の具体的な対象と、その表の作成方法について述べることにする。
年計の対象として挙げられる主な項目は以下の通りである。
- 総売上年計
- 主要商品別売上年計
- 地域別売上年計
- 得意先別売上年計
これらを基に、売上の動向や傾向を正確に捉えることが可能となる。
その他の対象は応用として考え、自社の実情や必要性に応じて選択すればよい。たとえば、店舗別、営業所別、輸出と国内、民生用と工業用、官公需と民需、直営とフランチャイズなどが挙げられる。
また、菓子屋などで商品別の区分が難しい場合には、「仕入先別仕入年計」という方法を活用するのも一つの手段だ。重要なのは、自社の特性に適した形でデータを整理し、活用することである。
年計は、単なる数値の表としてだけでなく、グラフ化することで視覚的に把握しやすくなる。特に総売上年計については、独立したグラフにする必要はない。
それぞれの年計グラフに総売上のデータを併記することで、全体の動向と個別の状況を一目で比較できるようになる。この方法により、データの関連性や傾向がさらに明確になる。
商品別売上年計の例で説明すると、グラフは時系列データを表すため、線グラフを用いるのが適切だ。そして、このグラフは1年ごとに区切るのではなく、何年にもわたって連続して描き続ける形式を採用する。
商品別、あるいは商品群ごとにグラフを作成する際に注意すべき点は、一品ごとに個別のグラフを作ってはいけないということだ。
これでは、全体の関連性や全社的な動向を把握するのが難しくなる。必ず一つのグラフに対象となるすべての商品や商品群を記入する。
そして、この同じグラフに総売上も併記することで、各商品の動きが全体の売上にどのように影響を与えているのかを一目で確認できるようにする。
この場合、目盛の単位を調整する(たとえば、数値を10倍にするなど)ことが効果的だ。これにより、売上規模の異なる商品や商品群を一つのグラフ上で比較しやすくなる。この方法は、ランチェスターグラフの概念と同じで、データの可視性を高め、異なる要素間の関連性をより明確にするための手法である。こうした調整を加えることで、全体像を見失うことなく、細部の動きまで捉えることができるようになる。
もう一つ重要なのは、縦軸(売上金額)と横軸(時間)の目盛の比率に注意を払うことだ。よくある誤りは、縦軸の目盛を過度に細かく設定し、グラフの線が極端に急な角度で立ち上がるようにしてしまうことだ。これでは、データの動きが誤解を招く可能性がある。
一度グラフを描き上げたら、その見た目を確認し、必要に応じて縦軸の目盛単位を修正するのが適切だ。ただし、修正の際には、売上の動きを若干誇張する程度のバランスが望ましい。これにより、動きのメリハリが視覚的にわかりやすくなり、データの傾向や変化を読み取りやすくなる。
さらに重要な点として、このグラフは毎月更新していくものであるため、少なくとも2年分は記入できるよう、表の右端と上端に余裕を持たせておく必要がある。これにより、途中で記入スペースが不足する事態を防ぐことができる。
もし記入スペースが足りなくなった場合は、新しい用紙を貼り足して対応する。こうすることで、データの連続性を保ちつつ、長期的な売上の推移を一貫して記録し続けることが可能になる。グラフは継続して使い込むことを前提に設計するのが重要だ。
年計グラフの具体的な見方については「経営戦略篇」で既に述べているし、後の章でも触れる予定だが、細かい解説はひとまず置いておこう。何よりもまず、実際に一度作成して、そのグラフをじっくりと眺めてみてほしい。きっと、「なるほど」と納得することや、「こんな意外な動きがあったのか」といった発見があるに違いない。グラフが持つ力は、数字だけでは気づけない本質を明らかにするところにある。
年計は、売上に関するデータだけでなく、社内の他の重要な指標にも応用できる。たとえば、付加価値(粗利益)、人件費、経費、経常利益などが対象になる。これらも売上高と同様に年計グラフとして整理することが可能だ。
さらに重要なのは、これらの指標を個別に分けず、1つのグラフにまとめて記入することだ。同じグラフに売上高も併記することで、それぞれの指標が売上とどのような関係を持ち、どのように変動しているかを一目で把握できる。このような相互の関係を可視化することで、経営の本質に迫る洞察が得られる。
次に取り上げるのは「半年計」だ。年計が季節変動を平滑化して見えなくするのに対し、半年計は季節変動を明確に捉えるためのものである。そのため、季節変動が少ない会社では特に作成する必要はない。
しかし、季節変動が業績に影響を与える業種では、半年計を作成することで、繁忙期と閑散期の動きや特徴をより詳細に把握することができる。これにより、適切な戦略やリソース配分の指針を得られる可能性が高まる。
半年計の計算方法は、「6カ月間の売上累計を1カ月ずつ移動させる」というものだ。このデータをグラフ化すると、1年を周期とする波型のグラフが描かれる。波の頂点を含む直近の6カ月が繁忙期であり、波の底を含む直近の6カ月が閑散期となる。
閑散期は、事業活動が十分に行われない期間であり、収益が低下する一方で固定費は減少しない。このため、閑散期には赤字を計上するケースが多くなる。この波型のパターンを把握することで、事業のピークと谷のタイミングを明確にし、適切な経営判断を下すための重要なデータを得ることができる。
閑散期というのは、その事業特有の宿命的な現象であり、これを完全に埋めることは容易ではない。しかし、発想を大胆に切り替えることが重要だ。「増分計算」の章で述べた「季節変動をカバーする」という考え方を思い出してほしい。
たとえ低収益の事業であっても、その増分収益が増分費用を上回る限り、それに取り組む意義がある。閑散期を完全に克服するのではなく、部分的にでもカバーする戦略を採用することで、全体の経営効率を向上させることが可能になる。柔軟な視点を持ち、固定観念にとらわれない工夫が必要だ。
売上の動向を把握するための「売上年計」と「半年計」は、市場活動の状況を把握し、経営戦略を立てる上での重要な指標です。月々の売上数字では一時的な変動や偶発的な要因に影響されやすいため、年単位や半年単位での分析を行うことで、より正確なトレンドが見えてきます。以下に、それぞれの意義と作成方法について説明します。
売上年計
売上年計は、売上の年間累計を毎月更新する移動累計の形式で、季節変動や短期の波を平準化して売上トレンドを把握するための方法です。
作成方法
- 対象設定:全体の売上高だけでなく、主要商品別、地域別、得意先別など、自社の実情に応じて年計を作成します。必要に応じて、店舗別、営業所別、あるいは国内外別などの細分化も可能です。
- 移動累計:各月の売上高を12か月間累計し、毎月移動させます。これにより、前月からの継続的な売上傾向が明確になります。
- グラフ化:数値だけでなく、グラフ化して視覚的に把握できるようにします。総売上年計も各分析の参考線としてグラフに加えると、全体との関係も見やすくなります。
利点
年計を使えば、短期的な売上変動に惑わされず、長期的な成長や衰退の傾向が明確に把握できるため、冷静な経営判断が可能になります。また、年計グラフにより意外な売上動向や新たな気づきが得られることが多く、戦略の再検討にも役立ちます。
売上半年計
売上半年計は、季節変動の影響が大きい企業で、繁忙期と閑散期を明確にし、季節性のパターンを把握するための方法です。
作成方法
- 計算方法:6か月間の売上を累計し、これを毎月移動して更新します。
- グラフ化:これをグラフにすると、1年の中で売上がどのように上下するかが波型の形状で表れ、繁忙期と閑散期の周期が一目でわかります。
- 繁忙期と閑散期の分析:波の頂点は繁忙期、底は閑散期を示し、繁忙期には売上が増加し、閑散期には固定費の影響で赤字になる可能性があることも分かります。
利点
半年計によって、季節ごとの売上パターンを正確に把握し、繁忙期に向けた在庫調整や営業活動の強化、閑散期におけるコスト削減策や新事業の取り組みを計画することが可能です。
年計・半年計の応用
- 内部経費への適用:年計や半年計は売上高だけでなく、付加価値、人件費、経費、経常利益といった内部指標にも適用することで、これらと売上との関係性を確認しやすくなります。
- 管理会計における意思決定:このような売上年計や半年計の管理は、実績管理だけでなく利益計画にも役立ち、各月の売上を見通しながら具体的な対策を講じるための基礎データとなります。
このように、売上年計と半年計は、企業の成長や安定的な事業運営を支える重要なマーケティング分析手法です。特に売上年計で長期的な成長を、売上半年計で季節ごとの変動を把握し、適切な事業判断に役立てていくことが大切です。
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