規模を拡大しようという発想から生まれるもう一つの間違った行動が、「緻密な販売ネットワークを構築すること」だ。
I社は焼き菓子を製造する企業だ。数年前、販売促進を目的にあるコンサルタント会社に指導を依頼した。その会社から派遣されたコンサルタントは調査を行い、「東京都内の販売網は十分に整っているが、関東全域の販売網が弱い。この部分を優先的に強化すべきだ」という結論を提示した。
納得したI社は、そのコンサルタントの指導に従い、関東地方で販売網の強化作戦に乗り出した。その戦略の中心となったのが「じゅうたん爆撃方式」だった。つまり、隅々まで行き渡る「緻密な販売網」の構築を目指すものだった。
しかし、この作戦の結果は完全に「徒労に終わる無駄骨」だった。売上がわずかに増えたものの、すぐに伸び悩み、それどころか販売経費だけが急激に膨らむ事態となった。そもそも、小売店を緻密にフォローするなどということは、現実的には到底実行可能な話ではなかったのだ。
I社の社長はこう語った。「もう懲り懲りです。あんな馬鹿げた方法は他にありません。二度とやる気にはなりませんよ」。この問題は中小企業に限らず、大企業でも同様だ。
A社も同じ例だ。同社の販売網整備の手法は、少しでも自社商品を置いてもらえる可能性がある店舗に対し、手当たり次第にアプローチをかけるというものだった。
しかし、その方法に見合った成果はほとんど得られていない。市場占有率こそ何とか一位を維持しているものの、販売効率は極めて低迷していた。挙げ句の果てに、石油不況の影響を受けて倒産寸前に追い込まれ、ついには社長退陣の噂まで立つ始末だった。
A社の業績不振にはさまざまな要因があるものの、的を外れた販売戦略と過剰に細分化された販売網が、その主要な原因の一つであることは明白だ。
重要なのは、多くの店舗で少しずつ販売することではなく、選ばれた少数の店舗で効率よく大量に販売することだ。
「きめの細かい販売網」がもたらす問題について、いくつかの重要なポイントがあります。
1. 効率的な販売網の維持
- きめ細かい販売網を維持するには、多大な労力と費用がかかります。I社のケースで明らかになったように、小規模な店舗へも商品の取り扱いを広げる「ジュータン爆撃方式」は、販売経費が上がり、利益率が悪化しやすいというデメリットがあるのです。
2. 重点店舗での売上集中の効果
- 多数の小規模店舗に少しずつ販売するのではなく、重点店舗に絞って効率よく多く販売するほうが、経費の効率も上がりやすく、収益性も高まります。店舗数を広げるだけでは、売上が持続的に上がらないリスクがあり、経費倒れになる可能性もあります。
3. 販売効率の低下と経営への影響
- A社のように、過度に細かい販売網を整備し過ぎた結果、販売効率が低下し、最終的には倒産寸前の危機にまで追い込まれる例もあります。多くの販売先を持つことは一見良さそうに思えますが、管理とサポートの複雑さが増すため、経営リソースが無駄に分散されてしまいます。
4. 集中した販売戦略の重要性
- 成功するためには、販売力を特定の地域や重点的な顧客に集中し、集中的にシェアを確保することが重要です。重点を置いた店舗や地域で販売を強化するほうが、利益率を改善し、持続的な成長が期待できます。
5. 教訓:販売網の「質」と「密度」のバランス
- 効率的な販売網構築のためには、網の「質」と「密度」のバランスを取ることが大切です。むやみに販売網を広げるのではなく、確実に売上が見込める販売先に絞り込むことで、無駄な経費を抑え、収益性の高い経営が実現します。
きめの細かい販売網ではなく、重点的に売れる店舗にフォーカスすることが、健全で収益性の高い販売戦略に繋がります。
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