P社は事務機器を取り扱う商社であるが、主力商品である電子複写機の売上が思うように伸び悩んでいた。その要因として、買い替え需要が十分に喚起されていない状況が挙げられる。
電子複写機は一度販売すると、次の更新までに4〜5年の期間が空く。そのため、更新需要が見込める時期に顧客リストを基に訪問を行っていた。しかし、訪問した多くの顧客はすでに他社で購入を済ませているか、予約を入れているケースが大半だった。
販売まで頻繁に足を運ぶ一方で、契約が成立した途端に顔を見せなくなるようでは、顧客から見てあまりに打算的な印象を与えてしまう。そのような対応では、信頼を得るどころか、不満や不信感を抱かれる結果となりかねない。
さらに、3年も4年も連絡が途絶えたままで、更新時期が近づいたからといって突然売り込みに現れたところで、そんな会社から商品を買いたいと思う顧客は少ない。たとえ予約がまだ入っていなくても、「もう他社で予約済みだ」と言いたくなるのが人情というものだ。
このような失敗が起こるのは、「訪問の目的は売り込みにある」という誤った認識に基づいているからだ。そのため、一度商品を売った後は訪問をやめてしまう。このような考え方は、多くの企業に根深く染みついており、改善されないまま習慣として続いている。
セールスマンの人手不足がこの状況にさらに拍車をかけ、効率的な販売という名の神話がその行動を正当化してしまうため、事態はますます深刻になる。さらに、経験豊富なベテランのセールスマンほど、この考え方に固執する傾向が強く、改善が一層難しくなっている。
訪問の目的は明確に売り込みではない。それは「顧客の維持と確保」にある。訪問を怠れば、顧客は競合他社に奪われてしまう。訪問という行動は、まさに市場戦略の基本的な活動であり、その本質は単なる訪問ではなく、「巡回」、つまり顧客を定期的に見守るパトロールに近いものだ。
警官のパトロールが犯罪者を逮捕することではなく、犯罪を未然に防ぐことを目的としているのと同様に、訪問の目的も単なる売り込みではなく、顧客を確実に維持し続けることにある。
この正しい考え方をまず社長自身がしっかりと持つことが不可欠だ。そして、顧客に対する定期的な訪問を徹底するよう、厳しく指導する必要がある。というのも、セールスマンは自分の売上ノルマを達成することを優先し、効率的だと考える訪問行動を取りがちである。その結果、訪問の目的はほとんどの場合「売り込み」に偏ってしまうのだ。
だからこそ、訪問の目的について繰り返し説明し、訪問は売り込みではなく顧客確保のための活動であることを、セールスマンに十分理解させる必要がある。しかし、問題となるのは、歩合制を採用している場合だ。この制度では、セールスマンは自身の収益を最大化するため、最も効果的だと信じる行動を選ぶ傾向が強まる。その結果、定期訪問のような即効性のない活動は後回しにされてしまい、事実上実施が困難になる。
歩合制は、「売れる方法は自由に任せる」という会社の意思表示そのものだ。この制度は、実質的に会社としての統一された方針に基づく市場戦略の遂行を放棄していることを意味する。こうした状態では、一貫性のない個別の努力が積み重なるだけで、組織として競争に勝つことなど到底望めない。
したがって、歩合給制度は特殊な場合を除いて採用すべきではない。会社として、自らの市場戦略に基づき、自社の意思で計画的な訪問を実行することこそが、自社の市場と顧客を確保する鍵である。この考えをしっかりと胸に刻み、全社一丸となった取り組みが求められる。
セールスマンによる顧客への定期訪問、つまり巡回をさらに効果的なものにする鍵となるのが、社長自身による表敬訪問だ。この取り組みを実践した経営者たちは、口をそろえて「これほど効果があるとは予想していなかった」と驚きの声を上げている。社長の直接的な関与が、顧客との信頼関係を強化し、訪問活動全体の成果を大きく引き上げるのだ。
訪問を受けた顧客にとって、「社長がわざわざ来てくれた」という事実は非常に強い印象を残す。それは裏を返せば、多くの社長が顧客のもとを訪れる機会がいかに少ないかを物語っているからだ。この希少性が顧客に特別感を与え、感動を引き起こす要因となっているのである。
表敬訪問を行わず、セールスマン任せにしている状況は、販売促進や市場占有率の向上という重要なチャンスを社長自身が自ら手放していることを意味する。トップ自らが動くことで得られる信頼感や顧客との絆を活用しないのは、企業にとって大きな損失だといえる。
社長による表敬訪問は、表向きには「建前」の行動に見える。しかし、この建前だけでも顧客に与える影響は絶大だ。それに加え、実は「本音」の部分、つまり社長が直接顧客の声を聞き、現場の課題や要望を肌で感じ取るという本質的なメリットがある。この「本音」の側面こそが、企業戦略においてさらなる価値を生む鍵となる。
その最大のメリットは、顧客の要求やその変化を的確に把握できる点にある。社長が直接訪問することで、相手企業でも役職の高い人物が応対に出てくることが多い。こうした人物との会話では、たとえ雑談の中であっても、事業経営に関する高度な話題が自然と議論される。これにより、現場では得られない洞察や次の戦略に役立つ貴重な情報を得ることができるのだ。
次に挙げられるメリットは、自社のサービスの不足や顧客からのクレームを直接知る機会を得られることだ。これにより、現場の課題を正確に把握し、迅速な対応が可能になる。また、競合他社の動向に関する貴重な情報も得られる点も見逃せない。特に、他社の社長が顧客を訪問しているかどうかの情報は、競争状況を見極める上で非常に重要だ。これらの情報は、戦略の見直しや競争優位を確立するための重要な材料となる。
他社の社長が顧客を訪問しているケースは、実際にはほとんどないと考えられる。その場合、我が社は確実に競争上の優位性を持っていると言える。一方で、もしも他社の社長が訪問していることが確認された場合、それは強い警戒を要する状況だ。競合他社が同じように積極的に動いているならば、こちらもさらに戦略を強化しなければ、優位性を失う可能性がある。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」という孫子の教えは、現代の企業競争においても確固たる真理として通用している。しかし、皮肉なことに、この兵法の本質が最も軽視されがちなのが販売戦争の世界だと言える。競合他社の動向や自社の現状を正確に把握し、それに基づいて戦略を立てるという基本が、多くの企業で徹底されていない。この認識不足が、無駄な敗北や機会損失を招く原因となっている。
だからこそ、孫子の兵法を社長自身が得意先訪問という形で実践すれば、その効果は計り知れないものとなる。顧客の状況を直接把握し、競合の動向を探り、自社の戦略を調整することで、「百戦危うからず」の状態を築くことができる。トップが前線に立つことで、組織全体に大きな影響を与え、競争における優位性を確固たるものにするのだ。
ここにこそ、我が社の業績向上と発展を支える大きな秘密が隠されている。この秘密を活用し、成果を引き出す鍵は、他ならぬ社長自身の行動にある。トップ自らが積極的に動き、得意先を訪問して信頼を築き、情報を得ることで、企業全体の方向性を力強く牽引できる。その重要性を深く理解し、実践することが成功への近道となるのだ。
蛇口作戦を正しく理解していれば、「電話による受注伺い」がどれほど効果に乏しいかが容易に分かるはずだ。電話は販売促進の効果を持たないどころか、逆効果を招く可能性が高い。受注を電話で尋ねるだけでは、顧客との信頼関係が希薄になり、場合によっては不満を抱かれ、顧客を失う結果にさえなりかねない。直接訪問による対話こそが、顧客を確保し、信頼を深める唯一の方法だと認識すべきである。
電話だけで済ませて訪問をしないという手法を好むのは、特にベテランのセールスマンに多く見られる傾向だ。この行動パターンが、業績の上がらないベテランセールスマンに共通していないかを確認することは、改善策を講じる上で重要なポイントの一つである。訪問を怠り、電話に頼る姿勢が顧客離れや業績不振の原因となっている可能性を見逃してはならない。
電話による受注伺いが顧客離れを招く可能性があるならば、この特性を逆手に取る方法もある。それは、切り捨てたい得意先に対して意図的に電話による受注伺いへ切り替えるという戦略だ。この手法を使えば、訪問の手間を省きながら、自然な形で関係をフェードアウトさせることができる。リソースを重要な顧客や新規開拓に集中させるための有効な手段として活用できるだろう。
この方法を取れば、受注量は徐々に減少し、最終的には目的である取引の自然消滅を達成できる。さらに重要なのは、相手にこちらの切り捨て意図を悟られにくくする効果があることだ。仮に気づかれたとしても、直接的な拒絶や冷遇を避けているため、相手が抱く悪感情を最小限に抑えることができる。この点で、効率的かつ円滑な取引整理の手法として有効性が高いといえる。
訪問活動において「訪問は売込みではない」という認識は、顧客との長期的な関係を築くために極めて重要です。ここでの訪問は「顧客パトロール」のようなもので、目的は単に売上を上げることではなく、顧客との信頼関係を維持し、他社に顧客を奪われないようにすることです。以下にそのポイントをまとめます。
訪問の目的:顧客確保
- 訪問の役割
- 訪問は顧客との信頼関係を築くためのものであり、更新需要の時期まで安定した関係を保つことが目標です。
- ただの売込みのためではなく、顧客がいつでも頼れる存在であると示すことが重要です。
- 巡回(顧客パトロール)としての訪問
- 警官のパトロールが犯罪防止を目的とするように、訪問は顧客を確保するための基本的活動です。
- 定期的な巡回によって、他社からの誘いを防ぎ、顧客との関係を維持します。
社長の表敬訪問の重要性
- 表敬訪問の効果
- 社長自らが訪問することで、顧客は「わざわざ社長が来てくれた」と感じ、強い印象を受けます。これは、他社があまり訪問しないからこそ得られる効果です。
- 顧客情報の把握
- 社長が訪問することで、顧客のニーズやクレーム、競合の動向など貴重な情報が得られます。
- 他社の社長が訪問しているかどうかも確認でき、競合への対策も講じやすくなります。
定期訪問と歩合給の関係
- 訪問の統一方針
- 会社としての訪問方針を統一し、歩合給によって個人の成績だけに頼るのではなく、会社全体での顧客確保を促進します。
- 歩合給の弊害
- 歩合制はセールスマンが売込み訪問に集中しがちで、定期訪問を行いにくくするため、顧客との関係維持が難しくなります。
電話受注伺いの活用
- 電話の限界
- 電話による受注伺いは顧客関係を築くためには不十分であり、販売促進にはなりません。ベテランのセールスマンが訪問を省略して電話に頼りがちですが、これは顧客喪失につながります。
- 電話受注伺いの戦略的利用
- もし取引を終了したい顧客がいる場合、電話での受注伺いに切り替えることで、関係を自然に解消する方法として活用できます。
訪問の本質を理解し、定期的に顧客と接触することが長期的な顧客確保と販売成功の鍵です。この考え方を徹底し、顧客を大切にする姿勢が企業の成長と安定した売上に結びつきます。
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