MENU

消費者直撃作戦

M社は木製家具を扱う小売店だ。石油不況の影響で売上が大きく落ち込み、社長は困り果てている。店舗を見回してみると、まさに何でも屋のような様相を呈していた。地方都市でよく見かける典型的なスタイルだ。

マガジンラックやスモーキングスタンド、スリッパ立てといった小物はもちろん、額入りの絵や額縁、電気スタンド、本立て、置物、漆器類に至るまで何でも揃っている。さらには碁盤や将棋盤まで取り扱っているという幅広さだ。

このままでは埒が明かないと感じた私は、こう伝えた。「何でも少しずつ置いているだけでは、何も置いていないのと変わらない。あなたの店で扱っている商品は『買廻品』、つまりお客様が見比べて選ぶ性質のものだ。見比べる選択肢が乏しければ、お客様は買う気にならない。だからこそ、商品の大規模な整理が必要だ。一つ一つの商品を充実させ、しっかりと揃えることに力を注ぐべきだ。」

そこで私は提案した。「まずは商品の『売上高のABC分析』を実施することだ。売上が極端に少ない商品から順に整理していく。一方で、売上が多い商品については、さらに充実させるべきだ。それによって商品構成を強化し、売上の底上げを図れるはずだ」と伝えた。

M社長に「売上高のABC分析は行っているのか」と尋ねると、「すでにやってある」との答えが返ってきた。しかし、具体的にどう活用しているのかを尋ねると、「忙しくて何もしていない」という返事だった。結局、分析をしただけで放置している状態だったのだ。

表を見せてもらうと、婚礼セットと鏡台の売上が全体の50%を占めていることが分かった。そこで私はこう提案した。「この二つを最重点商品と位置づけ、販売促進活動を積極的に展開することが必要だ。ただ店でお客様を待っているだけではだめだ。こちらから積極的に消費者のもとへアプローチしていかなければならない。その第一歩として、まず結婚に関する情報を収集することが重要だ」と強調した。

結婚に関する情報は「情報屋」がいるとのことだったので、それを活用するのは当然として、自らも積極的に情報を収集する必要があると助言した。具体的には、結婚式場、貸衣装屋、美容院、さらにはミシンのセールスマンなど、関連するさまざまな業種から広く情報を集めるよう指示した。中でも意外だったのは、美容院が非常に有力な情報源であることが判明した点だ。期待以上の成果を挙げる可能性がある場所だと分かった。

集めた結婚の情報をもとに、社長自らが先頭に立ち、社員を鼓舞しながら対象の家庭を訪問していった。そして、訪問の際にはお客様を車に乗せて店舗や倉庫に案内し、実際に商品を見てもらうようにした。この作戦は見事に成功し、情報を得た家庭のうち約1割のお客様が実際に購入してくれるという成果を上げた。

婚礼セットの売上が増加するにつれ、店舗に陳列しているだけで特に販売促進をしていなかった他の商品も次第に売上を伸ばし始めた。この結果から、お客様は「一度購入した店で、他の商品も買う」という傾向があることが明確になった。この作戦を通じて、信頼関係を構築することが他の商品販売にもつながるという事実が浮き彫りになったのである。

もちろん、こうした傾向は以前から漠然と感じてはいたが、今回の結果で確信に変わった。これにより、婚礼セットと鏡台に販売促進活動を集中させるだけで十分だという結論に至ったのだ。その結果、売上は急増し、石油不況で苦境に立たされていた同業他店を横目に、M社は開業以来最大の実績を叩き出すこととなった。最終的に、M社長は「利益が出すぎて困るほどだ」と嬉しい悲鳴を上げる状況になったのである。

「売上高の少ない商品を整理すべきではないでしょうか」と提案すると、M社長は「忙しすぎて、そこまで手が回らない。もう少し後回しにさせてほしい」といった具合だった。結局、目の前の忙しさに追われ、根本的な問題に手を付けられない状態が続いていた。

N社は地方都市に拠点を置く石油販売業者で、複数のガソリンスタンドを運営しつつ、三者(サブディーラー)販売も行っている。三者販売の成績は悪くないが、直営店の業績が振るわないのが現状だという。特に、社長が頭を抱えているのは、近隣の小さな町にある店舗の状況だった。そこで、その店舗を実際に見せてもらうことにした。

実際に店舗を確認してみると、売上が振るわず、店舗運営にかかる費用さえ賄えない状況だった。客数を調査してみると、驚くほど少ないことが判明した。店舗の半径500メートルを第一商圏として考えれば、本来はもっと多くの客が訪れているはずだが、それが実現していない原因を突き止める必要があった。

「お客様のところを訪問しているのか」と尋ねると、「やっていない」との返答が返ってきた。理由を聞くと、石油業界には協定があり、戸別訪問や中元・歳暮の贈答行為を行わない取り決めになっているとのことだ。案の定、営業活動が消極的であることが、この結果に繋がっているようだった。

私ははっきりとこう指摘した。「協定を理由にするのは怠慢だ。半径500メートル、いや、隣接店との中間地点までは明らかにこちらの商圏だ。他店の商圏を荒らすのは避けるべきだが、自分たちの商圏を守り確保する努力を怠ってはならない。現実には、あなたの店は他店に商圏を侵害されているのだ。今すぐ商圏内での戸別訪問を実施すべきだ」と勧告した。

その後、戸別訪問を始めると、お客様が一軒また一軒と増えていった。これらのお客様は、ガソリンやオイルだけでなく、冬場には暖房用燃料も購入してくれるようになった。結果として、この店舗は見事に黒字へと転換を果たした。

P社は事務用品を取り扱う商社である。この会社では、販売した複写機の印画紙や薬品を定期的に巡回して補充する仕組みを採用している。この取り組みによって、販売の促進と顧客の確保を同時に実現することが可能となっている。効率的かつ効果的な営業スタイルだ。

R社も事務用品を取り扱う商社だが、課題はお客様への消耗品の補充だった。日々、お得意先から大量の電話注文が入り、その対応だけで膨大な労力がかかっていた。特に大手の得意先では、一日に何度も電話注文があり、納品に出かけて戻るとすぐに次の注文が入るという状態。まるで絶え間なく続くピストン運動のようで、業務が圧迫されていた。

セールスマンたちは配送業務に追われ、本来の営業活動にはほとんど手が回らない状況だった。当然ながら、このままでは業績の向上など望むべくもない。そこで私は、大手の得意先に対して「コック・システム」を提案した。直訳すれば「蛇口方式」であり、日本風に言えば「富山の置き薬方式」に似た仕組みだ。

この方法では、必要な消耗品をあらかじめ一定量納品し、在庫が減った際に補充する形を取る。これにより、頻繁な注文や配送の手間を省き、セールスマンが営業活動に専念できる環境を整えることが可能となる。

お得意先に専用の事務用消耗品棚を設置し、その中に必要な物品をあらかじめ補充しておく仕組みだ。お客様は、必要なときにその棚から自由に取り出して使えばよい。そして、月に一度立会いのもとで棚卸を行い、消費された分だけを補充し、代金を請求する。

この方式は、お客様にとって「在庫を持たなくて済む」という大きなメリットがあるだけでなく、必要なものが常に揃っているという安心感を提供する。効率的かつ便利な仕組みであり、双方にとって利便性の高いサービスだ。

大手の得意先にお願いし、この「コック・システム」を導入させてもらった。特に最大手の得意先では、一つの工場内に20か所もの消耗品置き場が設置されるほど、全面的な採用が進んだ。この方式は大成功を収めた。

従来の頻繁な電話注文と比べれば、品切れ補充の注文がたまに入る程度で、その対応も取るに足らない負担に過ぎなかった。結果として、セールスマンは配送の負担から解放され、本来の営業活動に専念できるようになり、効率も大幅に改善された。

セールスマンの時間が大幅に確保され、これを他の業務や新規開拓に振り向けられるようになったのは言うまでもない。しかし、それだけではなかった。この仕組みにより、お得意先との信頼関係がさらに強化され、結果として他社が食い込んでくる余地がほとんどなくなったのだ。顧客の囲い込みが効果的に進み、安定した取引基盤を築くことができた。

この「消費者直撃作戦」は、消費者や顧客のもとに直接働きかけることで、販売促進を効率的に行い、業績を改善する戦略の一環として、以下のようなポイントが際立っています。

1. 消費者直撃による顧客の購買意欲喚起

  • 情報の収集とターゲット化: M社は結婚の情報を集めて、婚礼セットなどの需要が高い消費者に的を絞り、訪問や店への案内を行うことで、効率的に売上を増加させました。これにより、買い手の購買意欲が高い層を的確にターゲットし、効果的に販売促進を実現しました。
  • 消費者の立場を理解した提案: 直接消費者の元に赴き、生活シーンに即した提案を行うことで、顧客の信頼を得た点も効果的でした。訪問による接触は消費者に安心感を与え、他の商品もその店で購入してもらうきっかけにもなっています。

2. 自社商圏の積極的な確保

  • 商圏内での訪問活動: N社の石油販売店では、商圏内の戸別訪問を徹底し、顧客に直接アプローチしました。顧客との信頼関係が強化されることで、ガソリンや暖房用燃料の需要を増やし、赤字店を黒字に転換させました。
  • 協定や既成概念にとらわれない: N社のように「協定を盾にとった怠慢」として訪問活動を怠ってしまうことを避け、商圏の確保に積極的に取り組むことで顧客基盤の強化に成功しました。

3. 利便性の追求による顧客確保

  • コック・システムの導入: R社の事務用品のように、顧客の消耗品を即座に補充できる仕組みを構築することで、顧客の利便性を大きく向上させ、競合他社に対する優位性を確保しました。この方法により、顧客は在庫管理の負担がなくなり、R社も定期的な巡回で効率的に販売促進が行えるようになりました。

4. 顧客の利益を優先した取り組み

  • 顧客が望む商品を中心に販売活動を展開: M社の婚礼セットの販売促進や、R社のコック・システムは、消費者や取引先の利便性や利益を重視しています。これにより、顧客のリピート購入や信頼が強化されました。

結論

この消費者直撃作戦は、従来の店舗にとどまらず、消費者のもとへ積極的に出向くことで販売促進を行う実践的なアプローチです。商圏内での積極的な活動や、コック・システムによる顧客の負担軽減が、大きな効果をもたらしました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次