F社は梱包資材を取り扱う販売会社だ。数百に及ぶ商品を在庫管理システムで管理していたものの、帳簿上の残高と実際の在庫に大きな差異が生じることが頻繁にあった。そのため、システムのデータをどこまで信頼してよいのか判断がつかない状況に陥っていた。
とはいえ、手作業に戻り帳簿管理に切り替えるという選択肢も現実的ではなかった。そもそも、帳簿ではうまく管理できなかったことと、省力化を図る目的で在庫管理システムを導入した経緯がある。しかし、結果として省力化も合理化も実現できず、状況は改善しないままだった。
F社長の悩みを解決する手段として、在庫管理システムを廃止し、「追番式商品台帳」の導入を提案した。しかし、F社長はその実行に踏み切る決断を下すことができず、迷いが続いていた。
しかし、その後しばらくして、運用中の在庫管理機のうち一台が故障した。修理には時間も費用もかかる状況だったため、F社長は私が提案していた「追番式商品台帳」を試験的に導入することを決断した。
結果は予想以上に良好だった。商品の動きが一目瞭然になり、それまでどうしてもうまく機能しなかった「計画発注」が可能となった。その結果、在庫は削減される一方で、品切れの発生頻度も大幅に減少するという理想的な成果が得られた。さらに、人員を増やす必要も一切なく、効率的な運用が実現したのだ。F社長は、「これほど素晴らしい方法はない。在庫管理機を使い続けていたことがむしろ無駄だった」と感嘆しながら語ってくれた。
どの企業においても、商品台帳の管理は頭を悩ませる課題だ。その解決策として導入されたはずの在庫管理機であっても、結局のところ問題は解消されない。そもそも、在庫管理機が抱える構造的な限界を考えれば、悩みがなくなるはずがないのだ。
商品台帳は、単に現在の在庫数量を把握するだけのツールではない。その本質的な役割は、在庫の動き、つまり売れ行きの状況を明確に把握することにある。これができなければ、計画的な発注はおろか、正確な販売予測を立てることも不可能となり、経営全体に悪影響を及ぼすことになる。
従来の商品台帳や在庫台帳は、「入庫」「出庫」「在庫」を記録する形式、いわゆる「残高方式」を採用している。この方式は在庫の残高だけを捉える仕組みであるため、商品の動きや売れ行き状況が見えにくくなる。結果として、計画的な運用や予測が困難になり、管理の本来の目的を果たせなくなるのだ。この根本的な欠陥が、残高方式がうまく機能しない理由である。
販売予測や計画発注を行うには、「過去にどれだけ売れたか」という具体的な実績データを把握することが不可欠だ。それに加えて、その実績が上昇傾向にあるのか、あるいは下降傾向にあるのかを明確に捉える必要がある。これらの情報がなければ、的確な意思決定や将来の需要予測は不可能となり、在庫管理や販売計画に大きな影響を及ぼす。
そのため、毎月前月の販売実績を集計する必要が生じる。しかし、これは非常に手間のかかる作業だ。それでも、正確なデータが計画発注や販売予測に不可欠である以上、この作業を避けることはできない。結局、その負担を軽減しようとして、在庫管理機の導入に踏み切る企業が多いのだ。
在庫管理機も結局は「残高管理」の延長に過ぎない。それどころか、帳簿管理より厄介なのは、データ入力時の「打ち込みミス」が見つからない点だ。高額な機器を購入し、一日中電源を入れっぱなしにするというコストをかけても、根本的な問題は解決されない。このような非効率で無意味な状況は、まさに滑稽としか言いようがない。その点、「追番式商品台帳」は、このような悩みを見事に解消し、合理的で効果的な管理を実現する優れた方法なのである。
「追番式」とは、いわゆる「累計方式」のことを指す。具体的には、入庫があるたびにその数量を累計し、出庫についても同様に累計を行う。そして、
入庫累計 – 出庫累計 = 在庫
という形で在庫数を算出する仕組みだ。この方式を採用したものが「第2表」の形式である。累計は特定の期間を通じて行い、期首でリセットして新たに切り替えることが一般的だが、切り替えを行わずに商品の取り扱い開始時点から一貫して累計を続ける運用も可能である。この柔軟性が、「追番式」の大きな利点と言える。
この方式の本質は、「通算でいくらか」という考え方にある。通算で累計する仕組みだからこそ、商品の動きを正確に把握できるのだ。例えば、期首から1ヶ月目、2ヶ月目といった具合に通算値が表示されるため、2ヶ月目の累計から1ヶ月目の累計を引くことで、その期間中の動きが明確になる。
この動きは、入庫であれば入庫量、出庫であれば出庫量として把握できる。さらに、出庫が売上に該当する場合は、その期間の売上高も正確に捉えることが可能となる。こうして累計方式は、単なる在庫管理だけでなく、販売動向の分析や予測にも大いに役立つ。
月ごとの動きを把握するのに必要なのは、たった一度の引き算だけだ。また、3カ月間の通算値を3で割れば、その期間の月平均を簡単に求めることができる。こうしたシンプルで効率的な計算が可能なのも、この方式の大きな魅力であり、実務において非常に便利な仕組みといえる。
時折、実地棚卸の結果と在庫データを照合し、不一致があれば入庫累計を修正するだけで済む。このシンプルな対応で、データの精度が保たれるのだ。一度この方式を導入すれば、その便利さと効率性から手放せなくなる。従来の残高管理では、管理とは名ばかりで本質的な管理には至らないことが、はっきりと理解できるようになる。
「追番式商品台帳」の導入は、在庫の動きを的確に把握し、計画的な発注や販売予測を可能にするための効果的な手法です。この方法により、通常の「残高管理方式」の限界を克服し、以下のような利点を提供します。
1. 累計方式による在庫把握
- 入庫と出庫をその都度累計して記録するため、商品の全期間での動きを正確に追跡できます。
- 各月ごとに累計数値を引き算するだけで、月次の入庫や出庫の状況を簡単に把握でき、手間のかかる集計作業が不要です。
2. 販売予測と計画発注の容易化
- 月々の在庫の動きや売上数を簡単に算出できるため、過去の売上実績や在庫の傾向を踏まえた計画発注が可能です。
- さらに、期間ごとの平均を算出することで、より安定した販売予測や在庫の確保が可能になります。
3. 実地棚卸による精度の向上
- 定期的に棚卸と照合し、差異が生じた場合は累計数値を修正することで、より正確な在庫データを保つことができます。
4. 使いやすさと経済性
- 在庫管理機に依存せず、簡単な計算のみで在庫の動きを追えるため、人的リソースやコストの面でも省力化が図れます。
この「追番式商品台帳」を導入することで、在庫管理がよりシンプルかつ効果的となり、在庫数と実際の差異がなくなることで、在庫切れの減少や在庫過多の回避にも繋がります。
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