蛇口作戦の基本と定期巡回の重要性
蛇口作戦にはさまざまな種類が存在することは既に触れた通りだ。社長には、それらの作戦をどのように選び、どのように組み合わせていくのかを判断する必要があるのは明らかだ。
しかし、蛇口作戦の中核となるのは「定期巡回(パトロール)」だ。ここでは、このパトロールに焦点を絞って考えていくことにする。
蛇口作戦には、「地域パトロール」と「拠点パトロール」という二つの形態が考えられる。本来であれば、戦略地域に地域パトロールを集中させるのが理想的な形だ。しかし現実的には、戦略地域以外にも既に進出しているエリアが存在する場合、それらを完全に放置するわけにはいかない。
このような地域に対しては、重要な拠点を選び出し、その拠点を対象に拠点パトロールを実施する形をとる。もう一つのケースとしては、新たに進出を予定している地域において拠点を選定し、そこに対して「十分なパトロール」を実施することだ。ただし、十分なパトロールを行うためには、拠点の数を限定する必要がある。
これは、パトロール地域外に存在する有力な得意先を早期に確保し、将来的にその地域でパトロール作戦を展開する際の拠点とするための「準備行動」である。この方法を取ることで、その拠点を通じて収益を上げることも同時に可能になるのは明白だ。
得意先の選定と訪問基準の設定
蛇口作戦を推進する上で、最初に取り組むべき課題は、作戦の対象となる小売店やエンドユーザーの選定だ。その選定に先立ち、可能な限り時間を割いて行わなければならないのが、社長自身による蛇口訪問である。
B社長が初めて行った蛇口訪問の感想として、「従来の販売実績だけに基づいて判断していた場合、優れた蛇口を見逃すリスクが予想以上に大きいことを痛感した」と述べている。中でも、思わぬところに「シンデレラ」が存在することに驚かされたようだ。
そのため、B社長は「方針を決定する前に、三百社余りの得意先をすべて自分の目で確かめるつもりだ」と語ったという。実際、セールスというものは、社長が訪問してほしいと考える得意先にはなかなか足を運ばず、逆に重点を置く必要がないと見なされる得意先を好んで訪問しがちだ。
さらに、遠隔地やアクセスが悪い場所、あるいは対応が厄介な得意先については、たとえ上得意であってもセールスは訪問を避けがちだ。だからこそ、社長自身が現地を訪れ、自分の目で確認することが不可欠なのである。
社長が得意先訪問で得た情報をもとに、社内の資料――「売上高ABC分析表」や「得意先別売上高年計表」など――を活用し、さらに営業担当者の意見を聞きながら得意先の格付けを行う。この格付けは、「別格(AAA)」「最重点(AA)」「重点(A)」「安定(B)」「成行(C)」といったように、段階的に分類する方式を取る。
この際、遠隔地や不便な場所、あるいは対応が難しい得意先の中からも、有望な得意先を見逃さないことが重要だ。要するに、そこで「シンデレラ」を発掘することが鍵となる。
得意先の格付けに基づいて、「得意先訪問基準表」(第3表)を作成するのが効果的だ。この表では、社長、専務、営業部長、営業課長、そしてセールスマンが、それぞれ1カ月に何回その得意先を訪問すべきかの基準を明確に設定する。これにより、訪問頻度を体系的に管理し、効果的な営業活動を実現できる。
天候や注文の有無にかかわらず、定期巡回は一貫して実施されるべきものである。この訪問基準は固定的なものではなく、三カ月ごとに状況を見直し、必要に応じて修正していくことが重要だ。これにより、巡回の効果を最大化し、得意先への対応を常に最適なものに保つことができる。
セールスマンの巡回頻度は業種や得意先の重要度によって異なるが、一般的な目安としては次のように考えられる。
- 別格(AAA): 常駐または毎日訪問
- 最重点(AA): 週2回
- 重点(A): 週1回
- 安定(B): 月1~2回
一方、産業機械のような商材の場合は頻度がやや低くなることが一般的だ。
- 最重点(AA): 月2~4回
- 重点(A): 月1~2回
- 安定(B): 月1回
このように調整することで、得意先のニーズや特性に応じた効果的な巡回が可能になる。
これらの基準はあくまでも一般的な目安であり、実際には状況に応じて柔軟に調整する必要がある。例えば、最重点や重点の得意先については、同業他社の少なくとも3倍以上の攻撃的な巡回を展開することが求められる。また、季節商品を扱う場合には、繁忙期と閑散期で巡回の頻度やアプローチを変えるべきだ。このように、得意先の特性や市場環境に即した対応を取ることで、巡回の効果をさらに高めることができる。
課長以上の役職者による訪問回数は、役職が上がるほど対象となる得意先の範囲が広がるため、一社あたりの訪問頻度は自然と減少していく。社長の場合を例に挙げれば、最重点の得意先には月1回、重点には3カ月または6カ月に1回、安定の得意先については必要に応じて随時訪問する形になるだろう。
もちろん、これらの基準は得意先の数や規模によって変動する。得意先が多ければ訪問回数が相対的に減少し、逆に少なければ基準を超えて訪問回数を増やすことも可能だ。柔軟に対応することが求められる。
訪問基準表を作成した後、社長以下、各役職者ごとに1カ月間の訪問回数を具体的に計算する。この際、全員が基準を満たして訪問を完了できない場合は、訪問すべき得意先の数を減らす調整を行う。ただし、訪問回数を減らす際には注意が必要で、特にセールスマンの過去の1カ月の訪問延べ回数を基準としてはならない。
過去の実績は、得意先の選定や巡回の戦略が不十分だった可能性を含んでいるため、新たに設定した基準に基づいて最適化を図る必要がある。訪問回数の調整は、戦略的優先順位を踏まえた上で慎重に進めるべきだ。
セールスマンによる訪問延べ回数には大きなばらつきがあり、実際に社長が巡回してみると、セールスマンの2倍程度の効率で訪問できることが容易に分かるはずだ。これを踏まえると、訪問基準を設定する際には、社長が巡回した場合の回数よりも2~3割低いところを基準値とするのが適切だと考えている。
このアプローチは、社長の訪問効率を基準に現実的な目標を設定することで、セールスマンが無理なく達成可能な範囲を確保しながら、全体の効率を引き上げることを目的としている。
訪問基準表をもとに、毎月の訪問計画書を作成する。最重点と重点の得意先は、曜日を固定して巡回することで、得意先に強い印象を与えられる。
得意先への滞在時間は長いほど良いという考えもあるが、特別な用事がない限り、長時間滞在するのは相手にとって迷惑になることが多い。
相手には自分の仕事があるため、長居は迷惑になる。T薬局の主人も、「某社のセールスマンがいつまでも粘るので、閉店して追い返すために少額の注文をするが、本当に不愉快だ」と語っていた。
それを「粘れば注文が取れる」と勘違いしているのだから手に負えない。このようなセールスマンでは、お客様の信頼を得ることは絶対にできない。
得意先での滞在時間は、十分から十五分程度で十分だ。大会社で複数の担当者に挨拶が必要な場合でも、二十分ほどを目安にすべきだ。パトロールにおいては、どのような状況でも基準通りに巡回を実行することが最も重要である。
しかし、ベテランはこのパトロールを極端に嫌う傾向がある。彼らにこれを実行させようとすると強い抵抗が生じることが多い。また、いい加減な巡回をしたり、巡回したふりをして実際には回っていないケースも少なくない。
極端な場合、「会社を辞めさせてほしい」と言い出すこともある。このような場合、惜しいように感じても引き留めるべきではない。こうした態度の人間は、セールスマンとして失格と言わざるを得ないからだ。
蛇口作戦では、根気強く、陰日なたなく巡回を続けるセールスマンが不可欠だ。このようなセールスマンこそが、蛇口作戦を成功へと導く鍵となる。
蛇口作戦を展開する
蛇口作戦は市場戦略の一環として非常に重要な役割を果たします。この戦略の主軸は、定期的な巡回(パトロール)にあります。以下では、蛇口作戦の具体的な展開方法について詳しく解説します。
1. 蛇口作戦の基本
蛇口作戦の根本は、ターゲットとなる小売店やエンドユーザーを選定し、戦略的に訪問を重ねていくことです。この訪問活動を効果的に行うためには、以下のような巡回作戦を立てることが重要です。
- 地域パトロール: 戦略地域に集中し、細かくターゲットを絞りながらパトロールを行います。地域ごとの市場の状況を把握しながら、特定のターゲットに向けてリソースを集中します。
- 拠点パトロール: 現在進出している地域でも、重要な拠点は定期的に訪問します。新たに進出する地域に向けては、十分なパトロールを行い、その地域での市場占有率を確保する準備をします。
2. 社長自らの訪問
効果的な蛇口作戦を実行するためには、まず社長自らが得意先を訪問することが求められます。これにより、セールス活動が本当にどのように行われているのか、また見落とされがちな重要な得意先を発見することができます。
- シンデレラ得意先の発見: 過去の販売実績に基づくだけでは、重要な得意先を見逃す可能性があります。社長自らが訪問することで、意外な場所に「シンデレラ」得意先を発見できることがあります。これが蛇口作戦の成功を左右します。
- 情報収集と格付け: 訪問時に得られる情報を基に、得意先の格付けを行います。「別格」「最重点」「重点」「安定」などに分け、社内資料と営業担当者の意見も踏まえて、訪問優先順位を決定します。
3. 訪問基準表の作成
訪問基準表は、社長や営業チームが毎月の訪問計画を立てる際に重要な役割を果たします。この基準表は、以下のような要素で構成されます。
- 訪問回数の設定: 得意先の格付けに基づき、訪問回数を設定します。例えば、最重点得意先は週に数回、安定得意先は月に1〜2回程度など、目標占有率を確保するために必要な回数を定めます。
- 定期的な見直し: 訪問基準は3ヶ月ごとに見直し、状況に応じて調整します。市場の変動や顧客のニーズに対応するために、柔軟に更新することが重要です。
- 滞在時間の管理: 訪問時の滞在時間は重要ですが、長時間にわたる訪問は逆効果になる場合があります。得意先の信頼を得るためには、過度なねばりを避け、相手の仕事を尊重した適切な時間内で訪問を終えることが大切です。
4. セールスマンの巡回
社長や上層部が定期的に巡回を行うだけでなく、営業担当者にも巡回基準を設定します。重要なのは、セールスマンが計画通りに訪問を実行し、定期巡回をしっかりと行うことです。
- 巡回の品質と頻度: 訪問回数が多いだけではなく、セールスマンがどれだけ「真摯に」「継続的に」得意先をサポートしているかが重要です。特に、訪問回数やアプローチの質を適切に管理することが成功の鍵となります。
- パトロールの重要性: ベテランのセールスマンは、時としてパトロールに対して抵抗を示すことがありますが、そのような場合でも、パトロールは必ず基準通りに行うべきです。訪問しない理由が自己都合であれば、即座に改善が必要です。
5. 結果と改善
蛇口作戦を実行した結果が期待通りでない場合、その地域を再評価し、必要であれば撤退する決断も必要です。市場占有率が伸びない場合は、少数の拠点を残して再進出を計画します。
- 成功事例の分析: 効果的な蛇口作戦が進展した場合、その地域の成功要因を分析し、他の地域にも応用します。逆に、成果が上がらない場合はその原因を分析し、次回の作戦に生かします。
結論
蛇口作戦は、細かい巡回とターゲット選定を中心に進めるべき重要な戦略です。社長自らの訪問を通じて得た情報を基に、定期的な訪問計画を立て、セールスマンがしっかりと巡回することで、市場占有率を高めることができます。また、地域ごとのパフォーマンスを見直し、成果が上がらない場合は柔軟に対応することが成功の秘訣です。
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