MENU

方針書こそ経営計画の魂

経営計画において「方針書」は、社長の経営理念や会社の未来像を具体的に明示する重要な役割を持ち、「魂」として計画の中心に位置付けられるべきものだ。

方針書は単なる目標設定やスローガンにとどまらず、要件を満たす必要がある。

目次

経営計画を通じた意識改革の第一歩

経営目標実現するために用いたのが、経営計画という道具であった。初めての経営計画を作成する際には、文字通り、一つ一つ手取り足取り指導し、ときには「イロハのイ」から教える必要があった。

それほどまでに、経営計画の基礎や重要性を理解するための土台づくりが求められる場面もあったのである。

こうして計画が進んでいく中で、「僕はいままで何をしていたのだろうか」と思うことがある。それは、自身が社長として本来すべき仕事を何もしてこなかった、という自覚を示す思いだ。

経営計画を立てる過程で、社長自身の意識や姿勢が大きく変化し、経営に対する考え方が根本から見直されたのである。

経営計画に込めるべき「魂」とは

経営計画は単に目標を立てるだけでは意味がない。目標は「仏」に過ぎず、それ自体に「魂」が宿っていなければならないのだ。

過去への執着が未来を阻む理由仏を作るだけで魂を込めなければ、それは生命を持たない無力な存在に終わってしまう。

経営計画に魂を入れることで初めて、実行力と意義が生まれるのである。

「魂」を具体化する経営計画の方針書の役割

その「魂」とは、「どのようにして、その目標を達成するか」という具体的な方法と意思である。

この方法を、社長自身が自らの意思で決定することが求められる。

そして、その決定を明文化することが、経営計画を実効性あるものとする鍵となる。これこそ、社長が担うべき最も基本的で重要な役割である。

方針書の三大要件:未来志向・社長の姿勢・具体性

では、その方針書とは具体的にどのようなものか。方針書には次の三つの要件が求められる。

  1. 我社の将来に関するものであること
    方針書は会社の未来像や目指すべき方向性を示すものでなければならない。将来の展望や目標が明確に描かれていることが重要である。
  2. 社長の姿勢を示すものであること
    方針書は社長自身の経営理念や価値観を反映し、その姿勢を明確に伝えるものでなければならない。社長の意思が全社員に伝わる内容であることが必要である。
  3. 具体的であること(箇条書が望ましい)
    方針は曖昧な表現を避け、具体的な内容を箇条書きで整理して示すことが効果的である。具体性がなければ行動に移す際の指針としての役割を果たせない。

これらの要件を満たした方針書が、経営計画の中核としての役割を果たす。

我社の将来に関すること

まず第一の「我社の将来に関すること」について考えると、奇妙な現象として、多くの経営計画書の冒頭に記されているのは、「我社の過去」に関する内容であることが少なくない。これは一体どういうことなのだろうか。

過去の実績や成績を振り返ることは重要ではあるが、それが経営計画の出発点となるのは本末転倒である。経営計画は将来を見据えたものでなければならず、過去の出来事を計画の中心に据えるのは、経営の方向性を見失う原因となる。

「過去の反省」から一歩踏み出し、「未来への展望」を最初に掲げることこそ、経営計画の本質である。

ある会社では、百頁に及ぶ経営計画書の半分が「我社の過去の業績とその反省」で占められていた。また別の会社では、計画部分がたった一頁で、残りすべてが過去の記録だったという例もある。これでは経営計画書ではなく、単なる「営業報告書」といえる。

計画とは、「将来のことを決める」行為を指す。したがって、計画書には将来に関する内容だけを記載すればよく、過去について触れる必要は一切ない。

それにもかかわらず、計画書にまず過去のことを記載するのは、企業が「後ろ向き経営」に陥っているからだ。過去の数字、過去の実績、過去の原価、過去の失敗と、ひたすら過去を見つめている。しかし、いくら過去を振り返り、分析したところで、それを変えることはできない。「死んだ子の年を数える」ような行為はやめるべきであり、それは完全に時間のムダである。経営は未来に向けて進むものでなければならない。

これに対する反論は決まっており、「過去を反省し研究することは必要である。そこから我社の欠陥を見つけ出し、どう改善すればよいかを考えられる」というものである。一見もっともな意見である。

ところが、このような人に「では、将来どうしたらいいか」と問うと、過去の失敗の原因や詳細な説明は非常に的確に行う一方で、将来の展望や「我社はこうすべきだ」という話になると、途端に精彩を欠いてしまう。これが非常に興味深い点である。

口ではいくら立派なことを言っても、実際には過去にばかり目を向け、将来のことを考える余裕がないのだ。「あの時はこうすればよかった」と振り返っても、今さらそれを変えることはできない。過去に縛られている限り、未来を切り拓くことはできないのである。

だからこそ、過去を云々することはやめるべきである。これは決して過去を無視せよという意味ではない。過去の実績を確認することは重要であるが、それは過去を研究するためではなく、自分の現在地を把握するためである。将来を見据えるには、まず現在の立ち位置を正確に理解する必要があるからだ。

馬車で長旅をする状況を想像してみよう。目的地に予定通り到着するために、途中で遅れが生じた場合、「なぜ遅れたか」を考えることに時間を費やしても意味がない。重要なのは、その遅れをどう取り戻すかを考えることである。そして、そのためには、現在地を確認することが不可欠であることは言うまでもない。

このたとえのように、目標達成のために必要なのは、「これからどうするか」を考えることだけである。そのためには、現状を正確に確認することが重要だ。しかし、現状がなぜそうなっているのか、その理由を追究する必要は全くない。それに時間を費やすよりも、未来に向けた具体的な行動に集中すべきである。

だから、方針書には過去のことに触れる必要は全くなく、むしろそれに触れること自体が明らかに誤りである。事業経営は、常に前を向いて進むものである。社長は、「我社の将来をこうする」という明確な目標を掲げ、その目標達成のために「これから何をしなければならないか」を方針書に具体的に示さなければならない。

社長の姿勢を示すものであること

次に重要なのは、方針書が「社長の姿勢を示すものでなければならない」という点である。方針書は、単なる計画書ではなく、社長自身の経営理念や価値観、そして目標達成に向けた覚悟を具体的に反映したものでなければならない。それが、会社全体の方向性を統一し、従業員に明確な指針を与える基盤となる。

私が社長に方針書を書くよう依頼すると、ほとんどの社長が最初の段階で、自らの姿勢を示すことなく、「社員の姿勢」を求める内容を書き始めることが多い。その多くは、「社員一人一人が経営者の自覚を持たなければならない」といった抽象的な要求から始まり、さまざまな期待や要望が次々と並べられる。

これは、社長がいかに社員の仕事ぶりに多くの不満を抱いているかを如実に示している。どうやら、社長というものは、事業経営の成功や失敗は社員の働き次第だと考えがちであるようだ。この思い込みが、方針書に社員への要求を並べる行為につながっているのだろう。

そうでなければ、これほどまでに社員についてあれこれと言うはずがない。社員の働きによって会社の業績が左右されると考えるのは、社長として重大な誤りである。会社の業績を決定づけるのは、社員ではなく、社長自身の姿勢であることは、これまで何度も述べてきた。しかし、それでもなお繰り返し強調したくなるのが、私の正直な気持ちである。

方針書とは、社長が「我社の経営をこうする」という自身の考えを明確に示すものである。そのため、そこには社長自身の考えだけを書けば十分であり、それ以外のことをあれこれ書き加えると、焦点がぼやけてしまい、方針書本来の目的が損なわれることになる。

具体的であること

3番目の要件は「具体的であること」である。一見すると簡単なように思えるが、実際に具体性を持たせた記述を行うのは意外と難しい。抽象的な表現ではなく、明確で行動に移せる内容を盛り込むことが求められる。

どうしても最初のうちは、「販売体制の強化」「生産性向上」「不良撲滅」といったスローガンのような表現にとどまりがちである。このような記述では、社長の意図は伝わるかもしれないが、それを具体的にどう実現するのかが全く分からない。スローガンだけでは行動に結びつかず、計画としての実効性を欠いてしまう。

「販売体制の強化」と掲げるのであれば、人員を増加させるのか否か、販売地域を現状維持とするのか、あるいは拡大するのか、それとも戦線整理を行うのか、さらにはどの地域を重点地域とするのか、といった具体的な方針を明確にする必要がある。

また、「生産性向上」を目指すならば、内作と外作の区分をどうするのか、配置転換を行うのか、設備投資や設計変更をどのように進めるのか、といった具体策を示すことで、実行可能な指針を提示することが求められる。これらが明らかにされて初めて、方針書が行動につながる実用的なものとなる。

「不良撲滅」を目指すのであれば、まず何から取り組むのかという優先順位や、不良率を何%以下に抑えるのかといった具体的な目標を明記する必要がある。ただし、方針書である以上、細部にわたる内容まで書き込む必要はない。重要なのは、明確な方向性を示し、取り組むべき急所を的確に押さえることである。これにより、方針書は実践に結びつく効果的な指針となる。

これらの内容は箇条書きで記載するのが最適である。だらだらと長文で書くと、意図が伝わりにくくなるため、項目ごとに標題を付け、その下に簡潔な文章で要点を強調する形が望ましい。こうすることで、方針書は明快で理解しやすいものとなり、実践への道筋がより明確になる。

方針書の構成例

以上の3つの要件を踏まえ、具体的にどのようなことを方針書に書くべきか、ごく一般的な例を挙げると次のようになる。

  1. 基本方針
    経営全体の方向性や理念を示す。
  2. 商品に関する方針
    商品開発や品質向上、ラインナップの充実などに関する基本的な考え方。
  3. 得意先に関する方針
    既存顧客との関係強化、新規顧客開拓、顧客満足度向上の方策。
  4. 販売促進の方針
    販売戦略、マーケティング活動、プロモーションの強化に関する方針。
  5. 未来事業に関する方針
    新規事業の立ち上げ、長期的な成長分野への取り組み、技術革新の方向性。
  6. 内部体勢整備の方針
    組織の再編、教育訓練、業務効率化、社内コミュニケーション強化の方針。

これらを簡潔かつ具体的に記載することで、方針書が明確で実行可能な指針となる。

方針書の作成を通じた経営者の成長

以上、ざっと説明したが、方針書をいざ書く段になるとなかなか難しいのである。何回も何回も読みなおし、書き直して、自らの意図と姿勢を示すべきである。この方針書で、ウンと苦しむことが、自らの事業経営の能力を大きく成長させることに繋がるのである。

方針書を作成するには、何度も推敲し、会社の将来を明確にするために社長が時間をかけて熟考することが不可欠だ。具体的な記述が難しい場合も多いが、方針書を作成する過程で、社長自身が経営の本質を深く理解し、会社の方向性に確信を持つことができる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次