K開発のF社長が見せてくれたのは、20年間の詳細な長期計画書でした。その計画書はA版全紙にびっしりと数字が書き込まれ、膨大なデータと徹底した検討を経て作成されたものでした。この計画書が示すのは、単なる数字の羅列ではなく、会社の未来を見据えた壮大なビジョンと、経営に対するF社長の熱意そのものでした。
壮大な長期計画の登場
計画書に込められた労力
計画がもたらす安心と効率
K開発は貸ビルを事業とする会社である。ある日、社長のF氏から「うちには長期計画があるので見てほしい」という依頼があった。興味を抱いて訪問すると、社長が取り出したのは、なんとA版全紙(新聞紙を広げたサイズ)にびっしりと書き込まれた計画書であった。その壮大なスケールに驚かされたのも束の間、さらに計画の期間を確認して三重の驚きを受けることとなった。
その計画書には、なんと20年間の詳細な数字が克明に記入されていた。見事としか言いようがない完成度だった。F氏によれば、この計画書を作り上げるまでの数カ月間は、ほとんど寝食を忘れるほどの努力と苦心の連続だったという。その熱意と献身には感服させられるものがあった。
計画書に記入する数字を作成するには、各種情報の収集や数字の徹底的な検討が必要であり、まさに根気が試される作業だった。F氏が用意した資料の一部を拝見すると、そこには計画書に記載された数字の数十倍ものデータがびっしりと並んでいた。この膨大な資料を基にして計画をまとめ上げたのだ。「労作」とはまさにこのようなものを指すのだろう、と感じさせられた。
計画書の内容は非常に詳細で、まず収入に関する数字が記載されていた。それには、数年に一度のインフレを考慮した家賃値上げが織り込まれていた。次に経費については、ビル自体の固有経費と本社経費に分けて計上されていた。そして経常利益が算出され、その経常利益から発生する税金や税引後利益の処分――配当金と役員賞与――も明確に記されていた。
さらに、資金関係では、固定預金の管理や長期借入金の返済計画までが含まれており、ほとんど抜け漏れのない内容だった。その緻密さには驚かされるばかりである。
F氏は冗談めかしてこう言った。「これさえあれば、私がいなくても何もかも分かる。インフレの度合いで数字が違ってきたら、その分を修正すればいいだけだ。これで安心して死ねますよ。」
その言葉には、計画書に対する自信と、それが会社の未来を支える基盤となるという確信が込められていた。この計画書を作り上げたF氏の労力と熱意が、この一言に凝縮されているようだった。
私はその計画書を前に、ただただ頭を下げるほかなかった。いくら貸ビル業が典型的な安定事業とはいえ、20年先までの詳細な計画を作り上げたその熱意と緻密さには、全く恐れ入るばかりであった。
F氏にとって、現在の貸ビル事業に関しては、もはややるべきことはほとんど残されていない。せいぜい、時折実績を計画と照らし合わせてチェックし、僅かな軌道修正を行う程度の作業である。計画がしっかりしているため、F氏は現事業に関して全く心配する必要がなくなり、その分の精力を新たな事業に注ぐことができる。実際、彼はすでに新たな事業に取り組み始めているのだ。
わずか数カ月を長期計画の樹立に費やしただけで、その後は現事業に時間を割く必要がほとんどなくなったという事実は、極めて有効な時間の使い方を示している。これはまさに、私が常々主張している「経営計画ほど優れた時間の使用法はない」という考えを、実際に体現したものと言えるだろう。
まとめ
この20年間の計画書を完成させたことで、F社長は現事業に時間を割く必要がほとんどなくなり、新事業に集中できる環境を整えました。この事例は、長期計画の重要性と、それがもたらす効率の良さを体現しています。「経営計画ほど優れた時間の使い方はない」という教訓を示す、まさに模範的な実例です。
K開発のF社長が作成した二十年間の長期計画は、事業の将来を見据えた驚くべきもので、以下の重要な点が見て取れます。
1. 長期的視点に基づく安心感
- 安定した収入を見込める貸ビル事業であっても、インフレに伴う家賃の値上げやビルの維持費の見通しを二十年分計画に組み込むことで、会社の持続的成長と安定を確保しています。
- 社長は「私がいなくとも何もかも分かる」と述べ、長期計画を通じて経営の透明性と継続性を確保し、リスクを最小限に抑えるための準備を整えています。
2. 時間の有効な使用
- 長期計画を立てるための数か月の努力が、その後の事業管理を簡略化し、社長の時間を他の新しい事業に振り向ける余裕を生み出しています。
- 計画の「軌道修正」だけでビジネスが進行する状態に持ち込むことで、実際の管理にかかる時間や労力を減らし、効率的な時間の使い方を実現しています。
3. 詳細かつ柔軟な計画
- 収入、経費、経常利益、税金、資金計画などの詳細な要素を、時々のインフレ度合いや経済変動に応じて柔軟に修正できる設計としている点が、堅実な計画でありつつも柔軟性も備えたものにしています。
4. 未来志向の経営姿勢
- 現在の事業を計画と軌道修正で管理しつつ、新規事業に力を注げるように経営資源を再配分している点は、長期計画を戦略的な道具として最大限に活用している証です。
このような長期計画は、ビジネスにおける安定と発展を同時に叶える優れた方法であり、F氏の「寝食を忘れて」まで作り上げた計画は、K開発にとって大きな未来への資産となっています。
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