S社は、多角化と脱本業を推進した結果、商品構成が無秩序となり、事業が混乱し業績が低迷する危機に直面していました。主力商品群の収益性の低下や責任者の過重負担、足手まといの商品群の存在が問題を深刻化させていました。こうした状況を打開するため、S社は事業構造の再整備を行い、新たな方向性を見いだす必要に迫られていたのです。
S社の長期的な課題は、事業構造の再整備をいかに進めるかというものであった。高度成長期の流行に乗り、多角化や脱本業といった「カッコいい」方向性をやたらと追求した結果、事業の焦点がぼやけ、混乱を招いていた。その影響で、業績は低迷を続ける厳しい状況に陥っていたのである。
多角化の方向性を履き違えた結果、S社の商品構成は無秩序な状態に陥っていた。主力商品群は三つ存在していたものの、それに関連する「道楽商品」が一つ付随し、その他は流行に乗った省力機器、事務用品、電気製品、レジャー用品、スポーツ用品、厨房器具など、まさに手当たり次第に手を広げたようなラインナップだった。この混乱が事業の足を引っ張る要因となっていた。
主力商品群のうち、最も売上を上げている事業は、「売りやすい商品」にばかり偏重してしまった結果、売上の伸びが頭打ちになっていた。特に輸出市場では、商品構成の偏りが大きな障害となり、業績の足を引っ張る事態を招いていた。
主力商品群の第二の事業は、過当競争の影響で収益性が著しく悪化していた。さらに、将来的な人件費の増大に耐えられるのかという懸念が強まり、このまま維持できるかどうかが疑問視されていた。
第3の商品群は、責任者への負担が過剰にかかっていた。商品の性格上、受注生産が中心であり、設計、資材手配、外注管理などに多くの手間が必要だった。しかし、管理者が不足しているため、責任者が全てを抱え込んでキリキリ舞いの状態に陥っていた。その結果、業務全般が中途半端になり、効率的な運営が難しい状況にあった。
第四の商品群は、いわゆる「道楽商品」に分類されるものであった。売上高も投入人員も少なく、利益が出ても損失を出しても、会社全体の業績にはほとんど影響を及ぼさない規模だった。さらに、この商品は特殊で高度な技術を要するため、戦前からの伝統技術に依存しており、後継者がいない状況にあった。そのため、将来的には自然消滅する可能性が高いと見られていた。
しかし、その市場に目を向けてみると、そこには非常に有望で、しかもS社にとって適切な規模の市場が存在していた。それは、小規模企業には手が届かず、大企業にとっては規模が小さすぎて魅力を感じない市場だった。この市場では、需要は強く、しかも増加していたが、特殊で高度な技術が求められるため、それを満たす企業や積極的に参入する企業がほとんど存在しなかったのである。こうして、「道楽商品」は新たな可能性を秘めた「シンデレラ商品」へと変貌を遂げる素地を持っていた。
その他の商品群は、完全に「足手まとい」となっており、S社の経営に何の貢献も果たしていなかった。S社を立て直すためには、まず事業構造を根本から再整備する必要があった。そして、その再整備を成功させるためには、長期的な視点に基づく計画が不可欠であった。
基本構想の骨子は、主力商品群3つに加え、新たに「シンデレラ商品」を加えた4本柱を整備し、それ以外の足手まといとなる商品群を切り捨てるというものであった。この方針のもとで、各商品群を個別に強化し、それぞれが独立して収益を上げられる体制を構築することが目指された。
第一の商品群に関しては、品種構成の充実と販売体制の強化を通じ、国内市場および輸出市場の売上増大を目指すことが決定された。そのために、各年度ごとに具体的な品種構成の充実目標が定められ、併せて市場占有率の向上を図るための年度別目標も設定された。このアプローチにより、事業基盤の強化と持続的な成長を目指したのである。
第二の商品群については、収益性の低さや人件費増大への懸念を解消するため、以前から検討されていた韓国への別会社設立案を採用し、この商品群をその新会社へ移管する方針が決定された。この移管により、コスト圧縮と競争力強化を図るとともに、経営資源を他の事業群に集中させる狙いがあった。
第3の商品群については、業務負担を軽減し効率を高めるため、取り扱う品種と得意先を厳選する方針を採用した。この絞り込みにより生み出された余力を活用し、輸出を増大させる計画が立てられた。これにより、責任者やスタッフの負担軽減だけでなく、収益の向上も見込まれる形となった。
第四のシンデレラ商品については、最も優先すべき課題として、後継技術者の育成が挙げられた。最大の難関は、名人気質で老齢の熟練技術者たちを説得し、技術を後進に伝える気持ちにさせることであった。こうした技術者は、自分の技術を他人に教えたがらない傾向が強い。しかし、「君たちの一生をかけて修得した技術を後世に伝えないのは惜しいことだ」という説得が功を奏し、協力を得ることができた。
次に、後継者の確保が課題となった。社内で希望者を募ったところ、必要な人数を確保することに成功した。この体制を基盤に、販売体制の強化も並行して進められ、シンデレラ商品が事業の一翼を担う柱としての成長を目指した。
S社の事業構造再整備のため、四本柱の強化には人的資源の最適化が不可欠だった。足手まといの商品群を切り捨て、その分で浮いた人員を全社的に配置転換することで、四本柱の各分野に必要な人材を充足することができた。
こうして、S社の再整備方針が具体化され、全体の体制が整備された。そして、この方針をもとに年度別の具体的な目標が設定され、長期計画として推進される運びとなった。S社はこれを起点に、持続可能な成長と競争力の強化を目指す道を歩み始めたのである。
まとめ
S社は、四本柱(主力商品群3つとシンデレラ商品)の強化と足手まとい商品の切り捨てにより、事業構造を抜本的に再整備しました。品種構成の充実、効率的な輸出戦略、後継技術者の育成、そして人的資源の最適化を通じて、長期計画の推進に成功。これにより、混乱からの脱却と持続可能な成長に向けた基盤を確立し、競争力のある未来へと歩み始めたのです。
S社の事業構造の再整備における長期計画は、適切な事業の整理と再配置によって企業の方向性を定め、収益性を高めるものでした。この再整備のポイントは次の通りです。
1. 明確な主力商品群の整備
- 多角化の弊害であった商品構成の乱れを修正し、S社の収益を担う主要商品群を「四本柱」として明確にしました。
- 主要商品群は次の4つとし、それぞれ強化する計画を立てました:
- 第一商品群:国内外での売上増を目指し、品種構成の強化や販売体制の充実により市場占有率の向上を図る。
- 第二商品群:コスト増が見込まれる事業を韓国の別会社に移管し、得意先や品種を絞って効率を高める。
- 第三商品群:足手まといとなる無駄な商品群を整理し、余力を輸出増大に回す。
- シンデレラ商品(第四商品群):もともと技術的な価値が高いが未活用だった「道楽商品」を、潜在的な市場ニーズに応える形で再構築。
2. シンデレラ商品への投資
- シンデレラ商品と見なした商品においては、後継者の育成が急務でした。
- 技術伝承の障害であった名人気質の高齢技術者を説得し、技術の世代間伝承を推進。次世代技術者を社内から募り、育成体制を構築しました。
3. 不要商品の整理と人的資源の最適化
- 無駄となっていた商品群を切り捨てることで人的リソースを確保し、再配置によって効率化。
- この再配置によって、主要事業の推進体制を強化しました。
4. 長期計画の推進体制
- この方針に基づき、年度別の目標を設定し、各事業において一貫した成長のための指針を持たせました。
- 特に国内外の市場での占有率や技術伝承といった具体的な目標を定め、各部門の責任を明確にしました。
このようにして、S社は不採算部門を整理し、主要事業に経営資源を集中させることで事業の安定化と収益性の向上を図り、長期的な成長基盤を構築しました。
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