企業が持続的に成長し、変化の激しい環境に対応するためには、明確な未来像と実行可能な長期計画が不可欠です。本記事では、T社、G工業、B建材、L社、K社といった多様な企業が抱える課題と、それに対する具体的な戦略を通じて、長期事業構想書の重要性を掘り下げます。また、単なる計画ではなく、柔軟性を持った構想書がどのように企業の未来を切り開く鍵となるかについても解説する。
各企業の課題と構想事例
T社の事業は特定の業界に偏っており、季節変動が非常に激しいのが特徴だった。毎年9月から翌年2月頃までは売上が大きく落ち込み、2月以降になると徐々に忙しさを取り戻す。そして、6月から8月の3カ月間は戦場のような忙しさとなる。しかし、繁忙期に稼いだ収益は閑散期の経費で消えてしまい、長い間、業績の低迷に苦しんでいた。
単一業界への依存と季節商品に伴うリスクを抱えるT社の構造革新の方向性は、現行事業を他業界へと拡大することにあった。その際、特に閑散期である9月から翌年2月の期間に重点を置く方針が掲げられた。この基本方針のもと、T社長と共に長期計画の策定に着手した。
まずは、現在の事業だけに依存した場合を想定して計画を立ててみた。その結果、売上高の伸びが約3年後を境に停滞することが明らかになった。市場が飽和状態に達することが予想されたためである。それに伴い、T社の経営は完全に赤字に転落する見通しとなった。この結果を受け、T社長は「これは大変だ。早く新事業を軌道に乗せないと会社がつぶれる」と危機感を強めた。こうして、新事業の必要性とその緊急性が明確に認識されることとなった。
G工業の商品は家庭雑貨で、単一の商品に依存していた。繁忙期は10月から翌年2月までであり、この期間を過ぎると売上は大幅に減少し、2月から9月にかけては売上が半減する状況にあった。
G社長の夢は壮大だった。「世界50か国に我が社の商品を行き渡らせたい」というものである。しかし、具体的な計画について尋ねてみると、特に何もないという答えが返ってきた。「計画もなく、ただ夢を見るだけでは意味がない」と指摘し、長期計画を策定し、それを基に戦略を練る方針が決まった。
長期計画で最初に必要な事業構造の整備は、当然ながら季節変動を抑えるものでなければならなかった。商品構成については、年間を通じて売れる業務用品を新たに開発する方針が立てられ、2〜3年以内に少なくとも2つ以上の商品を市場に投入する目標が掲げられた。また、市場戦略としては南半球への進出を決定した。南半球の市場規模は北半球に比べて小さいものの、季節変動を大幅に緩和できるため、事業の安定化に寄与すると判断された。
国内販売については、従来の販売方法を改め、段階的に小売店への直販方式へ切り替える方針を採用した。一方、輸出については、大陸ごとに進出の優先順位を設定し、代理店方式を採用することが決定された。その後の課題として挙がったのは、供給体制の整備であった。
グローバル展開を視野に入れた結果、日本国内だけでの製造では限界があると判断し、台湾、南米、メキシコ、あるいは北米に新たな工場を建設する計画が立てられた。さらに、ヨーロッパにはノックダウン生産方式の工場を1〜2か所設置し、状況を見ながら本格的な製造工場へと移行する構想がまとめられた。
この壮大な構想を実現するため、G社長は正月休みをすべて費やし、長期計画の立案に取り組んだ。完成した計画書を見せながら、G社長は「こんなに楽しいことはなかった。しかし、同時に数々の課題も浮かび上がってきた。それをどう乗り越えるか、本当に大変なことです」と語った。
一方、B建材における長期目標は、現在の事業をさらに充実・発展させ、市場における占有率を向上させることであった。
まず設定されたのは、商品群ごとの県内市場占有率の具体的な目標とその達成期限である。次に、三県にまたがる地方経済圏における占有率の目標と期限が設定された。ただし、単に占有率を無理に引き上げるのではなく、充実した商品ラインナップと優れた顧客サービスを通じて達成するという方針が明確に打ち出された。これにより、顧客との信頼関係を基盤にした持続可能な成長を目指す戦略が確立された。
L社は、洋菓子と喫茶事業、そしてラーメン専門店事業の二つを柱とし、それぞれをどのように発展させていくかについて、現在長期的な構想を検討している。これらの事業を独立して成長させるのか、あるいはシナジー効果を狙った統合的な戦略を取るのかが、議論の焦点となっている。
K社は、創業期をなんとか乗り越え、まだ不安定ながらも将来の方向性を見据えられる段階に達していた。しかし、現在の工場は創業時に借りたものであり、手狭になってきた。これを受けて、社長は「3年後に自社工場を持つ」という強い決意を固めた。その瞬間、社長の考え方は大きく転換し、事業の発展を支えるための具体的なビジョンと計画を描き始めるようになった。
何よりも、この計画の実現における最大の課題は「資金」であった。まず、必要な敷地面積を想定し、土地買収資金、工場建設資金、付帯費用などを現在の貨幣価値で見積もった上で、インフレを考慮した3年後の金額を試算した。そして、この資金をどのように調達し、どのように返済していくかという大きな課題に取り組む必要があった。
これは単なる資金調達の問題ではなく、長期的な事業計画がなければ成し遂げられないものである。残された時間は2年。この間に構想に基づき具体的な行動を起こし、計画を実現しなければならないという強い覚悟が求められていた。
社長が描く自社の未来像は、単に頭の中で思い描くだけではなく、「書き表す」というプロセスを通じて、より具体的で明確なものへと進化させることが重要である。考えを書き出し、それを元にさらに深く考える。そして、外部の状況や現実と照らし合わせて自らの考えを確認し、修正を加える。この反復が未来像を確かなものにしていく鍵となる。
長期経営計画とは、まさにこの「書き表す」作業そのものである。それは単なる記録ではなく、思考を整理し、行動の指針を明確にするための重要なプロセスであり、計画の実現に向けた第一歩でもある。
柔軟な構想の作成と実践
長期計画は、基本方針に基づいて構築されるべきであり、利益計画、販売計画、要員計画、設備計画、資金運用計画といった包括的で具体的な内容を含むものが理想である。こうした本格的な計画があれば、事業運営の方向性が明確になり、意思決定の精度も高まる。
私自身もかつて、このような詳細な長期計画を作成していた経験がある。それは単なる書類の作成ではなく、未来のビジョンを形にし、それを実現するための具体的な道筋を描くための重要な作業だった。計画がしっかりとした基盤を持つことで、変化や課題に対する柔軟性も高まり、持続的な成長を支える力となる。
しかし、最近では、必ずしも本格的で詳細な計画である必要はないと考えるようになった。それよりも、全体像をざっくりと捉えられ、事業全体を俯瞰するために便利な、一覧性のある簡潔な表で十分だと感じている。このような表形式の計画は、細かい数字や情報に囚われることなく、大枠の方向性や重要なポイントをすぐに把握できる利点がある。
私はこれを「長期事業構想書」と名づけた。この構想書は、詳細な計算や複雑な分析に頼るのではなく、事業の未来像や目指すべき方向性を直感的に理解しやすい形で表現するものだ。これにより、柔軟で実行可能な戦略を描きやすくなる。
その基本的な構成は、二枚の表によって成り立っている。一つ目は「第13表」の長期事業構想書であり、もう一つは「第41表」の長期資金運用計画書である。この二つの表を軸に、事業全体の方向性と資金計画の骨格を明確にする仕組みとなっている。
長期事業構想書は、事業の全体像や目指すべき目標を俯瞰するためのもので、会社の未来像を具体的に描く役割を果たす。一方、長期資金運用計画書は、構想を実現するための資金調達や運用計画を整理するためのツールであり、実行可能性を検証するための基盤となる。
これら二つの表を組み合わせることで、構想の理想と現実の資金計画を統合し、バランスの取れた長期計画を立案することが可能となる。
このような形式にした理由は、長期事業構想というものが本質的に流動的であるという性質を考慮したためである。第一の理由として挙げられるのは、客観的な情勢の変化である。現代のような激変の時代において、正直なところ、5年後の状況すら正確に予測するのは不可能に近い。しかし、それでも未来を予測しようとするのは、世の中の動きには以下の二つの要素があるからだ。
- 惰性: 現在の動きがそのまま続いていく傾向。
- 必然性: 特定の方向へと変化せざるを得ない要因。
これら二つの要素を合成して未来を予測するわけだが、たとえそれがある程度の真理を含んでいたとしても、その動きの具体的な方向性や変化の加速度を正確に予測することは困難である。さらに、石油ショックのような突発的な事態、戦争、気象異変、国際関係の急激な変化など、予測不可能な出来事がいつ発生するかもわからない。
こうした流動的で激変する状況に対処するためには、企業自体が柔軟に変化する必要がある。このため、長期事業構想を具体的かつ詳細に固定化するのではなく、状況の変化に対応できるよう、より大づかみで柔軟性を持たせた形式が求められたのだ。
もう一つの理由は、社長が描く未来像そのものが、時とともに発展・変化していくべきものであるという考え方に基づいている。未来像は、2年、3年と経つうちに変化するのが当然であり、むしろ変化しない方が問題である。もし何年経っても未来像が全く変わらないとしたら、その未来像は時代や状況の変化に対応できておらず、本物ではないと言えるだろう。
未来像は、新しい知識、経験、環境の変化を反映し、常に更新されるべきものである。それによって、企業は流動的な状況に対応しながら、現実的かつ持続的な成長を目指すことができる。このため、長期事業構想書も、固定的なものではなく、社長の未来像の進化に応じて柔軟に改訂される形式が適しているのだ。
進化する未来像と構想書
上述の二つの要因によって、未来像や進むべき方向は変化せざるを得ない。そして、その変化は時に非常に頻繁に起こることもある。「そんなに変わるのなら、構想を立てても無駄ではないか」という疑問を抱く方もいるかもしれない。
しかし、それは誤解である。構想を立てることの意義は、固定的な未来を描くことではなく、変化の方向性を見極め、状況に応じて柔軟に対応するための指針を持つことにある。構想とは、未来を固定するものではなく、変化する未来に適応しながら進むべき軸を示すための道具なのだ。
変化が頻繁だからこそ、全体の大枠を捉え、長期的な視点で柔軟に対応するための「構想」が必要になる。構想を持たないままに変化に直面すると、軸がぶれ、ただ場当たり的な対応に終始するリスクが高まる。したがって、変化する状況を前提としつつ、構想を持ち続けることが重要なのである。
この疑問は確かにもっともなものだ。では、それにどう答えるべきか。たとえば、あなたが家を新築する場合を考えてみてほしい。
初めは頭の中で様々なアイデアを巡らせるだろう。どのような家にしたいのか、どんな間取りがいいのか、家族とも相談しながら考えを深めていく。やがて、ある程度の方向性が見えてくると、それを形にするために平面図を描き始めるはずだ。
しかし、その平面図でさえ、一度で完成することはまずない。試行錯誤を繰り返し、何度も書き直しながら原案ともいえる形が出来上がっていく。その過程で、新たなアイデアが浮かび、予算や実現可能性との兼ね合いも考慮され、計画はどんどん具体的で現実的なものになっていく。
つまり、計画や構想というものは、変化を織り込むこと自体が前提であり、その変化を通じて本当に実現可能で価値のあるものへと洗練されていくプロセスなのだ。最初の考えが変わるから無駄なのではなく、変わることでより良いものを目指せるのだ。
その原案を基に、「ああでもない、こうでもない」と様々な修正案が浮かんでくる。新たなアイデアや欲求も出てきて、理想に近づけたいという意欲が高まる。こうした段階になると、他人の家が気になり始め、注意深く観察するようになる。そして、それらを参考にして「ここはこうしたほうが良い」と思い、図面に修正を加える。また考え直し、さらに修正を重ねる。この繰り返しを通じて、計画は徐々に洗練され、より良いものへと仕上がっていく。
もし、「どうせ何度も修正するのだから、図面を書くのは無駄だ」と考えて、平面図すら描かずに「いい家を建てたい」と頭の中で思い描くだけだったらどうなるだろう。おそらく、いつまでたっても具体的な設計図すらできず、結果として「いい家」を実現することもできないだろう。
優れた家は、図面を何度も検討し、修正に修正を重ねるプロセスを経て初めて完成するものである。このように、計画を立てることは変化に対応するための基礎であり、修正を繰り返すことで初めて理想に近づけるのだ。
我社の未来像についても、全く同じことがいえる。まずは「タタキ台」となる基本の計画や構想をつくり、それを何度も修正することで、より優れたものへと進化していく。未来像の土台がしっかりとあればこそ、変化に対応しながら、それをさらに良くするための具体的な修正点が明確になる。
たとえば、客観的な情勢が変化した場合、その変化を踏まえて「我社のこの部分をこう変えれば良い」という判断が可能になる。逆に、青写真がないままでは、変化にどう対応すべきかが分からず、場当たり的な対応に終始してしまう。
「タタキ台」を基に修正を繰り返すことで、未来像は現実の変化に即した柔軟かつ強固なものとなる。こうしたプロセスが、企業の方向性を具体化し、実現への道筋を切り開く鍵となるのである。
長期事業構想書の実務活用
以上のように、修正を繰り返しながら未来像を磨き上げていくためには、「長期事業構想書」が非常に便利なツールとなる。私も当初は本格的で詳細な計画を作成していたが、修正を加えるたびにその複雑さが負担となり、使い勝手の悪さを痛感した。
その経験を踏まえ、より修正が容易で、状況に応じて柔軟に対応できる形式を目指して工夫したのが、この「長期事業構想書」である。この構想書は、必要な情報を簡潔かつ一覧性を重視してまとめているため、修正や再検討がしやすく、常に最新の状況に適応した形で事業の方向性を考えることができる。計画を固定的なものにせず、あくまで進化するツールとして位置づけることで、長期的な成長を支える基盤となるのだ。
この「長期事業構想書」を実際に使ってみると、その便利さが実感できた。多くの社長たちからも、「こんなにいいものはない」「全く便利だ」「この構想書のおかげで、初めて本気で長期計画に取り組めた」と、非常に高い評価を得た。
中には、「一倉さん、私はこの3カ月の間に長期構想書を15回も書き直しました」と語る社長まで現れた。これは、構想書の使いやすさや修正のしやすさが、長期計画をより実践的で現実的なものにするうえで、大いに役立っている証である。
繰り返し修正が可能なこの構想書は、単なる計画書を超えて、経営者が自らの未来像を形作り、変化に対応しながら磨き上げるための強力なツールとなっているのだ。
このような好評を受け、自信を深めた結果、現在では「長期計画は必ずしも詳しいものは必要ない」という考え方に至っている。詳細な計画については短期計画で対応すれば十分であり、長期の計画は「長期事業構想書」で大枠を押さえるだけで十分だという判断である。
これによって、長期計画は柔軟性を保ちつつ、修正や見直しが容易になり、実用性が格段に高まった。では、この「長期事業構想書」(第13表)がどのような内容で構成されているのか、次にその具体的な説明に移ろう。
まず、「長期事業構想書」のタイトルの右側に、以下の一文を明記するのが望ましい。
「この構想書は、客観情勢の変化と社長のビジョンの発展によって、たえず前向きに修正されなければならない。」
この一文を記載することで、「社長の構想は頻繁に変わる」といった社員の誤解を防ぎ、ビジョンの発展性や柔軟性を理解してもらうことができる。
また、右上の枠外に必ず日付を入れることが重要だ。これにより、「その日付時点での社長の構想書」であることが明確になり、修正や更新履歴を追いやすくなる。
次に、構想書の各枠組に沿って説明を進める。左端に振られた番号を順に追いながら、それぞれの項目の内容と意図を具体的に解説していこう。構想書は大枠を捉えるためのツールでありながら、番号ごとに分かれた構成が全体像の理解を容易にする。
①の基本方針は、長期事業構想書の核となる部分であり、会社全体の方向性を示す重要な項目である。ここには、以下のような基本的な方針を箇条書きで明確に記載する。
一、どのような事業構造にするか
- 現在の事業のうち、強化すべき事業や淘汰すべき事業を明確化する。
- 新たに加えるべき事業や商品を具体的に示す。
例:主力商品の進化、新市場向け商品の追加、収益性の低い部門の整理。
二、どのような特色を全体または個々の事業に持たせるか
- 各事業の競争力を高めるための特色を設定する。
例:高級化、軽量・小型化、品質の向上、コスト削減の具体目標。
三、販売網の整備をどう進めるか
- 販売網強化の重点地域や、新規進出地域を明示する。
- 淘汰すべき非効率な地域や販売網も明記。
例:新規営業所の設置、新店舗展開、チェーン網の拡大方針。
四、供給体勢の整備をどうするか
- 設備投資の基本方針を具体的に示す。
- 協力工場の整備目標や配送ネットワークの構築を計画する。
例:新工場の建設、物流効率化のための配送センター拡充。
五、内部体制整備の方向性はどうなのか
- 組織の効率化や人的資源の再配分を検討する。
- 福利厚生や従業員教育の方針もここに含める。
例:部門統合、新人研修制度の整備、働き方改革。
六、資本充実をどう進めるか
- 払込資本金や内部留保の目標を設定する。
- 資本を強化するための戦略を記載する。
例:株式発行による資金調達、配当方針の見直し。
これらの方針を具体的に記載することで、会社の未来像がより鮮明になり、全社員が共通の方向性を理解しやすくなる。
基本方針は、スローガンや抽象論に終わらせてはならない。具体的な目標と実行可能な指針を示すことが重要である。抽象的な表現は現場での実効性を欠き、計画を成果に結びつける力を失う。
社長の意図が伝わるだけでは不十分である。事業構造を充実すると言っても、具体的な方法や基準が示されなければ、行動の指針にはならない。計画は具体的であり、明確な方向性や目標を示すものでなければならない。
例えば、「季節変動を減少させるため、閑散期の商品を積極的に開発し、3年後には閑散期の売上を繁忙期の半分以上とする」といった具体的な表現であれば、誰にでも意図が明確に伝わる。このように、簡潔で具体的な目標設定が重要である。
②の販売計画では、事業または商品群を具体的に記載する。既存の事業や商品群については、その名称を明記し、新事業については、計画期間(おおよそ5年程度)に必要とされる場合、まだ内容が決まっていなくても「新事業A」「新事業B」といった仮称を用いて記載すればよい。
小売業やチェーン店などの場合には、事業名の欄に各店舗名や店舗群を挙げることもできる。これにより、販売計画が具体的かつ現場での実行に結びつきやすくなる構成となる。
事業方針欄には、各事業や商品群に対する具体的な方針を箇条書きで簡潔に記載する。例としては以下のような形式が望ましい。
- 「5年後の市場占有率目標を30%以上とする」
- 「3年以内に30%の軽量化を達成する」
- 「関西地区で販路を拡大し、5年後には年商5億円を達成する」
- 「全面的に外注依存体制へ移行する」
- 「この事業を廃止する」
このように、具体的な数値や地域、期限を明記することで、行動指針としての実効性が高まり、計画の実現に向けた基準として役立つ内容となる。
② 販売計画:
年度は、当期を起点にした5年間の売上目標を記入する(当期を含めるか含めないかは任意。私の場合は当期を含めない5年を採用)。売上目標は百万円単位で十分である。また、一番右の特記事項は備考欄として使用し、計画に関する補足や重要なポイントを記載する。
③ 利益計画:
売上高は②の売上目標合計と共用し、整合性を保つ。
方針欄には、以下のような具体的な利益目標や計画を簡潔に記載する:
- 「加工高比率を5年後に20%へ向上」
- 「労働分配率を50%以内に抑制」
- 「販売促進費を3年間で大幅に増額」
このように、利益計画には目標値や重点項目を明確に示し、実行すべき行動や達成基準を分かりやすく記入することが重要である。
④ 要員計画:
- 労働分配率と一人当たり人件費をまず記入する。
- 利益計画の人件費総額を一人当たり人件費で割ることで、必要な人員数を算出し、総人数として記載する。内訳は省略し、簡潔さを重視する。
方針欄には、人員構成比率の目標や増減の方向性を記載する。例えば:
- 「営業部門60%、開発部門30%、管理部門10%」
- 「毎年3名増加」
- 「5年後には総人数を50名とする」
- 「昭和○年度に開発部門を10名体制へ拡充」
このように、必要な情報を簡潔にまとめつつ、具体的な増減目標や構成比率を明示することで、計画の実効性と理解のしやすさを確保する。
⑤ 設備計画:
設備計画は大まかでよく、以下の分類程度で十分である。
- 土地
- 機械装置
- 工場
- 倉庫
- 店舗
これらについて、必要な投資額や設置時期を年度ごとに記載する。詳細ではなく、方向性や大枠を捉えた内容で構成する。
⑥ 資本金:
年度別に以下を記入する。
- 増資額
- 払込資本金額
これにより、資本充実の進捗状況や計画が一目で分かるようにする。
⑥以降の追加項目:
上記以外で特に長期構想として明記しておきたい項目があれば、⑥以降に追記する。例えば:
- 特定の新事業計画
- 新市場開拓の戦略
- 特定プロジェクトの進捗目標
これにより、長期事業構想書が柔軟かつ包括的に対応できる形となる。
この「長期事業構想書」には、長期資金運用計画の作成に必要なすべての数字が含まれている。このため、この構想書を基にして、次のような財務計画を作成することが可能である。
- 長期資金運用計画
設備投資額や資本充実計画、人件費増加など、必要資金とその調達・運用の詳細を計画する。事業構想書の売上計画や設備計画などの数字を活用して、収支バランスを試算し、資金の流れを見える化する。 - 長期目標貸借対照表
事業構想書の資本計画や設備計画、利益計画を基に、将来の資産・負債・純資産のバランスを示した目標の貸借対照表を作成する。これにより、計画の財務的な健全性を評価できる。
これらの計画は、構想書の数字を基に連動して作成されるため、整合性が保たれ、実行可能性の高い長期的な事業・財務戦略を立案することができる。
「長期資金運用計画」と「長期目標貸借対照表」は、固定資産投資が少ない業種であれば必須ではない。しかし、多額の設備投資やチェーン店の展開など、次々と固定資産投資が必要な業種においては、これらの計画をぜひ作成すべきである。
なぜなら、大規模な投資には予想以上の資金が必要となる場合があり、それを事前に把握しないと資金繰りに大きな支障を来す可能性があるからだ。これらの計画を作成することで、必要資金を正確に見積もり、調達と運用のバランスを計画的に管理できる。また、資金計画が具体化することで、外部からの資金調達や内部留保の活用もスムーズに進む。
右の内容については、次篇「資金運用」にて詳しく説明することとする。この章では、具体的な資金調達方法、運用計画、固定資産投資の管理手法などを掘り下げ、長期的な財務戦略の詳細を明らかにしていく。
まとめ:柔軟な構想で未来を描く
長期事業構想書は、未来像を形にし、変化する環境に柔軟に対応するための強力なツールです。T社の構造改革やG工業のグローバル展開、K社の資金計画など、各企業の具体的な事例は、計画の具体性と柔軟性が成功に直結することを示しています。固定的な計画ではなく、進化するビジョンを持つことで、企業は変化を乗り越え、持続可能な成長を実現できます。次回は、資金運用の詳細に焦点を当て、財務計画の実践についてさらに掘り下げていきます。
「長期事業構想書」は、会社の将来を描き、目標を達成するために必要な具体的な方向性とアクションを計画する重要なツールです。この構想書により、社長のビジョンが具体的な形を持つことになり、会社全体の指針として機能します。
構想書を作成するためのポイントは以下のとおりです。
1. 基本方針の設定
- 事業構造の方向性:現在の事業の強化や新事業の追加、不要事業の淘汰など。
- 商品の特色:製品の高級化や軽量化など、他社との差別化要素を明確にする。
- 販売網の整備:地域別の強化方針や新規市場の開拓、営業所や店舗の展開計画。
- 供給体制の整備:必要な設備投資や協力工場の確保、物流体制の整備。
- 内部体制の見直し:組織の合理化や福利厚生など、社員のサポート体制の改善。
- 資本の充実:内部留保の目標や資本金増額の方針。
2. 販売計画の立案
- 各事業や商品群ごとに年間の売上目標を設定します。
- 事業方針として、占有率や地域別売上目標、新規事業の予定を箇条書きにして明確化します。
3. 利益計画の設定
- 売上高と利益計画を立て、加工高比率、労働分配率、販売促進費などの目標を設定します。
- 利益目標の達成に向け、どの部分で効率を高めるかも検討します。
4. 要員計画の策定
- 労働分配率と一人当たり人件費を設定し、総人数を算出。
- 各部門ごとの人員配置比率や増員計画を方針として記入します。
5. 設備計画の立案
- 土地や機械、工場、倉庫、店舗などの大まかな設備計画を記載し、主要な設備投資を把握します。
6. 資本計画
- 必要な増資額や払込資本金を年度別に設定し、資金の計画を明確にします。
7. 構想書の更新と修正
- 長期事業構想書は、変化する客観情勢や社長のビジョンの発展に合わせて修正が必要です。構想書に日付を記載し、いつの時点のビジョンかを明らかにします。
- 修正を繰り返すことで、計画を現実的かつ柔軟に対応できるものとし、変化に対応した企業の発展を目指します。
8. 資金運用計画の作成
- 長期事業構想書のデータをもとに、必要であれば「長期資金運用計画」や「長期目標貸借対照表」を作成します。これにより、固定資産投資やチェーン展開などの資金需要を把握します。
長期事業構想書は、会社の未来像の「設計図」としての役割を果たし、繰り返し修正・改善することで、会社の発展に向けた確かな指針となります。この構想書を基に、次のステップとして短期計画や日々の行動計画に落とし込み、実現に向けた着実な歩みを続けます。
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