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固定資金を管理する

固定資金の構成と管理は、企業経営における重要な要素の一つである。

固定資金は、不可避的な支出と調整可能な支出に大別され、これらのバランスを取ることで企業は健全な財務基盤を維持することができる。

特に、法人税や配当金、役員賞与などの支出は一度決定すると制御が難しいため、注意深い資金運用が求められる。

また、設備投資は企業の収益性を直接支える項目であり、その管理は経営者の重要な役割となる。これらをどのように管理するかについては、財務計画と資金繰りを適切に行うことが求められる。

目次

固定資金の構成と管理方針

固定資金は、事業経営の結果として生じるもので、大きく分けて二つの性質を持つ。

  1. 不可避的な支出 – 法人税や配当金、役員賞与など。いったん決定すればコントロールが難しい項目。
  2. 調整可能な支出 – 設備投資など、管理や調整が可能な項目。

ひとつは、基本的に制御が難しい税金や、社長の意思で決定されるものの一度決まると制御不能になる配当金や役員賞与、投資など。

もうひとつは、一旦決定した後でも修正が可能な設備投資のようなものだ。

これらをどのように管理するかについては、「第17表(資金運用計画)」に記載されている固定資金の使途と源泉の順序に沿って説明する。

法人税等をすべて現金で一括払いできる企業など、まさに例外中の例外と言える。

利益とは、単純に現金として手元に残ったものを指すわけではない。決算時点で総資産と総資本を比較した際に生じる差額に過ぎず、必ずしもそれが即座に現金化されているわけではない点に注意が必要だ。

総資本が総資産より少ない場合、その差額は利益として計上され、総資産と総資本のバランスを取る形となる。逆に、総資本が総資産を上回る場合は、その差額を欠損として処理し、同様にバランスを整える。ただそれだけの話に過ぎない。

決算時点の現金や預金は、決算書に記載された数字がその全てだ。この基本的な事実を理解していない社長が意外に多いのは問題だ。資金繰りが順調だと利益が出ていると思い込み、逆に資金繰りが厳しいと赤字ではないかと不安になるようでは、経営者として失格と言わざるを得ない。

税金の支払いについては、納税融資を利用するのが一般的だ。また、分割払いを選択することで、資金繰りのピークを抑え、負担を分散させるのが通常の対応と言える。

法人税・配当金・役員賞与の管理

  • 法人税: 納税融資や分割払いを活用し、資金繰りに無理が生じないように計画します。利益が必ずしも現金として残るわけではないことを理解し、キャッシュフローと法人税の支払いを分けて考えます。
  • 配当金と役員賞与: 同族会社では、未払いの形で管理できる場合もあり、資金運用計画において「未払配当金」などとして処理することで一時的な資金繰りの緩和が可能です。

配当金と役員賞与

配当金や役員賞与は、同族会社などの場合、未払い処理にすることで資金を一時的に浮かせることが可能だ。この資金を運用計画に組み込む際は、固定資金の源泉として「未払配当金」や「未払役員賞与」と明記すればよい。そして、これらの未払金は適切なタイミングで資本金に振り替えるのが望ましい。具体的には、増資の払込金として処理する形が最適だ。

当期予定納税は、上半期の中間決算を税務署に報告することで減額が可能だ。

特に、季節変動の大きい企業にとっては有効な手段となる。一方で、長期借入金の返済については、そのスケジュールが既に固定されているため、基本的にはコントロール不能な要素と言える。

設備投資の管理

設備投資は固定資金の中でも管理可能な唯一の項目です。

  • 投資判断: 設備投資の決定は、事業の収益性に直結する場合のみとし、不急不要な投資は避けます。例えば、社内の豪華な福利厚生施設や装飾的な投資は控え、リースの利用で柔軟に対応するのも有効です。
  • 低利融資の注意点: 低利だからといって収益性の低い施設に投資するのは避け、投資が確実に収益を生むかを基準に決定します。

次に挙げるのは設備投資だ。実際にコントロール可能な要素は、これ以外にほとんど存在しないと言っても過言ではない。

資金運用の基本を理解している経営者なら、不急不要の設備投資に踏み切ることはあり得ない。

設備投資はあくまで自社の事業方針に沿い、収益向上に直接貢献するものを最優先にすべきだ。

それ以外は、業務に重大な支障を来す場合に限定し、さらにその規模も必要最小限に留めるべきである。

立派な社長室や広々とした事務所、バックグラウンド・ミュージック、厚生会館などの福利施設といったものは、真っ先に削るべき対象だ。

こうした無駄に資金を投入するくらいなら、それを借金返済に充てるか、あるいは仮に借り入れたものとみなして、その金利相当額を賞与に回す方がよほど有益だ。

最近ではリースに対する理解が進み、リースを活用する企業が増えているのは歓迎すべき流れだ。無駄を排し、効率的な資金運用を追求すべきである。

設備投資において最も注意すべきは、低利で融資が受けられるからといって安易に実施しないことだ。例えば厚生会館のような施設を、低利融資が可能という理由だけで進めるのは誤りだ。

投資の判断基準は、融資条件の良し悪しではなく、それが事業の収益向上や成長にどれだけ直接的に貢献するかにある。この原則を外せば、いずれ資金繰りに行き詰まるリスクを高めることになる。

社長族には、低利融資の話を聞くと、普通金利との差額がそのまま利益になるような錯覚に陥るという不思議な習性がある。

この錯覚のために、収益を生み出さない施設への投資という重大な誤りを犯しやすい点に注意が必要だ。投資判断の基準は、金利の差額による「儲け」ではなく、その投資が事業の本質的な成長や収益向上に寄与するかどうかである。

この基本を見誤れば、長期的には事業全体の足を引っ張ることになる。

どれほど低利であろうと、収益を生まない投資であれば、その利息は純然たる損失に他ならない。もし、「厚生会館」や「立派な食堂」を建設することで社員の勤労意欲が向上すると考える社長がいるなら、その社長は失格だと言わざるを得ない。

社員の勤労意欲が、そんな表面的で無意味な施策によって高まると信じるのは、社員の人間性を軽視している証拠である。これは人間そのものを見下す態度であり、経営者として許されるべきではない。

社員の勤労意欲を向上させる鍵は、社長自身の正しい姿勢にある。それ以外のどんな施策を講じたとしても、真の意欲向上は実現しない。この基本的な事実を理解していなければ、経営者としての責任を果たすことはできない。

社長の価値観や行動、そして社員に対する誠実な姿勢こそが、社員のモチベーションを根本から支える唯一の要素である。

固定資金の源泉管理(増資・長期借入金)

  • 増資: 会社の自己資本比率を高めるために計画的に増資を行います。経営方針に沿って増資計画を立て、企業の財務体質強化に役立てます。
  • 長期借入金: 「借りられるだけ借り、返済期間をできる限り長くする」ことが基本方針です。設備投資には全額を長期借入金で賄うようにし、運転資金と固定資金の区分を明確にしてリスクを抑えます。

資金の源泉としては、増資と長期借入金が特に重要な役割を果たす。

増資

増資については、長期的な自己資本の充実を図るための方針を事前に明確に定め、その方針に基づいて実施する必要がある。

この方針の詳細については、「経営計画篇」の「目標の設定」(73頁)を参考にすることを推奨する。

長期借入金

一方、長期借入金については、「借りられるだけ多く借り、返済期間はできるだけ長く設定する」という基本方針が適している。これにより、資金繰りの柔軟性を確保しつつ、事業の成長や安定性を支えるための基盤を築くことができる。

設備投資を行う際、たとえその一部を自己資金で賄える状況であっても、全額を借入金で賄う方が賢明である。多くの企業では、設備計画を立てる際に設備資金のことばかりに目を向け、その投資によって増加する運転資金の必要性を見落としがちだ。

一般的に、設備資金は長期借入、運転資金は短期借入や割引手形で対応するという原則がある。しかし、この原則は状況が順調な場合にしか通用しない。一度でも資金繰りが逼迫するような事態が発生すると、この原則だけでは十分に対応できず、企業全体が危機に陥る可能性がある。計画段階での慎重な資金運用と、余裕を持った借入計画が不可欠である。

長期借入金の活用と銀行への信頼確保

長期借入金は、設備投資資金とともに運転資金も包括的に管理するための重要な手段です。

  • 経営計画書の重要性: 銀行からの信頼を得るため、経営計画書をしっかりと作成して提出することで、安定的な資金調達が可能になります。
  • 短期借入金の長期化: 会社再建が必要な場面では、短期借入金を長期借入金に切り替えることで返済負担を軽減し、資金繰りの安定化を図ります。

客観的情勢が急変するような事態、たとえば石油ショックや主要取引先の倒産といった問題に直面したとき、短期借入金や支払手形がどれほど重い負担となるかは、実際に経験してみなければ理解しにくいものだ。これらの短期的な資金調達手段は、平時には便利に見えるが、非常時には資金繰りを圧迫し、事業継続の大きなリスクとなる。安定的な資金計画と、予期せぬ事態に備えたリスク管理の重要性を見過ごしてはならない。

会社再建の際に有効な手段の一つが、短期借入金を長期借入金に振り替えることだ。この方法は、資金繰りを一時的に楽にし、再建に必要な時間を稼ぐために重要な役割を果たす。私自身も業績不振に陥った企業の支援に際し、短期借入金を長期借入金に切り替えるよう強く勧め、時には社長とともに銀行に直接依頼しに行くことも少なくない。

経営計画書の重要性

こうした交渉を成功させるうえで特に重要なのが「経営計画書」の存在だ。具体的かつ説得力のある計画書があれば、金融機関に対して企業の再建可能性を示し、協力を得るための強力な武器となる。この計画書が示すのは単なる希望的観測ではなく、現実的で実行可能な行動計画であることが不可欠だ。

銀行の本業は金を貸すことだが、彼らが最も懸念するのは「貸すこと」そのものではなく、「貸した金が確実に返済されるか」という点に尽きる。つまり、企業の返済能力こそが彼らの最大の関心事だ。

この返済能力を判断するために、銀行はあらゆる手を尽くして情報を収集する。財務諸表やキャッシュフローの分析はもちろん、経営者の人柄や事業計画の妥当性、さらには市場環境まで徹底的に調べ上げる。そのため、企業としては、返済能力を裏付ける明確な経営計画や財務戦略を提示し、信頼を獲得することが不可欠である。銀行が安心できる材料を提供することで、融資交渉を円滑に進めることが可能となる。

しかし、銀行が実際に手にする情報といえば、粉飾されている可能性もある決算書や、頻繁に更新される資金繰り表に過ぎない。これらの数字だけでは、その会社の真の経営状況や将来性を正確に把握することは難しい。さらに、その会社の社長が何を考え、どのような方向性で事業を進めようとしているのかについては、社長の口頭説明だけではほとんど理解できないのが現実だ。

このような状況を打開するためには、社長自身が具体的で説得力のある計画書を用意し、それをもとに銀行との対話を行う必要がある。ただし、その計画書は単に体裁を整えただけのものでなく、実際の行動に基づいたものであることが重要だ。銀行に信頼されるためには、数字と行動の整合性が何よりも求められる。

そこに経営計画書が提出されれば、銀行にとってはまさに願ってもない事態となる。具体的で現実的な計画書があることで、会社の方針や今後の見通しが明確になり、返済能力に対する信頼感が一気に高まるからだ。この瞬間から銀行の態度は劇的に変わり、資金調達がスムーズになる。

経営計画書は単なる書類ではなく、会社の未来を具体的に示す「説得力のある証拠」だ。それを手にした銀行は、リスクを正確に評価できるようになり、不安を大幅に軽減できる。結果として、融資条件が緩和されることも少なくない。経営計画書の有無が、融資交渉の成功を左右する重要なポイントとなる。

とにかく、あらゆる機会を活用して長期借入金を積極的に調達することが重要だ。特に、政府系の金融機関では実績を積み重ねることで、最終的にはほとんど無条件に近い形で融資を受けられるようになるケースも多い。このような機関を有効に活用することで、資金調達の選択肢を広げることができる。

また、長期資金を積極的に借り入れることで、支払手形などの短期負債を削減することが可能になる。この手法は、資金繰りを安定させるだけでなく、企業全体の財務的な安全度を大きく向上させる。短期的な資金繰りに追われる状況を回避することで、経営者としての判断に余裕が生まれ、事業戦略の実行に集中できるようになる。長期借入金の活用は、単なる資金調達手段ではなく、企業の安全性と持続性を高めるための重要な戦略と言える。

まとめ

固定資金の管理は、企業の財務状況を安定させ、成長を促すために不可欠である。

法人税や配当金、役員賞与などの不可避的な支出は、納税融資や分割払いを活用して、資金繰りに無理が生じないように計画することが重要である。

一方、設備投資は事業の収益性向上に直結するため、慎重に判断し、不要な支出を避けるべきです。また、長期借入金や増資を適切に活用することで、企業の安定性と柔軟性を高め、資金繰りのリスクを抑えることが可能となる。

経営者はこれらの管理方針を理解し、事業計画に基づいて実行することが、持続可能な経営の鍵となる。

経営者のやることチェックリスト

  1. 法人税や配当金、役員賞与の管理
  • [ ] 納税融資や分割払いを活用して、資金繰りに無理が生じないように計画する。
  • [ ] 利益が現金として残るわけではないことを理解し、キャッシュフローと法人税の支払いを分けて考える。
  • [ ] 配当金や役員賞与について、未払い処理を活用し、資金繰りの緩和を図る。
  1. 設備投資の管理
  • [ ] 設備投資は事業の収益性向上に直結するものだけに絞り、不急不要な投資を避ける。
  • [ ] リースを利用して柔軟に対応できるようにする。
  • [ ] 低利融資を利用する際も、収益性が確実に見込める投資にのみ適用する。
  • [ ] 福利厚生施設や豪華なオフィスなどの無駄な設備投資を避ける。
  1. 資金源の管理
  • [ ] 増資計画を事前に立て、自己資本比率を高める方針を明確にする。
  • [ ] 長期借入金を積極的に利用し、返済期間を長期に設定することで資金繰りの柔軟性を確保する。
  • [ ] 設備投資には全額長期借入金を使用し、運転資金と固定資金を明確に区分ける。
  1. 経営計画書の作成
  • [ ] 具体的で説得力のある経営計画書を作成し、金融機関に提出して信頼を得る。
  • [ ] 経営計画書には、事業方針、収益性向上策、財務戦略を明確に記載する。
  • [ ] 資金調達のために銀行と継続的な対話を行い、信頼関係を築く。
  1. 資金繰りとリスク管理
  • [ ] 資金繰りのピーク時に対応できるよう、納税融資や分割払いを活用する計画を立てる。
  • [ ] 予期せぬ事態に備えて、余裕を持った借入計画を立て、資金繰りに柔軟に対応する。
  • [ ] 短期借入金が過剰にならないよう注意し、必要に応じて長期借入金に切り替えて負担を軽減する。
  1. 経営の健全性を維持するための行動
  • [ ] 収益を生まない無駄な投資は避け、事業の成長に貢献する投資を最優先に行う。
  • [ ] 社員のモチベーション向上は、表面的な施策ではなく、社長自身の正しい姿勢と行動で支えることを認識する。
  • [ ] 短期的な資金繰りに焦らず、長期的な成長を見据えた資金運用を行う。
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