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支払手形を退治せよ

B社のサポートを行った際のことだ。バランスシートを確認すると、短期借入金の額は非常に少なかった。一方で、割引手形が相当数存在しており、預貸率や含み資産の状況から見ても、さらなる借入の余地は十分にあると判断できた。ただし、受取手形の8割以上が支払手形として抱え込まれている状況だった。

「もっと借入を増やして支払手形を減らす必要がある」と伝えると、相手はこう答えた。「父から『借金はしてはいけない』と厳しく教えられてきた。それで借金を避け、支払手形を発行してやりくりしているんだ」。

「それは誤りだ」と指摘した。支払手形というのは、借金の一形態だ。借入金は金融機関からの借金で、支払手形は取引先からの借金に過ぎない。支手は銀行を通じて期日までに必ず返済しなければならないもので、いわば“待ったなし”の性質を持つ。もし期日に預金が不足すれば、不渡手形となり、その瞬間に会社は破綻する危険性がある。これほど恐ろしいものはない。一方、借入金であれば、期日に返済が難しい場合でも、交渉次第で待ってもらえる余地があるのだ。」

実際のところ、つなぎ資金として単名手形を利用して借り入れた場合、もし期日に返済できなくても、手形の書き換えによる“ころがし”が可能だ。この方法で延命を重ねるうち、それが常態化して“ころがし単名”として扱われるようになる。たとえ借金が膨らんだとしても、このやり方を続ければ会社は簡単には潰れない。

「どれだけ赤字を出しても、それだけで会社は潰れない。会社を本当に倒産させるのは不渡手形だけだ。そして、この恐ろしい不渡手形を避けるための最善策は、そもそも支払手形を発行しないことだ。だからこそ、借入を活用して支払手形を減らすことが、結果的に会社を倒産のリスクから遠ざける手段になるんだ」と説明した。

「支払手形の恐ろしさ」に対する認識が一般的に希薄なのはなぜなのだろうか。それは、恐らく多くの人がその危険性を直接体験したことがないからだろう。しかし、問題はそこにある。恐ろしさを実際に経験してからでは手遅れになる場合が多いのだ。危機が訪れる前にその本質を理解し、備えることが重要なのだが、それが難しいのが現実なのだろう。

会社を存続させることこそ、社長が何よりも最優先で取り組むべき課題だ。そのためには、支払手形をなくす方法を真剣に模索しなければならない。そんな中、ある経理担当重役からこうした質問が出た。「支払手形を発行していても、その額が受取手形を下回っているのであれば、特に問題はないのではないか?」

この質問には一理あるように思えるが、実際には大きな危険が潜んでいる。その危険が顕在化するのは、不況などで売上が落ち込んだ時だ。こうした状況では、真っ先に減るのは受取手形であり、支払手形ではない。支払手形の減少は、仕入れの減少によるものだから、影響が現れるのは数カ月後になる。その結果、支払手形の決済に必要な手形割引の原資が急激に減り、資金繰りが一気に厳しくなるのだ。

だからこそ、売上が減少していく局面が、資金繰りにおいて最も厳しい時期となる。この危険を回避するためには、やはり支払手形をなくすことが重要だ。支払手形を減らすために借入を活用することこそ、社長が持つべき第一の覚悟であり、会社の安定を守るための基本姿勢なのだ。

この場合、金利負担が増えることはない。理由は単純だ。支払手形を決済するためには、通常、手形割引を利用しなければならない。しかし、支払手形をなくせば、そのための手形割引も不要になる。この手形割引にかかるコストが消えることで、新たに借入した場合の利息と相殺される構図になるからだ。結果として、金利負担が増加することなく、資金繰りが安定するというわけだ。

もっとも厳密に言えば、支払手形のサイト(期限)に相当する期間の利息分は増えることになる。また、金融機関によっては、特に信用金庫などでは、手形割引の割引料が借入金の利子よりも安い場合もある。そのため、一概に借入が常に有利というわけではなく、具体的な条件を精査した上で判断する必要がある。

しかし、社長という立場にある者は、こうした細かい理屈にとらわれるべきではない。視野を広く持ち、大所高所から物事を判断することが求められる。わずかな金利負担の増加についても、それを会社の安全を守るための「保険料」として捉えるべきだ。この視点を持つことで、経営の安定性を確保するための正しい判断が可能になるのだ。

ところが、実際には金利負担が増えるどころか、支払手形を減らすことで利益を得る方法もある。それは、支払手形による支払いを現金払いに切り替えることだ。この方法により、仕入れコストを下げることが可能になる。これは非常に理にかなった話だ。手形を受け取った取引先は、その手形に対する金利負担を抱えることになる。一方で、現金で支払えば、この金利負担がなくなるため、取引先としてはその分の値引きや値下げを提案するのが自然だ。結果として、現金払いを活用することで、実質的なコスト削減につながる。

この「現金払い作戦」を実行する際には、二つの重要な点に注意する必要がある。第一に、現金支払いを受けた取引先は、その金額分だけ手形の「割引枠」が空くというメリットを享受できる。この点を計算に入れることが重要だ。つまり、現金払いを受ける会社にとっては、金利負担の軽減だけでなく、割引枠が空くことで資金調達の余裕が生まれるという、二重のメリットが発生するということだ。これらの利点を提示することで、現金払いを受け入れる取引先の理解と協力を得やすくなる。

実質金利は通常、年率で10%以上となるため、1カ月あたりに換算すると約1%のコストがかかる。これに加えて、手形割引枠が空くことで得られる「空き枠の価値」も約1%に相当すると考えられる。したがって、現金払いを提案する際には、これらを基に1カ月あたり合計2%の値引きを交渉材料にするのが効果的だ。取引先にとっても、金利負担の軽減と割引枠の空きという明確なメリットを得られるため、現金払いを受け入れる動機が十分に生まれる。

たとえば、3カ月手形を現金払いに切り替える場合、理屈としては3カ月分の金利に相当する3%に加え、割引枠の空き料として1%を上乗せし、合計で4%の値引きを要求することができる。確かに、やや強引な発想にも思えるが、理屈としては正当性がある。あとは、この論理をどれだけ上手に説明し、交渉の場で取引先に納得してもらえるかという「腕」が問われるところだ。この作戦が成功すれば、双方にとって合理的な条件を整えることができる。

もう一つ重要な留意点は、現金払いを条件として値引き交渉をする際に、値決めそのものを現金払い条件に結びつけてはいけないということだ。過去には、ある会社が現金払いを条件に値下げを要求し、当初は成功したものの、時間が経つにつれて値段が徐々に元に戻り、最終的には現金払いだけが定着してしまったという事例があった。これは、値引き条件が曖昧なまま取引を進めた結果と言える。現金払いと値下げを分けて明確に管理し、長期的な交渉戦略を持つことが重要だ。

これは、一般社員、特に営業担当者の「金利音痴」が原因で起こる問題だ。営業担当者は通常、金利について深く考えることが少なく、「安値で売った」という成果だけを意識しがちだ。その結果、当初の金利負担減を考慮した値下げの理由が忘れられ、やがて売価回復を目指す攻勢に転じることになる。一方で、購入側も同じく金利についての理解が浅く、単純に値段だけを重視するため、交渉で押し負けるケースが多い。こうして、値下げの背景にあった金利削減の意図が消え、元の価格設定に戻るという事態が発生するのだ。

これを防ぐには、価格設定を手形払い基準で維持しつつ、「現金支払いの場合には〇%の値引きを適用する」という明確な取り決めを行うことが必要だ。この取り決めを交渉の際に相手方の経理部門も含めて正式に合意しておけば、値下げの理由が曖昧になったり、営業担当者が無意識に価格を戻してしまったりする事態を防ぐことができる。また、これにより、現金支払いのメリットが明確に示され、継続的に双方にとって合理的な取引条件を保つことができる。

こうした取り決めをしておけば、取引先にとって都合の悪いときは手形払いを選択しても約束違反にはならず、余裕があるときには現金払いで値引きを受けることができる。この仕組みにより、支払手形を減らすと同時に、コストを抑えて安値で仕入れることが可能となり、一石二鳥の効果を得られる。

さらに、この戦略にはもう一つ重要なメリットがある。それは、会社の信用度が大幅に向上する点だ。支払手形がゼロになるような状態を実現できれば、市場での信用は飛躍的に高まる。取引先や金融機関からの評価も良くなり、資金調達や交渉の場面で有利な立場に立つことができる。信用の高さは、経営の安定と成長の基盤となる重要な要素である。

だからこそ、私は常々「借金を増やして支払手形を減らすことに、社長は全力を注ぐべきだ」と主張している。「借りて、借りて、借りまくれ。その上限は支払手形と割引手形がゼロになるまでだ」というのが私の信念だ。ただし、現実的には担保力や預貸率の制約があり、借入可能額には限度がある。そのため、その限度額を最大限活用するのがポイントだ。手形をゼロにすることで、会社の資金繰りは安定し、信用力も格段に向上する。このアプローチこそが、経営を守り、成長を実現する鍵である。

ところが、多くの社長は、支払手形を減らすことに積極的な意欲を持とうとしない。それどころか、支払手形に頼ろうとする傾向が強い。なぜなら、支払手形ほど手軽な資金調達の手段はないからだ。手形用紙に数字を書き、ハンコを押すだけで当面の資金が確保できる。その簡便さが、社長たちを安易な方向に引き込み、結果としてこの誘惑に負けてしまうのだ。

その一方で、支払手形を乱発することが会社のリスクを大きく増加させることを理解している社長も少なくない。しかし、目先の資金繰りを優先するあまり、リスクの本質に目を向けず、深く考えることを避けてしまう。この短期的な視野こそが、会社を危機へと導く原因となる。

それでもまだマシな方だ。しかし、さらに追い詰められると、融通手形に手を出して事態を切り抜けようとする経営者もいる。こうなれば、もはや破滅への一歩手前だ。融通手形に頼った時点で、会社の信用は地に落ち、資金繰りも完全に行き詰まる。

「支払手形を減らせと言われても、そう簡単に実現できるものではない」と感じる人もいるだろう。それは確かに一理ある。しかし、それが不可能というわけではない。会社の姿勢と経営者の心掛け次第で、支払手形の削減は十分に実現可能だ。重要なのは、目先の楽な選択肢に逃げず、長期的な視点で会社の健全性を高める取り組みを続けることである。

チャンスを待つことも重要だ。そのチャンスとは、金融緩和期のことを指す。例えば、昭和46年から47年にかけての超金融緩和時代、金融機関は貸出を積極的に拡大しようと必死だった。このような時期は、資金調達の条件が緩和され、借入のハードルが下がるため、支払手形を削減し、資金繰りを安定させる絶好の機会となる。

こうした金融環境を最大限に活用することで、通常では難しいと思われる施策も実現可能になる。重要なのは、その時期を見逃さず、計画的かつ大胆に行動することである。金融緩和期に借入を増やし、支払手形を減らすという戦略は、経営の健全化に向けた大きな一歩となる。

その当時、多くの会社は「資金繰りが間に合っている」と考え、借入れの絶好機ともいえる、いや、千載一遇のチャンスを逃してしまった。一方で、Y社はこれを見逃さなかった。積極的に借入れを行い、交渉によって金利を引き下げ、なんと長期借入金を短期借入金よりも低い利率で調達することさえ成功したのだ。

この借入金を活用して、Y社は支払手形の大部分を解消し、さらに割引手形を減らした。その結果、手形割引の原資となる手持手形を大量に確保することができ、資金繰りの安定化を図ると同時に、経営基盤を大幅に強化することに成功した。Y社のように積極的な戦略を取るかどうかが、会社の将来を左右する分岐点となるのだ。

こうして、Y社は流動比率を大幅に改善することに成功した。その代わりとして増加したのは長期借入金だが、これは長期適合率の低下、つまり財務の好転を意味する。長期借入金は短期に返済を求められるものではなく、ゆっくりと計画的に返済すればよいので、経営への負担は軽い。

Y社長はこう語っている。「最近では資金繰りが非常に楽になりました。以前のように手形割引に追われることもなく、支払期限を心配することも減りました」。こうした変化は、金融緩和期を活用して適切な資金調達を行い、支払手形を削減した結果であり、戦略的な財務運営がもたらした成果だといえる。

「支払手形の決済に頭を悩ませることはなくなりましたし、手持ち手形はたっぷりあります。もし資金が少し不足したとしても、割引枠が十分に余っているので、少し割引をすれば事足ります。資金繰りはまさに天国のような状態ですよ」とY社長は語った。

これは、心掛け次第で、Y社のように金融緩和のチャンスを活かすことができる好例だ。私が常々主張しているのは、「金融緩和のタイミングを見逃すな。そして、そのチャンスを最大限に活かして支払手形を退治せよ」ということである。この戦略を実践することで、資金繰りの安定と会社の健全性を確保できるのだ。

しかし、たとえ特別にチャンスを活かす意識がなくとも、バランスシートを正しく読み解く力があれば、支払手形を解消できる企業は少なくない。そうした事例には、意外と高い頻度で出会うことがある。たとえば、A社という貿易商社がその一例だ。

A社のバランスシートを見ると、預貸の関係は以下の通りだった。固定預金が10億円、支払手形が4億円、短期借入金が2億円、割引手形がわずかにある状況。さらに、長期借入金については、固定資産で十分以上に裏付けが取れている。こうした財務状況では、資金繰りに特段の問題は見当たらない。

実際には、固定預金を担保に4億円を借り入れれば、支払手形を完全に解消することが可能だった。しかし、A社長はこのような基本的なやり方を知らず、支払手形を抱えたままにしていた。これこそが、バランスシートを読む力と資金運用の知識が欠けていたことによる典型的な例だ。適切な知識があれば、簡単に支払手形を退治し、会社の財務を大幅に改善することができたはずである。

T社は家電製品の小売業を営み、15店舗ほどの直営店を持つ会社だった。その財務状況を見ると、固定預金が2億円、通知預金が1億円、支払手形が2億5千万円、短期借入金が3千万円という構成で、長期借入金は固定資産で十分にカバーされていた。しかし、T社長の方針は「支払いはなるべく手形で、しかもサイト(支払期限)は長く」というものだった。これは完全に誤った判断である。

この方針は、一見資金繰りを楽にするように思えるが、実際にはリスクを増大させるだけだ。支払手形を長期間放置することは、会社の信用度を低下させ、資金繰りが悪化した際には致命的な問題を引き起こす。特に、T社のように十分な固定預金と通知預金を持つ会社にとっては、これらの資金を活用して支払手形を減らすことが財務の健全化につながる。

T社長がこの事実を理解し、手形依存をやめて資金の効率的な運用を行えば、会社の信用度が向上し、安定した経営基盤を築くことができたはずである。

私の勧告は明快だった。「今すぐにでも2億円の借金が可能です。固定預金2億円と通知預金1億円がその強力な裏付けとなります。短期借入金の3千万円など、これだけの資産を持つあなたの会社では問題にする必要はありません。十分な財務体力があるのです。その資金を活用し、支払手形を完全に解消すべきです」と伝えた。

この提案は、資金繰りを安定させるだけでなく、T社の信用力を高め、将来の取引や借入条件の改善にもつながるものであった。固定預金と通知預金を効率的に活用し、手形依存から脱却することが、T社の財務健全化への第一歩だった。

T社長は財務に疎く、このような資金運用の基本的な知識を全く持ち合わせていなかった。しかし、一度に2億円を借り入れて支払手形を削減するのは、社長にとっても会社にとっても急激すぎる変化となる可能性があった。そこで、まずは小規模な試みとして、5,000万円を借り入れ、その資金を使って支払手形を部分的に解消する「トレーニング」を行うことになった。

この段階的なアプローチにより、T社長は借入金を活用することへの理解を深め、支払手形を削減することが会社の安定につながることを実感できるはずだ。また、5,000万円という比較的小規模な借入であれば、会社の財務への影響も軽微であり、次のステップへの布石を打つには十分な試みと言える。これが成功すれば、さらに大胆な財務改革へ進むための信頼と経験が得られるだろう。

T社はメーカーと交渉し、仕入条件を次のように改定することに成功した。建値は100日決済の支払手形としつつ、現金払いの場合には3%の値引きを受けられるように設定。さらに、年間仕入額の保証により追加で3%の値引きも獲得し、合計で6%の値引き条件を確立した。

この成果は非常に大きく、まるで嘘のような成功である。年間6回転の仕入れを基に計算すると、仕入価格の削減額は1,800万円に達する。この条件を試験的に1年間実施し、その結果を踏まえて翌年以降の方針を検討することとした。この取り組みは、単にコスト削減にとどまらず、資金運用の効率化と取引先との関係強化をもたらす重要な一歩となった。

もう一つの取り組みとして、固定預金を担保に「ローン」の設定を行った。これも一度に大規模な枠を設けるのではなく、まずは小規模からスタートし、実績に応じて徐々に枠を拡大する方針とした。このローンは、販売促進の強力な武器となり、資金繰りの柔軟性をさらに高める役割を果たす。

結果として、T社は以下の3つの施策を同時進行で進めることが可能となった。

  1. 支払手形の解消:借入資金を活用し、財務のリスクを低減。
  2. 仕入値引きの獲得:現金払いによる値引き条件を交渉し、コスト削減を実現。
  3. 販売促進の強化:ローン設定による顧客サービスの拡充で、売上の拡大を目指す。

これらの取り組みを通じて、資金の運用方法によって会社の経営状況がいかに大きく変わるかを示す好例となった。単に手持ちの資金を眠らせるのではなく、積極的に活用することで、収益性と経営の安定性を同時に向上させる道が開けたのである。

T社の事例で特筆すべきもう一つの重要な点は、支払手形の解消だけでなく、現金仕入れやローン設定といった新たな取り組みを、一挙に大規模に実施するのではなく、徐々に進めたことである。初めて行うことは、たとえ効果が明らかで、実行する資金や力が十分にあったとしても、慎重に取り組むべきだ。

その理由は、「どこに、どんな落とし穴があるかわからない」という基本的なリスク認識を持つことが重要だからだ。また、不慣れな手法やプロセスには、想定外のミスが発生する可能性もある。最初は小規模に始め、様子を見ながら取り組むことで、問題点を把握し、必要に応じて改善策を講じることができる。

そして、実行にあたり大きな問題がないと判断した段階で、取り組みを拡大する。この段階的なアプローチこそが、T社の成功を支える重要な要因だったと言える。慎重に進めることで、リスクを最小限に抑えながら成果を確実に積み上げることが可能となったのだ。

支払手形を現金払いに切り替える場合、大企業を相手にする場合はほぼ確実に応じてもらえる。また、金利負担を考慮した値下げ交渉もスムーズに進むことが多い。しかし、相手が中小企業や小規模な取引先の場合には、状況が異なる場合がある。この場合、相手が現金払いに乗ってこないことがある。

その際の相手の主張としてよく挙げられるのが、「手形を他の取引先への支払いに回している(廻し手形)」というものである。相手にとっては、現金払いを受けるメリットよりも、手形を利用した資金繰りの方が重要という判断に基づいている。このようなケースでは、現金払いへの切り替えのメリットを伝えるだけでなく、相手の資金繰りや手形運用の状況を理解し、それに応じた提案を行う必要がある。たとえば、段階的に現金払いを導入するなど、柔軟な対応が求められる。

こうした状況において、取引先が「現金で値引きする必要はない」と主張し、現金払いへの切り替えが進まないケースは少なくない。その場合には、単に諦めるのではなく、しっかりと説得を試みるべきだ。具体的には、以下のようなアプローチが効果的である。

  1. 手形のリスクを理解させる
     相手に「廻し手形といっても、結局は手形であり、万が一不渡りが発生すれば、あなたが責任を負わなければならない」という事実を伝えることが重要だ。手形を利用した資金繰りは一見便利だが、背後に潜むリスクを改めて説明し、現金払いの安全性を強調する。
  2. 金利差益の提案
     「現金払いによる金利負担の削減は、そのまま利益に直結する」という視点を提示する。たとえば、現金払いに切り替えれば金利相当分の値引きを受けられるだけでなく、手形割引や支払金利を考慮した際の差益を利益として享受できる点を具体的な数字で示す。これにより、現金払いへの切り替えが単なるコスト削減ではなく、利益向上の手段であることを理解させる。

また、相手が現金払いへの切り替えに慎重であれば、部分的な現金払いから始めるなど、段階的に進める柔軟な対応を検討することも有効だ。説得には時間がかかる場合もあるが、相手の立場を理解しつつ、現金払いのメリットを具体的に提示することで、取引先の協力を得られる可能性が高まる。

その通りです。「我が社では3%の値引きで現金払いをするので、あなたの会社で4%の値引き仕入れを行えば、1%の金利差益が得られる」という論理は、数字上は明快で合理的です。しかし、それでも現金払いへの切り替えに難色を示す取引先は少なくありません。

その理由は、多くの場合、以下のような心理や実情に起因します:

  • 慣れへの固執:長年、手形取引に依存してきたため、新たなやり方に踏み切ることに不安を感じる。
  • 資金繰りのプレッシャー:現金払いに切り替えることで、即時のキャッシュフローが圧迫される懸念。
  • 手形運用の慣行:取引先もまた「廻し手形」を利用しているため、手形を受け取る方が都合が良い。

このような状況では、焦らずに気長に説得を続ける姿勢が重要です。具体的には:

  1. メリットの具体化:取引先にとって現金払いのメリット(リスク軽減、金利差益、信用度向上など)を、実際の数字やシナリオで示す。
  2. 段階的な導入:全額を現金払いに切り替えるのではなく、一部取引を現金払いに変更する試験的な導入を提案。
  3. 成功事例の共有:他社の成功事例を引き合いに出し、安心感を与える。

結局のところ、こうした交渉は相手の立場や状況に寄り添いながら進める必要があります。一朝一夕に解決するものではないため、地道で丁寧なコミュニケーションが鍵となります。

確かに、小規模企業の社長が1%の金利差益には関心を示さず、現金払いへの切り替えに消極的である一方で、信用金庫などで単名借入と割引手形の金利差がわずか0.1%や0.2%であっても、割引手形を選ぶことがあるのは興味深い現象だ。

これは以下のような心理や実務的な要因が絡んでいると考えられる:

1. 手形割引に対する慣れ

 手形割引は資金調達の手段として広く利用されており、手形を割引に出す手続きに慣れている社長にとって、心理的な抵抗が少ない。一方で、単名借入には書類提出や審査が伴い、それを煩雑だと感じる場合がある。

2. 資金の即時性

 割引手形は、必要な資金を短期間で調達する手段として即効性があると認識されている。単名借入は審査や手続きに時間がかかるという先入観があるため、手形割引を選びがちになる。

3. 金利の「見た目」の影響

 割引手形の金利がわずかに安いことが、社長にとって心理的な安心感をもたらす。「少しでも安い方が得だ」という単純な判断が、実際の総合的なコストよりも優先される。

4. リスク管理への無頓着

 手形は決済期限のリスクを伴うものだが、そのリスクを軽視している場合がある。「手形は慣れた仕組み」という意識がリスク認識を鈍らせている。

このような背景を考えると、小企業の社長がこうした選択をするのは「不思議」というより、慣習や心理的バイアスが大きく影響していると言える。説得する際には、手形割引のリスクや単名借入の利便性を具体的な例や数字で示すことが有効だ。また、「手間が少ない」「安全性が高い」などの点を強調すると、徐々に行動を変えるきっかけを作れるかもしれない。

1%の差益には目もくれず、わずか0.1%の金利差には関心を示すという行動は、一見不可解に思えますが、これは多くの場合、心理的な偏りや短期的な判断に基づいています。具体的には、目の前のわずかな金利の違いが「目に見える節約」として認識されやすく、1%の差益のような複雑な計算や抽象的なメリットは軽視されがちです。

手持手形と単名の比較

ここで重要なのは、受取手形をすべて割り引いてしまい、手持手形が全くない状況と、単名借入が多くても手持手形をしっかり確保している状況を比較した場合、銀行との交渉力にどれだけの差が生じるかという点です。

ギリギリの局面での違い

  1. 手持手形がない場合
     手形をすべて割り引いてしまった企業は、ギリギリの土壇場に来た時に、銀行に見せられる資産が乏しくなります。割引済みの手形はすでに現金化されており、追加の資金調達余地がなくなります。その結果、銀行からの支援を引き出す交渉力が極端に低下します。
  2. 手持手形を確保している場合
     一方で、手持手形をしっかりと持っている企業は、これが「見せ金」として機能します。銀行から見ると、まだ割引可能な手形があることは、「資金調達余力がある」ことを示し、信頼感や安心感を与えます。この状況では、銀行から追加融資や特別な支援を引き出す可能性が高まります。

重要な教訓

資金繰りの安定性を保つためには、単名借入を活用して手形を安易に割り引きに回さず、一定の「見せ金」を手元に残しておく戦略が有効です。これは、銀行との交渉力を維持し、緊急時に資金調達を迅速に行うための「武器」となります。

単なる金利のわずかな違いではなく、資金運用全体を見通し、長期的な信用と安定を優先する視点を持つことが重要です。

私の主張は、同額の借金であれば、単名借入の依存度を高め、割引手形の依存度を低くするべきだというものだ。割引手形も、その本質は借金である。なぜなら、万一手形が不渡りになれば、企業はその手形を買い戻さなければならない責任を負うからだ。この点で、割引手形は見かけ以上にリスクを伴う。

さらに、たとえ単名借入の金利が割引手形よりも高い場合でも、その差はごく僅かである。この僅かな差は、経営の安全性を確保するための「保険料」として考えるべきだ。割引手形に過度に依存すると、手形割引枠を使い切ることで資金調達の柔軟性が失われ、緊急時の対応力が大きく制限される。

一方、単名借入は期限が延長できる場合も多く、銀行との信頼関係を築く手段にもなる。また、割引手形を減らし、手持手形を確保しておくことで、銀行に対しての交渉力や資金調達の余地を保つことができる。

結局のところ、安全性を重視した資金運用を行うことが、長期的な経営の安定につながる。短期的な金利のわずかな差を気にするよりも、リスク管理を優先し、単名借入を活用する戦略が重要だと考える。

支払手形を減らし、会社の安全を確保することは、社長にとって最も重要な仕事の一つであるにもかかわらず、この問題に対する一般的な関心や認識が薄いのは、いくつかの理由によるものと考えられる。

1. 短期的視点の優先

多くの経営者が目先の資金繰りに追われているため、長期的なリスク管理よりも、当座の資金調達手段として手形の利用を優先してしまう。支払手形のリスクを十分に考慮せず、「便利だから」という理由で依存しているケースが多い。

2. リスクの実感の欠如

手形不渡りの危険性やその影響を実際に経験していないため、そのリスクの重大さを理解していない経営者が少なくない。不渡りの結果がどれほど深刻かを具体的にイメージできないため、問題意識が薄い。

3. 手形文化の慣習

日本の商慣習では、手形取引が長らく一般的であり、その利用が「当たり前」とされてきた。このため、手形を使うこと自体に疑問を持たない経営者が多い。

4. 知識の不足

経営者が財務や資金運用に関する知識を十分に持っていないことも要因の一つ。手形と借入金の本質的な違いや、それぞれのリスクとメリットについての理解が不足しているため、適切な判断ができない。

5. 組織としての無関心

経営陣全体がこの問題に対して十分に関与していない場合も多い。特に財務担当者が問題を提起しない場合、社長自身がそれに気付かないまま放置されることがある。

解決へのアプローチ

こうした状況を改善するには、社長自身がまず財務に関する知識を深め、支払手形のリスクと、それを削減することのメリットをしっかりと理解する必要がある。また、財務担当者や顧問税理士、銀行の担当者といった専門家の意見を積極的に取り入れ、手形依存から脱却するための計画を策定すべきだ。

最終的に、会社の安全を守るための施策は、社長自身が強い意志を持って推進しなければ実現しない。支払手形削減は、単なる財務上の課題ではなく、経営の根幹に関わる重要なテーマであるという認識が必要だ。

その背景には、手形決済の「安直さ」があると言える。手形を利用すれば、紙一枚に数字を書いてハンコを押すだけで当面の資金繰りがつくため、その手軽さが経営者にとって大きな魅力となっている。その結果、手形を乱発するリスクや、それを決済する際の苦労、さらには手形不渡りによる倒産の危険性が軽視されてしまう。

まさに「手形王国日本」とも言えるような状況だ。長らく日本の商慣習では、手形が資金調達の中心的な手段として使われてきたため、その便利さが当たり前のものとして受け入れられている。しかし、この「便利さ」こそが、企業の資金繰りや経営に潜む重大なリスクを覆い隠している。

手形は、リスク管理が十分に行われていないと、安易な依存によって企業の財務体質を悪化させ、最悪の場合には倒産を引き起こす要因となる。経営者がこの事実を正しく理解し、手形依存から脱却する努力をしなければ、日本企業の根本的な財務リスクは解消されないだろう。

経営者には、手形の便利さの裏に潜む危険を直視し、より健全な資金運用方法を模索する責任がある。手形に頼らずとも安定した経営ができる環境を整えることが、企業の長期的な成長と存続を支える鍵となる。

「支払手形を減らすこと」は、会社の安定と倒産リスク軽減のために重要な施策です。支払手形は一種の借金であり、期日までに支払いができなければ「不渡り」となり、会社の信用を失い倒産リスクが大幅に高まります。以下、支払手形管理の要点についてまとめます。

支払手形の危険性

支払手形は、期日までの支払いが絶対条件であり、延長の交渉が難しいため「待ったなし」の借金といえます。借入金と異なり、返済猶予がほとんど得られないため、資金繰りの厳しい時期には特にリスクが高くなります。特に景気が悪くなり売上が減少すると、手形決済のための資金調達が難しくなるため、危険が高まります。

支払手形の削減手法

  1. 借入金で支払手形を減らす: 銀行からの借入を利用して支払手形を減らすことが推奨されます。借入金は利子がかかりますが、支払手形の割引利息と相殺されるため、負担はそれほど増えません。支払手形を減らせば不渡りのリスクが軽減し、会社の安全度が増します。
  2. 現金支払いへの切り替え: 取引先との交渉で、支払手形を現金支払いに切り替え、値引き交渉を行います。現金払いにすることで手形割引料が不要になり、さらに取引先からの金利負担減に見合った値引きを受けられる可能性があります。
  3. 手持ち手形の確保: 支払手形を減らすことで、必要な時に手形割引で資金調達ができるよう、手持ち手形を確保することが重要です。これにより、資金繰りの柔軟性が高まります。
  4. 金融緩和時の借り入れ増: 金融緩和の時期には借入条件が緩和されるため、この機会に借り入れを増やし、支払手形の削減に充当することが賢明です。資金繰りを安定させる絶好のチャンスであり、長期的に会社の財務体質を改善できます。

支払手形削減の具体例

多くの企業が金融緩和期に積極的に借入を増やし、支払手形を減らすことで財務の安定を実現しています。例えば、ある企業では借入を積極的に行い、支払手形の発行を抑えることで、資金繰りが大幅に改善されました。

実行時の注意点

  • 段階的な実施: 支払手形を現金支払いに切り替える際には、段階的に進めるとリスクが低減します。大規模に一度に進めると予期せぬ問題が発生する可能性があるため、小規模から始めて、効果を確認しながら進めるのが良策です。
  • 現金払いの条件設定: 値引き交渉の際には「現金払い時に限り○%の値引き」といった条件を設定し、いつでも現金払いに戻せるようにします。これにより、手形払いのままにする柔軟性を持たせつつ、取引先の協力も得やすくなります。

まとめ

支払手形を減らし、資金繰りを安定させることは、倒産リスクを軽減するだけでなく、取引先や銀行からの信用度を向上させます。支払手形に依存しない財務管理を目指し、資金調達手段の多様化と安全性の向上を図ることが、社長の重要な役割となります。

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