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長期資金運用計画の作り方

G社の事例を挙げてみよう。長期的な資金運用の計画に求められるのは、資金の使用目的とその調達方法に関する情報だ。通常は、長期の利益計画に加えて、必要な長期借入金とその返済スケジュールが含まれる。

これに加え、増資の計画や固定資産の取得および売却の見込み額なども含まれる。一方で、α社のケースでは、必要となるのは長期利益計画と長期借入金返済計画の二点に絞られる。α社はビル管理会社であり、運転資金を計画する必要がないため、注目すべきは固定資金に限られる。

利益計画と既存の借入金返済計画は、資金運用計画を策定する前に立てるべきものだ。しかし、利益計画は新たな資金運用計画によって生じる新規借入金の制約を受けるため、その内容が逆に規定される側面を持つ。

新規借入金の金利が変動すれば、それに伴って経常利益も変動し、法人税なども増減することになる。そして、新たに発生した借入金は、そのまま長期借入金の返済計画に組み込まれる流れとなる。ここで見えてくるのは、「つくられるものが、つくるものを規制する」という構図だ。どこか西田哲学を思わせるような話になってきた。

まずは、計画可能な数値を五年間分記入することが基本となる。利益計画においては、五年間の収入、人件費、経費、減価償却費が対象となる。一方、長期借入金返済計画では、最初に借り入れた2億円とその返済スケジュールを具体的に組み込む形となる。

初年度の営業外収益は仮にゼロとして扱い、営業外費用には既に発生している2億円分のみを計上する。この方法で仮の経常利益を算出しておく。後に修正を加えるものの、その変動幅はごくわずかだ。この仮の経常利益がなければ、初年度の資金運用計画が複雑化してしまうため、あらかじめ簡易的な形で設定しておくことが重要となる。

以上の二つのデータを基に、長期資金運用計画の初年度分が作成される。この計画において最後に記入される項目は、当然ながら長期借入金だ。その金額は、不足資金を補うための固定預金に、ある程度の固定資金の余裕を見込んだ額となる。初年度の段階で利益を計上しつつも、これだけの新規借入が必要になる点がこの計画の特徴と言える。

この新規借入金は長期借入金返済計画に組み込まれ、その返済スケジュールが設定される。金利については、借入が期の中頃に行われると仮定し、6カ月分の金利を計算する形で対応すれば十分だ。これにより、計画の精度を保ちながら効率的に進めることができる。

このプロセスを通じて、固定預金から得られるわずかな受取利息(営業外収益)と、支払利息(営業外費用)が計算される。これらの数値が利益計画の初年度に対応する欄に記入されることで、ようやく初年度の経常利益を正確に算出することが可能となる。

算出された経常利益を初年度の仮の経常利益と置き換え、再度資金運用計画を調整する。この修正は、主に固定資金余裕の金額にわずかな変更を加える形で行われ、それをもって最終的な計画が完成する。

修正された初年度の経常利益を基に、翌年度の法人税、事業税、および予定納税が計算される。それらの数値が第二年度の資金運用計画に反映されることで、次年度の計画が具体化される流れとなる。

同時に、第二年度の利益計画が策定される。その手順は以下の通りだ。まず仮の経常利益を算出し、それを基に資金運用計画を作成。その後、長期借入金返済計画を立て、新たに発生する営業外収益と費用を計算する。次に、第二年度の経常利益を修正し、それを反映させた資金運用計画を再調整。最後に、法人税や予定納税額を算定する。こうした一連のプロセスを第二年度以降も繰り返し、最終的に五年間の資金運用計画が完成する仕組みだ。

G社の例は固定資金のみを対象としているため、比較的シンプルなケースだ。この例は、資金運用計画の作成手順を説明する目的で、あえて簡単なモデルを選んだものである。しかし、実際には多くの企業が物品の製造や販売などの事業を展開しており、その場合は固定資金だけでなく運転資金も同時に計画に含める必要があるのが一般的だ。

具体例として、レストラン事業を営むY社を取り上げてみる。この事例は「第26表」の長期事業構想書を基にしている。この構想書には、長期資金運用計画を策定する上で必要なすべてのデータが含まれている点に注目してほしい。長期事業構想書の数字を活用することで、Y社の資金運用計画を効率的に組み立てることが可能となる。

「第27表」から「第32表」までが長期資金運用計画を示し、「第33表」は長期借入金返済計画に対応している。また、「第34表」から「第39表」までは長期目標バランスシートが示され、「第40表」には長期目標財務比率が記載されている。これらの表は、長期的な財務計画や経営目標を体系的に整理し、具体化するための基盤となる。

長期資金運用計画表は、1年ごとに作成し、5年間の計画であれば合計5枚になる。このように年度ごとに分けたフォームの方が、計画を立てる際に分かりやすく、実務的にも扱いやすい形式と言える。

一覧性を持たせたい場合は、巻末にある「第41表」のような形式を採用するとよい。この形式を用いれば、長期事業構想における「何が、どのようになるのか」を把握するために必要な情報が、ほぼ完全な形で得られると言っても過言ではない。

これにより、初めて長期計画や構想についての総合的な検討が可能となる。ただし、読者の中には「五年先までこのような計画を立てる必要があるのか?」という疑問を抱く方もいるかもしれない。この点について、ここで少し考えてみたい。

Y社長が最も知りたかったのは、やはり資金に関する情報だった。この長期構想を通じて、いつ、どれだけの借入が必要になるのか、年度ごとの借入金総額がどれくらいになるのか、さらに毎年どれだけ返済すればよいのかを明確にする必要があった。それらの数値を把握することで、もし計画が自分の力量を超えるようであれば、事業規模を縮小するなど、現実的な調整を行わざるを得ないからだ。

一度事業経営に乗り出したからには、持ちうるビジョンをどんな困難を乗り越えてでも実現したいと考えるのが、経営者としての本能だろう。そのビジョンを形にすることこそが、生き甲斐であり、自らの存在意義を感じる瞬間なのだ。

そのビジョンが実現可能かどうかは、他の要素がどれだけ順調であっても、資金が続かなければ全てが行き詰まってしまう。だからこそ、資金に関する具体的で正確な情報こそが、Y社長にとって最も必要であり、最も欲しかったものだったのだ。

Y社長の切実な願いを満たしてくれたのが、この長期資金運用計画だった。この計画を、私の指導のもとでY社長自身が手を動かし、自ら作り上げたのである。その過程こそが、Y社長にとって確信と手応えを得る重要なステップとなった。

完成した自らの労作を見直しながら、Y社長は私にこう語った。
「一倉さん、私は自分の構想に自信を持って取り組めます。この程度の借金であれば、借入も返済もやり遂げられるという確信があります。」
その言葉には、自分で計画を作り上げたからこその強い意志と手応えが感じられた。

「五年先のこと」まで考える必要があるのは、設備投資資金が常に長期的に会社の資金繰りに重大な影響を与えるからだ。この性質ゆえに、長期的な資金運用計画を立てることは避けて通れない重要な課題となるのである。

もちろん、これからの五年間には、長期計画に盛り込むことができないさまざまな変動が起こるのは明らかだ。重要なのは、それらの変動が長期資金運用計画にどのような影響を及ぼし、どの程度計画を狂わせる可能性があるかをあらかじめ考慮しておくことにある。

世の中が根底から覆るような大変動が起これば、どれほど綿密な計画を立てていても通用しないのは当然だ。しかし、「石油ショック」程度の変動であれば、長期資金運用計画を根本的に覆すことは難しいだろう。もちろん、その影響を反映させるための修正は必要になるが、計画の基本構造自体は維持できるはずだ。

さらに言えば、景気変動による経常利益の増減は、長期資金運用計画にとってはさほど重大な問題ではない。計画上の利益と実績との差額のうち、資金運用に影響を与えるのはその半分程度に過ぎないからだ。そのため、この影響分だけを別途計画に盛り込めば十分である。しかも、その影響は全体の所要資金から見ればごくわずかなものに過ぎない。

もし別途の資金運用が難しい場合は、その分の設備投資を後回しにすればよい。このような状況で適切な対策を導き出すためにこそ、長期資金運用計画が重要な役割を果たす。
「資金運用計画のこの部分がこう狂った。その対策として、この部分をこう調整する」というように、計画に基づいて極めて明快で具体的な解答を導き出すことができる。それが長期資金運用計画の最大の価値である。

「計画」というものは、計画通りに進まない時にどう対応すべきかを指し示してくれるものだ。むしろ、計画通りにいかない状況こそが、計画の真の価値を発揮する場面である。この点を理解することが、計画を活用する上で最も重要な考え方だといえる。

前述した「経営計画篇」で触れたように、長期経営計画においては、詳細で本格的な計画書よりも、一覧性を重視した長期事業構想書のほうが実務的には便利であることを指摘しておいた。このような構想書は、全体像を把握しやすく、必要に応じて柔軟に修正が可能である点が大きな利点となる。

長期事業構想書は、設備投資計画の規模がそれほど大きくない場合、具体的には年間設備投資額が月商の半分以下である場合には、必ずしも長期資金運用計画書を作成する必要がない。このような状況では、事業構想書だけでも十分に全体像を把握し、計画を進めることが可能である。

長期的な事業構想と資金運用計画を策定し、客観的な情勢の変化や自らのビジョンの進化に応じて、常に内容を向上させ、より高い目標へと修正を加えていく必要がある。

これを銀行に提示し、十分に説明した上で、三年後や五年後に必要となる資金の融資を事前に依頼しておく。このプロセスを通じて、銀行からの信用は年々高まり、必要な時に必要なだけの資金を自由に借りられる体制を築くことが可能になる。

自らのビジョンを実現するために必要な資金の規模や、それがいつ必要になるのかを把握せず、無計画な経営を続けるようでは、ビジョンの実現はおろか、いざという時に銀行からの援助すら受けられず、最終的には倒産の危機に陥る可能性もある。

資金管理に無知であることほど恐ろしいものはない。この点を心に刻み、絶対に軽視してはならない。

長期資金運用計画の作成におけるポイントを、G社の具体的な事例を元にまとめます。

長期資金運用計画の基本資料

計画を立てるには、以下の資料が必要です。

  1. 長期利益計画:予測される利益や経費、人件費などの収支を見込んだ計画。
  2. 長期借入金返済計画:既存の借入金や新規に必要な借入金の返済計画。
  3. 固定資産取得・売却見込額:新規投資や売却予定資産の見積もり。
  4. 増資計画(必要な場合):資本金を増やす計画がある場合はその見積もり。

計画のステップ

  1. 利益計画と仮の資金運用計画を作成
  • 5年間の収入、経費、減価償却費、人件費などを見積もり、仮の経常利益を出します。これにより、1年目の概算資金不足がわかります。
  • 1年目の仮の利益を元に資金運用計画を作成し、初年度に不足する資金を確認します。
  1. 新規借入金の決定と返済計画への組み込み
  • 新規借入金が必要ならその金額を決め、長期借入金返済計画に加えます。この際、利息も考慮に入れ、利益計画を修正します。
  1. 修正した利益計画の反映
  • 修正された利益計画から法人税や事業税、予定納税を計算し、次年度の計画に反映させます。このように、次年度の資金運用計画に新たな利益予測を反映させていきます。
  1. 年度ごとに修正を繰り返す
  • 上記のプロセスを5年間繰り返し、毎年度ごとに利益計画と資金運用計画を微調整します。

計画のメリット

長期資金運用計画があると、以下のメリットがあります:

  • 資金不足リスクの軽減:計画を持つことで、必要な資金とそのタイミングを把握でき、銀行融資の申請も余裕をもって行える。
  • 銀行からの信頼:長期計画を持っていれば、銀行の評価が高まり、予め融資枠を確保することも可能です。
  • 意思決定の迅速化:予期しない出来事が発生しても、長期計画に基づいて柔軟な対応策がとりやすくなる。

計画実行時の注意点

  • 経営環境の変動:市場の変化や経済ショックに対し、必要に応じて計画の修正や投資の延期を検討する。
  • 資金運用の優先順位付け:必要な資金が不足する場合は、設備投資の一部を繰り下げるなど、資金運用の優先順位を見直します。

長期計画が特に重要なケース

  • 設備投資が多額に及ぶ場合。
  • 売上変動が激しい業種や、経済状況の影響を受けやすい事業の場合。

長期資金運用計画は、経営者のビジョンを支える基盤として、会社の安全を確保し、成長に必要な資金を確実に確保するために不可欠です。

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