企業経営において、目標設定は道しるべであり、計画はその実現に向けた重要な指針である。
しかし、現実に直面すると多くの経営者が「計画どおり病」に陥り、実績に合わせて目標を変更してしまうことがある。
この誤ったアプローチは、短期的な安心感を与えるかもしれませんが、長期的には企業の成長や存続を大きく阻害する。
本記事では、目標変更のリスクや正しい目標の在り方について具体例を交えながら考察する。
セクション 1: 「計画どおり病」の危険性
時折、「6カ月間の長期計画」だった。6カ月なんて、短期計画にすら満たない。それなのに、M社長はそれを長期だと信じ込んでいたのだから、その時点で発想が根本的にズレていると感じざるを得なかった。
さらに驚いたのは、私が訪問した時点ですでにその「長期計画」の4カ月目に入っていたが、売上目標がなんと3回も変更されていたことだ。理由は単純で、毎月の実績を見ては、その結果に合わせて目標を都度修正していたからだ。これではもはや計画とは呼べず、ただの行き当たりばったりに過ぎない。
実績と目標の差が開きすぎると現実的ではなくなるからといって、目標を変更するたびに、その設定がどんどん低くなっていくことがある。
つまり、目標を達成するためではなく、実績に合わせるために目標を下げていたのである。それでは目標の意味が根底から失われてしまう。
さらに、変更された最終的な売上目標は、なんと損益分岐点を下回る水準にまで引き下げられていたのだ。
目標というものは本来、少なくとも損益分岐点を超えた上で設定されるべきものだが、それすら守られていない。この状態では、計画どころか経営そのものが成り立たない。

このような考えを笑えない経営者は、世の中に決して少なくないのだ。
「状況が流動的だから目標を決められない」「もう少し様子を見てから決めたい」という考えは非常に多い。中には、「状況が変わったから目標を変えた」と言って、訪問するたびにわずか数%だけ修正された目標を示す社長もいる。
このような相手には、「目標と実績は一致するものではない」という基本を理解しなければならない。
セクション 2: 目標の本来の意味と重要性
重要なのは、目標と実績を一致させることではなく、その差を読み取り、正しい状況判断と意思決定を行うことである。
この基本は、経営者の多くが誤解している。時には、「目標は変えてはいけない」と強く釘を刺す必要さえある。
とにかく、「目標どおり」にこだわる「どおり病」は根深い。
さらに厄介なのは、権威者と呼ばれるような人の中にも「目標と実績がズレてくるのだから、適宜目標を修正すべきだ」と主張する者がいることだ。そんな発想では話にならない。事業経営は、そんなに甘いものではないのだ。
目標が、自社の生存に必要な最低限の数字に基づいている以上、達成が難しいからといってそれを変更するのは、自ら生存の道を閉ざすようなものだ。
目標より実績が下回るということは、自社が危機に直面していることを意味する。その差が大きいほど、危険度も高まるという現実を認識しなければならない。
目標が実績を大きく上回っているからといって、実績に合わせて目標を下げるのは、「自社の危機を見えなくしてしまう」というさらなる危険を招く行為である。
いかにその考え方が誤っているか、理解が及ばない人が多いのではないだろうか。だからこそ、どれだけ目標と実績が離れていても、目標を変更せず、その差こそが自社の危機であると正しく認識することが重要だ。
そして、その危機を克服することに全力を注ぐことこそが、会社を存続させる唯一の道である。数字の意味を理解せずに、いくら数字を操作しても、状況を改善することは決してできないのだ。
セクション 3: 「達成率」という誤った評価軸
「計画どおり病」の患者には、「達成率」という神話が根付いている。達成率が高いに越したことはないが、それを過剰に意識するあまり、目標と実績が離れてくると途端に不安になる。
そして、「達成率が低いのは目標が非現実的だからだ」と結論づけ、達成できそうな数字に目標を変更してしまうのだ。
事業経営において本当に重要なのは達成率ではなく、絶対額である。達成率がどれほど良くても、それだけでは食べていくことはできない。
目標を達成したにもかかわらず赤字に転落することも大いにある。会社が存続できるかどうかを左右するのは、あくまで絶対額の数字なのだ。

「計画どおり」や「達成率」という考え方ほど、広く深く誤解されている例は珍しい。そして、この誤解が企業経営に与える悪影響は計り知れない。
一歩間違えれば取り返しのつかない事態を招くことすらある。これを繰り返し強調する。
セクション 4: 現実問題への対策と目標の分離
もし市場が予測通り電子式に移行すれば、0社は倒産の危機に直面するかもしれない。しかし、0社がこれまで何もせず手をこまねいていたわけではなかった。数年前から、電子式の開発に全力を注いで取り組んでいたのである。
最近になってようやく電子式の開発が形になり、いくらかの実績も積み上げることができた。しかし、それでもなお収益の柱として機械式の落ち込みを補うまでには至らず、0社の苦境は続いていた。
0社が目指したのは高級機市場だった。その理由は、新規参入してくる大手メーカーが必ず低価格帯の商品を狙ってくるため、競争を避け、独自路線を築くためである。この戦略には私も賛成した。中小企業が大手と差別化しつつ競争に打ち勝つには、的を射た選択だったからである。
しかし、その反面、高級機を狙うがゆえに開発は困難を極め、多くの時間を要しただけでなく、その販売方法についても難航が予想された。高級機ならではの技術的なハードルと、特化した市場へのアプローチという二重の課題が立ちはだかっていたのである。
0社の転換戦略は、電子式高級機の売上を急速に伸ばすことと、これまで補完的な役割を果たしてきた商品を主力級に育成するという二面作戦だった。この方針を基盤に経営計画が策定され、その中で電子式高級機の販売目標は非常に高い水準に設定された。
私は社長に対し、電子式高級機の販路開拓を自ら陣頭指揮で行うよう勧告した。危機的状況に直面したとき、社長自身が最も重要な課題に直接取り組むことこそ、企業を立て直す鍵だからである。
0社長の必死の努力が実り、大手優良業者への売り込みに成功した。しかし、その条件として、先方の要望に応じた大幅な設計変更が求められた。さらに、製品の心臓部にあたる部品をアメリカの会社に新規発注する必要があり、その納期が5カ月という厳しいスケジュールだった。
この納期の遅れにより、販売目標を大幅に下回ることは避けられない状況となった。そこで社長は、高級機の販売目標を実態に合わせて下方修正し、その不足分を従来の機械式で、比較的電子化の影響が少ない機種に振り向ける方針を取った。社長からこの変更の理由を聞いた私は、その考え方の根本的な誤りを指摘せざるを得なかった。
結論: 前向きな経営計画の必要性
社長の考え方はまさに『計画どおり病』だ。事業経営は計画どおりに進まないからといって計画を変更するなら、そもそも計画など必要ない。こうした発想では、計画は常に予測に基づいて変更されるが、それは計画ではなく、単なる『成り行き』に過ぎない。
本質的には目標も計画もない経営となり、無目標・無計画の状態だ。もし成り行き経営をするなら、計画というしゃれたものは最初から作らないほうがマシだ。
「今、あなたの会社は、存続をかけて主力商品の大転換を成し遂げなければならない、極めて重要な局面に立たされている。この転換を一日でも早く成功させることが、会社の未来を左右する。だからこそ、経営計画には生き残るための至上命令を盛り込んだはずだ。至上命令である以上、何があっても実現しなければならない。それが計画の本来の意味であり、存在意義なのだ。」
「たとえ、のっぴきならない事情があったとしても、目標がどうしても実現しないという状況は、会社が果たすべき転換が遅れていることを意味する。その危機的な実態を明確に示しているのが、電子式高級機の目標と実績との差なのである。この差こそが、あなたの会社が直面している課題の深刻さを伝えているのだ。」
「もし予測に合わせて目標を下方修正してしまったら、目標を達成したというだけで満足し、『メデタシメデタシ』となってしまうだろう。だが、そんなことを続けていては、会社の革新はただの夢物語に終わり、現実には何一つ変わらないままだ。」
「社長が描く会社の理想像を目標として据え、一切の状況に惑わされることなく、その目標を堅持するべきだ。そして、どんな困難があっても死にもの狂いで行動し、予測される事態を変革して目標に近づけなければならない。『計画どおり病』を克服しない限り、あなたの会社はいつまでたっても前進することはできない。」
「この場合、『現実に不足する収益を補う計画がないのではないか』という疑問が出るかもしれない。しかし、これ自体が『計画どおり病』の一種なのだ。目標とは、『我が社が目指すべき姿』であり、現実がどうであれ決して変えてはならないものである。その一方で、現実が目標通りに進まないのなら、当然ながらそのギャップを埋めるための対策を立てる必要があることは言うまでもない。」
「0社の場合で言えば、『電子式高級機はやむを得ない事情で遅れる。その不足分は、在来機のこの機種でこれだけ補う』という具体的な対策を決定すればよいだけであり、目標そのものを変更する必要はないのだ。目標はあくまで会社が目指すべき指針であり、状況に応じた柔軟な対応で現実との差を埋めるべきである。」
「その計画は、別計画として立案し、推進すればよい。つまり、目標はあくまで『我が社の目指す姿』として据え置き、現実がどうであろうとも揺るがせてはならない。一方で、現実の課題には現実に即した具体的な対策を講じる。この二つを明確に分けて進めることが、目標達成への正しいアプローチなのである。」
「現実問題に取り組む際にも、どれだけの不足を補う必要があるのかを見極める基準となるのは、目標と予測との差異である。目標が厳然と存在しているからこそ、その差を基に現実的な対策を立て、適切に処理することができる。この原則を忘れてはならない。」
「もし『目標を現実に合わせて変えなければ経営は成り立たない』と考えるのであれば、それは完全に『成り行き経営』でしかない。そのような姿勢では、自らの事業を革新することなど永久に実現できないだろう。」
「もちろん、目標を変更してはいけないという法律があるわけではない。達成率を高めるために目標を変更するのは自由だ。しかし、それが根本的に間違った態度であることを認識しなければならない。目標とは、達成率のためにあるのではなく、企業の目指すべき方向を示す指針である。」
目標変更が正当化される二つの例外
では、どんな場合でも目標を変更するのが間違いかというと、そうではない。目標を変更する方が正しいと判断される場合が二つある。
客観的な情勢が大きく変化した場合
第一のケースは、客観的な情勢が大きく変化し、現在の目標では生き残る条件を満たせなくなった場合である。
目標とはもともと、会社が生き残るための条件を客観的情勢に基づいて設定したものだ。
そのため、情勢が大きく変われば、生き残る条件自体も変わる。この場合、新たな情勢に適応するために、会社の存続条件を再分析し、新たな目標を設定することが正しい。
社長が描く『未来像』の進化
第二のケースは、社長が描く『未来像』の進化である。
我が社の存続条件に加えられる未来像は、社長自身の思索や努力によって発展し、時には脱皮することが求められる。
また、客観的情勢を観察する中で、新たな構想が生まれることもあるだろう。それらが融合し、さらに優れた目標へと昇華していくことが、本当の意味での目標の進化である。
新たな未来像に基づき、新たな目標を設定することこそが、理想的で望ましい姿である。
前向きで積極的な変更
そして、ここで挙げた二つの目標変更はいずれも、前向きで積極的なものであることに注目していただきたい。これらの変更は、単なる現状対応ではなく、会社の成長と発展を見据えたものなのだ。
このように、企業目標の変更はあくまでも前向きに、企業の存続と発展を目指して行われるべきものである。それは、後ろ向きに達成率を高めるために、実績に合わせて安易に行うものでは決してないのだ。
目標を「現実に即して」下方修正するのではなく、あくまでも会社の未来を目指す姿として堅持し、困難に対応する。これが、企業の革新と成長に不可欠な姿勢であり、計画を実現するために必要な道筋なのである。
まとめ
目標は、現実に左右されることなく、企業が目指すべき理想を示す指針でなければなりません。「計画どおり病」に陥り、達成率を重視して目標を安易に変更することは、事業の革新を妨げ、危機の本質を見えなくする。
正しい目標管理は、客観的情勢や未来像の進化に基づいて柔軟に再設定される場合を除き、堅持されるべきである。
計画を軸に現実的な対策を講じることで、企業は持続的な成長と発展を実現できる。
目標と実績の差異を経営判断に活かす
目標を頻繁に変更することは、経営にとって大きな誤りである。たとえばM社のように、計画の途中で実績に合わせて目標を下方修正し続ければ、当初の損益分岐点を下回ってしまうことも起こりうる。目標を変えることで実績と一致し、達成率は上がるかもしれないが、会社の成長や存続のための絶対額は達成できない。達成率に固執することが、かえって企業の存続に危機をもたらしかねないのだ。
経営計画は、あくまで会社が目指す理想像であり、達成が困難な状況でも変更すべきではない。目標と実績の差異は、会社が抱える危機や課題を示す重要なサインであり、これを無視して目標を実績に合わせると、問題が見えにくくなり、危険が増すだけだ。経営者は、実績が目標に届かない際にはその差異に注目し、改善のための具体策を講じて状況に対応するべきである。
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