事業構造を充実する
我社の強味を生かし、弱味をカバーするスクラップ・アンド・ビルド
常に事業全体を眺め、客観情勢の変化に対応する変革を行なってゆくことのみが企業を繁栄させ存続を可能なものにすることができる。
そのためには、
- 1、我社の現状分析から必要な基礎固めを行ない
- 2、まず商品と市場を限定して、この中で占有率を高めてゆく
- 3、次に、新しい商品と市場を開発して事業の複合を行ない、さらに総合化を行なう
- 4、事業全体を見直してスクラップ。アンド・ビルドを行なうことにより、市場に確固たる地位を築いてゆく
ことこそ、社長の役割である。この過程で、さらに我社の強味を発揮して弱味をカバーしてゆかなければならない。それについて、以下具体的な施策についてのベてみよう。
I社は婦人服のメーカーであった。
自前の小売店舗のチェーン式の展開をしていたが、次第に思わしい立地や店舗を得られなくなっていった。
I社は、自ら開発した店舗毎の販促ノウハウを持っており、これが大きな強味であった。そのノウハウは独得の商品差替システムである。
そこで、このノウハウを生かすために、パートナーとなる小売店を開発し、小売店側では店舗の提供と販売を受け持ち、I社では商品の提供と販売ノウハウの実施である。
これは、両者にメリットをもたらす。小売店は商品在庫の負担がなく、販売ノウハウはI社がやるので、陳列と販売に専念すればよく、I社は店舗の利用と販売ノウハウを自由に駆使することができることになった。
パートナーの小売店は息を吹き返し、これはI社の商品の売上増大をもたらす。
小売店では、死筋商品はドンドン姿を消してゆくので、店舗の活性化が実現し、システムの実施は、女子社員の全く機械的な作業で極めて簡単にできるのである。
この方式は、コンピューターを使ってはできないのである。時系列データーの利用だからだ。コンピューターにできるのは断面データーの処理だからである。
事業経営においては、断面データーだけではできないことが多い。時系列データー又は時系列データーと断面データーの併用のほうが、遥かに大切なのである。
コンピューターの限界を知らなければならないのである。
経営において、戦略といえば計画や分析が重視されますが、実際には「知恵と努力」という単純でありながらも強力な戦略が成功を支えることも少なくありません。
本記事では、アイスクリームメーカーT社の社長や、地方の小さな「おこし」製造工場の社長が、試行錯誤の中で成功をつかむ過程を通じ、いかにしてお客様目線と全力の努力が大きな成果をもたらすかを紹介します。
戦略なき戦略
知恵と努力という戦略
T社(経営戦略の冒頭で紹介したアイスクリームメーカー)の社長は、お客様訪問の中で、最近取引を始めたある食品店が、アイスクリームの売上伸び率でトップに立っていることに気づいた。
T社長がこの食品店を訪れた際、ちょうど店主が在店していて、「よく来た、まあ上がってくれ」と二階に案内された。昼時だったため、ビールと寿司をご馳走になりながら、T社長はいろいろと店主の話を聞くことができた。
この店主は、かつて長距離トラックの運転手をしていたが、五十を過ぎた頃から仕事がきつくなり、会社を辞めた。家では奥様が内職と並行して小さな食品店を営んでおり、会社を辞めた店主が自然と食品店の主人となったのだった。
しかし、小売店の経験が全くないため、どうしてよいか全然分からなかった。いくら考えても、経験がないので良いアイデアが浮かぶはずもなく、悩んでばかりいた。
そんなある日、ふと気づいたことがあった。それは、自分がトラックの運転手をしていた頃、「どんな店で買い物や食事をしていたか」ということだった。その答えは、「きれいで感じのよい店」だったのだ。
「これだ!」というよりも、他に方法が思いつかず、「とにかく、きれいで感じのよい店にしたら、お客様がもっと来てくれるかもしれない」と思ったのだった。
ここにこそ非凡さがある。「お客様の立場に立って考え、それを事業に取り入れる」というのは、一倉式事業経営の基本だからである。
早速、仙台の街中を駆け回り、「これは」と思う店のカラー写真を撮って持ち帰り、研究を重ねた。そして選び抜いた内外装に変更し、照明を明るくし、陳列方法も真似たうえで、感じの良い応対を心がけた。その効果はたちまち現れ、客足が増えていった。
もう一つ、店主は納入業者に「値段の高いものを持ってきてほしい」と要求した。これも見事に成功し、この店は他の店よりも一段上の格を持つ店になった。
ここで、店主が語った重要でありながら、一般の経営者では夢にも考えつかないことを紹介したい。
店主はこう語った。「最近、この近くに大手のスーパーが進出してくるということで、同業者たちは大混乱になっていて、『小さな店はお客様を奪われて潰れてしまう』と心配している。
でも私にとっては、恐ろしくも何ともない。むしろ、大手の店が人を集めてくれることで、うちの売上も増えるから大歓迎なんですよ」と。私はT社長にこう伝えた。「この食品店の主人は、まさに名経営者です」と。
「死にもの狂い」という戦略
それは、大阪市にある従業員が10人にも満たない、小さな「おこし」製造工場だった。私が訪れたとき、工場は狭くて薄暗く、数人の従業員が働いていた。
見せてもらった商品もパッケージが垢抜けず、扱っているアイテムもわずかだった。もちろん売上は振るわず、倒産せずに続いているのが不思議なくらいだった。
まず、パッケージについては親しい印刷会社の社長に事情を説明し、特別価格で引き受けてもらうように頼んだ。次に、社長自らが顧客を訪問するように促した。
そして、最大の得意先であるスーパーに伺いを立て、現在納めている商品の改良や新商品の開発について提案した。
顧客訪問を始めた社長の様子が変わってきた。何かを感じ取ったのだろうが、私はあえて干渉せずに見守った。新商品の開発や試作には、社長には昼間の時間がなかった。昼は顧客訪問や製造に追われ、時間が取れるのは夜だけだった。そこで社長は、夜の睡眠時間を削り、開発と試作に充てることにしたのだ。
気がつくと、東の空が白み始めていることが何度もあったという。社長は試作品を持って、毎月大阪で開かれる私の社長ゼミに足を運び、私に批評を求めてきた。
その取り組みが数か月続いた。こうして完成した新商品は評判がよく、これまでにない売上を記録した。年間売上も順調に上昇していったのである。
お手伝いを始めてからほぼ一年が経った12月、大阪での私のセミナー会場に来られた社長は、私の前に座ると、「お陰様で黒字転換でき、ボーナスも支払えるようになりました」と言い、そう言い終えた瞬間、大粒の涙をホロホロと流されたのだった。
それはまさに一年近く、文字通り寝る間を削り、死にもの狂いで努力を重ねた末の黒字転換だった。感極まって流した涙である。私も胸が詰まる思いとともに、喜びを感じた。コンサルタントとして、これほど嬉しいことはない。
まとめ
戦略というと複雑な手法や分析が思い浮かびますが、実際には「お客様の立場に立つ視点」と「全力での努力」が、事業の成長と黒字化を引き寄せる大きな原動力となる。
T社長や「おこし」工場の社長が見せた情熱と誠実な努力は、戦略の根底にあるべき姿を教えてくれる。
顧客視点を大切にし、地道な努力を続けることで、事業は必ず道を切り拓いていける。
この食品店の主人の話は、深い戦略を持たずとも、知恵と努力で成功を収める事例を示しています。具体的に見てみましょう。
1. 「お客様の立場」に立つ戦略
- 店の清潔さや心地よい雰囲気を重視したのは、トラック運転手としての経験から得た気づきでした。「きれいで感じのよい店」という単純な基準で、他店との差別化を図り、顧客の目線に立って店づくりを行ったことが功を奏しています。
- お客様が何を求めているかを徹底的に考え、実行することで、自然に戦略的な店舗運営につながりました。
2. 「一格上の店」にするための発想
- 納入業者に「値段の高いもの」を求め、他店とは異なる高級感を演出しました。これによって「特別な店」としてのブランドイメージを築き、近隣における存在感を高めています。
- 同じ商品を取り揃えるのではなく、敢えて高価な品を揃えることで、顧客層の意識を変え、高級志向の顧客を引き寄せることに成功しました。
3. 競合スーパーの進出を好機と見る発想
- 主人は、大手スーパーの進出を恐れず、「お客様を集めてくれる」と歓迎しました。この考えは他の小売店と一線を画しており、競合の存在を「脅威」とではなく「集客力」として捉えています。
- 競争が激化する中でも、独自の魅力と高級感を提供することで、逆に顧客流入の機会を増やす発想を持っていました。
4. 戦略のない戦略で実現する成功
- この店の経営は「戦略なき戦略」の典型ともいえます。明確な戦略計画がなくても、現場の気づきや行動力が、自然と他の店との差別化につながっていました。
- このケースが示すのは、経営にはしばしば「知恵と努力」さえあれば、理論的な戦略がなくても顧客の支持を得て繁栄できることです。
まとめ
この食品店主は、計画された戦略ではなく、顧客目線に立つ知恵と地道な努力によって、競争に負けない力を発揮しました。この発想が、地域に根差した成功をもたらし、「戦略なき戦略」の力を見事に示しています。
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