分掌主義よりプロジェクト主義へ
伝統的組織論の特色である「分掌主義」は、変化に対応してゆくという企業の要請にとって、きわめて好ましくないものになってきた。
分掌主義は、職務を制度として固定してしまう「固定的分担主義」である。
ところが、企業というものは、全部の部門が同時に忙しいこともなければ、特定の部門が年中忙しいこともない。
特定の部門が特定の期間忙しいのである。忙しい部門に他部門の応援はない。自分の受持ち以外の仕事は自分の責任ではない、ということになっているからだ。これが困るのだ。
忙しい部門でも、応援してもらいたいとは思わない。
忙しいときに、仕事のよくわからない他部門の人間がきても、足手まといで、ありがた迷惑だからである。それよりも、自分の部分で忙しいときに間に合うだけの人員を確保しよう、と増員を要求する。
ひまなときも、また忙しくなるときにそなえて、人員を減らそうとはしない(それだけでなく、部下の数が多いほど偉いという信仰がある)。
こうして、間接部門の人員がふくれあがってゆく。このように、人員ばかり多くても、忙しいのはごく一部の人員であり、他はそれほど忙しくないということになる。
会社全体の非能率もさることながら、もっと大きな問題は、変化に対応する弾力性と機動力に乏しいということである。
しかも、新事態にどのように対処するかが、企業の将来に大きな影響をおよぼすことを考えれば、どうしても分掌主義をすてて、プロジェクト主義への転換を必要とするのだ。
重要なプロジェクトについては、プロジェクト・マネジャーが任命されて、全責任をもち、そのもとにそれぞれの担当者によってチームが組まれ、一つの目標達成に協力する。
そのプロジェクトが完成すればチームは解消する、というきわめてダイナミックなものである。そのためには、従来の分掌主義は、むしろじゃまになる。
最近、多くの企業で課長制を廃止したり、部課を大幅に統合したりするのはこのためである。これは、同時に間接部門の縮小にもなる。
これこそ、変化に対応して生き残るための企業の知恵であって、いつまでも古くさい組織論などにとらわれている企業は消え去らなければならないのである。
あくまでも生き残る要請から、わが社はどのような目標を設定し、それを達成するために、どのような態勢をとるか、その態勢のもとで、どのような活動をするかを考えてゆくことが大切なのである。
その中で、各成員は、共通の目標に向かって努力することができる。そしてまた、成員の能力向上のためのよき土俵ともなるのだ。
密度が高く効率的という、企業にとっても成員にとっても好ましい方式である。
客観情勢の変化、顧客の要求に応じて、適切なプロジェクト・チームを組み、明確な責任態勢のもとに、目標達成に努力することこそ、これからの組織運営の理念でなければならないであろう。
プロジェクト主義でなくても、その精神で組織を運営することはできる。いや、そうすべきである。
実例を紹介しよう。
筆者がある商社にお伺いしたときに、「組織図を拝見したい」と申し入れたところ、「うちには組織図はありません」という返答である。
わが国のベスト・テンに入る大商社に組織図がないというのだ。
その理由をきいたところ、「組織をつくっても、二カ月もたてば情勢が変わって、実情に合わなくなる。そんな組織のままでいたら、企業戦争は負けです。
うちは組織ではなく、情勢の変化に応ずるための職制が、随時、手書きをコピーしたもので指令されてきます」ということであった。
すばらしい業績をあげている企業には、やはりそれなりの明確な理由がある。
これがその理由の一つである。組織図のないのがすぐれているのではなくて、その態度がすぐれているのだ。
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