私が経営者として仕事をしていた近畿圏には老舗が多いのですが、近年は老舗のなか には時代の変化についていけず、苦境に立っているところも少なくないのが実情です。
私の耳にもいろいろな噂が聞こえてくるのですが、実際に相談にこられたり、講演会 に姿を見せることはあまりありません。
なぜでしょうか? 老舗企業の多くは、過去の成功体験を豊富にもっていて、「経営していれば、いいと きもあれば悪いときもある。うちも長い間、そうしたなかを生き抜いてきたんだ」と、 現在の苦境もいずれは流れが変わるだろうとタカをくくっているのです。
しかし、最近の社会変化は、これまでのような「いいときもあれば、悪いときもある」というような変化を超えた、もっと根源的な、いわば地殻変動といいたいような変化です。
たとえば、京都では、和服にかかわる産業が盛んでした。
西陣のように、その一郭す べてが機織りをしていて、街を歩くと、ギー・ガシャッという機織りの音が響き、なん ともいえない風情があったものです。
和服産業の市場規模は最盛期の1980年前後の1兆8000億円に対して、2015 年では2805億円に縮小しています。
特にこの10 年で60 %超もダウンしており、さら に市場の縮小は止まるところを知りません。
しかし、京都の大店はかつて和服産業が隆盛だったころにたっぷり蓄えた資産をもっ ています。
市街地の一等地に広大な土地を所有し、そこに商業ビルを建てて賃貸ビジネスをしているなどで、本業はまったく振るわない現在でもそこそこ裕福に暮らしている ところが多いのです。
でも、先祖からの遺産を食いつぶすだけの経営が長く続くわけはありません。経営者自身もそれくらいはわかっているはずです。
でも、年々、大きく減っていく蓄えを見ながらため息をつくばかり。
「とにかく、○○屋ののれんを守らねばあきまへん」と昔ながらのビジネス手法にしがみついているだけで、気がつくと膨大な借金がたまっていた りします。
でも、これまでずっとやってきたビジネスのやり方の、どこにどう手を加え、どう変 えていったらいいのか、考えようともしないのです。
「亀屋万長」(仮名)という和菓子店もそんな老舗の典型でした。創業は享和年間にさ かのぼり、200有余年の歴史を誇っています。
しかし、現在の経営者が親の代を継い だときに開かされたのは、5億円もの借金があるという動転するほかはない現実でした。
そこから若い当主と奥さんの奮闘が始まります。
2人は、昔ながらの商品内容を見直 し、若い女性を引きつける新商品をつくりたいと相談をもちかけるのですが、先代は首 を縦に振りません。
しかも、多くの老舗にはさらに強敵がいるものです。
長年、その店一筋に仕えてきた ベテラン職人や、番頭という言葉のほうがぴったりの古手の経営補佐などです。
しかし、若夫婦は長い時間をかけて辛抱強く先代やこの職人を説得し、若い女性が喜 びそうな菓子をつくったところ、想像をはるかに超える大ヒットに。
以後、次々と新感覚のお菓子を考案。包装や箱のデザインもかわいいセンスを取り入れたところ、どれも よく売れます。そこで、和菓子の手づくり体験ができるコーナーなども新設。
こうして顧客の取り込みに成功し、いまでは借金返済の目途もつき、京都きっての繁 華な通りに面した店もモダンに改築。店はいつも観光客でいっぱいです。
老舗が現在まで続いてきた理由を考えてみましょう。いつの時代も、時代の1歩先の 感覚を取り入れ、変革し続けてきたからです。経営者は時代感覚を磨いて、その変革の先頭に立つていなければなりません。
▼老舗にあぐらをかいていたら、つぶれてしまう。老舗だからこそ変革する。
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