そもそも「即戦力」という言葉を本書以外で耳にしたことがありますか?聞いたことがなければよいのですが、怖いことに徐々に広まっています。
特に転職業界では「即戦力が採用できます」など営業トークとして、日常的に使われている言葉です。ところが、この言葉は、採用においてはあまりよい言葉ではありません。
即戦力がダメというわけではなく、即戦力という甘美な言葉のイメージにより、企業側が無意識に洗脳されていることに、私は警鐘を鳴らしたいと思います。
昔は中小企業のほうが中途採用メインで活動していて、企業規模が小さくなるほど中途採用者の率が高くなっていました。
大企業では、新卒一括採用を中心にすえ、中途採用は欠員補充の場合が多かったのです。
しかし現在は、厚生労働省のデータからも分かりますが、大企業も積極的に中途採用をしています。一九九七年以降、人材紹介業界への規制緩和が進み、驚くほど人材紹介会社も増えました。中途採用市場をビジネスにする会社が増えているのです。
さらに、インターネットの普及により、転職活動や企業情報の収集方法も変わり、転職が容易になったことで転職希望者も増えてきているのです。
厚生労働省の平成二十三年度版「日本の一日」によると、ハローワークに新たに登録される人は一日二万千二百人。それに対して、ハローワークを通じて転職をした人の数は一日五千八百九十五人です。
ハローワークを使わず転職をする人も多いでしょうが、通常、失業保険をもらうために登録をするので、毎日二万人以上の求職者が新たに出ているのが日本の現状です。
本来、採用に成功している企業が増えるほど、国内の求職者数は減っていくはずです。
しかし実際は違います。中途採用市場が活発になればなるほど、中途採用で失敗する企業も増えますし、仕事や会社を変える人も増えます。
結果、企業では欠員が発生し、さらに「即戦力」というような技術重視の人材を求めるようになりやすいのです。そうすると、さらに採用で失敗する企業が増え、中途採用市場が活発になります。これが現状です。
企業が採用で成功するためにも、日本のためにも、「即戦力」という言葉は使わない方がいいのです。中途採用から、経験者採用、そして、即戦力採用というように、時代とともに言葉が変わってきました。
その結果、何が起きているかといえば、多くの企業が最も確実な投資である社員教育を軽視するようになっていると感じます。
終身雇用を前提に、素直に吸収する新卒を採用し、しっかりと社内外で教育をしながら、数年かけて育てていく。
そういう意識を持った企業が正しい採用活動のもと、中途採用をおこない教育に力をいれると、採用された人も結果を出しやすいのです。
中途採用の本当のメリットは、「即立ち上がる」というスキル的な面より、新卒のように来年四月まで入社を待たなくてよいという点と、他社の文化やノウハウを参考にして、自社を成長させることができる点、社会人として前の会社で教育されている可能性がある点です。
今回、あなたの会社の採用では、中途採用をするのか、即戦力採用をするのかを考えながら、本章を読み進めてください。
【■POINT■即戦力という甘美な言葉のイメージに振り回されないこと。】
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