▼(1)大転換の時代──10年後はどうなっているか
常日頃から世界情勢や世の中の変化に気を配っている人ならまだしも、今回新たに中期経営計画の立案を担当することになったような場合には、時間軸・空間軸の両面からマクロ的な大きな変化を捉えておく必要があります。
図表0-14にある今後10年間で起こる大きな変化の項目はあらゆる業種・事業に共通の前提となりますので、その内容と変化による自社への影響を押さえておきましょう。
また、日本企業は、「ものづくり」を得意としてきましたが、パソコンメーカーが儲からなくなってしまったように、ものづくりの「構造」ともいうべき製品アーキテクチャーが変わってきていることも理解しておく必要があります(図表0-15参照)。
つまり、企業を超えた連結がクローズな関係(閉鎖的)で、部品設計の相互依存度が高いインテグラル(擦り合わせが必要)な状態だと、自動車のように組み立てメーカーがリーダーシップを発揮して利益を確保することができるのですが、これがモジュールの組み合わせ(クローズ・モジュラー)でできるようになり、さらに、企業を超えた連結もオープンになってくる(オープン・モジュラー)と、パソコンメーカーの二の舞になってしまいます。
一方で、そうした状況でもOSやCPUなど、コアとなる部品で世界シェアを高く取れると状況は一変します。
技術は、クローズ・インテグラルからクローズ・モジュラーへ、そしてさらにはオープン・モジュラーへシフトしていく傾向にあります。
日本の自動車メーカーがいまだにグローバル競争力を発揮できているのは、自動車の製品アーキテクチャーがクローズ・インテグラルであるからです。
とはいえ、この分野も電気自動車化によって大きく変わっていく可能性があります。
特にメーカーの場合には、このように製品アーキテクチャーの変化ということを見通しておく必要があります。
▼(2)自社のビジネスモデルを見直す
ローテク分野だけでなく、ハイテク分野においても韓国や台湾、中国メーカーが躍進し、日本を含む先進国のメーカーが苦しめられたり、流通業においては、アマゾンなどネット通販の台頭により、既存の大手流通業が脅かされたりしています。
そうした中でただ「ものづくり」にこだわり続けるのではなく、独自のビジネスモデルを構築して生き残ったり、躍進したりしている企業が見受けられます。
こうしたことから、既存の企業・事業においても、自社のビジネスモデルを組み替えることにより、競争力を回復したり、収益性を維持できることがわかっています。
例えば建設機械業界では、コマツがKOMTRAXというシステムを使って「ものづくりビジネス」にサービスという「ことづくりビジネス」を加えて、競争力を維持しています。
具体的には、販売する建設機械にGPSや稼働情報を収集するアンテナをつけ、それぞれの状況をKOMTRAXで収集し、自社と顧客の双方で見られるようにしているのです。
このため、稼働率が高い現場へは営業マンが増販活動に出向いたり、故障しそうだったらあらかじめ消耗部品をメンテマンが交換に行ったりすることで、顧客の利便性を高め、顧客の支持を得ることに成功しています。
こうした取り組みを「ものづくり」+「ことづくり」(サービス)と呼んでいます。
このビジネスモデルは他の業界でも参考にすることができます。
実際に、工作機械業界ではこの取り組みを参考に、顧客先での自社の機械の維持・メンテナンスに役立てています。
このように、図表0-16にあるような他業種を含めた先進事例を参考にして、自社の新しいビジネスモデルの構築を検討するとよいでしょう。
参考までに、図表0-17にこれまで成功してきたビジネスモデルの事例を日本企業を中心に紹介しておきます(コマツの事例は、#10に相当します)。
▼(3)パラダイムシフト(構造改革)のポイントを見つける
「パラダイム」とは既存の枠組みのベースとなる考え方のことをいいますが、皆さんの業界でも、歴史上、標準となっているパラダイムというものがあると思います。
これを大きく変えていくことを「パラダイムシフト」といいます。
「自社で製造していたものを他社からのOEM供給に変える」といったものはパラダイムシフトの例といえるでしょう。
日本語では、「構造改革」という言葉が当てはまります。
企業の場合、パラダイムシフトの対象となる分野は、図表0-18のように7つほどあります。
例えば、1つ目の事業領域で見ると、「これまで」本業領域中心に取り組んでいたものを、「これから」は、新しい分野に進出していくというように拡大していくことが考えられます。
ただし、その際には、「これから」に変えていくための「変革課題」に取り組む必要があります。
パラダイムシフトに向けた課題を抽出するには、その他に、②ビジネスモデル、③市場展開の仕方、④競争する相手、⑤商品・サービス開発の仕方、⑥分業構造、そして⑦他社との提携関係のそれぞれについて「これまで」と「これから」という形で事前に検討しておくとよいでしょう。
以上で見てきたように、中期経営計画の検討の際には、具体的な分析に入る前に、少し長期的かつ広い視点で物事を捉え、マクロで見てどのような変化が起きそうか、そしてそれに対応するためには自社のどのようなことを変えていく必要があるのかを大きく捉えておくことが重要です。
「木を見て森を見ず」という言葉があります。
目先の小さな変化に目を奪われていると、大きな変化を見逃すことになるという意味に解釈できます。
中期経営計画の場合、「木」(例えば主力製品群)の健康状態や成長も見る必要がありますが、それを抱える「森」(事業部)も、そして「山」(会社)も、また他の山々(競合や業界)やひいては地殻変動(マクロ環境)までも視野に入れておく必要があります。
▼(4)視野のスコープ(範囲)設定
物事を見る範囲・視野のことをスコープといいます。
我々は自分の周辺のことを中心に考えがちですが、中期経営計画の場合、会社を含む広いスコープで物事を考える必要があります。
狭い方から順々に見ていくと、①自分の事…自分の業務に関わること、他人とのコミュニケーション・人間関係等マンガのストーリーでは、樹開はまず自分のことで悩んでいますね。
②部署のこと…所属部署の役割、業務、目標、計画、業績、雰囲気、コミュニケーション、人間関係、モチベーション等③部のこと…所属する部について、部のビジョンと戦略および部署と同じ項目④部門のこと…所属部門について同様項目⑤会社のこと…会社の業績、経営者、ビジョン、経営目標、強みと弱み、戦略と戦術、経営課題、進捗状況、マネジメントの仕方等⑥グループのこと…企業によっては、グループ会社の一員であることもあります。
親会社との関係が重要なこともあります。
⑦市場環境…展開地域、お客様の状況、ニーズ変化等⑧競合環境…競合他社の状況、動向、新規参入・退出等⑨マクロ環境…政治・経済・社会・文化・技術・環境問題等の状況と変化⑩世界情勢…国内ばかりでなく、世界に目を向け、世界を取り巻く政治状況・経済変化、民族紛争、環境問題等普段の業務からいったん目を離して、視野を広げて捉えていく必要があります。
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