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人間は虚栄心の塊である

『近代の労働観』(今村仁司/岩波新書/1998年)は、承認欲求を「虚栄心」という概念で捉えている。同書はまず、「労働の喜びがあるかないかは、他人の視線の効果から生まれる」と説き起こし、「現実の労働はそのつどつねに承認願望に包まれている。この承認願望を情熱的に求めるがゆえに、労働者や職人は、苛酷な労働にも〝耐えること〟ができる。忍耐と喜びの関係は、承認願望によって結合される」と、ヤル気の源泉としての承認願望の重要性を訴える。そして、「だれでも自己敬意(セルフレスペクト)をもっている。それは自分で自分をいわば高く評価することであり(自己承認)、そうであるゆえに人間は生きている感じをもつことができる。これが生きがいの源泉であろう」、と承認願望と自尊心の関係、および自尊心と生きがいとの関係を説明する。さらに、その「自尊心なるもの」の正体を炙り出し、「他人から〝自分は偉いのだ〟と認めてもらいたいという欲望は、自己尊厳、威信、自尊心などの言葉で語られてきたが、その実質的な内容は虚栄心にほかならない」と結論する。同書はさらには、パスカルの言葉を援用しながら、「およそ虚栄心とはほど遠いパスカルですら虚栄心と言う欲望から開放されていないという指摘は、社会の中で生きる人間の一種の宿命的原事実を否定しようもなく露わにすることである。〝いっしょにいる人たちから尊敬されたいという願い〟、そこから人間の一切の派生的欲望が生まれてくる」、とも言い切っている。

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