X理論を信奉するリーダーは、メンバーの持つ潜在的可能性が信用できず、メンバーの「成長したい!」という気持ちも軽視しがちである。仕事に必要な意欲・能力・責任感は、オレをはじめとする一部のエリートだけのものであり、一般庶民には無縁である。そういう目で、メンバーを見てしまう。だから、心を鬼にしてまでも、メンバーを修羅場に引き入れて苦楽を共にしようとは思わない。「何とか育ててやろう」という情熱も希薄である。それなのに、目標達成意欲は旺盛で、「心を鬼にせず」に平然と、メンバーを修羅場に閉じ込めて、あたかも消耗品のごとく酷使する。疑う余地のないノルマ管理の世界であり、メンバーは不幸である。生涯発達心理学の研究からも明らかなように、人間は成長の可能性を秘めた存在であり、生まれてから死ぬまで、何らかの成長を望んでいる。その本能的な欲求を軽視して、薄っぺらな期待感しか示してくれないリーダーに、命を預ける人は皆無であろう。メンバーの心はリーダーから離れていき、焦ったリーダーは、ますます修羅場への閉じ込め機能を強めてしまう。それもこれも、リーダーのX理論の信奉が引き起こす結果なのである。リーダーも人間であり、他者に対する優越感を欲している。禁欲しろとは言わないが、他者に対する優越感とメンバーの持つ潜在的可能性の否定とを混同しないこと。リーダーには、「Y理論の人間観」(前掲書/D・マグレガー)が必要である。
目次
コメント