◆社長が部下に任せるべきは「やり方」
部下に権限委譲することが大事だとよく言われます。
社長の中にも「私はナンバー2にすべて任せてますから」なんてトンマなことを自慢げに言う人がいますが、こういう人ほど、根本的なことがわかっていません。
たしかに、部下、ナンバー2に仕事を任せることは大切です。
しかし、「ナンバー2に何でも任せる」のは、社長の怠慢以外の何ものでもありません。大事なのは「任せていること」が明確で、それが「ルールになっていること」です。
これがしっかりできている会社はまれで、多くの会社に肝心のルールがありません。
武蔵野の矢島はナンバー2ですが、私が彼に仕事を任せる場合、「この範囲で、こういう方針で、こういう数値目標で、この予算で、この部下を使ってやる」ことをきっちり伝えます。
つまり、任せているのは「そのやり方」です。
そして、もちろん「その内容」はルールとして明文化されています。社長が「任せたこと」と、ナンバー2が「任されたこと」に齟齬が生じないです。これを明確にするのは社長の仕事です。
ところが、多くの社長は「オマエに任せた」とあいまいな一言しか発していないのに、何か問題が起こると「そんなに予算を使っていいなんて言ってない!」「そんなやり方をオレは認めないぞ!」「もっと成果を出すと思っていたのに、どういうことだ!」と、後でごちゃごちゃ言い出す。
この状況を生み出しているのは、すべて社長本人です。
「方針」「範囲」「使う人員」「予算」「期間」「数値目標」など、具体的な要素をはっきりさせないで、ただ「任せた」なんて言うのは紛れもなく社長の怠慢です。
自分が仕事をサボっておいて、後で部下に文句を言うなんて最低です。
社長はまず、この自分の役割をきちんと認識し、実行しなければなりません。
◆「チェックするポイント」もあらかじめ決めておく
さて、方針、範囲、予算、数値目標などを明示して「何を任せるのか」をはっきりさせたら、それで社長の仕事は終わりでしょうか。そんなことはありません。
任せたら任せっぱなしではなく、今度はきっちりとチェックしなければなりません。ここで大事なのが「チェックポイントをあらかじめ決めておく」こととチェック日を決める点です。
ここでも「ルールが決まっていること」が大事です。
私と矢島のやり取りはとてもシンプルで、矢島がナンバー2になったとき「前年より一〇〇万円以上増収増益になったら、給料を一〇〇万円上げる」と決めました。
言ってみれば、そこがチェック日のゴールです。
すると、矢島は一〇〇万円以上の増収増益を毎年続けて、年収は二五〇〇万円を超えるまでなりました。上場企業の社長に並ぶ高給取りになってます。
じつは、私が病気になった年、会社が赤字に陥る危機が一度ありました。
そのとき私は「今年は赤字になりそうだから、矢島の給料を下げられるぞ!」と内心楽しみにしていて、矢島に減収減益なら給料を一〇〇万円下げると告げた。
矢島はまたしても奮起して、一〇〇万円以上の増収増益を達成した。めでたく給料がまた上がった顛末です。
この話でもっとも大事なのは「チェックする」ことが明確になっていて、「達成した時の見返りがある」ことを含めて、すべて決まっている点です。
これは社長とナンバー2に限った話ではありません。
幹部社員に対しても「何を任せているのか」と「どのポイントで、どのようにチェックするのか」がルール化されていて、明文化されている。
これが決まっていないのは、上司の怠慢であり、ひいては社長の怠慢です。この「明解なルール」なくして、正しい権限委譲がなされることはありません。
◆「正しいルールを作る」のではなく「ルールがあることが正しい」
「ルールが大事」の話をすると、「ウチも正しいルールを作るために、時間をかけてじっくり考えよう」と言い出す社長が出てきます。本書をここまで読んできた人なら、それが「いかに愚かな発想」かがわかってもらえるでしょう。
私は本書で「考えるとは、過去の経験を思い出す作業」だと述べました。
つまり、これまでルールを作ったことがない社長が「時間をかけてじっくり考える」なんてことはそもそも不可能です。
まして、「正しいルール」なんてものは、やってみなければわからないに決まっている。大事なのは「正しいルールを作ること」ではなく、「ルールがあること」です。
ルールがあること自体が正しいです。そうとわかれば、やるべきことは明確です。とにかく早くルールを作る。これに尽きます。
すぐにでもルールを作り、不具合が生じたなら、さっさとルールを変えればいいです。ルールが作れないなら、どこかの会社のルールをそのまま真似すれば良い。
権限委譲に限らず、どんな側面においても会社にとって「ルール化」は大切です。正しいルールでなくてもいいから、とにかく作る。ルールがあることが正しいです。
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