短期経営計画の成功は、企業の成長と持続可能性に欠かせないものです。
しかし、計画を単なる文書として作成し、押し付けるだけでは、その効果は限定的です。
真の成功には、計画の策定から実行、そして結果の達成まで、様々な要素が絡み合います。
計画書は簡潔で要点を明確に示すことが大切です。
長大で詳細すぎる計画は、本質を見失わせ、関係者にとって理解が難しくなります。だからこそ、計画をシンプルに保ち、肝心なポイントを際立たせることが求められます。
一方で、計画の策定に関わるトップ層は、その背後にあるビジョンや目標を明確にし、自らの決意を率直に伝える必要があります。
この説明会は、トップのリーダーシップを発揮し、関係者の納得と共感を得る場です。単なる議論ではなく、説得の場であるべきです。
信頼もまた、成功の鍵です。
部下や組織全体に信頼を寄せ、彼らの能力を信じ、チャンスを与えることは、成果を最大化するために不可欠です。
特に若手の活躍を奨励し、その成長を支える姿勢は、組織にとってプラスに働きます。
計画の目標は達成可能であり、優先順位がつけられるべきです。
目標管理は、優先順位の設定と実行計画の策定が重要です。部門ごとに明確な目標を設け、その達成に向けた戦略を練ることが、組織全体の効率を高めます。
最後に、計画の進捗と成果を確認するためのコミュニケーションが欠かせません。
上からの目標提示と下からの成果達成計画の提出により、情報伝達が円滑に行われます。
短期経営計画は、計画策定から実行までの一連のプロセスが組織の成功に影響を与えます。簡潔で明確な計画、トップのリーダーシップ、信頼、優先順位の設定、効果的なコミュニケーションの確立が、計画の成功に不可欠な要素です。
これらを組み合わせ、組織全体が共通の目標に向かって協力することで、短期経営計画は本当の成功を収めることができます。
短期経営計画作成の注意点
短期経営計画書は、極力簡潔なものにする必要がある。筆者は一〇〇ページにもおよぶ大部の経営計画書を見たことがある。詳細な行事予定まで入っている。
しかし残念なことに、その会社の課長のうちで、だれ一人として、今期の利益目標を知っている者はいなかった。それはまったくの飾り物だったのである。
その計画書には、何もかも盛りこもうとしたために、だれにも何も知らせることができなかったのである。
だから、重要なものであればあるほど、それは簡潔に、要点だけを記入するようにしなければならないのである。長いほど要点がぼけるおそれが多いからだ。
筆者は少なければ五~六ページ、多くても二〇ページ以内に収めるようにしたほうがよいという考えをもっている。
それで十分である。それに収まらないようならば、表現を工夫する必要がある。
短期経営計画書は、印刷されるか、またはコピーをとって、役付者以上には全員配布がよい。
説明会を開く
そして、日をきめて説明会を開き、トップ自ら計画を説明し、決意を述べるのである。この会は、話合いの会ではない。
客観情勢のきびしさと、それに対応して生き残るための数字と、トップの決意をよく説明し、納得させ、覚悟をうながし、やる気を起こさせる説得会なのである。話合いは、計画の凡傭化に役だつだけである。
現実との妥協は、すでに計画の中におりこみずみなのだ。だから、断じて話合いの会ではなく、説得会なのである。
だからこそ、なおのこと、納得させるための質疑応答は十分に行い、「目標を実現させるための要求」には耳を傾けるという態度が、トップには必要なのである。
この説明会を成功させるものは、トップの「説得力」である。説得力こそ、リーダーシップの第一要件であり、トップのみならず、経営担当者の最も重要な能力の一つである。
ありがたいことに、説得力はその気になりさえすれば、だれでも身につけることができるのである。
- トップまたは経営担当者の不退転の決意
- 決意のもととなった客観情勢をよく認識させる
- 部下の能力の信頼
トップまたは経営担当者の不退転の決意
その第一は、トップまたは経営担当者の不退転の決意である。
これに対しては多くの説明を要しない。これがあれば、たとえ言葉はへたであっても、人の心を動かすことができるのである。
決意のもととなった客観情勢をよく認識させる
第二は、決意のもととなった客観情勢をよく認識させることである。そのきびしさを知らせて、新たな覚悟をうながし、自己保存本能を刺激することによって、動機づけを行うのだ。
部下の能力の信頼
第三には、部下の能力の信頼である。
これについては、「第2章2・9」で述べた。しかし、重複もかえりみずに、ここで再び強調したいのである。
「本人の能力に合った」というような、まことしやかな誤った考え方は、まったく捨て去られなければならないのだ。本人のかくれた能力を信じて任すべきである。
特に若い人の能力をもっと信じなければならない。
「まだまだとても」というような考え方は、老人の悪い癖である。
若いうちに重荷を負わせて鍜えることこそ、本人の幸福であり、会社にとっても有利なことなのだ。若いときに重荷にへこたれるような腰抜けは、年をとってもやはりたいした使いものにはならないのだ。
先ごろ引退した日立製作所の倉田主税氏が、「近代経営」誌一九六八年新年号における「経営者による創造的経営への提言」の中で、つぎのように述べている。
私が会社に入ってから、五年目の大正六年ごろだったが、私は自分のいい出したことが起因になって、たいへんな仕事をまかされた。
そのころ、私は電気工場の鉄板の仕事をしていたが、電気の機械に必要な電線を他社から買っていた。
しかし考えてみると、日立鉱山で原料がどんどんでるのに外から買ってきて、これを使うというのは不合理だから、なんとかして独自に作るべきだ。
私はそう考えて、夕食後に議論したり、また、当時の上司にも始終意見具申していた。
ところが、その話が具体化しその機が熟してくると、電線を作ることについては、おまえがこれを計画せい、ということになった。
むろんそんな経験はなかったが、電線を作る機械をまず設計し、適当に人間を集めてきて試運転し、とにかく作りあげることについてのすべての権限を委譲された。
その時はずいぶん失敗もし、長い間苦労もしたが、その結果やっと電線ができるようになった。
当時の私は、まだ三〇いくつの年で、会社に入ってまだ五年にしかならないときだから、これだけの仕事を全幅の信頼を受けて任されたというときに、私が感じたのは、これだけ信頼されているならば、それこそ一命を賭してその仕事を完成したいということだった。
実をいうと、最初は私にそういうことができるだろうかとひじょうに心配し、疑った。自分には経験もなければ何もないのに、はたしてできるかしらと思った。
しかし、おまえはできるからやれということをいわれてひじょうに気を強くした。そこで、全幅の信頼を受けたら、ほんとうにそれこそ心服するものだということを、私はみずから体験した。
それ以来、私も皆にそういうことを始終たたきこんできた。
ほんとうに部下を信頼して、これを任せてやるということが、いかに大事であるかということを、機会ある毎に私は説いてきた。
……かつて、本田技研で鈴鹿工場を建設したときには、ほとんど係長以下で仕事をしていた。
あの超スピードとすばらしい結果は、指導のみごとさもさることながら、若い者の活躍の力が大きかったのである。
九州松下電器の佐賀工場長は、三二歳の青年が起用されているし、また、かつての「三原西鉄ライオンズ」も、初優勝をとげた「西本阪急ブレーブス」も、その優勝に若い力の果たした役割を見のがすことはできないのだ。
われわれは、若い力にもっと期待し、もっとチャンスを与えるべきであろう。以上三つの事柄は、その気さえあればだれでもできることであり、それによって、説得は間違いなく成功するのだ。
不可能への挑戦
こうして、短期経営計画は、会社の幹部に理解され、納得されて、不可能への挑戦がなされるのである。
「第2章2・9」において述べた精神革命のところを、もう一度読み返していただきたいと思う。
このようにして、トップの決意と、企業の目標が明らかにされて、各部門や各製品に割りつけられた目標が正式にきまるのである。
そして、各部門の長に対しては、各自に割りつけられた目標を達成する計画書を、期限つきで提出するように命ずるのである。
蛇足ながら、ここで部門計画について、つぎのことを確認しておきたい。
- 一各部門(または成員)の目標は、自らの意志で決定するのではない。その部門(または成員)の意志とは無関係に、上司から(実は客観情勢が上司を通じて)割りつけられる。
- 二自らの意志でたてなければならないのは、割りつけられた目標を達成する計画──成果達成計画──である。
- 三この成果達成計画で、自らの方針と部下に割りつける目標を、自らの意志で決定してゆく。
のであって、自らの目標を自らたてるのではなく、目標は常に上から与えられ、自らの意志で行うのは、その目標を達成する計画なのだ。
こうすることによって、トップの目標が次第に細分化されながら、下部に浸透してゆくのである。
経営とは、あくまでも「一つの意志」をもとにして行われるものであって、各級幹部が自らの意志でたてた、「たくさんの意志の集り」ではないのだ。
ただし、部下を参画させるという形をとって、事態の認識と自分の考えを部下に知らせることはよい。
この場合も、「話合ってきめる」のではなく、「話合いという形をとって自分の意図を理解させ、納得させる」のであることを忘れてはならないのである。
部内計画会議
この部内計画会議では、つぎのようなことを決定してゆく。
まず部内方針を述べたのちに、
- 一実施事項とその目標
- 二責任者
- 三日程
- 四目標達成の方策
- 五チェックの時期
などである。成果達成計画で留意しなければならない点がいくつかある。
まず第一に、優先順位の決定である。たんなる列挙による盛りだくさんは禁物である。何もかもやろうとすると、何もかもできなくなってしまうからである。
かぎられた資源(人・物・金・時間)を最も有効に利用するためには、優先順位を決定し、これに投入する資源の密度を高める必要があるのだ。
この場合に大切なのは、「先にやること」ではなく、「後回しにすること」をきめることである。
これが、なかなかむずかしいのである。施策が計画期間の前半に集中して、後半ががらあきという計画によくお目にかかる。
「そんなに前半にばかり集めてできるのか」と質問すると、「できます」という返事はりっぱだが、できないという例が多いのである。
これは真剣さのあらわれではあるけれども、企画力の不足である。このような計画書は、練りなおしを命ずる必要がある。これが実務教育である。
「目標は五つ以内がよい」という目標管理の先生がたの主張はおかしい。階層が上になるほどやるべき事柄は広範多岐にわたるから、目標が一〇以上になることも、けっして珍しくないのだ。
したがって、目標は数で押さえるのではなくて、「どうしてもやらなければならない事柄」からきまってくるのであり、一般的には、階層が上になるほど目標の数は多く、下になるほど少なくなるはずである。
目標管理の先生がたは、目標の「ウエイトづけをせよ」とおっしゃるけれども、なんのことか筆者にはさっぱりわからない。
目標全体を一〇〇%として、A目標には四〇%、B目標には三〇%、……というやつである。
A目標に四〇%のウエイトをおけといってみても、四〇%とは、時間や労力の四〇%を費せというのか、関心の四〇%をさけというのか、それぞれの目標の達成率にそのパーセンテージをかけて全体の達成率を測定せよというのか、という具体的な質問を投げかけても、それにはなんの解答をも得られないのだ。
四〇%とはなんのことか、そんなものを測るモノサシなどあるわけがない。まったくバカバカしくて話にならないことを、まことしやかに述べているにしかすぎないのである。
ウエイトづけではない。優先順位なのだ。
優先順位をつけるということは、場合によっては、順位の後のものは、できなくなるかもしれないということを意味しているのだ。だからこそ、優先順位の決定はむずかしいのである。
優先順位について、もう一つ注意しなければならないのは、階層が下になればなるほど、「一時一事主義」に近づけるということである(*4)。
すなわち、階層が下になるほど間口は狭く、奥行は深くなるからなのだ。つまり、実戦部隊に、同時にいくつもの目標を達成せよといっても、できるわけがない。
そうでなくても、監督者などの下層幹部は、互いに関連のない種々雑多な仕事の処理に追い回されているのだから、この点をよく計算したうえで指導しなければ、成果のほどは、はなはだあやしいものになってしまうのである。
成果達成計画案の提出
このようにして、でき上がった成果達成計画案は、トップに提出される。
トップは、これを見れば、目標がどのように理解されたか、されないのか、そして、それをどのように達成しようとしているか、がわかるのである。
もしも、目標が理解されていなければ、この時点で事前に発見されるし、目標達成の方策についての疑問や具体性に欠ける点があれば、それらについての質問や指導ができるのである。
上下のコミュニケーションは上からは目標を示すことによって伝えられ、下からはこれに対する「成果達成計画」によって行われるのである。
このようにして、上下のコミュニケーションが基本的に行われるのだ。
上からの目標と、それに対する下からの成果達成計画によらない上下のコミュニケーションは、誤った伝達が行われる危険を常にはらんでいるのである。
口頭だけによる話合いの場合には、上司の何げない言葉が、もしも部下の得意の領域や関心の深いことにふれていたならば、部下は、「上司はこれを重視している」と思いこんでしまうことが多いのである。
上司は、何げなくいったことだから、そのことを覚えていない。
しかし、部下はこれを上司の重大関心ととる。そして、上司の意図であるとして、これに対する行動をとる。この行動を上司は「おかしい」ととるのである。
そして、それを部下にただすと、部下はむしろ、「心外なこと」と思うのである。これが上司に対する不満とまではいかなくとも、上司の言葉に対する、ある種の不安になるのである。
まとめ
短期経営計画の発表は、企業にとって重要な瞬間であり、成功のためにはいくつかの重要なポイントが存在します。計画書は簡潔で要点を明確に示すべきで、冗長さは避けるべきです。
何よりも、計画の背後にある目標や戦略をトップが明確に説明し、決意を示すことが重要です。
説明会は、トップの説得力を発揮する場でもあり、計画の成功に欠かせません。トップは客観情勢や目標に対する自身の決意を伝え、部下を納得させ、覚悟を促し、やる気を引き出す必要があります。
部下への信頼も大切であり、部門ごとに目標を設定し、計画を立てる段階で部下を参画させることが有益です。若い力を信じ、チャンスを与えることも重要です。部門ごとに優先順位をつけ、優先事項を明確にすることは、資源の効果的な活用につながります。
目標管理では、目標の数よりも優先順位が重要であり、各部門に割り当てられた目標はトップから与えられます。部下はその目標を達成するための計画を立て、これに基づいて行動します。コミュニケーションは、上から目標が示され、下から成果達成計画が提出される形で行われ、誤解を避けるために重要です。
短期経営計画の成功には、計画の明確さ、トップの説得力、部下への信頼、優先順位の設定、効果的なコミュニケーションが不可欠です。これらの要素を組み合わせ、組織全体が一つの目標に向かって協力し、成功を収めるための道筋を描くことが求められます。
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