◆どんなにダメな子でも『蛙の子は蛙』次の世代に会社を引き継ぐとき、「自分の息子ではなく、もっと優秀な社員から社長を選びます」と言う社長がときどきいます。「世襲よりも実力主義」とでも言いたいのでしょう。しかし、これは大間違い。中小企業は、息子や娘に継がせるのが一番です。以前、「優秀な社員に会社を継がせる」と言っている社長に、「それで優秀な人は何人いるの?」と私が聞いたら、「四人いる」と答えが返ってきました。この時点で完全にアウトです。優秀な四人のうち一人を社長にしたら、残りの三人が結託して社長の足を引っ張るに決まっている。少なくとも「新社長に協力しよう」とは思いません。それが自然な人間の心理です。中小企業の組織で、優秀な人材がいがみ合ったら会社はすぐにダメになります。そんな無用な争いを生むくらいなら、無能だろうが、ボンクラだろうが、自分の息子に継がせた方がいいに決まっています。そしてもう一つ。私はいつも社長(創業者)にこんな質問をします。「もし、優秀な社員に会社を任せて倒産した場合と、自分の息子(娘)を社長にして倒産した場合、どちらが納得いきますか?」すると、みんな一様に「息子(娘)に会社を潰された方が納得する」と答えます。これが親の心情です。そういう意味でも会社は息子(娘)に継がせた方がいいです。◆社長の子どもは「親の姿」をずっと見ながら育ってきた血筋とはおもしろいもので、社長の息子や娘は、実際に社長をやらせてみるとけっこうしっかりやります。やはり、蛙の子は蛙です。武蔵野に「ウチの息子(娘)を鍛えてくれ」と、社長の子どもが毎年何人も入社しますが、中には「こんなにひどい息子は見たことない」と思う人もいました。日本海に面する会社の息子も一時期武蔵野で働いていたが、これが何をやらせてもダメ。もともと、この家庭は女の子ばかりで、やっと生まれた待望の男の子。そんな背景もあって、親からも、おばあちゃんからも、とにかくかわいがられて育ってきた。親が「蝶よ花よ」と育ててきたから、仕方ありません。武蔵野史上で最低の出来の悪い社員と思っていたが、地元に帰った今では辣腕社長とし
て活躍しています。よく、創業社長は優秀で、二代目がボンクラ話を聞きますが、そんなことはありません。むしろ蛙の子は蛙です。親が甘やかして、ボンクラに育てているだけです。どんなに甘やかしていても、中小企業の社長の血が流れて、生まれてから、家で父親と母親がお金の話をしたり、社員の話をしているのを聞いて育っています。そんな環境の中、子どもは何かしらを学び、吸収している。そこはサラリーマンの子とは違います。◆理不尽な思いをしなければ人は育たない「自分の息子や娘をいきなり社長にするのではなく、一度は、外の世界で勉強させたい」と考える社長は多いです。そこで社長は、取引先の社長に「ウチの息子を鍛えてやって欲しい」とお願いするが、これが最悪。考えてもみてください。相手が取引先で、利害関係があるから、社長の息子を預かっても「蝶よ、花よ」の扱いをするに決まっている。間違ってもつらい部署には配属させないし、上司はみんな気を遣います。そんなところへ修行に行かせても、成長するわけがありません。余計に勘違いして帰ってくるだけです。それで「二代目はボンクラだ」という話になるが、当然の話です。つらい思いの体験がない。勉強が嫌いでやらない。社長なので、部下は嫌なことを言わない。このような環境の経営で会社を倒産させた人を、何人も見ています。苦労は買ってでも、させるのが正しいです。武蔵野に「いろんな会社に預けてみたけど成長しないから、ぜひお願いします」と息子を預ける社長がいますが、私も幹部も一切手加減はしません。入社日は「どうぞ、どうぞ」と笑顔で迎えるが、翌日からは手加減をしないスパルタ教育が始まります。厳しい部署に配属して「家からはとても通えない」と言って近くにアパートを借りたら、また別の部署に異動させる。本人は「そんな理不尽な」と思います。本書を読んでいる人も「そんなのひどすぎる」と思うかもしれません。当然です。こちらは、あえて理不尽な思いをさせているから。人間は理不尽な思いをしなければ育ちません。何度も、何度も理不尽な思いをする中で、社会とか、人間関係とか、仕事の本質を覚えていく。しかし、社長(親)と利害関係のある会社では、この大事な「理不尽な思い」をさせて
くれません。だから育たないです。自分(社長)の息子や娘を一人前に育てたいと思うなら、利害関係のある会社へ入れてもダメです。まったく関係ない会社、かつ理不尽な思いをさせてくれるところへ預けなければ、まるで意味がないです。一年では良いことしか教えられないから、社長の息子・娘は三年が必要です。初年度は、会社のルールを教え、早い人は二年目から、チャンスを見つけて理不尽な思いをさせる。理不尽な体験をさせる計画を創るのは、大変です。
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