◆「何も変化がない」ことが、ベストな状態後継者は、先代社長の仕事ぶりを見ているから、自分が引き継いだ際「こんなことをしよう」「こういうところは改善しよう」などあれこれ考えるものです。そして、自分が新社長になり、いろいろな改革、改善に着手するが、そういう後継者ほど「自分の仕事」がわかっていません。自分が会社を引き継いだ一年目は「新しいことは何もしない」のが一番大事な仕事です。これはすべての後継者が肝に銘じておくべきことです。会社を引き継ぐと、取引先、銀行にあいさつへ行くが、誰も新社長に期待していません。一年経って、何も変わらず、前年と同じ売上げ、同じ利益を上げたら、そこで初めて「この社長は大丈夫だ」と信認する。社員だって同じで、社長が替わった際「今度の社長は何をしてくれるかな」と新しいことを期待している人など誰もいません。社員が思うのは「今まで通り、ちゃんと給料とボーナスをもらえるかな」だけです。つまり、前年とまったく同じことをして、同じ給料、ボーナスを支払うことができれば、後継社長の一年目は一〇〇点です。◆業績が落ちたら、親のせいにしろこう言うと、「何も変えずに、前年より利益が下がったらどうするんですか?」という人が出てきます。そんなものは簡単です。親父のせいにすればいいです。親父のやり方を一つも変えずに引き継いで、それで利益が上がらないなら、それは親父のせいじゃないですか。当たり前の話です。そんなこともわからずに、自分で新しいことをやって失敗するから「バカ息子はロクなことをしない」と言われる。一年間、何も変えずにやってみて、もし利益が下がったなら、そのとき「今のやり方を変える」提案にみんなが乗ってくれるでしょう。「何かを変える」はそれからの話です。
まるか食品株式会社代表取締役社長川原一展氏一年目から無駄なお金をたくさん使ってしまった……私が会社を父から引き継いだのは、売上げが下がっているときでした。なので、小山さんの言うように、タイミングとしては悪くなかったのかもしれません。しかし、当時はそんなことはわかりません。右も左もわからず、「自分がなんとかしなければいけない」「なんとか立て直そう」という思いばかりが先に立っていました。「新しい営業方法がある」「新卒採用を変えるべきだ」と話を聞けば、すぐに飛びついてコンサルタントを入れました。そうした私の取り組みに対して、表立って反対する人はあまりいなかったが、きっと社員は「今度の社長、また何か始めたよ」と思っていたことでしょう。だから、大事なところで手を抜く人がいたり、肝心な部分で踏ん張りが効かなくて、なかなか成果は上がりませんでした。それで恥ずかしい話、私も我慢ができないから、ちょっとうまくいかないと、また新しいことを始めることを繰り返していました。なにも、自分の存在感を示したかったわけではありませんでした。ですが、「私が会社をなんとかしなければいけない……」という重責から自らを追い詰めていて、常に焦っていたと思います。それでコンサルタントを連れてきては「先生、こいつらをなんとかしてください」という思いでいろいろやっていました。小山さんの話を聞いて、今振り返れば「無駄なお金をずいぶんと使ってしまったな」と思います。でも、後継者は、そういうパターンに陥りやすいのも事実。だから、「一年目は、新しいことは何もしないのが仕事」という小山さんの言葉は、ものすごく胸に刺さります。まずは、業績の維持ができれば万々歳。それくらいが新人社長の合格ラインなのだと、しみじみ思います。これがなかなか後継者にはわかりません。そのくらい後継者は「何も変えないことを求められている」真実を知らないです。もっと早く教えて欲しかったですね。心の底から小山さんにそう言いました。
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