◆「人が辞めていく会社」に未来はない!ビジネスで「敵は誰か」と言われたら、普通は「ライバル会社」と思う。たしかに、ライバルに勝利することは大切です。しかし、会社が向き合っている本当の敵は『時代』です。どんなにライバルに勝利しても、時代の変化に気づけず、時代の波に乗ることができなければ、その会社は潰れます。今、社会はどんなふうに動いているのか。創業社長であれ、後継者であれ、会社を継続させていくためには、時代の流れをキャッチして、それに伴い会社を変えていかなければなりません。実際、武蔵野も二〇一五年から大きく方針転換を図っています。近年、時代の変化をもっとも象徴している企業の一つが、ヤマト運輸です。これまでずっとヤマト運輸は「いい会社」「優れた会社」と言われてきたが、数年前から「ヤマトで働くのはキツイ」「ブラック企業だ」と評判が立ち始めました。その分岐点となったのが二〇一四年。消費税が五パーセントから八パーセントに引き上げられたタイミングです。この三パーセントの増税で、政府は「国債を返す」と言っていました。公約通り最初は返していたが、その後、政府は積極的に公共事業に投資を始めました。端的に言えば、仕事を増やした。そして、二番目には株価を上げるために、多くのお金を投入した。仕事を増やし、株価を上昇させて「好況の雰囲気」を生み出せば、当然、人件費は上昇します。二〇一四年の消費税増税から、時代はジワリと動き始めた。変化はそれだけではありません。日本は二〇〇五年に出生数を死亡数が上回り、五年に一度実施されている総人口の調査で、二〇一〇年の一億二八〇〇万人から、二〇一五年には初めて一億二七〇〇万人と人口減少を記録しました。日本は向こう四〇年続く、人口減少時代へと入った。こうした時代の流れ、社会の動きは経営と密接な関係があります。仕事が増えて、賃金が上がる。その上、人口が減少しているから、人が「楽して、稼げる仕事」へどんどん流れていきます。これまでのように人があふれている時代なら、「つらくても、ここでがんばるしかない」と思ったが、もはやそういう時代ではありません。経営側から見れば、これまで「人が辞めても、また新しい人を採ればいい」という発想が通用したが、今はそんな時代ではないです。
長時間労働が当たり前の会社は「どんどん人が辞めていき、新しい人が採用できない」社会になっている。これは深刻な経営課題です。人が減ると、事業がうまくいっても、それを担う人がいなくなるからです。ライバルに勝利できる「商品」「サービス」「価格」「ビジネスモデル」を持っていても、それを実現する人がいなければ話になりません。だから、「人が辞めていく会社」の未来は暗いです。ヤマト運輸は優秀だから大きく方針転換して、新しい経営危機を回避した。◆「お客様を増やす」戦略だけでは生き残れないこれまで企業における経営課題、経営戦略といえば、「お客様を増やす」を考えるのが当たり前でした。お客様のニーズを知り、ライバルよりもいい商品を、安く提供する。これによって事業が成功し、会社が成長してきました。武蔵野もそのモデルで成長してきました。武蔵野も長時間労働は当たり前。社員が必死に働き、ライバルに勝利し、成長してきた。それが正しいとか、間違っているという話ではなく、これで経営がうまくいく時代だった。しかし、現代は変わりました。そんな経営を続けていたら、いずれ人がいなくなり、会社自体が潰れます。だから私は大きく舵を切った。◆「超ブラック企業」から「超ホワイト」へと生まれ変わった改革二〇一三年、武蔵野の残業時間は、社員一人あたり月平均で七六時間でした。月に一〇〇時間近い残業をする社員も六人いる状況でした。全身真っ黒の超ブラック企業です。これは深刻な経営危機です。この問題に気づいた私は、二〇一五年の経営計画書に「残業時間、月四五時間未満を目指す」と書き、発表しました。これは異例で、何が異例かと言うと「目指す」という表現です。これまで経営計画書には「○○をする」とすべて断定でしたが、「四五時間未満を目指す」と曖昧な表現をしたのは初めてでした。それも当然で、七六時間ある残業を一年で四割も減らして、四五時間未満にするなど、私自身が「できっこない」と思っていたからです。しかし、武蔵野は四五時間未満どころか、一年で「三五時間」にまで減った。七六時間から見れば、半分以下です。二〇一七年一一月は十三時間です。もちろん、それで売上げ、利益が下がっては意味がありません。「残業時間が減る=社員が貰えるお金が減る」では、当然社員は嫌がります。
そんな人間の心理を無視した改革はうまくいかないです。武蔵野は「残業が減ってもお金が減らない(増える)しくみ」を作り、徹底して生産性を高める取り組みを始めました。その具体的な方策を語ると本一冊分になります。『残業ゼロがすべてを解決する』(ダイヤモンド社)、『実践図解成果を上げながら「残業ゼロ」で帰れるチームのつくり方』(宝島社)を参照してください。ここで一番大事なのは「社長は、時代に合わせて会社を変えていかなければいけない」です。よく経営者は「人手不足だから、残業が減らないのは仕方ない」「ウチの業界、業態では、長時間労働は避けられない」と言いますが、そんなことを言っていたら、最大の敵である時代に敗北します。時代に敗れて会社が潰れてもいいなら、好きなことを言っていればいいでしょう。しかし、会社を守りたいなら、嫌でも変わるしかありません。社内がどんな状況であれ、業界がどうであれ、時代の流れが変わってきたら、それに合わせて自分たちも変わるしか、生き残る道はないです。今までは、従業員が有給休暇を取らないとホッとしていました。時代に合わせて、方針を大転換します。有給休暇を五〇パーセント以上消化する会社にする。ですが、たんに残業が少なくなり、有給休暇が取りやすい会社になると武蔵野は弱くなります。これを回避するため、希望者に評価に連動しない武蔵野スクールを開設する。時代の流れをキャッチして、会社の姿を変えていく。これは紛れもなく、社長にしかできない重要な仕事です。
[著者]小山昇(こやま・のぼる)株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年山梨県生まれ。「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を15年連続増収の優良企業に育てる。2001年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。2017年にはJR新宿ミライナタワーにもセミナールームをオープンさせた。現在、「数字は人格」をモットーに、700社以上の会員企業を指導。5社に1社が過去最高益、倒産企業ゼロとなっているほか、「実践経営塾」「実践幹部塾」「経営計画書セミナー」など、中小企業経営者を対象とした講演、セミナーを全国各地で年間240回以上開催。1999年「電子メッセージング協議会会長賞」、2001年度「経済産業大臣賞」、2004年度、経済産業省が推進する「IT経営百選最優秀賞」をそれぞれ受賞。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、2010年度)。2017年には「MCPCaward2017奨励賞」、2018年には「第33回IT戦略総合大会(ITMC2018)IT奨励賞」を受賞。2004年からスタートした、3日で108万円の現場研修プログラム(=1日36万円の「かばん持ち」)が話題となり、現在70人・1年3か月待ちの人気となっている。『人を信じても、仕事は信じるな!』『経営の心得』(以上、大和書房)のほか、『数字は人格できる人はどんな数字を見て、どこまで数字で判断しているのか』『1日36万円のかばん持ち』『残業ゼロがすべてを解決する』(以上、ダイヤモンド社)、『99%の社長が知らない銀行とお金の話』(あさ出版)などベスト&ロングセラー多数。株式会社武蔵野ホームページhttp://www.musashino.co.jp小山昇ホームページhttp://koyamanoboru.jp
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