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あちらでもこちらでも

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あちらでもこちらでも

公害処理装置の中で厄介なのが「水処理」である。大量のスラッジ(汚泥)が 出るからだ。

ところが、この公害処理装置の業者は、スラッジの処理について極めて誠意がなく、お客様はどのくらい困っているか分からないのに、ほとんどの業者が設置当初だけ申し訳的にスラッジの処理をするだけである。

これがお客様 の信頼を失って、更新の時には、まずその業者には頼まない。これでは、いつまでたっても会社の基盤は確立しない。

いつも浮草稼業でいるのは、業者自らの責任なのである。

論より証拠、I社では徹底的なフォローをやっているために、お客様の信頼は絶大である。

最近では、I社の商圏の四県下で、水処理装置業者は、I社だけに なってしまったのである。自然に文字どおりの独占となったのである。

建設業者も無責任業者が多い。いったん引渡しがすめば、あとは全く知らん顔である。ある建築業者は、お客様のクレームを聞くと「放っとけ」という指図をするのである。

だから、いつまでたっても五流業者で、つぶれないほうが不思議である。

その社長は「早く第一部上場会社になりたい。どうしたらいいか」とい う質問を私にぶつけてくる。

お客様を無視して、何が第一部上場会社だ、と私は、社長自らが姿勢を正さない限り、相手にはならないのである。

深夜のテレビ修理

N電機の社長N氏は徹底したお客様第一主義である。 小売店大型化の必要性を、いち早く察知して大型店新設と小売店のスクラップ ダウンを進めて急成長をしていたが、その中でお客様サービスの向上を重点的に進め、売上げ増大と反比例して、お客様のクレームは急減していった。

急成長の場合は、それ以上にクレームが増大するケースを多く知っている私にとっては驚異であった。

これには、社長の異常な努力があった。大型商品を買って下さったお客様には、 社長自ら筆をとった礼状は社長のサイン入りである。

それは、お買上げのお礼のあとに、商品とサービスについては、ご不満の点は、 「一年三百六十五日、 一日二四時間、いつでも結構ですから、社長あてのお叱り の電話又はお手紙を頂戴したい」という意味のお願い文がある。

社長自ら、お客様のすべてのクレームを社長が直接知りたい、というのである。

これは並大抵のことではないのはご理解いただけると思う。これこそクレーム激減の根元である、 と私には思われるのである。

お客様への手紙は、様々な反響を起している。 ある時、 一人の若いお客様からの手紙がきた。 その人は、特売の時に見切品のテレビを二万円で買ったのだが、売ったほうでは厄介者を追いはらったのだろうくらいに考えていた。

むろん、お客様もそれを 承知で買ったという。ところが、思いがけなく社長さんから丁重な礼状をいただ いて恐縮している。

そして社長さんを尊敬するようになった。私は、これからは、 私の買う電機製品はすべてN社から買います、というような内容だったとのことである。

また、ある晩に会社の仕事で帰宅が遅くなり、風呂をすませてク一パイ″やっ ていたところ、十時半ごろ、あるお客様から至急修理依頼の電話があった。

そのお客様はラブホテルの社長であり、テレビが全部映像が映らないから、至 急修理してもらいたい、というご依頼であった。

社長は直ちに修理班長を伴ってお伺いした。全部映らないのだから、アンテナ が故障しているのだ。これを修理し終ったのは十二時半ごろだったという。その まま帰ったが無料修理である。

それから二週間程たった時に、ラブホテルの社長より電話があり、「全室の空 調施設を更新したい。値段は任せる」というご注文だったのである。

N社長いわく、「報酬を期待したわけではないがアフター・サービスは儲かり ますね」と。 社長の誠意がお客様の心を打ったのである。

F社の「ホーキー」

じゅうたんの掃除機、F社の「ホーキー」は、世界一の品質と性能を誇ってい る。アメリカのトップメlヵl、ビッセル社の掃除機を使っていたアメリカの主 婦が、いったんF社の掃除機を手にすると、再びビッセルを使おうとはしなくなっ てしまうのである。

それというのも、発明者のF社長の精魂がこれに込められているからである。 円筒型のブラシの両端にローラーがついており、手押しによってこのローラー 付ブラシが回転し、ゴミをダストルームに掃き込むようになっている。

その性能 のよさは、電気掃除機をはるかにしのぐのである。 ブラシの毛は、中国の黒豚の毛を使っているが、これは、ブラシの毛として考 えられるあらゆる材料を使って、気の遠くなるようなテストに次ぐテストを繰り 返した結果の決定である。

これは、毛の質だけでなく、長さと植込み方によって 性能が大きく影響されるからではあるにしても、あくまでも最高性能を探求する 社長の姿勢によるものである。

ローラーはゴム製であるが、あまり硬すぎたら敷物をいためる。人間の踵の硬さと同等以下ならば、少なくとも人間が踏む以上には敷物をいためないはずだ。

ところで、人間の「踵の硬さ」というのは、どうやって測ったらいいのだろうか。 というようなところから研究が出発するのである。

学校の教室の二つ分もある開発室の壁には、世界中の主なメーカーの主な製品 がズラッと一面に掛けてあり、それらはすべて精細なテストが行われている。

そして、どのテスト項目についても、F社はそれらのものを上回らなければならな い、というのである。 耐用試験室では、クランク駆動による連続数力月の虐待試験が行われている。

ある日、社長を訪問した時に、社長はどこかのメーカーの掃除機を、自分で分 解して研究していた。見ていると、ブラシの毛の数まで自分で数えているのである。

全く頭の下がる思いであった。 品質とか性能とか信頼性というものは、技術力がモノをいうことはいうまでも ないが、それにも増して決定的な要因は、社長の魂がこめられているかどうかで あることを、私はF社長から学ぶのである。

鋏の夕庄二郎″

庄二郎刃物工業という会社が東京にある。裁縫鋏の専門メーカーである。この 鋏は創業者三浦庄二郎氏が命をかけて作りあげたもので、すばらしい品質を誇っ ている。

同社に伺った時に、私自身でこの鋏の切れ味を試す機会を得た。幾重にも折っ て厚さ一センチにもなった布片を、世界的に定評のあるドイツ製の鋏と庄二郎の 鋏とで切ってみたのである。

ドイツ製は、僅かに切込みはできたが、それ以上の 食込みはかなりの力を入れてもできなかった。

庄二郎の鋏は、見事な食込みで切断ができるのである。

その切片を私は記念の品にしていただいてきた。 切れ味だけではない。その姿全体に何ともいえない気品が感じられるのである。 まさに「名品」である。

同社の工場を拝見する暇がなくて残念であったが、帰り際に検査室だけ拝見さ せていただいた。検査室では、庄二郎氏ご自身が八十余歳の身で、自ら二人のベ テラン検査員とともに検査をされているのである。

しかも全数検査である。庄三 郎の鋏は、一丁なりとも不良品があってはならないというのだ。庄二郎氏の姿に、私は全く頭が下がってしまった。

創業者自身が文字どおり命をかけているのである。

日本刀の伝統が今私の目の 前にあるのだ。私は深い感動を受けた。その感動を胸にいだいて同社を辞した。 この日の庄二郎氏の姿は、私にとって生涯忘れることはないだろう。

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