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目標の領域⑨!目標には測定するモノサシが必要

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3・9目標には測定するモノサシが必要

あちらこちらの会社に行って、しばしばお目にかかるものに、「売上げ増大」「経費節約」「品質向上」というような、うたい文句がある。これらはスローガンであって、目標ではない。

たんに売上げ増大では、いくら増大したらいいか、だれにもわからない。経費節約というのは、経費をいくらに抑えたらいいか、だれも知らない。のん気なものである。

このような会社では、「その趣旨にそって努力します」としかいいようがない。これでは成果のほどは、あやしいものである。

このような会社では、測定のモノサシは、前年比、前年同月比というのを使っている。前年比はわかっても、それでいいか、わるいかはわからない。もっとひどいのは、前期比、前月比というモノサシである。

季節的変動があるかぎり、このようなモノサシは意味がないばかりか、事態の判定を誤らせるおそれがたぶんにあるのだ。

有価証券報告書が前期比をやっている。

前年比とか前期比という考え方は、会計学者の企業分析の世界で行われることであって、企業体のとるべき考え方ではないのだ。

企業体でこの考え方をとると、「なりゆき経営」になってしまうからなのだ。企業は、「なりゆき経営」ではなく、「目標による経営」でなければならないのである。

目標とは、「手に入れたい結果」である。したがって、それに向かって努力を重ねても、それを手に入れたかどうか、わからないのでは困る。

それをわからせるためには、それぞれの目標では、何が測定され、そのモノサシは何かということを、はっきりさせておかなければならないのだ。そして、これが業績の評価につながってゆくのだ。

たとえば、売上げ目標では、金額なのか、伸び率なのか、占拠率なのか、何を測定するのかを明らかにする必要があるのだ。

品質目標では、不良率なのか、不良金額なのかということである。

出勤率向上の目標として、九八%としたならば、これは有給休暇を含んだ計算か、含まない計算かをきめておかなければならないのだ。

モノサシとしては、絶対値、特に金額で示せるものは、これを使ったほうがよい。

たとえば売上げは、伸び率や占拠率から計算した売上げ金額を表示すれば、伸び率や占拠率は示さなくともさしつかえないであろう。

これの代表的なものが「予算」である。

しかし、予算に絶対額を示すのはよいとして、「予算差異」……つまり、予算と実績との差になると、絶対額だけではいかなくなる。

その点になると、予算統制の先生は、「予算ごとに差異の基準をあらかじめ設定することがのぞましい。

しかし、これは一応の基準であり、かつこれに対する弾力的解釈がなされなければならないのである」というような、無責任きわまることをおっしゃる。

そのくせ、それを追及すれば、ちゃんと逃げ道のあるいい回しを使っているのだから腹がたつ。

われわれが知りたいのは、先生がたのおっしゃるような抽象論ではなくて、「差異の基準を、どのようなものにきめたらいいか」であり、「そのモノサシには何がいいか」なのである。

それにはぜんぜん答えてくれないのが専門家なのだ。

実践家は、「ここにどのような橋をかけたらいいか」が知りたいのに、それを専門家に質問しても、将来の交通量の増大を見込む必要があるとか、地震や洪水に耐えられるものでなければならない、などという抽象的な答えしか得られないとしたら、実践家は失望するばかりである。

予算統制の理論ばかりでなく、経営学と称する管理論のほとんど大部分は、このような抽象論で埋めつくされているといってよい。

しょせん、それらのものは、「頭のよい素人がつくりあげた観念論」なのである。

理路は整然としており、論旨は間違っていないだろうけれども、実践家の切実な要求には、ほど遠いものといわなければならないのである。

多くの会社で、予算差異を絶対額でみている。

そのためにおかしなことになってゆく。

たとえば、「売上げ予算を約一〇〇万円上回った。はなはだ結構である。しかし、材料費は予算を五〇万円超過した」という見方をしているところが多い。

これは間違いである。

売上げに対する材料費率が五〇%であったとするならば、この例では、材料費は予算どおりなのである。

材料費は、売上げの増減に比例して増減する、いわゆる比例費(変動費)なのである。

だから、材料費は売上げに対する比率でみないと混乱をする。

「売上げ一〇%増加に対して、材料費は一二%増加している、二%超過である」という見方をしなければならないのである。

また、セールスマンの個人売上げになると、経営的には絶対額でみなければならないが、個人の業績評価には伸び率でみなければならないという使い分けが必要になってくる。

受持ち区域や得意先に条件の違いがあるのだから、こうしないと個人業績の評価にならないのだ。

そうかと思うと、売上げに対する人件費率をみるという、まったく間違いというわけではないけれども、不適切なモノサシを使う人もいる。

人件費というのは、付加価値に対してみるのが正しいのである。

このように測定の基準とそのモノサシは、正しいものでないと、いろいろな点で問題を起こすから、十分注意し、慎重にきめなければならない。

その一般的な基準は、

○売上げ……絶対額で(必要があれば伸び率や占拠率も併記する)。ただし、個々についての業績は、伸び率でみるほうが適切な場合がある。

○変動費……売上げに対する比率。

○付加価値…絶対額と売上げに対する比率。

○固定費……一カ月の絶対額でみる。

○生産性……付加価値に対する比率でみる。

このように、一つの目標について、測定のモノサシはいくつもあり、それぞれの目的に応じてこれを使い分けなければならない。

そして、それをやれるものは、あなたの会社については、あなたがたの努力にまつよりほかにないのである。

要は、事業の要請に合致した、わかりやすい基準であれば、どんなものでもよいのだ。

そして、それを前向きの姿勢で使いこなすことが大切なのである。

ここに、すぐれた実例がある。

松下電器の「BUシステム」(予算統制制度)である。

(*3)これを松下電子工業にみよう。

同社の予算統制の測定基準は「変動費レートと固定費額とは拘束性をもち、変動費額は確認のための合計にすぎない」というのだ。

わかりやすくいえば、「予算は事業活動を拘束しない。

しかし、予算のレートは事業活動をチェックする」ということである。

だから、予算を超過しても一向にさしつかえないのである。

いや、積極的に予算以上使いなさい、大切なことは費用と成果の比率である、というのだ。

二倍のインプットを費しても、二倍以上のアウトプットをあげれば、そのほうがよいというのだ。

「予算額は、その比率を算定するための数字であって、絶対額を示すものではない」という考え方なのである。

この考え方こそ、完全な生産性の考え方なのである。

すぐれた企業の、すぐれた考え方を、われわれはよく研究してみる必要があるのだ。

*1山陽特殊製鋼は1965年に会社更生法を申請し、倒産。

負債額の大きさ、粉飾決算の発覚、連鎖倒産の拡大などにより、社会問題に発展した。

その後、会社は再生を果たす。

*21957年にC・N・パーキンソンが発表した『パーキンソンの法則』では組織が肥大化する理由などを鋭く指摘した。

*3バゼット・システム(BUシステム)とは、もとはオランダのフィリップス社が取り入れていた経営管理手法。

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