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目標の領域⑥!物的資源と財源

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3・6物的資源と財源

物的資源には、原材料などの生産資源と、建物・設備などの物的施設がある。

生産資源については、それが企業の死命を制するし、特殊な情況におかれている企業は、慎重な、あるいは独自の対策をたてている。

林業会社やパルプ会社のように、五〇年を一サイクルとしての長期計画もあれば、地下資源の開発に社運がかかっている企業もある。

アラビア石油などはこの典型である。

大豆、綿花、ゴムなどの国際商品は、ニューヨークや、シカゴや、シンガポールの商品取引所で相場を張りながら、原料手当をしている。

それらの、むしろ特殊ともいえる会社以外は、原材料の確保について、あまり重要視していない会社が多い。

しかし、ある中堅紡績会社の社長が豪州の気象とニラメッコしながら、水ぎわだった羊毛の買いつけをしている、というような実例を見せつけられると、原材料について明確な政策をもつ必要性を強調せざるをえないのだ。

同程度のゴム会社で、一方は商社から原料を買入れ、他方は自ら相場を張って、原料面でも収益をあげているという例もある。

相場だけではない。

技術革新による原料革命は、新原材料をつぎつぎと生み出し、しかも、わずかの期間に急ピッチの値下がりをするものも珍しくない。

この面への注視も怠れないし、特約か競争見積りかも考慮する必要がある。

中小企業で、商社の口車にのせられて、材料を「ひもつき」にしようとしているのを、筆者が危くやめさせたこともある。

「利はもとにあり」という平凡な真理も、現実は実にさまざまなあらわれ方をするのである。買入部品もまた物的資源である。

その供給源についての明確な方針をたてている会社もまた少ない。系列化とか育成とかいっても、たぶんに、ご都合主義的なところがある。

利用するだけ利用して、というよりは、絞り取るだけ絞り取って、あとはボロ切れでも捨てるように、捨ててかえりみない会社には義憤を感ずる。

もっとも、捨てられる会社もあまりほめられることではないのだが……。目先だけの利用や、浪花節的忠誠心を要求するのではなくて、明確な育成方針を打ち出すべきである。

それが結局は自社に利益をもたらすことになるのだ。とはいっても、これはきわめてむずかしいことだ。これには、系列下の企業の経営指導が必要である。

だが、経営指導などできる人間は、めったにいないからである。それだからこそ、筆者はなおのこと、なんとかならないか、と思うのである。

そして、「松下連邦経営」という生きたお手本があるのだ。物的施設は、大きな資金を長期間固定してしまうだけに、物的資源とは別の意味で非常に重要である。

かつて、「優等生の落第」だといわれた、あるバルブメーカーの倒産は、不況期に工場用地を買って、運転資金を固定化させてしまったのが、倒産の直接の原因だといわれている。

山陽特殊製鋼の、あのムチャクチャな設備投資に、企業を破綻に追いやる経営者の経営態度があらわれている。(*1)

好況に気が大きくなり、身分不相応な拡張や設備投資を計画し、それが完成したときには不況になっていて、稼動しないばかりか、建設費の支払いにも窮する。

このような例は多い。

「設備投資は不況時に行え」というのは、一理も二理もあるのだ。

ある会社で厚生寮の計画をしていた。その会社はここ数年、業績は低下し続け、赤字の一歩手前なのだ。

厚生寮どころの話ではないはずである。

理由をきいてみると、「無利子の金が借りられるから」というのだ。

どうもわが国の経営者は、貸してくれるものはなんでも借りなければ損だと思いこんでいる人が多すぎる。

そこで、借りる金は無利子でも、それだけですむはずがない。

それが収益を生む投資であれば話は違うが、厚生寮では収益は生まない。いや逆に維持費がかかってゆくのだ。

無利子といっても、返済するときは利子のついている金で返済をするのだ、やめたほうがよい。

いま、あなたの会社では厚生寮をつくることよりも、業績を回復して、一日も早く世間なみの賃金とボーナスを従業員に出すことのほうが先なのだ、と説得してやめさせたことがある。

また、これも業績不振のある会社である。

ある年から、固定資産の生産性がガタ落ちしたので、その原因を調べてみたら、デラックスな海の家を買い、社宅をたくさん建てている。

海の家は、ライバル会社がそうしたので、それに対抗するためだという。妙な対抗意識もあるものだ。そのうえ、さらに本社ビルの新築を計画しているというのだ。

経営者は何を考えているのかサッパリわからない。

「本社ビルを建てると会社はつぶれる」という、パーキンソンの法則(*2)は、この会社にりっぱに生きていたのだ。

つぎに登場する、これも業績のあまりよくない会社の、新設工場を見学したときのことである。りっぱな食堂ができていて、将来工場がフル稼動したときの人員を全部一度に収容できるというのだ。

それまでは半分遊んでいるわけであり、逆に維持費はかかるのである。いささかムダである。だいいち、なぜ従業員を一度に全部収容しなければならないのか。

筆者は、生産や研究には、惜しげもなく金を投じながら、食堂のような収益を生まない施設は最小限度にとどめて、時差利用をしている優良会社を知っている。

ずいぶん経営者の考え方が違うものである。

もう一つ。

やはり業績の悪い三〇〇人たらずの小企業である。

社長は車で五分くらいの通勤用に外車を使い、電話の交換機を入れて専属の交換手を二名おき、守衛所を建て、りっぱな広接間を二つもつくり、ロッカー室と厚生寮をいま計画中だというのだ。

工場や生産設備に関する計画をきいたら、何もないという。「どこかがくるっている」としかいいようがない。

せめて昼間だけでも、二人いる交換手が受付をかねて、守衛は夜間だけとし、ほとんどお客用には使わない社長の乗用車は、国産の中型車にできないものかと、ため息をついたのである。

それにつけても、りっぱなのは松下電器である。

設備投資のタイミングのよさは、販売のうまさからきているから、ここでは論じないことにして、設備投資の規模である。

……岩戸景気とさわがれた昭和三四~三六年のころ、同業者は、時流にのって、大規模な工場を建設した。東芝など、このときにつくった重電機工場の負担が、その後の悲劇を生んだという。

そして、ようやくフル操業が可能になったときには、もはや最新鋭ではなくなっていたのである。

このころ松下は、フル操業を前提にしないと、事業部は投下資本に対する利益率が悪化するので、従業員三百人から五百人の小工場を分散して建設した。

結果的には、これが従業員の現地採用度をたかめ、寮、社宅などの福利厚生設備を少なくし、その建設費、維持費の分だけ賃金の支払能力を増したのである。

労働力不足時代を先見したようなかたちになったわけだ(『松下イズム』清水一行著)。

常に「設備のフル操業をねらう」という方針は、それ自体だけでなく、連鎖的に好結果をもたらしているのだ。

世の中なんてこんなものである。何かよいと好循環を起こし、何かがわるいと悪循環が始まるのである。

松下電器は設備のフル操業だけをねらっているのではない。設備そのものにも、きわめてきびしい態度でのぞんでいるのである。

それを、九州松下電器の佐賀工場の建設にみよう。

九松は、昭和三九年に乾電池工場の新設を決定した。

その際、高橋(筆者注──松下電器副社長・九松社長)が青沼(筆者注──九松専務)に指示した基本事項は──▼画期的な輸出専門工場、国内生産はやらない。

▼きびしい国際競争に勝つため、製造コスト、金利コスト、品質とくに管理コストを徹底的に追究する。

▼そのかわり、場所も青沼のかって、スケールも自由。──ただしはじめからいっておくが、〝建設もコスト〟だよ。

建設勘定は、バランスシートのうえでは資産になるが、すべてコストにかかってくる。それゆえ建築も生産設備と考え、当事者がみずからやれ!と命じられた。

予算総額は、概算一億五、〇〇〇万円だったが、高橋は松下会長に「徹底的にキビしい建設をやらせてみたい。

もしかすると切り詰めすぎて失敗するかもしれないが、そのときは九松の経営者を育成する授業料として、認めてやってほしい」と所信をのべ、了承を得た。

青沼は、敷地を佐賀に選定、秘密裡に買収交渉を進めながら工場建築を業者に見積もらせた。

相当切り詰めた見積書だったが、高橋は承知しなかった。市価の半値で建てろ!という。

これだったらだれでもできる。できないことをやるのがほんとうの仕事だ」と譲らない。

青沼は、工場長候補の平井と若い技術者の山田を呼び、図面と仕様書の自作を命じた。構造はアーチ式、部材はH型鋼、壁体はブロック、窓は熱線吸収ガラス、屋根はカラー鉄板にした。

普通の亜鉛引鉄板だと一年にいっぺんの塗替えが必要だが、メラミン焼付けのカラー鉄板ならイニシァルコストは張るが、一〇年保証付である。

使用材料はすべて自社購入、材料支給で請け負わせ、ついに市価の半額の建築に成功した。

高橋佐賀工場の場合「建設から製造コストだ」という考えに立つと、まず建設費のコスト切下げに成功しなければならない。

同じ乾電池をつくっている久留米工場は償却が進んでいるから、帳簿価格はもうわずかです。こちらは、当面単三乾電池、三〇〇万個の計画……建設費は一億五、〇〇〇万円が限度。

そうすると、通常の建築と考えておったらとても……。そのかわり、会長・社長の決裁で本社の施設に関する規定は、全部取りはずした。

ただし、四国の寿電工の稲井社長にはよく教えてもらうように……。それだけが私の具体的な要求でした。

問半額で建つという見通しはありましたか?高橋名古屋でもう三〇年以上も使っている工場ですが、わたしは坪二三円で建てた。

バラックでも三五円かかった時代です。真中にコンベアを二本通すため柱が立てられない。勢い梁が太くなる。それを板材とボルトで解決した。

わたしがやったとおりいまやれるかどうかわからないが、これだけしか金がかけられないということになれば、そこに新しい創意が生れてくる。

……結局、途中で二、〇〇〇万円だけ認めてくれという。

当初、鉄サッシュの予定だったが、補修費を考えるとアルミサッシュのほうがはるかに原価的に有利だという結論になったらしい。

「それなら結構だ」と──。最終的には期待どおりでした。

青沼は建設過程で一回だけ高橋にしかられている。グリーン・ベルトの幅を一・五メートルにしたときである。高橋はメジャーで実測し「一・ニメートルでいいのと違うか」といった。

これで青沼は二時間しぼられた。高橋佐賀工場の前庭には芝生の大きなのがある。しかし、あそこは後で工場を建てるから、いずれなくなる。

ところがグリーン・ベルトは永久に維持費がかかるから、建設費だけではすまない。これもコストの一部です。(『松下連邦経営』石山四郎著より)

なんと徹底したコスト感覚であろうか、なんときびしい経営態度ではないか。

「できないことをやるのがほんとうの仕事だ」とはまさに名言中の名言ではないか。

できないことをやれと要求するほうも偉ければ、それをやりとげたほうもりっぱである。「不況を知らぬ企業」の秘密の一端がここにあるのだ。

なお一言付言しておけば、その工場にはホワイト・カラーが五人しかいない。

工場長と経理一名、資材一名、女子二名である。従業員は一二〇名だが、将来五〇〇人になっても絶対増員しない方針だということである。

あなたの会社で、営業と設計部門を除いたホワイト・カラーが何人いるかをみて、考えていただきたい。もっともらしい、そしていらない仕事をどれだけしているか。思い半ばにすぎよう。そして、やればここまでできるのだ。

設備についても、ハッキリとした、しかも効果的な計画をもっているところは意外に少ない。

あまり能率的でない汎用機や、稼動率の低い高価な自動機や専用機の購入計画はあっても、わずかな投資で大きな効果を期待できる補助作業機や、治工具、アタッチメントなどにはほとんど予算がとってなかったりする。

一台の予備機械があれば、順番に計画的なオーバー・ホールができるのに、それをやらずに精度の落ちた機械で、苦労して低品質品をつくっている会社があった。

筆者の強引な勧告で、予備機を買って計画的オーバー・ホールをやった結果、製品の精度がまったく違ってしまったという例もある。

いくら設備が生産性向上の武器だからといって、修理工場や個別生産工場で、やたらと高価な機械を入れてみても、稼動率が低ければ必ずしも有利だとはかぎらない。外注したほうが安上がりの場合も多いのだ。

多量生産工場では、また別の危険が待ち受けている。

不用意に自動化、専用化をすすめたりすると、それが高度であればあるほど、いったん製品が変わってしまったときには融通がきかず、極端な場合にはスクラップ同然になってしまう。

ある会社で、大きな塗装プラントを設置したが、製品の総数は多量になったが、市場の要求によって、塗色が多様化し、かえって非能率になってしまったという例がある。

このような危険は、市場の変貌によって、これからますます高まっているのだ。生産性をあげようとすれば、変化に対する弾力性が下がり、弾力性をもたせようとすれば、生産性が上がりにくい。

あちら立てればこちらが立たず、むずかしい世の中になってきたものである。とにかく、設備の問題はむずかしくなる一方である。

なおのこと、明確な方針と、それに基づく計画がどうしても必要なのである。企業経営に必要な資本の調達計画の重要性は、いまさらいうまでもない。

それにもかかわらず、この問題も意外なほど関心がうすいのは、なぜだろうか。

とにかく、わが国の場合には「借金政策」が非常に多い。これはもともと資本力のない企業が多いからであり、それでもやれるような金融政策や行政指導があるからでもある。

そのうえ、配当は税引利益の中から支払わなければならないのに、借金の利子は経費で落とせるという税法がある。

インフレも借金有利説の味方だ。

このような条件がそろえば、短期的には借金のほうが有利なので、あまり深く考えずに借金に走る。自己資本充実など、どうでもよいようになる。

これが資本力の弱少の原因になるという堂々めぐりをしているのである。これではいつまでたっても不況抵抗力はつかず、一年の大半を金融機関のために働くことになるのである。

ほとんど大部分の会社では、材料費、外注費、人件費のつぎに大きな金額になるのが金利なのをみても、これがうなずけると思う。

借金といっても、おのずから限度があり、資本金にも最低の基準をもつべきである。

借金については、利子割引料率が付加価値の五%以内を目標にすべきであろう。

簡単な指標としては、売上高に対してメーカー三%、下請加工業二%、商社一%ということになると思う。

それ以上の金利負担は、銀行のために仕事をしていると思えばよいのだ。

だから、よほどの目算がないかぎり、限度以上の借金をするのは危険である。

何よりも企業体質の強化をこそ先にする必要があるのだ。資本金については、一応のメドとして、月商額と同額の資本金ということであろう。

大日本インキは、「月商額が資本金に追いつくと増資する」という方針をとっている。明快で、だれにもよくわかる方針である。

われわれは、もっと自己資本充実と真剣に取り組む必要がありそうだ。そのためには、まず、その方針をハッキリと打ちたてることであろう。

そして、それは心構え次第でできるもので、比較的たやすい方法がある。

それは、「税金として社外に流出する資金」を合法的に資本にふりかえる方法をみつけ出すことである。

つまり、節税である。やり方によって、これはバカにならない額になるのである。筆者の知っているある会社の実績が、このことを実証しているのである。

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