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目標の領域⑤!収益性

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利益について

利益という言葉ほど、たくさんの論議をよんでいる言葉はない。

それを、ここであれこれいうつもりもないが、ただ、利益は企業経営にとって、どのようなはたらき(機能)をもっているものであるか、ということをここで確認したい。

というのは、この分野はあまり論じられていないからではなく、正しい考え方が意外なほど理解されていないからである。

利益の機能についてドラッカーは、つぎのように述べている。

利益は三つの機能をもっている。

  1. 第一の機能は、経営努力の有効性と健全性との測定である。
  2. 第二に、利益は、事業の存続に必要な諸経費をカバーする資金という機能をもっている。
  3. 事業の革新および拡大に必要な資本の調達を確実にする機能を有している。

第一の機能は、経営努力の有効性と健全性との測定である。つまりそれは、経営の良否を最終的に判定する役目を担っている。

第二に、利益は、事業の存続に必要な諸経費──設備の更新費、市場における危険と不測の事態に対する準備金等──をカバーする資金という機能をもっている。

この観点に立つと「利益」なるものは存在しない。あるものは「事業維持費」ないしは「事業継続費」とか呼ばれるものだけである。

事業の役割は適当な利益をあげて、このいわゆる「事業維持費」または「継続費」を生み出すことである。この役割は決して生易しいものではなく、また、どの会社もこの役割を充分に果しているとはいえない。

最後に利益は、事業の革新および拡大に必要な資本の調達を確実にする機能を有している。

それは、直接的には、社内留保を増大することによって自己金融の道を開き、間接的には、外部資本が事業目標の達成に最も適した形態で流入する誘因をつくり出す。(『現代の経営』自由国民社)

事業継続費について

利益の機能のうち、第一と第三については、人びとの理解を得ることができる。問題は第二の「事業継続費」という考え方である。これについて若干の補足説明をしよう。

企業というものは、事業を継続してゆくためには、常にいろいろな危険にさらされている。

まず第一にあげられるのは、老朽した設備を更新する費用である。これをやらなければ事業を継続できないのであるから、その本質は最も基本的な事業継続費であることは、だれの目にも明らかである。

しかし、税法上では、あくまでも利益に計上されるのである。たとえその取得金額については減価償却として損金で落とすことはできても、それでは取替え費用をまかなうことはできない。

常に新たな資金を必要とするのである。そして取替えは、設備だけでなく、人的資源のスクラップ・アンド・ビルドにもまた、費用がかかるのである。

つぎは、旧式化の危険である。旧式な設備や技術では、他社にたち打ちできないことは、わかりきっている。

しかし、この旧式化は、予測がむずかしいところに危険がひそんでいる。しかし、それが予測がむずかしいために、それに対する準備金もほとんど用意されていないのである。

旧式化の好例が、小野田セメントの「改良焼成法」である。

画期的といわれた改良焼成炉も、それが完成したつぎの瞬間に、さらにコスト安の新技術が開発され、一挙に「旧式化」してしまったのである。

完成したばかりの設備を廃棄することは、大損害である。不利と知りつつ「新しい設備による旧式の製法」による操業を続けなければならなかったのである。

あなたの会社の設備も、いつ新鋭機や新技術の開発によって一挙に旧式化するかわからないのである。あるいは、知らない間にジリジリと旧式化しているかもしれないのだ。

このような危険に対処するためには、利益という準備金を必要とするのである。

製品・サービスが斜陽化・陳腐化してしまう危険

そのつぎには、製品またはサービスが、いつ斜陽化し、陳腐化してしまうかを予測することができないために起こる危険である。これは市場の変化によって起こるものである。

そのようなときに、売上低下による収益低下に耐え、巻き返しのための諸活動も、利益が蓄積されておればの話であって、もしも利益の蓄積がなければ、たちまちに破綻してしまうであろう。

将来を正確に予測することができない危険

そのつぎは、将来のことを正確に予測することができない危険である。

その主なものは、現在開発中の新製品や、計画中の新事業が、いつ成功するかわからないためであり、それが予測する収益をあげないかもしれないのである。

しかも、この不確実性は将来ますます増大してゆくのである。以上は自分の企業自体の危険である。

他社に巻き込まれる危険

ところが、企業体の危険はそれだけではなく、他の企業の危険までも負担しなければならないことがある。売掛金がこげついたり、約手のサイトを延ばされたりする。

その最大のものは、得意先の倒産である。その他材料相場の高騰もあれば、不況による金利上昇もある。まさに内外のもろもろの危険の中で、企業は生きてゆかなければならないのだ。

それらの危険に対処したり、耐え抜いたりするものは、会計上は利益として計上される「事業継続費」なのだ。もしも、利益がなければ、なんらかの変動による危険によって、倒産するかもしれないのである。

利益は不足の危険に備えるための貯金であり保険

このように考えてくると、利益とは「もうけ」ではなくて、不測の危険にそなえるための「貯金」であり「保険」なのである。個人の貯金や保険も、できるだけたくさんがいいにきまっている。

しかし現実の問題として、まず考えるのは、「少なくともこれだけの貯金は」ということである。利益についても、まったく同じことがいえる。

できるだけ大きな利益より先に、「最小限度これだけは」という、最小限利益をまず考えなければならないのである。収益性の目標は、「あげ得る最大の利益」ではなくて、「なんとしても生みださなければならない最小限の利益」なのである。

利益目標をきめる最も簡単な方法

それでは、必要最小限の利益はいくらなのか、ということはたやすく計算ででるものではない。個人の必要最小限の貯金はいくらかを簡単にきめられないのと同じである。

それでも、個人の場合でも不測の事態にそなえて、「収入の一割を貯金する」というような目標をきめるのと同様に、企業の場合にも、ある基準によって、目標利益をきめるのである。

利益目標をきめる最も簡単な方法は、投下資本に対する利子率をもってくる方法である。

松下電器の関連会社は、「二割配当できない会社は一人前ではない」という思想が、その配当を可能にする利益ということになるかもしれない。

二割配当というのは、一割は利子負担分、一割は投資報酬だという考え方である。

別の計算法として、配当、役員賞与、内部留保金のそれぞれの目標金額を出し、それを合計して税引利益を出し、それを税率で割って税込利益を出す、という積算法である。

いろいろな計算法はそれとして、ズバリとわかりやすい目標のきめ方があれば便利なのだが、と思われるかたに、簡単な方法をご紹介することとしよう。

それは、従業員一人当り年間税込利益目標としてメーカー商社最低限二〇万円三〇万円普通三〇万円五〇万円優秀四〇万円以上七〇万円というようにきめればよい。

前にあげた三つの計算法でやっても、ほぼこのくらいになるのである。

とにかく、非常に簡単な方法なので、実用にはきわめて便利なのである。商社がメーカーより高額なのは、それだけ危険率が高いからである。

利益は、何年にもわたって継続的にあげなければならないのだ。目前の利益にのみ心をうばわれて、将来に対する配慮を忘れたらなんにもならない。

未来事業を犠牲にして、当期利益をあげることはできる。

しかし、こうしたやり方は企業の将来を危くする。

継続的に利益をあげ、企業を存続させるための未来事業費は、税法上は経費で落ちる「事業継続費」である。利益目標や実績を公表することをきらう経営者が、まだまだかなりいる。

これを公表すると、賃上げ要求が高くなるというのだ。そんなことをおそれていたら経営はできない。そんな経営者は、必ずといっていいくらい、他社より低い賃金しか払っていないのだ。

積極的に収益源である付加価値増大の手は打たずに、賃金を低くおさえて収益をあげようとする考え方自体、もう古すぎる。

他社なみ、あるいはそれ以上の賃金を払って、なおかつ高収益をあげるための目標を設定し、方針をきめ、これを全社に公表し、ガラス張り経理で実績を知らせ、全社一丸となって企業の存続をはかる時代である。

というよりは、こうしなければ存続がむずかしい時代になっているのである。こうすれば、従業員も必ず協力する。

会社の利益が多いことは、これを知った従業員は、喜び、安心こそすれ、これによって、ムチャな賃上げ要求などはしないものであることについて、筆者はいくつもの実証をもっている。

枝葉末節の労務管理や、ご機げんとりの福利厚生施設など何もせず、定着率一〇〇%、出勤率九九%という会社を筆者は知っている。

社宅も寮もなく、購買組合もなければ社員の旅行もない、給食さえもやっていないのだ。この会社は常に一〇年先を想定し、明確な目標のもとに、積極的な革新を行っている。

もちろん、労務管理の基本として、賞与を含めた給与は、同地域のトップを目標として設定し実現している。そして、二〇年間、常に二割配当を続けているという超優良会社である。

この会社は、いまだに「求人難」という言葉を知らない。そして、この会社の労務管理上の悩みは、やめてもらいたい従業員さえもやめない、というゼイタクきわまるものなのである。

まとめ

この文章は、利益の重要性と機能について詳細に説明しています。利益は企業経営において複数の役割を果たすものであり、そのうちのいくつかは人々によって理解されていないことがあると強調されています。

まず、利益は経営の健全性と効率性を測定するための指標であり、企業の成功を判定する役割を果たすことが強調されています。

また、利益は事業の存続に必要な経費や設備の更新費用をカバーする資金としての役割も持っており、これを「事業継続費」と呼ぶべきであると指摘されています。

さらに、利益は事業の革新や拡大に必要な資本を調達するための機能も持っており、内部留保を増やすことや外部資本の誘致に貢献することが述べられています。

文章はまた、企業の利益目標を設定する重要性についても言及しており、目標設定において従業員一人当たりの年間税込利益を基準とする方法を提案しています。

また、透明性のある経営と利益の公表が、従業員の協力と企業の持続可能性に寄与すると説明されています。

最後に、文章は利益を単なる「もうけ」ではなく、将来の不測の事態に備えるための「貯金」や「保険」として捉えるべきであるとの視点を示唆しています。

企業は将来に備えるための利益を適切に積み立て、持続可能な経営を行う必要があると強調されています。

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