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目標の領域①!ただ一つの目標は企業を危くする

近年、企業経営において「ただ一つの目標」に焦点を当てることが問題視されています。この問題は、経営学の巨匠であるピーター・ドラッカーが「事業目標の八つの領域」に関する論考を通じて浮き彫りにしました。彼の指摘によれば、単一の目標を追求することが企業を危うくする可能性があるとのことです。

利益や売上高のみを追求する姿勢は、将来の成長や持続可能性を犠牲にする恐れがあります。経営者が単に「ただ一つの目標」に焦点を当てることは、正しい判断を欠き、結局は企業の存続を危うくすることにつながるかもしれません。

そこで、企業経営においては複数の目標を設定し、重要な領域を適切に考慮することが不可欠とされています。これらの領域には市場地位、革新、生産性、財務資産、収益性、経営者と従業員の能力、社会的責任などが含まれます。

このような多面的な目標設定を通じて、企業は持続的な成功と成長を実現できるでしょう。また、経営者は自らの育成目標を明確にし、訓練を効果的に行う必要があります。本人の仕事を通じて学び、体験を通じて成長することが肝要です。

単一の目標に縛られず、多くの領域に目を向けることで、企業はより柔軟かつ持続可能なビジョンを築くことができるのです。本稿では、ピーター・ドラッカーの視点から、単一の目標がもたらすリスクと、多面的な目標設定の重要性について探究します。

目次

ただ一つの目標は企業を危くする

「目標の領域」については、ドラッカーの著書『現代の経営』の中にある「事業目標の八つの領域」に詳細に説明がある。

その一部を引用しながら、筆者なりの解説をしてみることとする。その中で、ドラッカーは、「ただ一つの目標」について、つぎのように述べている。

明確な目標をかかげることによって行う事業経営については今日活発な論議がくり展げられているが、注目すべきことは、多くの論者が事業の目標として何か一つのものを見出そうと努めてきたことである。

かかる努力は「賢者の石」(普通の金属を金に変える力をもっていると信じられた石)を探し求めた錬金術師の空しい努力にもたとえられる。

しかし、こうした努力は単に徒労に終っただけではなく、幾多の害毒を流し、多くの人々を誤り導いてきた。

利益のみ追求

たとえば、事業の目標として利益だけを強調することは、経営担当者達を誤らせ、遂には事業の存続を危うくすることにもなる。利益だけを強調すると、経営担当者達は往々にして目前の利益のみに意を用いて、事業の将来を無視する。

たとえば、現在苦労なしに売れる製品ばかりに力を入れて、将来の市場に対する配慮を怠ったり、新製品の研究や技術設備の改良、その他、先に延ばせる投資は後廻しにしてしまいやすい。

ことに、利益の計上を困難にするような増資を歓迎しない。このために、設備は危険なほどに老朽化してしまうこともある。

かくて、利益のみを強調することから、最も拙劣な事業経営が生まれてくるのである。(『現代の経営』自由国民社)

売上高のみ追求

利益だけではない。よくあるのが売上高だけを目標にすることである。

こうすると、セールスマンは、やたらと値引きして売上げをふやそうとするし、製造部門では、売上げ目標にたりない部分は、外注で片づけて涼しい顔をしている、ということになる。

事業の目標だけではない。上司の指導においても、ただ一つの目標をかかげることは、まずい結果となる。

ある会社の社長は、「各個撃破主義」と称して、一つの目標を徹底的に攻め、目標を達成するとつぎの目標に移る、という指導方針をとっている。

みんな心得たもので、材料費を攻められると、外注費や型代の名目とし、運賃を攻められると修繕費に計上したり旅費に化けたり、なかなか手ぎわがよいのである。

正しい判断ができる目標

ただ一つの目標のみをかかげると、このように人びとは逃げ道を探して、その道にそれてしまうものである。

だから、事業の経営とは、事業のさまざまな要求と、そのさまざまな目標との間に、一つのバランスを実現することである。

このためには何よりも、正しい判断が必要である。唯一つの目標を探し求めることは、この判断を不要にする魔法の公式を求めるようなものである。

しかし、正しい判断を一定の方式によって置きかえようとすることは、常に無意味な試みである。

われわれがなしうることは、選択の範囲を狭めて問題の所在を明確にし、意思決定ないし行動の効果に関する正しい測定を可能にすることによって、客観的な判断を可能にすることである。

複数の目標を設定する

このためには、企業の本来の性質からして、いくつかの目標がなければならない。(『現代の経営』自由国民社)このいくつかの目標について、ドラッカーはいう。

では、それらの目標はいかなるものであろうか。その答は一つしかない。

それは、事業の存続ないし繁栄に直接かつ重大な影響を与えるような行為が行われるすべての領域において、設定されねばならない目標のことである。

ここでいう重要な領域とは、経営上のいかなる決定によっても影響され、従って経営上のいかなる決定を下す際にも充分考慮にいれられなければならない領域のことである。

それらは、事業経営が具体的に何を意味するかを明らかにするとともに、事業が達成すべき目標と、その目標を達成する方法とを明示している。

これらの重要な領域における諸目標とは、次の五つのことを可能にするものでなければならない。事業の全活動を簡潔な言葉で適確にまとめて表現すること。

実際の経験に照して右に述べたことの適否を判定すること。

事業にとり必要な行動を予示すること。

決定を下す前に、その決定が健全なものかどうかについて評価すること。

実務にたずさわっている事業家が自分の体験を分析して不充分な点を見付け、将来の指針を得られるようにすること。

最大利潤の追求をもって事業の目標とする説が棄てられなければならないのは、右の五つのどれをも可能にすることができないからである。

ちょっと考えると、重要領域というものは、各事業によってそれぞれ異り、それゆえ、どの事業にも当てはまるような理論は立てられないように思える。

しかし、これは事実に反する。確かにある事業はある重要領域をとくに強調し、他の事業はまた他の重要領域をとくに強調するといった差異はある。また同じ事業においても、発展段階によってそれぞれ強調すべき重要領域が異ってくる。

しかしどのような事業にあっても、またいかなる経済的条件の下に置かれていようと、さらにはまた事業の規模及び発展段階にいかなる相違があろうと、変りのない重要領域というものがある。

つまりこの意味で、どの事業も八つの重要領域をもち、そのそれぞれにおいて、努力の目標を設定しなければならない。

この八つの領域いうのは、

  1. 市場における地位、
  2. 革新、
  3. 生産性、
  4. 物的並びに財務資産、
  5. 収益性、
  6. 経営担当者の能力と育成、
  7. 労働者の能力と態度、
  8. 社会的責任

である。

(『現代の経営』自由国民社)以上のうち、「事業の全活動を簡潔な言葉で適確にまとめて表現する」ということは特に大切である。

ある会社で、経営計画書が一〇〇ページ以上にもわたって、くわしく記載してあるのを拝見したことがある。

そこで筆者は、上級幹部に向かって、計画書の中から、重要な目標をひろい出して質問したところ、ほとんど答えられなかった、という例にぶつかっている。

あまり細かいことまでやたらと盛りこんでもダメであるばかりか、この例のように、肝心なところまでボヤケてしまうのである。

筆者は重要事項のみを簡潔な言葉で、せいぜい一五ページ以内くらいにまとめることをすすめた。

それ以来、その会社の経営計画は、わかりよくなり、重要事項がよく徹底するようになったのである。

目標の八つの領域のうち、あとの三つの領域について、ドラッカーは、それが量的な目標ではなく、人間に関する質的(原則や価値の問題)な目標であるために、とかくやっかい視され、敬遠されがちであることに警告を発している。

企業は人間による一個の共同体だからこそ、この問題を明確にし、具体化することこそ経営者の任務だというのである。

自社の育成計画を作成する

そして、わが国の大部分の企業の経営者は、どのように具体化するかがわからぬままに、教育課とか研修課とかに任せてしまう傾向が強すぎる。

そこには、経営者としての明確な育成目標がないために、企業の真の必要性とは別のところで、次元の低い観念的形式的な講座を外部の専門団体に委嘱してお茶をにごしている。

これでは、訓練担当者は苦労ばかり多くて、実効のほどは期待できない。

訓練を効果的にするものは、経営者の明確な育成目標であり、これのない訓練はむしろナンセンスではないだろうか。

そして、その訓練で最も大切なものは、外部講師によるものではなくて、本人の仕事それ自体を通じて、上司が行う体験教育でなければおかしいのである。

本人の仕事を通じて教え、職務を通じて鍛える。人間は体で覚えて、はじめて自分のものになる。本を読むことも結構、外部講師の話もよい。

しかし、本人が体験を通じていろいろな疑問や必要性を感じてこそ、それらの教育が本当に役にたつのであって、本人の勉強したい気持ちのないところに、本も講義も効果はない。

まとめ


「ただ一つの目標」が企業経営において危険な道に導く可能性があることについて、ドラッカーの論考から学びましょう。

企業の目標設定には「事業目標の八つの領域」という要素が存在し、その中で「ただ一つの目標」に焦点を当てることは危険です。

利益のみを目標にすると、将来の市場への配慮を怠り、設備の老朽化など問題が生じます。同様に、売上高のみを重視すると値引きや外注などが過度に行われ、結果的に事業に悪影響を及ぼすことがあります。

単一の目標を設定することは、正しい判断を欠いたり、人々を誤った方向に導いたりする可能性があります。したがって、複数の目標を設定し、重要な領域を考慮することが必要です。

この「重要な領域」には次の八つがあります。

  1. 市場における地位
  2. 革新
  3. 生産性
  4. 物的並びに財務資産
  5. 収益性
  6. 経営担当者の能力と育成
  7. 労働者の能力と態度
  8. 社会的責任

これらの領域に対する適切な目標設定は、事業の成功に不可欠です。特に、事業の全活動を簡潔な言葉でまとめ、重要事項を明確にすることが重要です。適切な目標を設定することにより、経営計画をわかりやすくし、実行に移しやすくなります。

また、育成計画や訓練においても、明確な育成目標が必要です。訓練は本人の仕事を通じて行い、体験を通じて学ぶことが効果的です。外部講師や本も役立ちますが、本人が学びたいと思うことが最も重要です。

企業経営においては、単一の目標ではなく、多くの領域に対する明確な目標設定が成功の鍵となります。そして、目標を実現するためには適切な判断と体験を通じた学びが欠かせません。

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