要求、質問をしないと現場の仕事は「作業」になる
現場の仕事というものは、放っておくと昨日と同じことを今日もやるようになっていきます。
普通に雇われて、普通に働いている人は、たいていの場合は顧客の創造という概念そのものがありません。
ですから、経営者が顧客の創造をしていくという方針を持って、これを具体的な場面場面で伝えていかないと、社員というのは、こういったことに関心を示さなくなります。
関心を持たなくなると、毎日が同じことの繰り返し。 一つ一つの仕事が、単なる作業になっていきます。
作業になると、お客様と接していても、そこから想像力を働かせてお客様のために何ができるかを考えようとすることがなくなります。
データを見ても、そこから見えてくるのは単なる数値であって、その裏にあるお客様の心理が見えなくなります。
だから経営者は、顧客創造の方針を持って、常に社員に、
「お客様は、どう思っていると思う?」
「それで、次に何をしたらいいと思う?」
などという質問を投げかけて、考えさせなくてはいけないのです。
そして返ってくる答えが甘かったら、
「本当にそうなのか?」
「どうして、そう考えるのか?」
などという問いかけをして、もっと考えることを厳しく要求しないといけません。
有名な話ですが、トヨタ自動車では社員に「なぜ」という問いを五回繰り返すと言います。
それくらい厳しく質問して、要求するようにしていかないと、顧客に関心を持ち、想像力を働かせて仕事をする力が弱まっていってしまうのです。
そして、そうした考える力の弱体化が、顧客創造の障害になっていくのです。
視野を広げ、可能性を広げてあげる
また、現場は、思い入れがある分、
「自分たちの商品はこうに違いない」
「この商品は、きっとこういうお客様が買っていくに違いない」
「この作業はこうやってやるものだ」
などといった狭い視野に陥りがちです。
思い入れを持つことはいいことですが、顧客創造の視点からすると、時としてこれが障害になってくることがあります。
例えばヒートテックの開発でも、そのようなことが起きていました。
ヒートテックの開発チームの人たちは、もともとはババシャツの機能向上からスタートしていますから、自分たちは肌着を開発しているという思いを強く持っていました。
しかし、私は、これは肌着でなくなる可能性があると思うようになりました。
よく見たらこれは肌着というよりもTシャツに見えるのです。
アウターとしても着ることができるし、重ね着もできる。これは肌着ではなくて、コンポーネントウエアになりうると思うようになりました。
肌着だと思って作っている開発チームの人たちには、すぐにはどういうことか分からなかったようです。
肌着だとフアツション性はいらないのですが、コンポーネントウェアと考えるとファッション性が必要です。フアツション性を入れないといろいろな人に買ってもらえません。
現場で思い入れを持って一所懸命やっているからこそ、自分たちの可能性の広さに気づかなくなることはよくあることです。
だから経営者は、そうした時、核心をついた質問をして、視野を広げることをやってあげないといけません。
簡単に譲つてはいけないのであって、出してくる答えが顧客の創造の視点から見て足りないのであったら、厳しく要求する。それが経営者の務めです。
結果的に、これまでババシャツは存在していて、年配の女性が買ヽユ巾場はあったのですが、ヒートテックは、男性・女性にかかわらず、あらゆる年代の人が買うといヽュ巾場を創造することになりました。
経営者の役割は、社員の能力を引き出して、可能性を広げてあげることです。
そのためには、厳しい要求、核心をついた質問が必要なのです。
もの分かりのいい上司にならない
そこを誤解して、社員に嫌われたくないという思いから、もの分かりがいい上司を装う人がいます。
もの分かりがいいというのは、言葉の響きとしてはいいのですが、もの分かりのいい上司からイノベーションは生まれません。
部下も育たなくなります。自分基準、自分都合で仕事を完結させてしまいますから、本当の意味での達成感や成長実感を味わうことができなくなります。
もの分かりがいい上司は、部下の成長機会を奪っていると思うべきです。
これでは強いチームが作れないし、イノベーションを起こすこともできなくなります。
厳しい要求をする上司に必要なこと
ただし、ここで一つ、覚えておいてはしいことがあります。
それは、厳しく要求して本当にやってもらおうと思ったら、部下に「君だったらできる」というよゝつなことを言ってあげることが必要だということです。
本人がやる気を出して、実行していこうと思ってもらわないといけないのですから、本当にやる気が出るように、上司としてもっていってあげるようにするということです。
その時、もう一つ大切なことがあります。
それは、要求して、やらせる以上は最終的な責任は上司が全部取るということを覚悟しておくということですc
部下が一番嫌いな上司というのは、言うことだけ言って、最終的に責任を取らなくて、責任は全部部下に押しつけるというような上司ですc
要求するだけして、要求したら上司の責任が済む、あとは全部部下の責任というような上司。こういう上司が一番嫌いで、部下は、この人についていこうとか、厳しいことを言う人だけれど頑張ってみようという気持ちになれないのです。
ですから、「責任は全部上司にある。うまくいつた時は全部部下の功績だ」というような気持ちで部下に接することが大切なのです。
部下というのは上司をよく見ています。日頃の言動、行動の中に上司の本質を見抜いています。
「この人は本当に自分のためを思って言つてくれている」といヽつものが伝わらないと信頼関係は生まれません。信頼関係のないところで、何を言っても無駄です。
信頼を得ようと思ったら、ここで言ったことを含め、常日頃からの姿勢・態度、これが重要になってくるのです。詳しくは、第三章「チームを作るカー経営者は本物のリーダーであれ―」で述べます。
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