会社にとって、経営者にとって使命感がいかに重要かを述べてきました。しかし、会社というものは放っておくと、使命感とかけ離れたところにいくリスクをいつでも抱えているのも事実です。使命感は、意識してマネジメントするものです。
経営者が牧歌的に過ごしていて徹底されるものではない、という緊張感を常に持って経営にあたらねばなりません。
そういう意味では、次から述べるような会社の兆候に気づいたら、即、戦っていく覚悟を経営者は持ってほしいと思います。いずれも使命感の実現を脅かすものです。
一、自己都合、あるいは強者の論理が横行している
創業当時、あるいはチームを作った当時は、しっかりした使命感を持ち、共有していたはずの組織でも、時間の経過とともに、次第に忘れ去られていくようになります。
その使命に立脚するからこそ、自分たちの会社の存在意義があるにもかかわらず、ただ漫然と、会社があるのがあたり前、お客様が来て下さるのがあたり前という感覚での経営です。
何のためにやっているのかを忘れているため、こうした緊張感の薄れは、自己都合の商品、あるいは自分たちの論理や言い訳が多くなってくるところにその兆候があらわれます。
また、我々も含めて大企業で、立場が強い会社が使命感を忘れると、謙虚さも忘れて、取引先、あるいは自分の部下に対して強者の論理で仕事をする兆候も出てきます。
そのようなことをやっていると、いざという時、本当に協力をしてくれる仲間を失います。経営者はこれらの兆候に対しては、常に危機意識を持って戦っていかなければいけません。
二、横並びやモノマネで何かをやろうとする
使命の実現は、自分たち独自の価値の提供があってこそ、お客様に認知され、達成できるのだと思います。
誰かがやったことを同じようにやるのだったら、その会社の存在価値はありません。しかし、組織が使命感から離れていくと、そのようなことを忘れ、誰かがやつたあとでそれに合わせて横並びで始めたり、似たようなことを真似してやるような行動があらわれます。
そのような兆候に対しても経営者は戦い、「何ごとも最初にやろヽフとする」行動を鼓舞するようにしないといけません。
三、頭の中が機械的、作業的で、マニュアル思考になっている
お客様にとって本当によいこと、あるいは今やるべきこと、それらはその都度全部違います。時代の変化、その時の状況などの影響を受けるからです。
ですから、仕事というのは、自分の頭でよく考えて自分で何が正しいかを、その時その時判断して決める。これが基本です。そうでなければ、お客様の心を適確にとらえて、お客様の役に立っていくなどといった使命の実現は遠い世界のものになります。
しかし、自分たちの使命に対する緊張感がなくなっていくと、仕事を漫然とやるようになっていきます。結果、
●仕事を目的や効率や改善を考えず、ただ作業としてやる
●マニュアルに全部答えを求める。あるいはマニュアル通りの対応しかしない
●機械的に部下の仕事の割り振りをする
●マンネリに対して、マンネリだと気づかない
●世間の空気や周囲のムードに同調して何の考えもない、本質から外れた意思決定をしておきながら、変だとは思わない
などの行動が目立つようになってきます。
こうした兆候があらわれてきたら、大いなる危機感を持って経営者は戦い、自分の頭で良識、経験、知識それらを総動員して考えられる組織に引き戻すように厳しくあたらないといけません。
四、何ごとも官僚主義的になっている
仕事は全てチームプレイです。組織に使命感が共有されていると、 一人ではこの使命を実現できないと強く自覚できるので、必然とチームプレイを志していきます。そこには、人としての血の通った熱くて温かいコミュニケーションが生まれます。
しかし、使命感がうまく共有できていないと、官僚的な、血の通っていない仕事のやり方が目立つようになっていきます。
例えば、
●計画立案と数値分析ばかりで、現場には上から目線で一方的に指示を出す
●自分で問題を発見せず、人の報告任せで判断する
●報告用の数値作りに一所懸命になる
●お客様ではなく、会社の偉い人や上司、あるいは本部を見て仕事をする
●優先度ではなく、自分のやりやすい仕事ばかりをする
●評論が多く、実行しない
●失敗を極端に恐れて、挑戦を避ける
●前例主義的な意思決定をされた商品や商売が多く見られる
●全社最適ではなく、部分最適が横行する
官僚主義は、お客様都合の経営と対極にあるものです。これを放っておいたら使命の実現はありえなくなります。
経営者は必ず戦うようにして下さい。
五、評価が甘くなり、実力以外の要素で人事が行われる
使命とは簡単に実現できないものだからこそ追求する価値があるものなのです。
ですから、本気で使命を追求する会社は評価が厳しくてあたり前です。目標を高く掲げ、高い基準での業務遂行を求めるからです。
当然、実力主義以外の人事で、こういった使命の実現は不可能です。
平凡な成果を認めてはいけませんし、低い目標設定で満足する人や、いつも基準に達しない仕事しかできない人を、その役割のまま置いておくことは許されることではないのです。なぜならば、お客様にそのしわ寄せがいってしまうからです。
もし、そういう人がいたら、はつきりとフィードバックをして、もっとその人の長所が活きる役割を考えてあげたり、教育をして成長させてあげることが必要です。
しかし、使命感を忘れた、そこそこで満足する組織では、こうしたしっかりと個人と向き合った取り組みをすることを避け、結果として甘い評価をしてしまいます。そういう組織では、下手をすると、実力ではなく上司へのおべっかや立ちまわりが上手な人が登用され始めます。
こうした人事を許しているとしたらこれは経営者の責任です。
実力主義の公正さを失った人事は、社員のモチベーションを下げ、経営者に対する信頼を喪失させます。
これでは使命の実現どころではなくなります。人事は、経営者が、自分自身を一番厳しく律しなければいけないマネジメント領域です。
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