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07活動・計数計画の具体化

活動・計数計画の具体化パートでは、戦略策定パートで策定した戦略の戦術化と、それを計画に落とし込んだ活動計画、中計の3大要素の一つである計数計画立案へと進んでいきます。

目次

▼(1)KPIと連動した活動計画を立てる

戦略策定パートでいったん戦略立案を行いましたが、それがビジョン設定パートの経営目標達成につながるかを確認するために、KPIツリーを作成します。

KPIとは、「KeyPerformanceIndicator」(重要業績評価指標)のことをいいます。

KPIをさらにKGI(KeyGoalIndicator:重要目標指標)とKPI(KeyProcessIndicator:重要プロセス指標)に分ける方法もあります。

KPIツリーの事例(流通業の事例)は図表4-1のとおりですが、売上高や利益目標を一番左に置き、まずは損益計算書の財務諸表構成に従って経営目標のブレークダウンを行います。

図表4-1の事例では、売上高営業利益率目標を売上高と粗利益率に分け、さらにそれを売上高の内訳や、原価率・販売管理費率等に落としていきます。

財務的なブレークダウンが終わったら、その財務値目標を達成するための戦略と戦略目標にブレークダウンしていきます。

ROEやROAを経営目標とする場合には、それらの指標が一番左に配置されます。

通常、財務目標のブレークダウンパートはKGIとし、戦略やその打ち手のブレークダウンパートは、「プロセスのKPI」と呼ぶ場合が多くあります。

このKPIツリーを作ることによって、戦略策定パートで打ち出した諸戦略が必要十分であるかの検討ができます。

よく見受けられるのは、KGI(左)からKPI(右)へのブレークダウンはできているのに、右から左にさかのぼろうとすると不足が生じるということです。

左から右へは「必要条件」と呼び、右から左へは「十分条件」と呼んでいますが、必要条件が備わっていても十分条件が備わっていないケースがよくあるのです。

経営目標を達成するには、必要十分条件を揃えなければなりません。

このため、KPIツリーを作成して、立てた戦略が必要十分条件を満たしているかを確認し、不足していれば追加を検討することになります。

◆分野別KPI指標の例図表4-2に示したのは、メーカーの機能分野別の指標例です。

これがすべてではありませんが、一般的によく使われている指標ですので、KPIを検討するときの参考にしてください。

▼(2)戦略課題の整理

KPIツリーの作成により戦略の過不足を確認し、補足ができたら、戦略課題を一覧表に整理します。

マンガのストーリーでは、KPIによる必要十分条件の確認が課題解決策検討の後とされていますが、過不足の確認ステップは実務上は多少前後しても問題ありません。

課題の整理は、①事業別に事業戦略系の課題、②機能部門の機能別戦略系の課題、そして③組織戦略上の課題の3類型で個別戦略全体をカバーすることになりますが、分類が難しいものがあれば、「④その他」として扱います。

こうした戦略課題の整理は、企業規模・事業数によって複数枚にまたがることがあります。

次に、以下のようにそれぞれの課題に重要性や緊急性の観点から優先度をつけます。

【重要度による分類】・◎:業績等への影響大・○:業績等に影響あり・△:業績等への影響は大きくはないが、取り組みは必要【緊急性による分類】・◎:速やかに着手し完了させることが必要・○:1年以内に着手し、期間中に完了させることが必要・△:期間中に着手が必要

▼(3)戦略課題のブレークダウン

どのような戦略も最終的には業務として遂行されることになりますから、戦略から戦術へ、そして施策へと具体化していきます。

マンガのストーリーの山本電機の事例にあるように、戦略課題の具体化は事業部に任せるという会社もありますが、任せたままにすると、「実行時に考えよう」ということで具体化が後回しになり、結局は考えられることのないまま実行されないということがよく起こります。

このようなことを避けるためにも、中期経営計画策定プロジェクト活動の期間中に戦略課題のブレークダウンまでを行う必要があります。

山本電機の社長は、前回の中期経営計画の反省としてそのことを指摘していたのです。

もちろん、プロジェクトメンバーだけでブレークダウンまで行う必要はありません。

必要に応じて事業部を巻き込めばよいのです。

なかなか他人の作った計画を真に受けて実行する人はいませんから、この段階から事業部主体に作ってもらうとよいでしょう。

事業部側も、計画作りのこの段階から参加できれば参画意識が高まると思います。

◆課題の施策化戦略課題は、次のようなステップで具体化していきます。

図表4-3では、課題例として「新興国市場開拓」を挙げていますが、これに対して課題解決策を検討します。

事例では「タイで現地生産・東南アジア地域で販売」と単純に書いていますが、実際の検討にあたっては、自社の課題に対して最も有効と思われる課題解決策を抽出する必要があります。

次に、課題解決策を施策に落とし込みます。

事例では、「バンコク近郊の工業団地に現地法人設立」としましたが、その課題解決策を実行するのに最も有効な施策を複数検討した上でベストな施策を選びます。

次は「計画化」です。

「〇〇年に現地法人設立」としました。

戦略課題なので、実行が急がれるものであるはずですから、計画開始のタイミングは実行可能な最も早い時期を選びます。

その後は、この計画を活動計画に落とし込んでいけばよいのです。

このブレークダウンの考え方に基づいて作られたのが、図表4-4のワークシート集です。

左上の戦略課題として掲げられているのは機能別戦略シートの記入例です。

中期経営計画として必要になる活動計画部分は、それに続いて課題解決策検討シート、活動計画シートまでとなります。

さらに右の部門年度事業計画書は、事業部ないし部門別に作成する年度ごとの事業計画です。

予算作成に合わせて作ってもらえばいいのですが、初年度については、フォーマットに慣れる意味も含めて中期経営計画の1年目として計数計画とも整合性をとって作るとよいでしょう。

事業計画の要素としては、①部門方針、②計数計画、③部門KPI、④活動計画の4要素となります。

活動計画をさらにブレークダウンしたのが、その右のテーマ別実行計画書です。

活動計画のうち新たに取り組むものについては、どのように実行したらよいかがわかりにくいでしょうから、遂行責任者または実行リーダーが、あらかじめこのような実行計画書を作っておくとよいでしょう。

意外ですが計画を作らずに実行するケースも少なくなく、「結果としてこうなってしまった」というような報告が行われることが多く見受けられますので、注意が必要です。

▼(4)課題解決策

検討課題解決策は、図表4-5のような課題解決策検討シートを使って検討します。

それぞれの課題に対して、①課題名、②目標・将来像、③現状・問題点、④ギャップ、⑤解決策の順で検討していきます。

普段、皆さんに課題解決策を検討してもらうと、図表4-5の左の方から順番に記述していく傾向があります。

この方法では、現状を分析し、思いつく解決策案を書き出し、その解決策案を実施したらどの程度の目標が達成できるかという考え方となります。

これは以前述べた「現状延長型」、つまり「フォーキャスティング発想」そのものですから、達成できる目標も低くなってしまいます。

このため、ここでも「ビジョン先行型・バックキャスティング発想」を使って目標設定と解決策を立案するのです。

バックキャスティング型の順番で取り組むと、目標レベルが上り、それを達成するための解決策も当初は思いつかなかったものが思い浮かんだりすることがあります。

なお②目標・将来像については、定量目標と定性目標の両方を記述するようにします。

定量目標がいわゆる目標に相当し、定性目標が将来像に相当します。

▼(5)活動計画作成

課題解決策が検討できたら、それを3カ年の活動計画にブレークダウンします。

なお、活動計画は事業別・部門別に作成します。

シートの様式は、図表4-6にあるように将来像・目標を一番右に配置し、それに至る3か年の活動を、初年度については上期と下期に分けて、施策とともにその期間に達成したいKPIとその目標値をセットで配置します。

KPIは、KPI指標とその達成目標を記載しますが、定量化できないものについては、「いつまでに完了させる」という期限を明示する方法(マイルストーン法)で記述します。

事業系の活動計画シートは売上高や利益の目標が入りますが、機能部門別活動計画シートはそうした欄がないものとなります。

▼(6)計数計画

作成経営計画を立てる際に、「計数計画を先に立てるか」「活動計画を先に立てるか」という議論があります。

マンガのストーリーでは、山本電機では、経営企画室長の判断で計数計画を先に作り、活動計画が後回しとなりました。

中期経営計画が経営目標と計数計画だけであった時代は、経営目標を先に立て、その計数計画を作るという手順で進められましたが、近年は、それらに経営ビジョンや経営戦略、さらにそれを具体化した活動計画まで立案するようになっています。

なお、そうした中で経営戦略まで立案した後、活動計画から始めるか計数計画から始めるかという議論になると、私は断然活動計画を先に作る方をお勧めします。

すでに見たように、KPIツリーの作成などで経営目標を達成するための大きな戦略や方策はもれなく立案されています。

ですから、先に述べたように戦略課題課題解決策施策というようにブレークダウンができていれば、活動計画を立案するのは容易です。

そして、活動計画ができていれば、それによってどの程度の計数計画が達成できるかを見当を付けることができます。

一方、戦略立案後に計数計画を作ろうとすると、計数を変動させる要因には、単価の上げ下げ、数量の増減による売上高の変動、原価の増減、経費の増減等、利益を変動させる要因があり、変数がたくさんあることになります。

その中から一定の組み合わせを都合よく選んで計数計画とすれば、立案した戦略との間に齟齬が生じかねません。

ですから、これまでの検討結果と整合性を持たせて活動計画と計数計画を立案しようと思ったら、多少遠回りではありますが、活動計画を作った上で計数計画を立案した方が作りやすいのです。

▼(7)計数計画の作り方

計数計画を立案するのに、図表4-7にあるように、①システム・データ面、②管理責任面、③計数の作り方面のように大きく3つの論点があります。

①システム・データ面については、専用のパッケージソフトを活用する方法と年度単位の予算システムを応用する方法、損益計算書やバランスシートのような財務諸表から出発する方法と3通りがあり得ます。

パッケージソフトについては、一度あるクライアントで使おうとしたのですが、使い勝手が悪くうまくいきませんでした。

このため、お勧めとしては予算システムの応用か、財務諸表の引き伸ばし法がよいでしょう。

②管理責任面については、事業部の数値については、事業部が責任を負い、経費については、本社の経費主担当が責任を負う方法がよいでしょう。

③計数の作り方面については、⒜予測方式、⒝積み上げ方式、⒞逆引き方式と⒟⒜~⒞の組み合わせがありえますが、各社の実情に応じて応用してもらえればと思います。

活動計画が先に作られていれば、計数計画でいじる部分は相対的に少なくなり、比較的短時間で作成することができます。

これは私が指導した実績からもいえることなので、心配しないで取り組んでもらえればと思います。

①計数計画策定ステップの事例図表4-8の事例は、小売業での計数計画作成ステップの例です。

手順としては、⒜標準となるベースの計数作りを行った上で⒝バリエーション設定を行い、⒞見直し&シミュレーションを行います。

⒜ベース計数作りまず企画部署サイドで進め方と前提条件(為替レートや対前年伸び率等)を決めます。

小売業では店舗展開が基本となりますので、店舗ごとのフォーマットや規模に応じて類別を行い、店舗の出店や閉店計画を立て、「食品部門を強化する」「衣料品部門を縮小する」などのように商品の部門構成や展開方針を決めます。

フロア面積や商品点数(アイテム数)等各小売業で使われている基準を使用するとよいでしょう。

その後人件費などの経費展開を行い、それらを総合して基準となる損益計算書を作ります。

計数は、予算システム等を使って初年度1年分を作成し、Excel等の表計算ソフトに計数データを吐き出し、そのうえで前提とした伸張率等を基に2年目、3年目分を追加して3カ年の基準計数計画とする方法と、予算システムなどを使用しないで最初からExcelデータを作成して取り組む方法とがあります。

各データは、売上高に応じて変動する変動費や変動が少ない店舗の賃借料等固定費、営業時間などに応じて変動する水道光熱費などの準変動費等費用の性格によって変えられるように条件設定しておくと便利です。

また、Excel等で作成・シミュレーションする際には、目的とする財務諸表だけでなく目標とする経営目標や財務指標(例:売上高、営業利益率、ROAやROE、D/Eレシオ等)も同時に算出できるように計算式を組み込んでおくとよいでしょう。

⒝バリエーション設定売上が伸張するMAXケースやダウンするMINケース、原価低減を進めるケースや効率化を進めるケースなど、何通りかのあり得るバリエーション設定を行い、試算します。

Excelベースであれば、試算結果をシートないしファイルに分けて保存することでケース結果とその内訳を取っておくことができます。

新たなケース設定に連動して他の変数も変えられるようなアルゴリズム(手順を形式化したもの)を作り、マクロのプログラムとして使う方法もあります。

ただし、あまり手の込んだものを作ると、他の人がいじれなくなり、特定の人しか操作のできないものになりかねないので、注意が必要です。

⒞見直し&シミュレーションベースとバリエーションの試算結果を受けて、前提条件設定や店舗展開、商品展開の見直し等を行い、当初の経営目標に到達可能か、あるいは前提条件と展開方針と活動計画との整合性や妥当性があるかを確認して、いったん、第一次の試算結果として報告します。

この後は、経営会議等のしかるべき会議にかけるなどの会社で求められた手順に従って検討と見直しを行っていき、確認が取れたら最終化します。

その際に注意したいのが、「何を変えるとどこに影響を与えるか」ということをきちんと理解し、データと論理の整合性がきちんととれるようにしてあるかということです。

PowerPointの表形式では計算式が入れられませんので、一度ある数字を直すと他の数字も手直しの必要がでてきてしまい大変です。

数字と表計算ソフトの扱いが得意な人の助力を得るようにした方がよいでしょう。

②計数計画の成果物計数計画の成果物については、売上利益計画、投資計画、人員計画、資金計画等があります。

ベースは売上利益計画なので、それらから順に作っていくといいと思います。

投資計画についても、活動計画が具体化されていれば、それに基づいた投資計画が年度別に立てられます。

中期経営計画の計数計画用のExcelのワークシートは、拙著『中期経営計画の立て方・使い方』付属のCDROMに収録されていますので、そちらを参考にしていただければ幸いです(以下一例)。

図表4-9全社利益計画(売上・原価・販管費・利益)の書式例図表4-10キャッシュフロー計算書方式による全社資金計画表の例

③投資回収計算設備投資には、⒜拡張投資や⒝取り替え投資、⒞製品・サービス投資、⒟その他投資などがありますが、「投資が回収できるか」という、いわゆる「経済性計算」の対象となるのは、⒜~⒞の3種類です。

設備投資や新規事業の投資回収計算は、教科書的には、正味現在価値法(NPV:NetPresentValue)や内部収益率法(IRR:InternalRateofReturn)等がありますが、実際にはいまだにキャッシュフローベースではなく、会計上の利益計算ベースで試算しているところが多いようです。

国内だけや社内だけの範囲で議論している間はそれでも通るのですが、海外や海外企業とやりとりをする際には、今紹介したような手法を使う必要があります。

◆設備投資のキャッシュフローを用いた評価方法~正味現在価値法の例示(図表4-11)

正味現在価値法では、まず前提としてキャッシュフローで計算します。

そして、初期投資と将来のキャッシュフローを0年度(初期投資を行う年度)時点の現在価値に直して差し引き計算します。

「現在価値」とは、お金の時間価値を考慮することになりますので、今年の百万円と来年の百万円とでは価値が違うという前提に立ちます。

どの程度違うかについては、企業では、単純に金利ではなく、「資本コスト分違う」という考え方を取ります。

つまり、「今年手元にある百万円を事業につぎ込んだら、来年には、百万円+資本コスト分以上になっていなければならない」ということです。

なお、「資本コスト」とは、バランスシートを維持するために必要なコストのことで、金利などの負債にかかるコストと、株主が所有する株主資本コストとの合計となります。

この資本コスト率(例:5%)を使って、将来のキャッシュフローを複利計算で割り引くのです。

そうして出された将来のキャッシュフローの割引現在価値と初期投資との差を算出し、プラスが出ていれば、「投資価値あり」と判断することになります。

昨今では、Excelの関数になっているものもありますので、考え方と見方がわかっていれば計算できるようになっています。

▼(8)グループ全体の計数計画

計数計画を自社単体のものだけでなく、グループで連結して作成する必要があるケースもあります。

その際は、図表4-12にあるように、まず事業別法人別に損益計算書(必要に応じてバランスシートやキャッシュフロー計算書も)を作成します。

続いて、グループ会社間の取引が消去・相殺できるように連結財務諸表に計算式を組み込みます。

例えば、国内グループ企業のD社の売上高がC事業部の仕入れとなるような場合は、相殺されて0円となります。

その際に、子会社については全部連結となり、売上・原価・費用すべてが足し算の対象になりますが、持ち分法適用会社については、出た利益の持ち分のみを加算することになるので、注意が必要です。

一方、海外法人があり、決算期がずれているケースがあります。

日本法人は4月~3月決算なのに対して、海外法人の大半は1月~12月決算というケースです。

決算日が3カ月を超えていなければ、各社ごとの決算期に応じた計数計画を連結しても問題ありません。

ただし、管理会計として、グループ会社管理の一環として決算期を合わせて見たいのであれば、各社の計数計画を四半期ごとに作成し、四半期ずれを補正して足し算する方法もありますが、その際は、海外法人に追加で最後の年の第1四半期(1~3月期)の計数計画を作ってもらう必要があります。

▼(9)活動計画と計数計画の整合性の確認

計数計画はこのように作っていきますが、一通り作り終わったら、「活動計画と計数計画が対応しているか」「活動計画の成果が出てくるタイミングと計数計画が合っているか」「活動計画の成果見込みが適正に見積もられているか」などのように活動計画との整合性を確認します。

営業目標は往々にして現実的でない「意気込み」が盛り込まれているケースがありますので、注意が必要です。

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