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06戦略策定

経営戦略策定の予備作業として、まず強みと弱みの分析と、成功パターンの分析を行います。

目次

▼(1)強み・弱みと成功パターン

マンガのストーリーにあるように、自社経営資源分析を行うと、自社・自事業の問題点ばかりが見えてしまい、「お先真っ暗」な気分になってしまうことがあります。

しかし、皆さんの会社がある程度の年月存続できてきたということは、それなりに長所や強みがあったはずなのです。

欠点ばかり見ていても、展望が開けません。

このため、強みと弱みの分析や成功パターンの分析を行って、戦略代替案を検討します。

①SWOT分析・クロスSWOT分析──活かせる強みはどこだまずはSWOT分析です。

SWOT分析は、かつてハーバードビジネススクールのアンドリューズ教授が、経験の浅い若手ビジネスマンのために考え出した手法で、誰でもステップを踏んで検討できるので便利だということで広まったものです。

具体的には、図表3-1にあるように、まず内部要因である「強み」(Strengths)と「弱み」(Weaknesses)を抽出します。

この際、なるべく客観的な裏付けのある事柄をピックアップするように心がけます。

必要に応じて、外部や顧客にインタビューをするなどして客観的な意見を取り入れるのもよいでしょう。

次に、外部要因である「機会」(Opportunities)と「脅威」(Threats)を抽出します。

要因の中には、捉え方によって機会になったり脅威になったりする事柄もあり得ます。

ここで注意すべきは、単純に抽出すると、強みよりも弱みが多く出てきたり、機会よりも脅威の方が多く出てきたりすることがあります。

これは、抽出している本人たちがマイナス思考に陥っていたり、リスクに敏感になっていたりするためで、物事のプラス面やチャンスにあまり目を向けようとしていないことの現われといえます。

ですから、左右の分量のバランスをとるように注意しましょう。

一定量が抽出できたら、次にクロスSWOT分析に進みます。

クロスSWOT分析では、SWOT分析で抽出した4つの要素のうち、主要なものを3つから5つ選択し、図表3-2のように周辺に配置します。

そして、強みを機会に活かせる組み合わせを「SO戦略」として複数記述します。

この際、複数の要素同士を組み合わせても構いません。

同様に、弱みを補完して機会に活かすWO戦略、強みで脅威に対処するST戦略、弱みと脅威を最小化するWT戦略というように組み合わせを検討していきます。

どの要素同士を組み合わせたかが後でもわかるように、要素に番号をつけておくとよいでしょう。

また、一人で行うと組み合わせが思いつかないとか煮詰まってしまうことがあります。

複数のメンバーでの集団発想法を活用してホワイトボードなどに記述してみるとよいでしょう。

なお、SWOT分析は、事業別に行うケースと事業横断的に行うケース等があります。

目的に応じて使い分けるとよいでしょう。

この際、重要なのは、これまでにない新しい組み合わせを思いつくことです。

人によってはすでにある組み合わせを記述して満足しているケースが見受けられますが、それは単に事後確認しているに過ぎません。

新しい組み合わせを抽出するように心がけなければなりません。

私のワークショップでは、既存の組み合わせの場合には黒字で、新しい組み合わせの場合には赤字で記述し、どれだけ新しい組み合わせを考え出すことができたかを一見してわかるようにしています。

ただし、ビジネススクールでSWOT分析を学んでも、新しい組み合わせが考えられない人もいるようです。

そういう場合は、別途アイデア発想法を学んだ方がよいでしょう。

「新しいアイデア」の基本は「既存の要素の新しい組み合わせ」ですから、そのような発想法を学んだ上で、SWOT分析に取り組むとよいでしょう。

クロスSWOT分析では、SO戦略、WO戦略、ST戦略、WT戦略という4種類の組み合わせが出てきますが、この中で最も経営上プラスのインパクトが大きいのは、SO戦略です。

なぜなら強みはすでに保有していますし、機会はそこにあるので、実現可能性が高いからです。

一方、WO戦略は、弱みを補完しなければならないため、補完できるまでに時間がかかりますし、場合によっては補完しきれない可能性も否定できません。

このように、良い戦略代替案を導き出したいと思ったら、有効な強みと有望な機会をしっかり捉えることが重要なのです。

しかし、すでに見たように、経験が浅くマイナス思考が強い人は弱みや脅威にばかり目を奪われて、本来必要となる強みや機会をうまく見つけられないことがあります。

有望な機会を見つけるには、常日頃アンテナを高く張っておく必要がありますが、忙しく業務に埋没していると、ついついアンテナが低くなり、微弱な機会情報を見逃しがちになります。

SWOT分析を行う際には、いったんアンテナを高くして、幅広く情報を集めるようにしましょう。

②成功パターンの分析──再現性と継続性のある「型」があるかSWOT分析は、戦略代替案の抽出に有効ですが、図表3-2のSO戦略「低コストを武器に新興国市場に参入」の場合、参入するまではよいのですが、果たしてその後成功できるのかというと定かではありません。

このため、企業としては再現性のある成功パターンを持っておくと有効です。

ただし、成功パターンをいきなり作るのは難しいので、まずこれまでで成功したことのあるパターンを分析してみます。

継続企業であれば、これまで何らかの成功パターンがあったからこそ存続できてきたはずですので、その部分を知っている人にも参加してもらい、成功パターン分析を行います。

成功パターンの記述方法は、図表3-3にあるように、事業別に(矢印マーク)と+(プラスマーク)を組み合わせて表現します。

矢印マークは順番を、プラスマークは要素の組み合わせを表しています。

この組み合わせが多ければ多いほど、他社が真似しにくいものとなります。

戦国時代、毛利元就は孫子の兵法の「百戦して百勝するは善の善なるものにあらざるなり。

戦わずして人の兵を屈することこそ善の善なるものなり」をもとに「戦わずして勝つ」はかりごとを駆使して、国人領主から戦国有数の大大名になり、豊臣政権下では孫の毛利輝元が5大老に名を連ねるまでになりました。

これは、「はかりごと」(調略)という成功パターンを繰り返し実施して成功した例です。

現代のコンビニ業界では、長らくセブン・イレブンが1位の座を維持していますが、それは「ドミナント出店」という出店方法と「オリジナル商品」という商品企画方法を組み合わせた成功パターンを駆使しているからです。

1日の店別販売高を「日販」といいますが、いまだにローソンやファミリーマートは追いついていません。

成功パターンには、事業としての成功パターンだけでなく、会社としての成功パターンというものもあります。

例えば、A事業で成功した経験とノウハウをもとにB事業に進出したり、C事業の顧客をもとにD事業に進出したりすることなどが考えられます。

よく「過去の成功パターンにとらわれすぎてはいけない」と言われますが、まず「過去どのようにして成功したのか」を冷静に分析することは、将来を考えるのに有意義なことです。

これまでの成功パターンが分析できたら、それをもとに今後の成功パターンを描きます。

その際には、今後の環境変化や技術革新、新しい取り組みなどを取り入れて描いてみるとよいでしょう。

なお、成功パターンが描け、社内で共有できると、以下のようないくつかの好影響が得られます。

①ベクトルが合う:みんなが同じ方向を向けるようになる②ブレない:よけいなトライアル&エラーが減る③スピードと効率性が増す:成功パターンが共有できていると、何か新しい提案があったときに、「あのパターンで取り組めばいいな」と社内の意思決定が早くなり、スピードをもって物事に取り組めるようになる。

事実、マクドナルドなどチェーン展開しているところには、不動産会社から新しい物件情報がすぐに入ってきます。

それはこうした会社が、社内に物件判別の方程式を持っていて、短期間にイエスかノーかの判断ができるからです。

以前、幹部の出自が異なるために意見が割れていたある大手の機械メーカーの子会社をサポートしたことがありました。

サラリーマン出身者が多いため、経営目標設定にあたっては当初保守的な意見が多かったのですが、クロスSWOT分析や成功パターン分析を行ったら、経営目標がぐんと高くなりました。

マンガのストーリーでの山本電機の人たちも、自社経営資源分析では暗い未来しか描けていませんでしたが、このクロスSWOT分析と成功パターン分析で希望が見えてきたのではないでしょうか。

戦略代替案が出てきたところで、ここから正式に戦略策定パートの戦略立案に入っていきます。

手順としては、まず目標と実績のギャップの分析を行ってギャップを埋められるような基本戦略を検討し、その後事業別の事業戦略、組織機能別の機能別戦略、組織構造や組織の運営方法を扱う組織戦略(この3つを「基本戦略」に対して「個別戦略」と呼びます)を具体化します。

▼(2)ギャップの抽出──定量・定性の両面で捉える

ビジネス環境分析パートのビジネス環境分析とビジョン設定パートのビジョン設定ができたところで、現状と目標とのギャップを抽出します。

ギャップは、定量と定性の両面で抽出します(図表3-4)。

①定量ギャップ売上高や利益率のような3年後の経営目標に対して、直近の売上高や利益率のギャップを算出します。

この際、目標から実績を引いて、不足分がプラスで表現されるようにします。

例えば、売上高目標が400億円で、直近の売上高が300億円の場合、ギャップは+100億円となります。

「それだけ増やさなければならない」という意味で、あえてプラス表現にします。

②定性ギャップ定性ギャップは、6つの側面で見ていきます。

⒜事業面ビジョン設定で行った事業別の売上高目標や利益と直近の事業別の売上高・利益実績とを対比して、定量的なギャップのみならず、地域的な広がりや製品・サービスの整備拡充、生産キャパシティなど、定量的には表しきれない定性的なギャップを抽出します。

また、新規事業が必要とされる場合には、どのような分野のどのような新規事業かの具体化度合いや、必要とされる技術やノウハウなど、現状とのギャップを抽出します。

⒝技術・ノウハウ面業績を伸ばそうとする際に、技術やノウハウ面で不足する内容について記述します。

特許関係もこのカテゴリーに入ります。

⒞対外面・ブランド面経営目標を達成しようとする際に、より知名度を高めたり、ブランドイメージを統一したりする必要がある場合に、どのようなことが不足しているのかを抽出します。

ホームページの拡充関係もここに入ります。

⒟組織面業績拡充を図ろうとする際、組織構造や組織の運営方法・情報共有の仕方・意思決定方法等が足枷となる場合、そのポイントを記述します。

⒠ヒトの面事業拡大を図ろうとする際に、海外要員や新規事業要員が不足する場合や年齢階層別に見て若年層が不足する場合など、自社経営資源分析で抽出されたポイントなどを参考に、重要ポイントを記述します。

⒡業務・システム面「業務効率が悪い」「システム化が遅れている」「仕組みが不効率」など、ビジョンで求められるレベルと現状のギャップを抽出します。

▼(3)基本戦略──「FromTo」をはっきり

次はいよいよ基本戦略です。

基本戦略は、ビジョン設定パートの経営ビジョン・経営目標と自社経営資源分析パートの現状とのギャップを埋められるような大きな戦略設定をします。

基本戦略は、3~5本位の柱を打ち出します。

基本戦略の要素は、図表3-5のように①既存事業の事業展開(地域軸・顧客軸・商品軸)に関わる戦略、②新規事業の分野や展開に関わる戦略、③機能強化(開発・製造・購買・営業など)に関わる戦略、④経営基盤(財務・人事・経営管理・情報システム等)強化に関わる戦略、⑤企業グループの組織編成に関わる方針、⑥その他(時々のテーマに応じて)の6つとなります。

すべてについて言及しなければならないわけではありませんが、ギャップを埋めるうえで重要となる戦略を上位から順に選択します。

企業によっては、「基本戦略」ではなく「基本方針」などの表現をするケースもあります。

日本企業は「方針」という言葉を好みますが、「戦略」に比べると曖昧性が残るように感じます。

基本戦略のポイントは、「FromTo」をはっきりさせることです。

図表3-6の例にあるように、これまでとこれからの違いをはっきりと提示します。

記述の仕方としては、FromToの部分のToの方を基本戦略として記述します。

ここで、プロローグで検討したパラダイムシフト(構造改革)が生きてきます。

構造改革しなければならない項目のうち、今回の中計で特に強く打ち出さなければならない事項を、基本戦略として打ち出すのです。

基本戦略のチェックポイントは、「仮にこの基本戦略が成功した場合、前項で抽出したギャップが埋められ、経営ビジョンや経営目標が達成できる可能性があるか」です。

もしその見通しが立たない場合には、基本戦略自体を見直す必要があります。

▼(4)戦略類型

ここで、戦略類型についてご紹介しておきます。

戦に勝つには兵法を知っていなければならないのと同様に、ビジネスで成功を収めるには、ビジネス戦略に通じている必要があります。

ビジネス戦略の歴史は100年ほどありますが、その中の主要なものをここで紹介しておきます(図表3-7)。

まず戦略のタイプは、大きく①ポジショニング派と②ケイパビリティ派、③アダプティブ派、④その他に分けることができます。

①ポジショニング派ポジショニング派の特徴は、外部環境を重視することです。

日本で考えるなら、高齢者人口の増加を背景に、高齢者向けの事業に新たに取り組むとか、海外であれば新興国での伸びを期待して新興国に進出するとか、成長性が高く、将来利益拡大が見込める市場への参入や攻略を狙います。

ポジショニング派の代表格はマイケル・ポーターの競争戦略です。

ポーターは大胆にも、一般的に競争市場での戦略は⒜コストリーダーシップ(低価格戦略)、⒝差別化戦略、⒞フォーカス戦略(集中戦略)の3つに分けられるとしています。

⒜コストリーダーシップ戦略コストリーダーシップ戦略は、図表3-8のようになるべく広いマーケット、またはマーケット全体を対象にして、低コストを武器にマーケットシェア獲得を狙う戦略です。

自動車業界では、トヨタ自動車がカンバン方式などに代表されるトヨタ式生産方式と関連部品メーカーを三河周辺に集結させることにより、競合他社よりも低コストで車の生産ができるようにして国内マーケットシェアを拡大していきました。

他社よりもコストを低く抑えられるので、価格を抑えたり、価格競争になった際に値引きで対抗する余力が生まれます。

コストリーダーシップ戦略を成り立たせるには、量産化によるコスト低減など、競合他社よりも安く商品を生産できる能力を備えている必要があります。

⒝差別化戦略(差異化戦略とも)「差別化」とは、英語の「differentiation」の訳で、「差異化」とも呼ばれています。

差別化戦略の基本は、競合する製品に対して、顧客から見て有意な違いを生み出し、その違いに魅力を感じて購入してもらうということです。

差別化戦略も、マーケット全体を対象とする点でコストリーダーシップ戦略と対象範囲は同じです。

自動車メーカーでは日産自動車や本田技研が採用してきた戦略です。

差別化戦略のポイントは、顧客にとって意味のある差別化を行うことによるコストが余分にかかるため、そのコスト以上の価値を認めてもらう必要があります。

コストが余分にかかっているのに価格が同じであれば、その分利益は下がりますので、後の競争力が落ちてしまいます。

また、差別化した商品がヒットすると、マーケットリーダーをはじめ他社がまねをしてくることになります。

この場合、どうしたらよいのでしょうか。

その答えは、「さらに別の差別化を試みる」ということです。

「まねされたら価格を下げる」のは邪道です。

マーケットリーダーよりもコストが高い分、さらに利益率が悪くなります。

このように、差別化戦略の要諦は「差別化し続ける」ことなのです。

⒞フォーカス戦略(集中戦略)フォーカス戦略のポイントは、マーケット全体を対象にするのではなく、特定のマーケットだけにフォーカスすることです。

そうすることによって、特定のマーケット固有のニーズに応えることができます。

自動車メーカーでは、スズキやダイハツなどが軽自動車をはじめ小型自動車を中心に、比較的車両価格が安く燃費のいいクルマ作りに励んでいます。

その結果、地方での軽自動車比率は非常に高くなっています。

自動車以外でも、象印やタイガーなどは、魔法瓶をはじめとした家庭用電化製品のニッチな市場を押さえています。

なお、マイケル・ポーターは、後にフォーカス戦略をさらに「コスト集中」と「差別化集中」に分けました。

家電製品で低コストを売りにしてきた船井電機などはコスト集中といえますし、自動車でポルシェなどはスポーティーカーで差別化集中戦略をとっているといえます。

ここで、ポジショニング派の一派ともいえる「ブルーオーシャン戦略」を紹介しましょう。

2000年代にフランスの欧州経営大学院インシアード(INSEAD)のW・チャン・キムとレネ・モボルニュは共同で研究を行い、東西のさまざまなビジネス戦略を分析し、競合と直接競争をしない土俵を作って事業拡大させる手法を導き出しました。

マイケル・ポーターの競争戦略の世界を、激しい競争によって赤字が出ることから「レッドオーシャン」と呼び、自分たちの手法を、競争しないで海が青々としているという意味で「ブルーオーシャン」と名付けたのです。

彼らの提言するブルーオーシャン戦略の長所は、戦略キャンバスやERRCアクションマトリックス等の戦略立案ツールを使うことにより、ブルーオーシャン戦略構築ができることです。

日本の事例では、ソニーのプレイステーションと競合していた任天堂がWiiを導入して、もともとゲームをしない人たちにまでユーザーを拡大して業績を拡大した例や、QBハウスのように理容業界では当然のように行われていたシャンプーや髭剃りを省略し、「カットのみで10分」という時短サービスを駅ナカや駅近で展開した例などがあります。

図表3-9はQBハウスをERRC(Eliminate:取り除く、Reduce:減らす、Raise:増やす、Create:付け加える)アクションマトリックスで分析したものです。

見方によっては、ブルーオーシャン戦略はマイケル・ポーターのいう「差別化」を強くした形態と見ることもできます。

自社でブルーオーシャン戦略をとるかどうかは別にしても、戦略検討の際に、自社の事業でブルーオーシャン戦略をとったらどうなるかを検討しておくのもよいでしょう。

②ケイパビリティ派(内部能力重視派)ケイパビリティ派は、市場の魅力度よりも、自社の内部能力を重視します。

つまり、たとえ国内で高齢者市場が伸びていっても、自社にその市場で戦えるノウハウや能力等が不足していれば、参入しない方がよいという判断になります。

新興国についても同様です。

これまで国内市場中心であったためにまだ海外事業を成功させられるノウハウがないという状況であれば、進出しても成功を収める可能性は低いということになります。

⒜コア・コンピタンス論ケイパビリティ派の一番古いものは、コア・コンピタンス論です。

自社の強みは何かを分析し、その強みが活かせる市場かを判断して市場参入を決めます。

例えば、昔のソニーは小型化することが得意でした。

大ヒットしたウォークマンも、持ち歩きにくい大きなラジカセが中心の市場に、手のひらサイズの再生専用機を作って打って出たのです。

図表3-10は、皆さんもご存知の会社のコア・コンピタンスと思えるものをピックアップしてみたものです。

コア・コンピタンスになり得るかどうかは、実現できる顧客価値、独自性、企業力の拡張性(将来の商品・サービスイメージ)の3つの観点があります。

⒝VRIOケイパビリティ派の2つ目はVRIOです。

オハイオ州立大学で教鞭をとっていたジェイ・B・バーニーは、持続的競争優位(サステナビリティ)を確保するには、ケイパビリティが重要性であると唱えました。

そのケイパビリティを表すキーワードの頭文字がVRIOです(図表3-11)。

Vは「Value」(経済価値:市場で受け入れられ、脅威や機会に適応できる経済的価値がある資源)、Rは「Rarity」(希少性:少数の競合企業しか所有していない希少な資源)、Iは「Imitability」(模倣困難性:競合企業にまねされない模倣困難な資源)、Oは「Organization」(組織:VROのような資源を活用できる組織)を表します。

このVRIOの4つの要素がすべて揃うと、持続的競争優位が保たれ、業績は標準以上となります。

一方、例えばⅤ(経済価値)だけしかないという場合は、他社にまねをされて競争均衡に陥り、業績は標準並みになります。

研究者の間では、「ポジショニング派をとるか」「ケイパビリティ派をとるか」という議論がありますが、実務家の観点では、ポジショニング派の視点でマーケットや競争環境を捉え、ケイパビリティ派の視点で「新規参入して競争優位性が保てるか」や、すでに参入している市場では「今後さらに持続的競争優位性が構築できるか」という視点で判断していけばよいと思います。

③アダプティブ派(適応重視派)アダプティブ派の基本は試行錯誤です。

インターネットの世界のように、3カ月程度で状況が変わってしまうような市場の場合、じっくりと戦略を練るなどと悠長に構えることはできません。

日々刻々と変化している市場や競合に対応しながら打ち手を打っていく必要があります。

LINEを立ち上げた森川亮さんが、「事業計画書を作ったことがない」と言っていたことがアダプティブ派であることの証左です。

④その他の戦略類型その他にも、上得意客を囲い込んで離さない囲い込み戦略や、事実上の標準を形成するデファクトスタンダード化戦略、顧客が利用するプラットホームを形成してその上にいろいろなサービスを取り揃えるプラットホーム戦略、セブン・イレブンのエリアドミナント戦略で見たような流通業固有の業種別戦略、ビジネスモデル派生の戦略等があります。

図表3-12で過去100年間にわたる経営戦略論の略史を紹介しますので、参考にしてください。

◆技術革新への対応技術革新が業種業態を大きく変えていくことがあります。

かつてのレコードはCDに取って代わられ、さらにCDは音楽ダウンロードに取って代わられ、一時はiPodのような携帯音楽プレーヤーが普及しましたが、今は大半の人がスマートフォンで音楽を聴いています。

ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは、イノベーション(技術革新)を「創造による破壊だ」と述べましたが、技術革新によって古い技術や事業者が破壊されて、市場から去っていきます。

エベレット・M・ロジャースは、そのイノベーションの普及プロセスにある法則があることを見つけました。

それは、市場には「革新的採用者」と呼ばれるイノベーションを最も早く取り入れる人が全体の2・5%ほど存在し、続いてその技術革新を採用する初期少数採用者が市場に13・5%ほど、その後採用に動く前期多数採用者と後期多数採用者がそれぞれ34%ずつ、そして採用遅滞者が16%程度存在するという分布ですが、これは統計学でいう「正規分布の分布状態」(標準偏差の間隔で分布している)と同じになります(図表3-13)。

最近、これに加えて「キャズム」という考え方が出てきました。

「キャズム」とは「深い溝」という意味ですが、技術革新もマーケット全体に普及するものと一部のマニアにしか普及しないものとがあります。

その境目がキャズムで、初期少数採用者と前期多数採用者の間に存在しています。

AppleWatchなどがそれに相当すると思われますが、前期多数採用者に採用されるには、コストパフォーマンスが重要だということがわかっています。

どの戦略類型を参考にするか、はたまた自社独自のオリジナルな戦略でいくのか、これまでのビジネス戦略史が示す過去の事例と、自社の得意技やリソース、現在置かれた状況と今後の環境変化等を総合的に判断して取り組んでいくとよいと思います。

戦国時代、播磨の国の小領主の家臣であった黒田官兵衛は、歴史的には親毛利派であった領主と家臣を、時代の先を読んで織田方に方向転換させて羽柴秀吉の家臣となり、天下統一に大きく貢献し、息子・長政の代には江戸時代を通じて続いた福岡藩(=黒田藩)の礎を築きます。

このように、時流を読む目が大切なのです。

▼(5)個別戦略を具体化する

個別戦略は、先に述べたように事業ごとの事業戦略、組織機能別の機能別戦略、組織構造とその運営方法を決める組織戦略の3つからなります。

基本戦略と事業戦略・機能別戦略の関係を示すと図表3-14のようになります。

全社の戦略的方向性を表すのが基本戦略、そして事業別に事業戦略があり、事業を横串にする形で機能別戦略があります。

基本戦略は「全社戦略」と呼ばれることもありますが、企業グループの場合には「全社」というと親会社のことだけを指すこともあるため、一般には「基本戦略」と呼んでいます。

①事業戦略──どの事業戦略パターンをとるか事業戦略は、事業別に設定します。

事業戦略の軸は3つあります。

⒜事業戦略のパターンこれは「戦略類型」のことをいいます。

図表3-15に示すようにSWOT分析や成功パターン分析からその事業に適した戦略的な代替案が想定されますから、既存事業・新規事業にかかわらず、どのような戦略パターンで進むかを選択ないし独自のアレンジを行います。

最近では、事業拡大を図る際にM&Aを活用する例が多く見られます。

かつては「社風の違い」を理由に敬遠されていたM&Aですが、最近ではさまざまな背景から多用されるようになっています。

⒝セグメント化の切り口競争戦略で見たように、マーケット全体を対象とするのか、一部のセグメント化されたマーケットを対象にするのかにより戦略パターンは異なってきますが、そのセグメンテーションの切り口に何を使うかも重要です。

図表3-16にあるように、価格帯や性能ばかりでなく、用途や流通経路等もセグメンテーションの切り口に使われます。

コンビニ専用商品のような場合には、コンビニという流通ルートをセグメンテーションの切り口に使っていることになります。

⒞マーケティングミックスマーケティングミックスは、通常、Product(商品・サービス)、Price(価格)、Place(流通チャネル)、Promotion(広告・宣伝)の4つの「P」で表現します(図表3-17)。

その事業で扱う商品サービスの特徴はProductで定義し、価格戦略はPriceで明確化し、どの流通ルートを使うか、はたまた複数の流通ルートを組み合わせで使う等のチャネル戦略はPlaceで具体化し、Promotionではどのように認知度を高め購買意欲をそそるかをメディアミックスで組み合わせて計画します。

事業戦略の記述にあたっては、図表3-18のようなワークシートを活用するといいでしょう。

これは軽自動車をイメージして作成したものです。

事業別に既存と新規の区分を行い、それぞれについて、対象市場・顧客と事業戦略のパターン、対象セグメント、マーケティングミックス(4P)の各要素について、整合性が取れるように記述します。

対象市場・顧客については、括弧内に、顧客ニーズを記述します。

また、事業戦略のパターンについては、単にパターンを記述するだけではなく、括弧内に具体的にはどのようにしてそのパターンを成り立たせるのかを補足して記述します。

事例では、新興国の工場で部品を安く生産し、それを輸入して組み立てることでコスト削減を図ろうとしています。

図表3-18は概略ですので、詳しい部分はこれに付け加えて作ってもらえればと思います。

②機能別戦略──機能別に展開するとどうなるか機能別戦略は、組織機能別の戦略なので、図表3-19に示すように、基本戦略をベースに開発戦略、生産戦略、営業・販売戦略等のように記述していきます。

その際、外部事業環境変化や自社経営資源分析で抽出された取り組むべき課題や経営ビジョン・経営目標で設定された望ましい将来像を実現するために必要な取り組み課題、ギャップ分析から抽出された定量・定性ギャップなどを考慮に入れながら、重要かつ緊急性の高い戦略課題設定を行ってきます。

人事や経理・財務、広報、情報システムなど間接機能の部分は業種を超えて共通しますが、メーカーでいえば開発や生産などの直接機能の部分は、業種や業態で異なります。

図表3-19と図表3-20では、メーカーの事例と流通業の事例を示していますので参考にしてください。

◆海外との文化の違いを理解し、対応する

近年、グローバル対応が重要なテーマの一つになっています。

ここで、グローバル対応の条件として一つ述べておくと、「ローコンテキスト社会への適合」が一つのキーワードとなると思います。

日本は世界でまれに見るハイコンテキスト社会です。

「コンテキスト」とは「文脈」という意味ですが、「ハイコンテキスト社会」とは、「文脈共有度が高い」、つまり、「あまり多くの言葉を使わなくても意思疎通ができる」ということです。

例えば、「あうんの呼吸」とか「以心伝心」「忖度」などはハイコンテキスト社会に特有の事象です。

ところが、海外はローコンテキス社会が基本です。

黙ってただニコニコしていても何も伝わりません。

会議で発言しなければ「何も考えていない人」だと軽視されます。

日本では子供の頃から人に合わせることを求められますが、仕事に就いてからも上司の意見や考えに合わせ続けていると、自分の考えというものがなくなってしまいます。

そのような状況で海外に出ると、その人個人の意見が求められているにもかかわらず、ついつい日本人の代表のようなつもりで「WeJapanesethink…」「OurCompanyis…」のように話し始めてしまいます。

場合によっては、こうした日本の「わざわざ言葉にしなくても伝わる」こと自体をなぜかと質問を受けることもあります。

こうした場合に対応するためには、当然と思われること、前提となっていることについても「なぜそうなのか」を説明できる言葉と能力が必要になります。

「なぜ日本人は、新年になると初詣に行くのですか?」「それは神社でもお寺でもどちらでもいいのですか?」という海外の方からの質問に、あなたならどう答えるでしょうか。

図表3-21に、日本と海外の文化や習慣の違いと、それにより起こりやすいトラブル、対応策をまとめていますので、参考にしてください。

③組織戦略──将来の望ましい組織図は組織戦略については、「組織構造をどうするのか」という組織構造論と「組織をどのように運営するのか」という組織運営論とがあります。

組織構造については、代表的な組織形態である「職能別組織」(「機能別組織」ともいいます)と「事業部制」「カンパニー制」「持ち株会社制」等があります(図表3-22)。

メーカーは職能別組織であることが多く、開発と生産・営業等職能別組織間での壁が問題になりやすいという特徴があります。

事業部制については「事業部にどこまで機能を持たせるか」という議論がありますが、本来の事業部制は開発と生産と営業が一体になった組織をいいます。

カンパニー制の特徴は、事業部長よりもカンパニー長(通常「プレジデント」と呼びます)により大きな権限を持たせ、損益計算書だけでなくバランスシートにまで責任を持たせるというものです。

本来の事業部制は、P/L、B/S両方について責任を持つというものでしたが、だんだん事業部の責任範囲が狭まり、P/L責任だけになっていたので、カンパニー制でB/S責任まで持たせるようにしたのです。

パナソニックで事業部制を解体した時は、事業の単位が小さすぎたため、より大括りなカンパニー制に変更しました。

カンパニー制そのものはソニーの発案ですが、その後多くの電機メーカーで採用されています。

カンパニー制をさらに進めたのが持ち株会社制で、戦後、財閥解体とともに純粋持ち株会社が禁止されていましたが、90年代以降の事業再編の枠組みの一つとして、97年に50年ぶりに解禁されました。

「○○ホールディングス」と名前のついている企業グループは、純粋持ち株会社制を採っていることになります。

純粋持ち株会社の特徴は、事業を別会社として切り出し、毎年財務諸表を作らせるので、事業再編の際に売買がしやすいというメリットがあります。

ただし、100%子会社でないと連結納税ができないなどの制約があり、導入は一部の企業グループに偏っています。

以上の組織構造に対し、組織運営については、例えば、ガバナンスを働かせるために社外取締役を増やすとか、取締役会の議論を活発化させるために取締役の人数を絞るとか、実質的な意思決定機関となる経営会議を月1回から週1回開催にしてスピードを速めるとか、権限委譲して事業部長の意思決定権限を強化するなど、いろいろなポイントがあります。

組織論については、一般的な議論をしても仕方がないので、自社の現状の組織上の問題点を抽出して、それが改善・解決できるような組織構造と運営方法を決めていく必要があります。

組織についてはさまざまな論点がありますが、中期経営計画を策定するうえでの一番の近道は、「現状はさておき望ましい組織の将来像を組織図で表現してみる」という方法です。

社内のいろいろな人に望ましい将来の組織図を書いてもらってみてください。

そうすると彼らが何を望んでいるかがよくわかります。

もちろんその通りにするということではなく、困っていることや期待値・希望を把握するのに役立てるということです。

◆組織が先か戦略が先か

「組織は戦略に従う」という言葉と、「戦略は組織に従う」という一見相反する言葉があります。

さて、どちらが正しいのでしょうか。

答えは、組織に明確な戦略がある場合には組織は戦略に従いますが、明確な戦略が打ち出されていない場合には、下部組織で勝手な戦略を考えます。

そうすると「戦略は組織に従う」となります。

例えば、会社としての基本戦略や方針を打ち出さないまま、事業部に中計素案の提出を求めると、事業部ごとに考えた事業戦略が前提となり、基本戦略はその寄せ集めとなってしまいます。

そうすると結果として「戦略は組織に従う」となってしまうので要注意です。

日中戦争の泥沼や、また東南アジアの戦線で大失敗を犯した日本軍の行動を分析した『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』(1984年、ダイヤモンド社にて初版)では、そうした「戦略は組織に従う」の典型的な悪い事例を示しています。

歴史上、日本人は「戦略は組織に従う」を犯しやすい民族である、つまり、本社に明確な基本戦略がなければ、事業部が勝手に事業戦略を遂行して既成事実作りをしてしまうおそれがある、ということを理解しておいた方がいいでしょう。

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