04自社経営資源分析続いて内部の分析です。
自社経営資源分析には、①財務分析、②事業分析、③人事・人材分析、④経営管理分析、⑤業務・情報システム分析、⑥社風・風土分析の6つの視点があります。
▼(1)財務分析
財務分析については、通常の財務分析と同じ視点で、成長性・収益性・安全性・効率性・生産性とキャッシュ・フロー等の分析を行い、主要なポイントを抽出します(図表1-6参照、通常の財務分析とほぼ同じ項目で、前著『中期経営計画の立て方・使い方』で詳しく紹介していますので、より詳しくはそちらをご参照ください)。
ただし、経営目標を設定したり、より詳細な財務値目標を設定したりする際に活用できるように、図表1-7に示すような実績と目標値が記入できるようなワークシートを用意しておくとよいでしょう。
▼(2)事業分析
事業分析では、事業の成長性や収益性、競争力などを分析します。事業分析はもともと事業ごとの戦略立案に役立てるために行うため、「3C」という視点で分析を行います。
孫子の兵法では「彼(敵)を知り己を知れば百戦して殆(危)うからず」ということで敵と味方の2者を分析すればよいのですが、ビジネスでは、顧客を競合他社と奪い合うことになるため、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)という3者の視点で分析を行います。
市場・競合分析については外部事業環境分析の方に入るため、自社経営資源分析のうち事業分析については外部事業環境の方で分析を行います(前出03参照)。
こちらも、各事業部が最新の情報を持っているので、彼らの協力を得る必要があります。
▼(3)人事・人材分析
人事・人材分析については、人員構成や人材の確保状況、人材の成長度合い、離職率、従業員満足度、人件費の水準等の分析を行います。
近年、特に少子高齢化により、人材の確保が難しくなっていることや、海外で活躍できるグローバル人材の不足、女性や外国人労働者の活躍によるダイバーシティの確保、働き方改革による労働時間の短縮等が大きなテーマとなっています。
▼(4)経営管理分析
経営管理分析では、組織構造や会議体とその運営方法、意思決定方法、職務権限体系や予算管理・業績管理等、会社として制度・ルールとして整備されているものについて、その現状と問題点を分析します。
予算制度や原価計算、投資回収のルール等は、管理会計制度の対象となるため、同じ会計ですがこちらのカテゴリーに入ります。
▼(5)業務・情報システム分析
業務・情報システム分析については、業務効率や生産性、IT投資・運用コストや情報セキュリティ、ITの業務効率化・利便性向上への貢献度などについて現状と問題点を分析します。
▼(6)社風・風土分析
社風・風土分析は「社内の空気」のようなものです。
従来の中期経営計画の策定にあたっては、「当然のもの」として、あまり分析の対象になってきませんでしたが、経営コンサルタントの立場でいろいろな会社を見てくると、意思決定や行動様式に大きな影響を与えている事項だといえます。
このため、他社からの転職者などの意見も取り入れて分析してみる必要があります。
多くの会社で、「内向き」「事なかれ主義」「マイナス思考」「リスク回避」「議論しない」「上の意向に従う」といった日本企業独特の特徴が見られることがあります。
以上の自社経営資源分析のポイントを図表1-8と1-10に、また分析事例を図表1-9に示します。
▼(7)自社経営資源分析にあたっての留意点
自社経営資源分析を行うにあたっては、いくつかの注意事項があります。
以下でご紹介しておきましょう。
①事実ベースであること現状や問題点分析をする場合、「社員のやる気がない」といった話が出ることがあります。
おそらく、その問題提起者の視点では「社員にやる気がないように見える」ということなのでしょうが、それはあくまで個人の感想・意見であって、必ずしも事実ではない、または、全員がそうではないことがあります。
ですから、事実としてどんなことが起こっているのかを確認した上で、取り上げるべき問題かどうかを判断する必要があります。
問題提起者になぜそう思ったのかをヒアリングしてみると、「遅刻が多い社員がいる」というようなことが背景にあることがわかる場合もあります。
仮にそうであれば、「時間にルーズな社員が多い」とした方がより的確な表現だということになります。
ただし、それが中期経営計画の取り組み課題として取り上げるべきものかどうかはまた別物です。
②重要性や緊急性が高い問題であること会社の中には問題点がたくさんあります。
問題のない会社などありません。
仮に「自分の会社・部署には問題がない」という人がいたら、それはその人に問題意識が足りないから、問題が見つけられないのです。
かといって、たくさんの問題を取り上げたとしても、それをすべて解決するのは不可能です。
人・モノ・カネといった会社の経営資源は有限ですから、重要性や緊急性が高い問題に優先的に取り組む必要があります。
また、人によっては日頃の不平不満をこの時とばかりに並べ立て、言いたいことだけを言って去っていく人もいます。
時にはガス抜きも必要ですが、それに終始してはいけませんし、それに振り回されてもいけません。
③なるべく定量的な表現を心がけること問題点を抽出する際に、「クレームが多い」というようなことが指摘されることがあります。
ただ、これだけではどの程度重要な問題なのかが判断できません。
「納入先の8割から重大クレームとして指摘されている」というような内容であればその重大性が伝わり、対処すべき課題とすべきだということになります。
日本的な組織の場合、内部のまずい点を隠したり、オブラートに包んだ表現をすることがあります。
上をおもんばかってのことでしょうが、それでは逆に問題の重要性が伝わらず、対処が遅れることにもなりかねません。
ですから、まずいことほど具体的に明らかにして対応策をとっていく必要があります。
④単なる問題点指摘に終始しないようにすること現状や問題点分析をする場合、いろいろな問題点が抽出されますが、問題点抽出とその整理で終わってはいけません。
そのため、図表1-9にあるように「取り組むべき課題」までを明確にしなければなりません。
ただし、どのように取り組むかについては、後ほど出てくる戦略立案と戦略課題抽出のプロセスで、重要性と緊急性の優先順位をつけて別途検討と取り組みを行うことになります。
▼(8)自社経営資源分析の際の注意点
マンガのストーリーでは、山本電機の経営企画スタッフがこのパートを担当して、「うちの会社は大丈夫か?」と感じる場面があります。
実は、これは自社経営資源分析を行う際によく起きることなのです。
普段、社員の皆さんは自分の担当範囲内で業務を行っていますから、会社全体の問題点に触れる機会はあまりありません。
ところが、今回のような取り組みを行うと、全社的にいろいろな問題があることが見えてきます。
事実といえば事実なのですが、問題点ばかりに目が行くと、モチベーションがひどく下がってしまうという落とし穴があることを理解した上で、自社経営資源分析に取り組むとよいでしょう。
課題は課題として冷静に捉え、整理した上で次のステップに進む判断力が必要です。
▼(9)問題点の目の付けどころ
問題意識がないと問題認識できませんが、問題意識の持ち方には、以下のような視点があります。
①業務担当者の問題意識上流工程が遅い、データの品質が悪い等②マネージャの問題意識人手が足りない、予算が削られている、他部署と業務が重複している等③会社方針との乖離問題「お客様第一」といいながら、実際にはコストが重視されている等④業務の目的に照らしての問題お客様のニーズを商品企画に反映させるべきなのに、自社シーズ優先の商品開発になっている等⑤業務のQ(品質)、C(コスト)、D(納期・リードタイム)面での問題人件費の高い人が単純作業を行っていて、業務コストがかかりすぎている等⑥出来事や事実としての問題赤字商品が多い、歩留まりが悪い、ライン停止が多い、クレームが多発等⑦競合他社と比較しての問題価格が高い、納期が遅い、成長性が低い、収益性が低い等⑧一般他社と比較しての問題休日が少ない、女性管理職が少ない等事業部などから出された問題点をこうした観点で整理し、重要性と緊急性の観点から優先順位付けを行い、課題設定し、解決策を検討していきます。
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