ビジネス環境分析パートは、大きく外部事業環境分析と自社経営資源分析に分かれます。
前者は主に外部のことについて、後者は主に内部のことについて分析をします。
外部事業環境分析については、マクロ環境分析と市場環境分析、競合環境分析の3つがあります。
それぞれに情報収集をして分析を行います(図表1-1)。
▼(1)マクロ環境分析(PEST分析)
マクロ環境分析では、図表1-2に見られるように、PEST分析という視点から重要な環境変化やトレンドとその影響を捉えます。
「PEST」というのは、P(Politics)政治体制の変化や法律制定・運用に関わるもので、与野党が入れ替わったり、税制が変わったり、米国や欧州・中国などの政治体制や政策の変化としてどのようなことが起こり得るかを想定した上で、自社としての取り組み課題を抽出します。
新興国に進出している企業としては、政治体制転換やテロのリスク(「カントリーリスク」といいます)なども考慮に入れる必要があります。
作成にあたっては、起こり得る変化を記述するだけでは自社への影響がわかりませんし、さらに自社としてどのような対応をとったらよいのかがわかりませんので、それらの変化に自社がどのような対応をとるべきかまで検討しておく必要があります。
このほか、E(Economics)経済・金融情勢の変化、エネルギーコストの変動や、S(Society)社会・文化的変化、T(Technology)技術革新やIT・新技術の普及等があります。
以上で一通りPESTなのですが、2つめの「E」として「環境対応」(EnvironmentまたはEcology)が挙げられ、ここでは環境関連規制や環境問題対応等を検討します。
マクロ的な変化のリサーチにあたっては、調査機関の予測や未来を予測した文献等を活用するとよいでしょう。
最近は、インターネットでいろいろな情報が入手できるようになっていますので、まずはネット調査から始めて、ある程度情報が集まったら、文献収集や必要に応じて専門家にインタビューしたり、依頼するとよいでしょう。
最先端のことは、ネットに載っていないことがありますから、自社にとって重要なカテゴリーの情報は、その筋の専門家に確認して情報収集した方がよいでしょう。
▼(2)市場環境分析
市場環境分析では、参入している市場の成長性や収益性、顧客ニーズの変化、消費動向の変化等を見ていきますが、中には「補完財」や「代替材」といったそれまでの競合製品とは異なるカテゴリーの製品・サービスが市場に新規参入してきたり、既存の市場を奪い取ったりするケースも見られるので、少し視野を広げてウォッチしておくとよいでしょう。
例えば、任天堂は、ゲーム専用機を扱っていましたが、スマートフォンによるスマホゲームの普及により需要が激減し、長い間業績悪化に苦しみました。
市場環境分析については、複数の事業がある場合にはその事業の分だけ分析を行います。
マンガのストーリーにもあるように、事業部に協力してもらう方法もあります。
事業部では常日頃から市場をウォッチしていますから、彼らの情報を基に分析を行うとよいでしょう。
▼(3)競合環境分析
競合環境分析については、主要な競合他社についてその現状と動向、そして今後考えられる動きについて分析します。
競合他社の製品・サービスも、市場に出ているB2Cビジネスにおいては分析しやすいですが、製品・サービスとして市場には出てきにくいB2Bビジネスでは注意深く情報収集する必要があります。
このように表に出てきにくい情報については、可能な範囲でお客様などから情報を得るなど、工夫する必要があります。
競合ないしベンチマーク先情報は、図表1-3のように自社と競合とを同じ項目について比較を試みます。
複数の事業がある場合には、事業ごとに複数のシートを作成して比較します。
これらの情報をすべて把握している部署や人はなかなかいませんから、いろいろな部署や人からの情報を集めて、一つにまとめてみるとよいでしょう。
断片的にしかわからなかった情報をつなぎ合わせることで、全体像が浮かび上がってくることがあります。
競合との比較表では、それぞれの会社の重要成功要因を抽出することが重要です。
自社・自事業の重要成功要因のみならず、他社事業の重要成功要因もつかめると、他社の今後の打ち手を推測し、対策を立てやすくなります。
図表1-4は外部事業環境分析シートの例です。
この例では、本来自社経営資源分析に入る自社の事業分析を、戦略立案のための3C分析の視点(競合:Competitor、顧客:Customer、自社:Companyの3つのC)に基づいて分析している例です。
▼(4)シナリオプランニングとそのメリット
外部事業環境分析は、通常このように行いますが、特にマクロ環境については、不確定要素が多く、例えば、為替レートの影響を強く受ける業種の場合、中期経営計画の前提として3カ年の為替レートを○○円/ドルと仮定してみても、当たらないことが少なくありません。
このため、重要な前提が崩れてしまい中期経営計画自体を反故にしてしまうこともあり得ます。
そうすると、もともと必要であった変革・改革課題への取り組みが中断されたり、従前どおりの予実管理が行われるだけになったりして、当初目的としていた変革や改革が進まなくなることがあります。
たった一つの前提の変化で全体の取り組みが進まなくなってしまうのは大変もったいないことですから、少し工夫が必要です。
そこで登場するのが「シナリオプランニング」です。
シナリオプランニングとは、もともと米軍がキューバ危機の際に使用した手法で、ケネディ政権下で危機回避に有効だったため、その後ビジネスでも活用されるようになりました。
その手法は、まず、自社の事業に重大な影響を与える主要な要因を抽出し、その要因の動きについて複数のシナリオを検討します。
図表1-5がその例ですが、この場合、大和貿易のような貿易会社を想定して、主要な変動要因として①為替レート、②原油価格、③海上運賃、④入港船数の4つを抽出しました。
そして、それぞれの要因について、為替レートであれば「円安か円高か」、原油価格であれば「原油安か原油高か」といったように2通りのシナリオを想定し、それらの組み合わせを検討してみます。
要因が4つで、2つずつのシナリオがあると、単純計算で16通りのシナリオができてしまいますが、その中から主要な組み合わせを選び、ベースとなるものを「基本シナリオ」、その他を「代替シナリオ」として想定し、それぞれのシナリオの場合にどのようなことが起きるか、またその際にどう対処したらよいかをあらかじめ検討しておくのです。
もちろん、中期経営計画の前提として複数のシナリオがあると話がややこしくなりますから、ベースは基本シナリオを前提として作成することとし、代替シナリオのような事態が起こった際には、どのように対処するかを決めておけばよいのです。
実際に、このシナリオプランニングを中期経営計画策定の際に使ってもらったケースがありました。
その会社は、過去4回中期経営計画を策定していたのですが、4回とも為替レートの前提が外れ、途中で中期経営計画を止めてしまっていました。
このため、私が担当した第5回にこのシナリオプランニングの手法を活用し、主に為替レートについて円高シナリオと円安シナリオの2つのシナリオを想定しました。
こうして途中から円高から円安にシフトした際も「シナリオチェンジ」ということで対処したところ、3カ年の中期経営計画を完遂することができました。
その結果、その会社は過去最高売上・最高利益を達成することができたのです。
その会社の社長から後日大変喜ばれたのは言うまでもありません。
▼(5)シナリオプランニングの活動
計画・計数計画への反映方法まず計数計画ですが、影響の大きな外部事業環境要因が変化するので、当然売上高や原価、経費に影響が出ます。
このため、まずその影響度合いを推定します。
過去に起こったことがあるものであれば、例えば為替レートのように、10円の円高で輸出金額が何%減った等実績データを分析し、その平均値・期待値を推定します。
その際、単に定量的に分析するだけでなく、実際にどのような事が起こったのか、どのような影響が出たのかをその時の経験者からヒアリングし、起こった際のプラス・マイナスの波及効果と影響度合いも合わせて推定します。
過去に起こったことがないことであれば、その道の複数の専門家の意見を聞くとよいでしょう。
専門家によっては楽観的な見通しの場合と悲観的な場合とがあります。
両方の意見を聞いた上で判断するとよいでしょう。
次に活動計画ですが、活動・計数計画具体化パートにおいては、基本シナリオをベースにブレークダウンします。
それをさらにシナリオ別にブレークダウンするのは大変ですから、まず戦略レベルで影響が出るのか出ないのかを判断し、その上で、影響が出るのであれば、活動計画上でどのように対応するのかの方針を決めておきます。
策定段階では細かな活動計画までは作成しなくてもよいでしょう。
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