MBOSが受けるとばっちりこうした嫌われものの人事評価とMBOSとの混同が至る所で起きている。目標管理と聞いて、何を連想するか。答えは決まって「評価の仕組み」と返ってくる。困ったものだ。本当の目標管理はMBOSの実践である。それは人事評価とはまったくの別物で、働く人々の動機づけに主眼を置いたマネジメントの考え方と方法論だ。賃金格差をつけるための仕組みなどでは断じてない。それなのに、「両者は同じもの」という風潮が蔓延する。そしてMBOSまでもが嫌われ者になっててしまうのである。なぜ、そのような誤解が生まれるのだろうか。MBOSと人事評価を強引に結びつけたからであり、大本には働く人々の要求と経営トップ層の危機感が存在する。人事評価はオレの人生を左右する。だから、無関心ではいられない。できれば「高い評価」がほしい。最低でも「普通評価」でなければ、オレの努力は報われない。努力が報われるように、「公正な人事評価システム」を作ってくれ。そう働く人々は要求する。経営トップも負けてはいない。事業のグローバル展開に伴って、日本人以外の従業員も増えており、彼らは「序列づけや絶対評価の根拠」を執拗に求めてくる。要求に応えなければ、有能な人材が去っていく。採用もままならない。人材不足は、経営の根幹を揺るがす大問題だ。そんな危機感があるために、「人事部よ、何とかうまい仕組みを作ってくれ」と経営トップは発破をかける。途方もない難問だが、それを解決するのが人事部のミッションだ。何としてでも、納得性の高い人事評価システムを創り出さねば……。そう発奮した人事部は、必死の努力を繰り返し、ついに「MBOSを人事評価の代用システムとして利用する」という妙案にたどり着く。「期初目標の難易度期末の達成度=仕事の成果」という公式で、貢献ポイントをはじき出す。期初目標は上司と部下とが納得設定したものであり、期末の達成度は動かし難い事実である。だから、両者の掛け算で得られた得点は納得性と客観性を担保する。貢献ポイントを使えば、誰も文句のつけようのない客観的、かつ納得度の高い〝序列づけ〟や〝絶対評価〟が可能になる。いわゆる「成果主義デジタル評価システム」である。これを上手に運用すれば、人事評価も、業績向上も、働く人々の働きがいの醸成も、すべてがうまくいくはずだ。そんな発想から、MBOSが人事評価の道具になってしまったのである。こうした人事評価は、一見すると、もっともらしい。しかし、論理に飛躍がある。たとえば、目標の難易度決めはどうするのか。外資系コンサルタント会社の「職務給決定理論(〝社内ポストの値段決め〟のための複雑なロジック)」が、多少の手助けになるかもしれない。それとて、特定の個別目標の難易度をズバリと決めてくれるものではない。決定はあくまでも上司の主観であり、主観である以上、バラツキは避けられず、甘辛が必ず出現する。ならば、年度始めに、全員の目標を横に並べて、個別目標の甘辛是正会議をすればよいという意見もあるが、そんなことは現実的に不可能だ。結局は上司と部下とがよく話し合って……という方法に帰結する。果たして、そのような決め方で、納得性や客観性を担保できるのだろうか。疑問が残るのは筆者だけか。さらに問題なのは、多分に二律背反的な色彩を帯びた、異なる2つの目的を1つの仕組みで処理しようとする強引さだ。すでに述べたように、MBOSは、目標を上手に使った動機づけ(仕事の面白さの実感など)の方法論であり、モチベーション・ダウンの要素も含んだ勝ち負けを決めるような人事評価とは、目的が本質的に異なるものである。
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