二点攻略法について、「クスリヒグチ」のチェーン展開が興味深い例として挙げられる。創業当時、樋口社長はチェーン店の目標数を、当時全国に存在した42,700店の薬局の1%、つまり427店と定めた。薬局業界では珍しく、目標に「死に(シニ)」という語呂を使ったのが特徴的だ。
その後、現在の店舗数は1,327店舗にまで拡大したが、これは「4」を基準に数値を分解し、戦略的に進化させた結果だという説がある。このように、一点集中だけでなく、次の段階として複数の焦点を持ちながら事業を拡大していく戦略が、企業の成長に大きく寄与している。
クスリヒグチの三点攻略戦略は、初期の店舗展開において典型的に見られる。その詳細は以下の通りだ(参考として〈第1図〉が挙げられている)。
第一号店は、大阪環状線の京橋駅近く、さらに京阪本線を京都方面に進んだ四つ目の千林駅前に開店した。この千林駅前はダイエーの発祥地としても知られている。
続いて、第二号店は京橋駅付近に出店。さらに、第三号店は千林駅からさらに京都方面に進んだ枚方駅近くに開設された。しかし、この第三号店は失敗に終わった。この失敗は戦略的な修正を迫る結果となり、後の事業拡大における重要な教訓となった。
このように、初期の三点攻略戦略は、成功と失敗を通じて次のステップへつなげるための基盤を形成していたといえる。
一号店から二号店、そして三号店へと、店舗展開は京阪線沿いの「線」の形で進められてきた。樋口社長は、この「線」の展開こそが失敗の要因ではないかと考えた。そこで、「線」から「面」へと発想を切り替えることを検討することにした。
千林と京橋を結ぶ線の東南側に位置する徳庵に、千林—京橋を一辺とする正三角形の頂点付近を選び、第四号店を開設した。この店舗が成功を収めたことで、「三点攻略法」と呼ばれる面戦略が誕生したのだ。それ以降、クスリヒグチはこの三点攻略法を市場戦略の基盤とし、成長を遂げてきた。
三点攻略法の基本概念は、まず第一の拠点を設定し、その半径500メートルの範囲を小型小売店の商圏として顧客を確保することから始まる。次に、第一点から約2キロメートル離れた場所に第二点を設置し、同様に半径500メートルの商圏内で成果を上げることを目指す。このように拠点を戦略的に配置することで、効率的な市場開拓を図る手法である。
第一点と第二点の間には約1キロメートルの空白地帯が生じる。この空白が三点攻略法の重要なポイントだ。この空白を避けたい場合、第一点と第二点の距離を1キロメートルに設定する必要がある。しかし、この空白地帯をあえて残すことが、戦略上の意味を持つ場合もある。
第一点と第二点の距離を1キロメートルに設定すれば、一見すると隙のない布陣のように見える。しかし、長期的には商圏が重なり合い、勢力の重複による非効率が生じる。この問題を防ぐために、あえて2キロメートルの間隔を取るという発想が三点攻略法の核心となる。
第三点は、第一点と第二点を結ぶ線を一辺とする正三角形の頂点に配置する。この第三点もまた、半径500メートルの商圏を確保し、顧客基盤を築く役割を果たす。そして、この三点間および三角形の中心部に残る空白地帯は、時間の経過とともに次第に埋まり、消滅していく。この仕組みは、非常に巧妙かつ効率的な戦略と言える。さらに、この三点を基盤として、次の正三角形の頂点に新たな拠点を下ろし、勢力圏を着実に広げていく形で成長が続く。
とはいえ、クスリヒグチの成功は三点攻略法だけによるものではない。その背後には、巧妙な品揃えの工夫も大きく寄与している。小型店舗ならではの限られたスペースを最大限に活用するため、商品選定が非常に的確だ。薬と消耗雑貨の二本柱に絞り込むことで、商品の回転率を高めることに成功している。このシンプルながらも効率的な戦略が、事業全体の強さを支えている。
T住宅は、建売住宅と分譲マンションを主軸とする企業である。その市場戦略は、徹底した一点集中主義を基盤としてスタートした。当初、本社営業所を東武線の蒲生駅前に構え、東武線沿線地域に販売エリアを限定した。こうして、高密度での販売活動を展開することで、地域市場に強固な基盤を築いていった。
活動範囲は、北は越谷駅から南は梅島駅付近までの約30キロメートルに厳密に限定されていた。この地域で集中的な販売活動を行うことで、圧倒的な市場占有率を達成した。特に本社営業所周辺では、占有率が70%以上という驚異的な実績を上げており、地域市場における独自の強さを示している。
この状況になると、競合他社は手も足も出なくなる。用地を確保しようとしても、ほとんどの地主がT住宅と親しい関係を築いており、他社が土地を購入するのは極めて困難な状態だ。さらに、T住宅の数百名に及ぶ社員が次々と自分の家をその地域内に建てているため、地域への密着性が一層強化されている。このような圧倒的な地域支配力が、他社を寄せ付けない強さを生み出している。
地域密着性が高まるにつれ、顧客への信頼感もますます強固なものとなっていく。セールスマンは勧誘の際に、こうした地域性を最大限に活用する。「うちの社長の家はこの近所です。専務はあそこの家、営業部長はこのエリアに住んでいます。何かあればすぐ近くですので、すぐに駆けつけます」という具合だ。このような具体的で親しみやすいアプローチが、顧客の安心感を生み、強い信頼を築いている。
この手法が非常に効果的であることは言うまでもない。地域に深く根ざした営業活動に加え、アフターフォローも徹底して行われている。むしろ、この地域密着型の戦略を取る以上、フォローを怠るわけにはいかない状況だ。こうした丁寧な対応は、顧客との長期的な関係を築く基盤となり、将来、建て替え需要が発生した際には圧倒的に有利な立場に立てることが明白である。
越谷から梅島のエリアで圧倒的な占有率を確立したT住宅が、次に進出したのは常磐線沿線だった。その第一拠点として選ばれたのが、柏の水戸街道沿いだった。この場所は梅島と越谷のいずれからも約30キロメートル離れた地点に位置している。ここで三点戦略が導入され、これまでの「線」の戦略から「面」の戦略へと大きく舵を切ることになった。この新たなアプローチが、T住宅のさらなる成長を支える原動力となった。
柏地区は新規進出エリアでありながら、東武線沿線という強固な地盤に隣接しているため、最初から有利な状況で戦いを進めることができた。この進出は、点を起点とした線の展開、さらに線から面への展開という、成長戦略の典型的な例といえる。
ミクロの視点では、柏地区での展開も三点攻略法の一環として進められているが、関東地方全体のマクロな視点で見ると、これらの三点が結集して一つの「一点集中」戦略へと昇華している。この多層的な戦略の組み合わせが、T住宅の強さの根幹を支えている。
山口県小野田市に拠点を置くS社は、ゆで麺の製造を手掛けるメーカーだ。同社は毎日、自社でゆでた麺を問屋、スーパー、レストラン、うどん店など多岐にわたる顧客へ配送している。地域に密着した事業展開と迅速な供給体制が、S社の特徴となっている。
テリトリー戦略を考える際には、まずS社の既存の強みや物流効率、競争環境を踏まえたうえで、地域展開の方向性を明確にする必要がある。以下は具体的なステップと戦略案だ。
1. 既存エリアの徹底強化
- 半径50キロメートル圏内を中心に市場占有率を高める。
- 小野田市を拠点に、周辺の山陽小野田市、宇部市、下関市、防府市を重点エリアとする。
- 現在の顧客層(問屋・スーパー・レストラン・うどん店)へのフォローを強化し、新規顧客の開拓を進める。
2. 三点攻略法の応用
- 小野田市を基点に、宇部市、防府市、下関市で三点を形成する。
- 各地域に販売拠点または配送センターを設置し、効率的な物流網を構築する。
- この三点を基盤に、周囲の空白地帯へ展開を広げる。
3. 新規市場への進出
- 中距離エリアとして山口市、萩市、周南市をターゲットに加える。
- 山口市を次の拠点候補地とし、ゆで麺市場の未開拓ニーズを掘り起こす。
- 周南市と萩市についても、配送可能性を調査しながら進出タイミングを見定める。
4. 地域密着型のブランド強化
- 地元密着の強みを活かし、地元食材を使用した「ご当地麺」を開発。
- 地域のイベントや飲食店とのコラボレーションを進め、知名度と顧客接点を増やす。
5. 物流効率の最適化
- ハブ&スポークモデルの採用:
- 小野田市を物流ハブとし、周辺の配送エリアに短時間で届けられる体制を構築。
- 配送ルートをデジタルツールで最適化し、コスト削減とスピードアップを図る。
戦略図のイメージ
〈第2図〉に基づいて、中心地である小野田市を中心に、3つの主要拠点を正三角形に配置。これを基点に周辺エリアへ展開を進める地図を描くことで、進出エリアと既存エリアの調整が見える化される。
こうした戦略を段階的に実行することで、S社のゆで麺事業を持続的に拡大できる。地図に具体的な市町村名を示しながら進めると、より実践的な計画が立てられる。
小野田市と宇部市は隣接しており、「複眼都市」として一体的に捉えることができる。この条件下では、三点攻略法とその展開が自然とイメージできるだろう。
難しい手法を専門家に任せればよいと思われるかもしれないが、それには疑問が残る。専門家は技術に精通していても、事業そのものを深く理解しているとは限らないからだ。
事業を知らない専門家の意見は、往々にして的外れになる。知ったかぶりの会計士や税理士のアドバイスが誤っていることが多いのも、事業経営への理解が欠けているからだ。同様に、専門家任せにすると同じような結果を招く恐れがあることを理解しておくべきだ。
三点攻略法は柔軟性に富んだ戦略である。一つの都市内に三点を設けて展開する方法もあれば、県単位で三点を打ち、面戦略として広げることも可能だ。また、地方ブロック単位や日本全国を視野に入れた展開も考えられる。それだけでなく、世界を舞台にした三点戦略も実現可能である。
日本一の雑貨メーカーF社の世界戦略は、日本・エジプト・ベネズエラの三カ国を拠点とする三点戦略に基づいていた。特にエジプトは、地中海を利用して沿海国への展開が可能であり、さらにジブラルタル海峡を経てイギリスや北欧諸国へ、スエズ運河を通じてインド洋にもアクセスできる。アフリカにも大西洋とインド洋の両側から展開できる、まさに四通八達の戦略的な要衝である。
ベネズエラは、パナマ運河を利用することで北米と南米全域を海路でカバーできる戦略的拠点だ。東南アジアについては、日本から既に進出しているため補完的な役割を果たす。このように、日本・エジプト・ベネズエラを拠点とする三点攻略構想は、世界中を隈なくカバーするグローバル戦略を実現している。三点攻略法は、対象地域や展開方法に制約がなく、自由で柔軟な発想力によって無限の可能性を切り開くものである。
層別攻略法
D社の社長によれば、「私の父は、大八車一つで商売を始めました。当初のターゲットは三流の小売店だけでした。三流店でしっかりと実績を積み上げた後、次に二流店の開拓に着手しました」という。段階的にターゲット層を広げていくこの方法は、資源を集中しつつ確実に成果を上げていく、効率的な市場攻略法と言える。
二流店に確固たる地盤を築いた後、ようやく一流店の攻略に乗り出したという。このように、下層から順に足場を固めていく戦略は正しかったとD社の社長は語る。「その積み重ねが、今の我が社を支えているのです」と。この方法が、いわゆる層別攻略法である。
同様の事例として、「養老の瀧」は徹底して大衆客をターゲットにし、「ロイヤルホスト」はヤング層に焦点を絞るという明確な層別戦略を展開している。これにより、それぞれの市場で独自のポジションを確立している。
角一商店は、顧客を「クイーンサイズ」という特定の層に絞り込む層別攻略を採用し、さらに商品を「ニットファッションのスーツ」に特化することで成功を収めた。このような戦略は、弱者にとって極めて有効だ。小規模事業者が大手と競り合って生き残るためには、このような絞り込みと集中効果が欠かせない。狭く深い市場での優位性が、大規模競合に対する勝利を可能にしているのだ。
同心円攻略法
同心円攻略法には、「波紋型」と「城攻め型」の二種類がある。
- 波紋型
波紋型は最も一般的で自然な展開方法だ。自社を中心として、波紋が広がるように同心円状に市場を拡大していく戦略である。地理的にも顧客層的にも、自社の影響圏を徐々に広げるアプローチが特徴だ。 - 城攻め型
一方、城攻め型はその名の通り、目標市場を「城」に見立て、それを外周から包囲しながら攻略する戦略だ。対象市場を特定したうえで、その周囲から徐々に攻め込み、最終的に市場の中心を制することを目指す。
どちらの方法も、状況に応じて使い分けることで、効果的な市場展開を実現できる。
事務用機器販売会社T社は、新たな戦略として、従来の波紋型ではなく「周辺地域からの定期蛇口訪問作戦」を採用した。この戦略では、本社営業所のある市内ではなく、その周辺地域から市場攻略を開始した。
その理由は二つある。一つは、周辺地域に街地ほどの市場規模ではないものの、無視できない需要が存在していたこと。もう一つは、競合他社が市街地に注力しており、周辺地域への関心が薄いと見られたためだ。この作戦により、競争を避けつつ効果的に市場を開拓することが可能となった。
この作戦は二年目から効果を発揮し、周辺地域の成果が市街地攻略の土台となり、有利に展開できた。
中小企業の社長は、城攻めが苦手というより、攻め方を誤ることが多い。城は本城を中心に出城や砦が配置されており、それらは本城を守るための防衛拠点として機能している。
だから、城を攻める際には、まず砦や出城を攻略し、本城を丸裸にする必要がある。大坂冬の陣で外堀を埋められた大坂城が、夏の陣で陥落したことがその典型例だ。
包囲作戦の要は、最小限の犠牲で敵に最大の打撃を与えることだ。本城が丸裸にされるとその防御力は大幅に低下する。その状態を狙って攻め落とすことが、最も効果的な戦略となる。
大坂夏の陣では、豊臣方は城に立てこもることすらできず、城外で優勢な敵と戦わざるを得なかった。その結果、敗北を喫した。この教訓を忘れてはならない。
しかし、現代の中小企業の社長の多くは、この戦略を理解していない。砦や出城を無視し、最も広く深い濠や最も防御力の高い正面から攻撃を仕掛けるという愚策を取ることが多い。
実際の戦いであれば大損害を受けるような場面だが、販売戦ではその損害が直接的に現れず、「売上が上がらない」と感じる程度で済む場合がある。それすら気づかず、「これだけの売上があった」と成果として捉えてしまう社長も多い。これが大きな落とし穴となっている。
販売に投入した自社の資源を、値引販売も含めた「投資」として捉え、その成果を冷静に比較すれば、実態としての敗戦を正しく認識できるはずだ。
戦いの鉄則は、「常に敵の弱点を攻めよ」という一点に尽きる。これを守ることが、社長としての正しい判断である。もし敵が強大であるならば、集中効果の法則を活用し、自社のリソースを要点に集中させて、敵を上回る力を発揮するべきだ。この基本原則を忘れてはならない。
間接攻略法
K社は特殊塗装を手掛ける地域の大手であり、業界内の競争はあるものの、それほど激しくはなかった。しかし、第二次石油ショック後の不況時、小規模な業者が受注減に直面し、相場の半値という破格の安値で注文を取り始めた。これにより、K社は間接的な攻略法を検討する必要に迫られた。
全く驚くべき状況であり、そんな価格が長続きしないのは明らかだが、問題はそれが業界全体の相場を崩してしまう点にある。K社もその相場に追随しなければ受注が減少するという事態に陥った。対応策が見出せず、私に相談を持ちかけてきたのだ。
安値攻勢といっても、価格を2割ほど下げれば十分に効果がある。しかし、小規模企業の職人社長にはその感覚がなく、大幅な値下げをしなければ受注を大きく増やせないと誤解しているようだ。
困った状況ではあるが、愚かだと批判しても問題の解決にはならない。価格で対抗すれば、安値競争に陥り、事態はさらに悪化するだけだ。そこで、私が勧告したのは次のような方法である。
「敵は営業力が不足し、受注量の確保に困って安値に走っているのだから、その会社に仕事を発注すればよい。それが最善の対応策だ。」
だから、あなたの会社で「仕事量が多すぎて手が回らないから応援をお願いしたい」と伝え、仕事を依頼すればいい。相手は半値でも受注するほど困っているのだから、世間相場の2割安で発注すれば、喜んで応じるだろう。
仕事が回るようになれば、相手はすぐに態度を変え、安値受注などやめてしまうだろう。K社としては、営業力を強化してその会社の分まで受注し、1~2割のピンハネを「値上げしてくれなければ対応できない」と開き直るのが、愚かな相手に対処する正しい戦略と言える。
「1~2割のピンハネをして、仕事を回してやればよい」というのが私の勧告だった。こうして、相手を自社の内側に取り込んでしまうのが最善の策だ。このような高度な戦略を実行できるようになれば、会社として大きく成長した証といえる。こうした柔軟で巧妙な戦略を取れる企業になることこそ重要である。
この戦略は単に値下げ競争を防ぐだけでなく、占有率を確保する有力な手段の一つである。それだけでなく、外作比率を高めることで、企業の安全性、収益性、そして弾力性を同時に強化することができる。まさに、一石数鳥の素晴らしい戦略といえる。
この戦略の威力は予想以上に大きく、実戦での応用範囲も非常に広い。それにもかかわらず、この戦略に気づいている社長はごく少数にとどまる。
不況時には、この戦略とは真逆の行動を取る社長が大半を占める。外注を引き上げ、内作に切り替えるという愚策だ。これは、占有率確保の重要性を理解せず、販売力の強化や供給力の増大にも取り組まない、経営者としての無知が招いた結果にほかならない。
販売力や供給力の強化については、拙著「社長学シリーズ」の中で繰り返し述べている。それは、どんなに小さな会社や非力な会社であっても、正しい心掛けと長期的な努力によって確実に得られるものだ。重要なのは力そのものではなく、心掛けである。その心掛けがやがて力を生み出し、会社を成長させる原動力となるのだ。
「戦い」である以上、勝たなければ意味がない。勝利こそが企業存続の絶対条件だ。では、勝つためには何が必要か。それは、戦いにおける基本原則、すなわち「強い者が勝つ」というシンプルな法則である。この原則は誰もが知っているにもかかわらず、企業競争においては驚くほど無視されがちだ。
その理由は、企業戦争において敗北の実感が希薄であることにある。競争入札や安値競争で特定の得意先や商品を逃した場合には多少の実感を持つが、「テリトリー全体で敗れた」という認識はほとんどない。せいぜい「あのテリトリーではあの会社が強い」という程度の認識にとどまるのだ。
これは一種の敗戦意識ではあるが、「勝敗は兵家の常である。それをいちいち気にしていては何もできない」といった程度の捉え方にとどまる。つまり、自社の存亡に関わる重大な事態だという危機感が欠けているのだ。
これは考え方の問題かもしれないが、より大きな原因は、特定のテリトリーで「売上がゼロになる」という極端な事態がほとんど起こらない点にある。そのため、売上実績という数字が、たとえそれが敗北の結果であっても、成果として捉えられてしまうのだ。
これが恐ろしい落とし穴となっている。たとえ売上という成果があっても、生き残るために必要な占有率を下回ったり、占有率が低下しているのであれば、それは完全な「敗戦」を意味するのだ。
この点を肝に銘じ、「戦うからには必ず勝たなければならない」と強く心に誓うことが、事業経営者としての責務である。では、戦いにおいて必ず勝つ方法とは何か。それがランチェスター戦略であることは、既にご存じの通りだ。
戦いに勝つには、「敵より強くあればよい」という原則がある。そのためには、敵に勝る威力を要点に集中して発揮することが必要だ。強者は自身の力を最大限に活用する戦略を考え、弱者は要点に力を集中的に投入することで、強者を上回り目的を達成することができる。
面攻略法・三点攻略法・層別攻略法などの占有率確保戦略
面攻略法と三点攻略法
- 面攻略法: 特定の地域をしっかりと押さえるために、一つのエリアに集中して戦略を展開し、競合の侵入を防ぎながら占有率を高める方法です。クスリヒグチのように、最初に主要拠点(3点)を定め、そこから正三角形の形で新たな拠点を追加していきます。こうすることで効率的に地域を網羅し、ブランド認知とリーチを拡大します。
- 三点攻略法: クスリヒグチの例で見られる戦略です。最初の2店舗を2キロ離して配置し、3店舗目を正三角形の頂点に設定することで、三角形のエリア内に効果的に顧客基盤を築き、隙間なく商圏を広げます。面攻略法の基礎ともいえる戦略です。
層別攻略法
- 層別攻略法: 顧客層を下から上へ順に攻略していく方法です。例えば、D社が小規模店を対象に実績を積んでから、中規模、そして大規模の顧客に移行するように、基礎を固めてからより大きなマーケットに進出することがポイントです。特定の層を絞り込んでサービスを強化することで信頼関係を構築し、占有率を確保する手法です。
同心円攻略法
- 波紋型: 会社を中心にして波紋のように広がっていく手法です。特定のエリアで成功してから周辺地域に拡大していくことで、広がりながらも影響力を保つことが可能です。
- 城攻め型: 周囲から少しずつ攻めて本丸にたどり着く方法です。周辺地域で成功してから都市部に移行することで、最終的に大きな拠点を築くことができます。
間接攻略法
- 間接攻略法: 競合と正面から対決するのではなく、競合の弱点を突く間接的な方法です。K社が競合の安値戦略に対抗せず、むしろその会社に仕事を発注して相場崩しを防ぐような方法です。
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