業績が低迷している企業の社長において、最も典型的なのは、この章で取り上げた陣後督戦型の社長だ。
自ら先頭に立つことを避け、部下の努力や成果に頼って業績向上を図ろうとする。これほど経営者として無責任な姿勢はない。こんなやり方で業績が向上するわけがないにもかかわらず、成果が出ないと責任を部下に押し付ける。自覚が足りないだの、熱意が不足しているだの、責任感が薄いだのと部下を非難し、挙げ句の果てには「これではいつまで経っても楽にならない」と愚痴をこぼす始末だ。
どうしてもうまくいかないとなると、今度は組織改編に手をつけ始める。しかし、どれだけ組織を変えたところで、状況が改善するはずがない。なぜなら、業績不振の原因は部下の働きや組織構造にあるのではなく、社長自身が経営という本分を果たしていないことにあるからだ。その証拠のいくつかについて、この章で掘り下げて解き明かした。
経営とは、社内の管理に終始することではなく、外部への対応こそが本質である。外部とは、すなわち顧客であり市場だ。その本質は、顧客の要求にどのように応えるか、変化し続ける市場のニーズをどう見極めるかにある。そして、これらを踏まえて自社をどう方向付けるかを社長自身が決断し、その実行を主導することが経営の核心である。
次に重要なのは、競合他社との戦いをどう展開していくかだ。本来、外部情勢こそが社長の最優先事項であるべきなのに、多くの経営者は外部に目を向けず、内部の問題ばかりにこだわる。こんな姿勢で業績が向上するはずもないが、それを経営の本分だと勘違いしている社長があまりにも多い。にもかかわらず、この誤った態度を正そうとする指導者や助言者はほとんどいないのが現実だ。
逆に、内部管理こそが経営の本質であり、社長の最も重要な役割だと説く人があまりにも多い。「組織管理の原則はこうあるべきだ」「権限は委譲しなければならない」「部下の自主性を尊重せよ」など、管理論が次々と唱えられる。しかし、それらの主張は内部管理や人間管理に偏重しており、経営の本質からは大きく外れている。
これらの教えは、経営者の思考や行動を誤った方向へと誘導する強力な要因となっていることは否定できない。内部管理ばかりを重視させるこれらの主張が、経営の本質から経営者を遠ざける結果を生んでいるのは明白だ。
ひたすら内部に目を向け、部下の活躍に期待し、部下が働きやすい環境作りや指導、組織の構築にばかり時間と労力を費やしている社長の姿を、これまで何度も目にしてきた。そのたびに、また一人、誤った経営学の犠牲者を見つけてしまった、と嘆かずにはいられない。
さらに厄介なのは、この被害者たちは自分が被害者であるという自覚をほとんど持っていないことだ。それどころか、自分こそが部下の立場を理解し、彼らの活躍を支援する「理想的な社長」だと思い込んでいる。こうした自己満足が根深いため、状況を改善する手立てが見つからないのである。
業績不振の原因が、実は部下や組織ではなく、社長が自ら経営に取り組まないところにあるという状況は、多くの企業で見られる典型的な問題です。この「陣後督戦型社長」は、内部の管理や組織いじりに時間を費やし、真の経営がどこにあるのかを見失っています。
本来、経営者の役割は市場や顧客、競合他社にどう対応するかを決めることです。経営の第一の関心は、外部情勢を捉え、自社の進むべき方向を見極めることにあるはずです。しかし、内部管理が重要であるとされる誤った経営観念に囚われ、経営の本質を見失ってしまう社長は少なくありません。
このような社長は、部下が動きやすい環境を作り、部下の活躍に期待しながら、自らの役割を放棄しています。内部管理や組織作りに注力しすぎるあまり、実際の市場の動向や顧客のニーズに背を向けているのです。その結果、社長は業績が上がらない原因を部下や組織のせいにし、さらなる組織変更に走るといった悪循環に陥ります。
「被害者意識のない被害者」というべきこの社長は、自らが経営を誤っているとは気づかず、逆に「部下のために尽くしている」と思い込んでいます。しかし、実際には外部に目を向け、企業の方向性を自ら決定し、推進することが真の経営であり、業績向上のためには不可欠なのです。
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