◆社長と社員の間には〝厚い雲〟がある社長とナンバー2以下すべての社員との関係を考えるとき、まず理解しておかなければならないのは「社長と社員の間には厚い雲がかかっている」現実です。「社長は孤独だ」とよく言われますが、そんなものは当たり前です。そもそも中小企業の社長は圧倒的な権力を握っています。社員に対する生殺与奪権を持っているから、社長の一言でどうにでもなります。そんな権力を持った相手に向かって「自分の都合の悪い情報」「社長の機嫌が悪くなる情報」をわざわざ言う人がいるでしょうか。まともな人間なら、そんなことは伝えないに決まっています。それが正しい社員です。社員は嘘をつきません。嘘はつかないが、自分の都合の悪い情報は巧妙に隠して、伝えない。これが人間の心理です。だから、構造的に、社長には「大事な情報」が入ってこないようになりがちです。文字通り厚い雲がかかっていては、現場の真実などわかるはずがないです。まず、これが大前提です。現場の人間が「ウチの社長は、現場のことが全然わかっていないで指示を出す」と言うでしょう。それは社長が雲の上にいて、自分が見ている景色は快晴で指示を出すが、じつは下界は大雨になっている。これが普通の組織です。だからこそ、社長は自分から現場に降りて、目と耳で確かめる。厚い雲の下に降りていかなければ、雨が降っているかが、わかりようがないです。部下の報告だけを聞いて「現場のことはわかっている」と思っている社長ほど「現場の真実は何もわかっていない」です。◆下から上はよく見えるが、上から下はまるで見えない社長と社員ほどではないにしろ、上司と部下の関係にも似たところがあります。新しい上司が着任した際、部下は三日あれば「この上司はデキる人か、ダメ上司か」はすぐにわかります。それくらい、下から上はよく見える。一方、上司から部下は、これまた雲がかかっていて、本当のところはなかなかわからない。当然部下は、上司に対していつもいい顔をし、自分に都合の悪い情報は隠す。それが「正しい部下」です。組織における上下関係とはそういうものです。社長はもちろん、上司は、その前提をまず理解しなければなりません。では実際のところ、ナンバー2は何を考え、どんな思いで社長と向き合っているのか。本書のテーマにとって大事な部分ですが、それは社長の私にはわかり得ないことです。そこで次の項目では、武蔵野のナンバー2である矢島自身の言葉で、ナンバー2の役割や考え方を紹介します。
株式会社武蔵野専務取締役矢島茂人「ナンバー2」の2大条件条件1現場からの「鮮度のよい情報」を、「生」のまま社長に発信する小山が言う通り、中小企業の社長は、大企業や一部上場企業の社長とは比べものにならないくらい絶大な権力と責任を担っています。社員に対してはもちろん、取引先や税理士、会計士などへも、社長の「たった一言」が大きく影響します。社長の一言で自分の立場が危うくなるなら、誰だって我が身かわいく、機嫌を損ねるようなことは絶対言いたくない。そう思うのが当然です。私は長野県にあるリゾートホテルの創業社長の息子として生まれ、目の前で中小企業の社長をずっと見てきました。社長という存在がいかに大きな権力を持ち、とんでもない責任とプレッシャーの中で仕事をしているのかを肌感覚として知っています。そんな「社長」に対して、ナンバー2は何をすべきなのか。一言で言えば、それは「正しい社長孝行」に尽きます。「正しい社長孝行」とは何か。それは社長が意思決定をするために必要な「材料・情報」を発信し続けることです。「現場の真実」は、社長が一番聞きたくないまず、大事なのは数字です。「数字は人格」で、当然数字は伝えます。次に、社長の耳に何としても入れなければならないのが、「お客様の声」と「ライバル情報」。この二つをきちんと伝えないと、社長は適切な意思決定ができません。お客様の声が「我が社のサービスは素晴らしい!」「社員はみんな最高の働きをしてくれている!」というポジティブなものばかりなら、社長だって喜んで聞きます。ライバル情報にしても「我が社の業界内シェアは右肩上がり」「他社よりも安く提供している」という話なら、なおのこと。しかし、現実はまったく違います。マーケットには「お客様の自由」と「ライバルの勝手」しかありません。お客様は商品やサービスのクレームを自由に好き放題言いますし、ちょっとでも安い商品があれば、そちらへ流れていきます。ライバルにしたって、こちらの事情などおかまいなしに、新しい商品やサービスを打ち出してきますし、シェアを奪うような画期的な戦略を推し進めてきます。要するに、「お客様の声」「ライバル情報」は、「聞きたくない話」のオンパレード。こんなネガティブな情報をもっとも耳にしたくないのは、誰でしょうか。そう、社長です。絶大なる責任とプレッシャーを抱えながら日々必死で仕事をして、ネ
ガティブな話ばかり聞かされたら、機嫌の一つも損ねたくなるでしょう。それが人間として当たり前の心理です。多くの社員が現場の情報を〝加工〟してしまう「正直に報告すれば、社長の機嫌を損ねて、自分は冷遇されるのでは……?」そう考えるナンバー2や部下が犯してしまう大きな過ちは、「お客様の声」や「ライバル情報」の〝加工〟です。表現の微妙な変更や、ポジティブな印象で伝わるように操作してしまう。情報は、「鮮度」が命です。早く正確な情報であるほど、社長の意思決定の質は高まります。ですが、情報は「鮮度」が落ちてもわかりません。生魚や野菜なら、腐れば悪臭で鮮度が悪いのは一目瞭然ですが、情報はそんなことにはなりません。つまり、誰かが勝手に手心を加えた情報でも、「鮮度」が落ちていることを社長はわからないです。結局、社長は「鮮度の悪く、不正確な情報」を頼りに意思決定することになります。これこそ、社長の足を引っ張る行為です。保身のために誰もが「正しい社長孝行」をしなくなっていくのです。武蔵野では、ナンバー2の私からだけでなく、部長、課長、さらに下の現場の担当者など、立場が下の人たちにも小山に直接報告する場を作っています。もちろん、現場の担当者が小山に直接報告するのは、緊張もしますし、怖いです。そんなとき、私はこんな言い方で部下たちの背中を押します。「現場の真実を一番知っているのは誰?社長?私?部長?課長?いやいや現場の真実を一番知っているのは、最前線で向き合っているあなたでしょ。だから、自信を持って、しっかりと〝小山さん孝行〟をしてきなさい」もっとも鮮度の高い情報をキャッチしているのは現場の人間であり、社長が意思決定をするにあたり一番必要なのもまた「鮮度の高い情報」です。だから、私は現場の社員にこそ「正しい社長孝行」をさせている。条件2真の意味でお客様に感謝できる「強い社会人」であること「どういう人がナンバー2にふさわしいのでしょうか?」と訊かれたら、「強い社会人であること」と、私はずばり答えます。ここでは要点だけを簡潔にまとめてお伝えしますが、まずは健康であること。それも「健体」「健心」「健脳」の三つが揃っていることです。体と心と脳のいずれか一つでも不健康なら、強い社会人にはなれません。
それはなぜでしょうか。いずれかが不健康な人は、すぐ他人のせいにしたり、人からしてもらっている「ありがたみ」を忘れて、それを「当たり前」だと思ってしまうからです。私たち社会人は、一人の例外もなくお客様からお金をいただいています。その大前提がブレないのは、強い社会人として大切なことです。ここで一つ、質問です。Q.あなたは誰からお金をいただいていますか?この問いに「社長から」「会社から」と答える人は、強い社会人にはなれません。根本の部分で考え違いをしているからです。あなたに給料を払うのは社長や会社かもしれませんが、その社長や会社は誰からお金をいただいているのでしょうか。紛れもなくお客様です。つまり、私たちはお客様のために仕事をして、お客様からお金をいただいている。この大前提を理解していなければ、ナンバー2にもふさわしくないと思います。すべての社会人がお客様から仕事を教わっているそして、もう一つ質問です。Q.あなたに仕事を教えてくれるのは誰でしょうか?セミナーの参加者の多くは「先輩」「上司」と答えます。新入社員のとき、仕事を教えてくれるのはたしかに先輩であり、上司です。では、その先輩や上司は誰に仕事を教わったのでしょうか。すると、「そのまた上の先輩」「課長」「部長」と声が上がってきます。そうやって部長、常務、専務……と遡っていくと、最終的に社長に行き着くが、では社長はいったい誰に仕事を教わったのでしょうか。そこでも「先代の社長」「会長」なんて話も出てきますが、本来的に仕事を教えてくれるのは、やはりお客様にほかなりません。この前提も忘れてはならないです。商品やサービス、対応に問題があれば、当然お客様はクレームをつけたり、さらなる注文をつけてくることがある。それに対してきちんと仕事をすると、お客様は「そうして欲しかったんだよ」「ありがとう」と言ってくれます。これが「お客様が仕事を教えてくれる」ということです。業種や業界が違っても、究極的にはお客様から仕事を教わる部分は変わりません。私たちはダスキンの代理店で、モップやマットをお客様へ納めたり、掃除をさせていただいたりします。
その際、問題があれば当然「納期が遅れただろ!」「なんだ、この仕上がりは!」「その電話対応はないだろう!?」とお叱りを受けます。そうしてお客様は、具体的な事実に基づいて、私たちに仕事を教えてくれる。考えてみれば、これはものすごくありがたいことです。「仕事を教えてくれたのは誰か」と問われれば、私は覚えてきた仕事の一つ一つに、一人一人のお客様の顔が浮かびます。具体的な事例に基づき逐一仕事を教えてもらった。つまり、お客様は、私たちに仕事を教えてくれて、その上、お金も払ってくれる、本当にありがたい存在です。その大前提を忘れてはなりません。私たちは会社のために働いているのでも、社長のために働いているのでもなく、お客様のために働いている。その大事なポイントがブレない人こそ、私の考える「強い社会人」であり、「すぐれたナンバー2」です。
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