◆中小企業経営は、「両雄並び立たず」が基本会社によっては、ナンバー2が社内で強い影響力を持ち、社長の影響力を凌ぐほどになっているケースもあります。はっきり言って、そんな会社ほど業績はよくないです。このパターンに陥りやすい例を挙げるとしたら、父親が創業者で二人の息子がいる会社。兄が会社を継ぎ、弟がナンバー2になった状況でしょう。愛知県の名古屋眼鏡株式会社が、まさにこのパターンでした。兄はとにかく頭がよくて、ITに強いデジタル人間でキレ者。弟も、兄に比べれば頭の出来は多少見劣りするものの、優しく、親しみやすい存在です。創業者の父親が引退し、兄が社長、弟がナンバー2の形で会社を引き継ぎました。このような社長とナンバー2がいると、その下のナンバー3、ナンバー4、ナンバー5はどちらにつくでしょうか。間違いなく弟の方です。なぜなら「キレ者の兄(社長)につくより、弟についた方が楽だから」です。そもそも人間は「楽な方に流れる生き物」です。それが人間心理です。自ら厳しい境遇を望む人などいません。当然、名古屋眼鏡も、みんなが弟派になって、兄が孤立する状況になっていました。そんな形でナンバー2の影響力が大きくなったら、経営などうまくいくわけがありません。案の定、会社は低迷続きでした。私はナンバー2と一緒にラスベガスへ行った時に弟に言いました。小山「オマエの会社、どうして儲からないかわかるか?」弟「いえ、わかりません」小山「儲からないのはオマエのせいだよ」弟「えっ、どうしてですか?」小山「株を兄貴とオマエで五〇パーセントずつ持つからだよ」そう言っても、弟はすぐにはピンときませんでした。創業者(父親)は会社を引き継ぐとき、兄と弟が株をそれぞれ五〇パーセントずつ相続を予定していました。これが間違いの始まりです。父親にしてみれば、兄弟どちらかをエコ贔屓するのではなく、平等に分配したかったのでしょう。親心としてはわかりますが、経営面からみれば、最悪のやり方です。とかく親は「兄弟仲良く」を望みますが、そんなやり方は絶対うまくいきません。両雄並び立つことなどあり得ないです。
いかに兄弟といえども、社長とナンバー2は「殿様と家来」の関係にならなければ会社はうまくいきません。それは株保有という物理的な面でもそうです。だから、私は弟に言った。小山「オマエは会社をよくしたいのか?悪くしたいのか?」弟「よくしたいです」小山「それじゃあ会社に帰ったら、自分と嫁さん、兄貴とその嫁さん、お父さん、お母さんの六人で集まって家族会議をしろ。そして、その席でお父さんに『自分は会社の株は一〇パーセントでいいから、九〇パーセントを兄貴にやってくれ』と言いなさい」その後、名古屋眼鏡は兄と弟が「殿様と家来」の正しい関係性になり、今では億単位の黒字を出す会社に成長しました。◆断腸の思いで社長は決断しなければならない社長(親)が息子や娘に会社を引き継ぐ場合、兄弟・姉妹が二人以上いると、どうしても「平等に」と家族の感覚で考えます。しかし、経営においては「両雄並び立たない」ことを肝に銘じて、社長である父親自身がきっぱりと決断しなければなりません。場合によっては、兄より弟の方が優秀なケースもあります。その場合は、弟を後継者に選ぶべきです。能力がない兄を社長にしたら、兄自身も不幸で、社員はもっと不幸で、取引先まで不幸になります。そこは決定権のある父親が断腸の思いで決めなければなりません。とはいえ、会社の相続は、一〇〇社あれば一〇〇通りあるので「正しい」方法はありません。業績の悪い一〇パーセントの事業を分社化して優秀な弟に任せ、残りの事業を兄が引き継ぐことで、双方の会社が業績を伸ばしているケースもあります。しかし、どんなケースであれ、「両雄並び立たない」ことだけは決して忘れてはなりません。
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