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部下の自主的な活動に期待したが

数年前のセミナーで名刺を交換した0社の0社長から連絡があった。業績が振るわず、支援を求めているという話だ。当時は事業が順調だと聞いていただけに、意外な展開である。

久々に顔を合わせ、社長の話を聞いているうちに、これは厄介な状況だと感じた。話の内容から、社長の考え方が完全に間違った方向へ進んでしまっていることが明らかだった。

社長は勉強熱心な人物で、多くのことを学び続けている。そして、人間関係やリーダーシップ論に強く影響を受け、それらに傾倒してしまったようだ。教えを忠実に実践し、部下の自主性を尊重しつつ、できる限り仕事を任せる方針を取ってきた。

だが、その結果は散々なものだった。社員は理屈だけは一人前に達者になり、肝心の仕事には身が入らない。少しでも忙しくなると文句を言い始める始末だ。しゃれた管理方式を取り入れたり、あれこれと委員会を設けたりした結果、間接部門が膨れ上がり、その比率は50%にも達してしまった。委員会は会議ばかり開き、肝心の成果は何年経っても目に見えるものがない。人件費だけが毎年着実に増えていく一方で、生産性は一向に向上しない。こうした状況の中で、業績は年々右肩下がりになっている。

耐えかねて部長に指示を出してみても、「社長がこうしろと言ったから」と、そのままの言葉を部下に伝えるだけだ。本来ならば、任せている立場として、社長の意図を汲み取り、部長としての責任でどう動くべきかを考え、自ら方針を打ち出してほしいところだが、そうした姿勢は全く見られない。結果として、会社の運営が滞り、どうにも立ち行かなくなっている。ついには、これまでの先生方の教えとは正反対の行動を取らざるを得なくなり、最近では毎日工場に足を運び、あらゆることに直接指示を出しているという状況だ。

さらに社長は、今年の上半期の実績を示しながら現状を訴えてきた。その内容は明らかな赤字であり、下半期に黒字転換できる見通しも自信もないという。何とか力を貸してほしいという切実な相談だった。

話を聞きながら、社長の姿が痛ましく思えて仕方なかった。「ここにも、誤った人間関係論に振り回され、その影響で苦しんでいる人がいるのか」と心の中でつぶやいた。

最初は部下に任せようとして失敗し、今ではワンマン・コントロールに頼らざるを得ない状況に陥っている。社長の立場からすれば、何をどうすればいいのか分からず、進退窮まる思いでいるのも無理はない。

さらに、上半期が赤字でありながら黒字転換の策が見つからないとなれば、夜も眠れない状況だろう。このような悩みを抱える社長は世間に驚くほど多い。私のもとを訪れる社長たちのうち、半数近くが、最も大きな悩みとしてこれに似た問題を訴えてくるのだ。

ここまでの状況に至ると、これまでの人間関係論にはどこかに致命的な誤りがあると認めざるを得ない。その根本的な間違いは、人間関係を経営よりも優先させてしまった点にある。人間関係とは、経営が存在してこそ成り立つものであり、経営の枠組みがなければ、そもそも経営における人間関係など存在し得ないからだ。

これまでの人間関係論には、どこかしら根本的な誤りがあると考えざるを得ない。その原因は、人間関係を経営よりも優先してしまった点にある。人間関係といっても、それは経営が成り立っているからこそ存在するものであり、経営がなければ、その中での人間関係も成り立つはずがない。

経営における良好な人間関係とは、優れた業績を達成するために寄与するものであるべきだ。どれほど人間関係が立派に見えたとしても、それが経営にとってマイナスに作用するようでは意味がない。

この点について、観念論者には全く理解できない。それは、彼らが経営の本質を知らず、知ろうともしないからだ。彼らは、人間関係が良好でさえあれば企業の業績は自然と向上すると信じ込んでおり、その思い込みゆえに救いようがない。

経営は決してそんな単純なものではない。内外のさまざまな情勢や要因が複雑に絡み合い、統合されることで、企業の業績に大きな影響を与えるものだ。

人間関係は確かに企業の内部要因として重要な要素の一つではあるが、それ以上でも以下でもないという点を認識する必要がある。だからといって、人間関係を軽視してよいと言っているわけではない。

むしろその逆で、人間関係が企業の業績に多大な影響を与えることを、痛感せざるを得ない状況にある。だからこそ、従来の人間関係論がほとんど間違っていると言わざるを得ない。それゆえに、こうした誤った人間関係が企業の業績にとって大きなブレーキとなっている現実を、強く訴えざるを得ないのだ。

とはいえ、自分が真の人間関係を完全に理解しているとは思っていない。ただ、数多くの実例に直面する中で、自分なりに正しい人間関係を模索しているに過ぎず、本書もその試みの一部にすぎない。そして、この模索は今後も長く続いていくだろう。

さて、0社に対しては、以下のような勧告を行った。「直間比率を80対20にすることを目標に、急いで実施してください。あなたの会社は下請け企業なのだから、間接人員はその程度に抑えなければなりません。飾り物に過ぎない各種の管理体制を切り捨て、シンプルで本質的な形に戻るべきです。それによって、御社は大幅な黒字へと転換するでしょう。」言ってみれば、至極当たり前の提案だったわけだ。

こうした当たり前のことが当たり前にできなくなっている会社は決して少なくない。ここに「マネジメント病」の恐ろしさがあると言えるだろう。

この事例では、社長が部下に自主性を持たせようと努力した結果、期待したような効果が得られず、かえって経営が混乱してしまったことが示されています。社長は、人間関係論やリーダーシップ論に従い、部下に自由裁量を与えたり、様々な委員会を立ち上げたりして、部下が自発的に活動することを期待しました。しかし、実際には、間接部門の人数が膨らみ、会議が増えるばかりで成果が上がらず、経営の停滞を招く結果となりました。

こうした状況が発生する原因は、経営の基本目的である「業績向上」が人間関係を重視するあまり後回しにされてしまった点にあります。人間関係が良好であることは大切ですが、それ自体が経営の目的ではなく、あくまで業績を支える手段であるべきです。つまり、経営の枠組みの中で人間関係を位置づける必要があるのです。

ここで推奨された改善策は、直間比率(直接部門と間接部門の人数比率)を「80対20」に抑え、間接部門の人員を削減して直接生産に集中する体制に戻すことでした。複雑な管理体制や過剰な委員会は、効率を損ない、経営の実行力を削ぐ場合があります。社長には、このシンプルな運営体制への回帰が勧告され、これにより経営改善が見込めるとされました。

この事例は、経営において「本質を見失わないこと」の重要性を強調しています。人間関係や自主性の重視も大切ですが、それが企業の本来の目的や業績向上につながっているかどうか、絶えず確認することが重要です。

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