職場ミッションや個人ミッションの議論に時間を割くのは無駄ではないか?そういう意見も一部にはあるが、ミッションの明確化はMBOSの草分け企業が苦労の末に編み出した「MBOSの運営ノウハウ」であり、試しに一度やってみてほしい。MBOSの原典、『ThePracticeofManagement(現代の経営)』(ドラッカー/1954年)は、キリンビール(株)の社員が留学のお土産として日本に持ち帰り、学者たちの協力を得て翻訳の初版本が出版されたという。出版を契機に、多くの日本企業がMBOSの実践に取り組んだ。その1つに、住友金属鉱山(株)がある。同社は、昭和37年から39年にかけて、業績悪化に対処するための人員削減策を実施して、8100名の従業員を5000名に圧縮した。いわゆる人的リストラである。このままでは、縮小均衡に陥ってしまう。そう考えた当時の社長は、人員削減と並行して、もう1つの指示を出す。5000名の人員で8100名分の成果が得られるような「新しいマネジメント」の研究だ。社長から手渡された『現代の経営』を手掛かりに、勉強会が実施され、「ドラッカーの主張は何なのか?」、「わが社として、どう具現化すればよいのか?」などを徹底的に議論した。経営学の学者にも相談した。社内の現場でも試行錯誤が繰り返され、最終的には「目標による管理制度」という従来とはまったく異なったマネジメントの仕組みを完成する。それがうまく機能して、経営危機からの脱出の一助になったという(21世紀への企業の人間的側面・座談会/フジ・ビジネス・レビュー第13号/1997年)。ミッションの意味づけ同社の編み出した目標による管理制度の特徴は、「ミッションにもとづく目標の連鎖体系づくり」であり、そのミッションの「意味づけのコミュニケーション」がうまく機能したのが最大の成功要因ではないか、と筆者は推測する。意味づけとは、「そのことは自分にとってどのような意味があるのか」と自問自答を繰り返し、自分なりの答えを見つけ出す行為である。それは大変な思考作業であり、一人でやると、「まぁ、こんなものか」と適当なところで手打ちをし、「自分への言い聞かせ」が中途半端に終わってしまう。だから、みんなでワイワイと語り合うプロセスが必要なのである。語れば必ず反応があり、反応を手掛かりに、自問自答を繰り返す。そういう意味づけのコミュニケーションを、社長以下末端まで組織ぐるみでとことんやり切れば、当事者の目標に対する責任感と納得感とが醸成され、達成意欲も湧いてくる。苦しい事態に直面しても何とか頑張れる。必死になって目標達成活動に取り組めば、仕事の面白さも実感できる。その繰り返しの結果として、業績が向上し、経営危機からの脱出に成功した。そう筆者は捉えている。
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