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経営計画に五千枚のメモ紙を

M社長から突然の電話があった。もちろん面識もなく、全くの未知の人物だ。話を聞くと、どうやら私の著書『経営計画・資金運用』を読んで感銘を受けたらしい。そして、全く新しい視点で「経営計画」を作成したので、一度会ってその計画について批評してほしいという依頼だった。

私もスケジュールが詰まっており、すぐには都合がつかないと伝えたものの、「経営計画の発表会が迫っている。その前にぜひ」という強い要望を受けることになった。こうした熱意にはどうも弱い性分だ。結局、無理やり時間をやりくりして会うことにした。

「参考までに」とのことで送られてきたのは、過去五年間の経営計画書だった。ざっと目を通してみたが、分厚い資料に苦労の跡こそ感じられるものの、中身はただの数字の羅列に過ぎない。そこには社長の経営哲学も方針も見当たらず、いわゆる「計画」と呼べる代物ではなかった。正直なところ、これでは会社の未来を見通すどころか、足元さえも見失いかねない印象を受けた。

数日前に再び電話があり、「幹部社員を十数人連れてお伺いしたい」とのこと。冗談ではない。我が家の応接間は、せいぜい二人入れば身動きが取れなくなる狭さだ。事情を説明して、社長を含めて三名に絞ってもらったものの、その要求の豪胆さに驚かされた。これは一筋縄ではいかない人物だ、と内心で一種の警戒心を抱いた。

約束の日、約束の時刻よりもかなり早く来訪された。その瞬間、さらに恐ろしさが募る。こういうタイプの客は、早めに用件を済ませて帰ってもらわないと、何かしら面倒な事態に巻き込まれそうな予感がする。さっそく持参された経営計画書に目を通すことにした。

計画書に目を通した瞬間、内心「ウーム」と唸ってしまった。そこに記されていたのは、以前送られてきた計画書とは全く異なる内容だった。まさに面目一新、まるで別の人物が手がけたのではないかと思わせるほどの変化がそこにあった。

私の著書を読んだだけで、ここまでのものを作れる人間はそう多くはない。M社長の話では、この計画書を完成させるために、著書を何十回と繰り返し読んだという。さらに、その間の三カ月はほとんど夜もまともに寝ずに取り組んだとのことだった。そして、こう付け加えた。「昨晩は三カ月ぶりにゆっくり眠れました」と。執念と情熱の結晶ともいえるこの計画書に、思わず感嘆せざるを得なかった。

さらにM社長はこう語った。「この計画書を作成するために、メモ用紙を五千枚使ったと秘書に言われました」と。その言葉を聞いた瞬間、私は完全に頭が上がらなくなった。ここまでの執念と努力を目の当たりにして、ただただ敬服するばかりだった。

M社長のように、経営計画を真剣に作り上げる姿勢には、心から感嘆させられます。数千枚ものメモを駆使し、数ヶ月にわたって計画書を練り上げ、経営哲学や企業のあるべき姿を徹底的に追求するその努力は、まさに経営者としての決意と情熱が現れています。通常、経営計画書は目標数値の羅列に終わりがちですが、M社長の場合、計画書には具体的な数値だけでなく、会社の未来像や価値観がしっかりと描かれており、まさに生きた「経営の羅針盤」と言えるでしょう。

さらに、M社長の行動は、計画作成が単なる形式的な行為ではなく、自らの哲学や意志を部下や会社全体に伝え、共感を得るための手段であることを示しています。こうした努力は、計画を単なる文書から現実の行動に転換させ、社員の士気と一体感を高める効果があるに違いありません。

経営者の強い信念が、ここまでの行動力に結びつくのは簡単なことではありませんが、M社長のように覚悟を持って取り組む姿勢は、多くの経営者にとっても大きな示唆となるでしょう。

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